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メタバース最新動向 2022.04.07

VRプラットフォームはVRChatだけじゃない SXSWで気づいたバーチャルイベントの海外トレンド

映画祭であり、音楽フェスであり、そしてインタラクティブアートの祭典でもあるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は、世界中のアーティストが作り上げた様々な作品を見比べることが可能、そして数多くのカンファレンスにも参加できる大型イベントです。

コンテンツそのものと、その表現技術が集結し、数多の場所で参加者同士による情報交換も積極的に行われるSXSWは、コンテンツのグローバルなトレンドが掴める場所であります。

過去にはモーショントラッキング、プロジェクション、ビデオモーフィングなどの技術を取り入れたPerfumeのライブも開催され、ステージ表現に一石を投じたことが話題となりました。

そんなSXSWはアメリカ・テキサス州の州都オースティンの街を上げてのイベントでしたが2020年はコロナの影響で中止、2021年はVRChatを用いた開催となり、今年2022年は、3月11日~20日の10日間、オンライン配信やバーチャル会場での開催、および久しぶりに現地でも開催されました。

興味深いのが、VRコンテンツが見られるSXSW XR Experienceにおいて、複数のVRSNSを用いたという点です。引き続きVRChatに会場が用意されたほか、AltSpaceVR(マイクロソフト)とVAST(Sandman Studios)が使われました。各会場でどのようなコンテンツを見ることができたのか、ご紹介しましょう。

オースティンの街を模したVRChat会場

透明のエアシューターのようなエレベーターが設置されているかと思いきや、古めかしいアメ車に乗って空中移動できる。オースティンのメインストリートといえるコングレスアベニューをモチーフとして、 テキサス州議事堂や実在するギャラリーなども取り入れた独自ワールドをSXSW XR Experienceのいち会場としていました。

ここで見ることができたのは、モノトーンな都市空間でのエレクトロニカコンサート、全天球ドームスクリーンで楽しむテクノミュージックショー、日本発のパーティクルライブに、VRを用いた演劇のティザー。スケジュールをチェックすると「Presented by~」と記されているものが多く、主にSXSWのスポンサーコンテンツとリンクさせているようでした。

またVRコンテンツを製作したチームのカンファレンスも開催されましたが、ここで面白いな、と思えた点が1つ。

Ready Player Me※のアバターを使う登壇者が多かったのです(※Wolf3D開発のアバター制作ツール。様々なVRゲームやVRプラットフォームサービスで利用できるのが特徴で、現実の人の身体に近いアバターが多い傾向にある。RTFKTなど、有名ファッションアイテムも着用できる)。

日本のVRChatシーンでは見かけることが少ないReady Player Meアバターですが、海外ではお手軽に自分の姿に似たアバターを作りたいと考えたときに、ポピュラーな存在となってきているのかもしれません。

Quest環境でも楽しめる「m1n0t0r – Dreams of a Lunatic」

SXSW XR ExperienceのVRChatワールドで体験できるコンテンツの多くはQuest/Quest2に対応していました。そのなかでもリッチな表現で圧倒されたのが、「m1n0t0r – Dreams of a Lunatic」。m1n0t0r(パリを中心に活動するDJ)の曲に合わせて展開されるのは、壮大な印象を受ける3DCGで、外部サーバーから映像を送り込んでいると思われる全天球スクリーンワールド容量はたったの418KB!

インタラクティブ性は感じなかったものの、受動的にコンテンツを楽しみたいというVRユーザーに、スタンドアローンなVR HMDでもどこまでのクオリティを追求できるかを示した好例となるでしょう。

またm1n0t0rは別のタイミングで、チャリティVRChat DJイベント「United for Peace in Ukraine at VRChat」を開催。ウクライナ発の曲をmixするm1n0t0rのプレイを楽しむべく、SXSW XR Experienceで、もっとも多くのアバターが集まっていました。

パリピ砲・パーティクルライブを世界に魅せた「Shiftall presents “Live Particle Performance”」



VR空間内における表現手法としてパーティクル(※3D空間に粒子を発生させ操作する技術)を活用する事例は増えていますが、パーティクルそのものを見せるコンテンツはまだ世界に知れ渡っていないようです。

2021年に同じくVRChatを使って開催されたヴェネツィア国際映画祭のVRセレクションで、いくつかのパーティクル作品が展示されましたが、良し悪しはさておき、そのクオリティは90年代のビジュアライザーを思わせるものでした。

そこで日本発のコンテンツとして、Aratakaさん、戊屡神ゆゆ..さん、向日葵。さんがパーティクルパフォーマンスコンテンツを披露。3名のコンテンツを持ち込んだのが、ガジェットメーカーの株式会社Shiftall(シフトール)でした。PCユーザーのみを対象としたコンテンツでしたが、有無を言わせないグラフィカルな表現でオーディエンスを圧倒していました。

AltSpaceVRで再現された「Breonna’s Garden」

3月13日、AltSpaceVRでは「Breonna’s Garden」が開かれました。その内容はアメリカのルイビルで起きたブリオナ・テイラーへの銃撃事件を追悼する目的で作られたARアプリを再現したもの。VRヘッドセットをかぶり、故人が好きだった花や蝶で彩られた庭や部屋をめぐって、痛ましい事件に思いを馳せるためのコンテンツです。

気になるのは、なぜ運営側がAltSpace VRを使ったかという点です。「Breonna’s Garden」そのものは1つのVRコンテンツとして仕上がっていましたが、現在AltSpace VRは、MR空間内に離れた場所からVRユーザーがログインしてコミュニケーションできるMicrosoft Meshの機能を持っています。

ARやMR用としてコンテンツを手早くVRでも展開できるストロングポイントを持ち、リアルな場所での追悼イベントも開催された「Breonna’s Garden」のケースも含めて考えると、リアルな空間にいる人々と、遠隔地からオンラインでアクセスする人とのタッチポイントを作りやすいプラットフォームとなることを、運営側がテストしているのではないかと思えてきます。

Unreal Engineを用いた新プラットフォーム「VAST」



VASTはSandman Studiosが手掛けている、バーチャルフェスティバル向きのVR SNSプラットフォーム。今回のSXSW XR Experienceが初めての実用例となるのかほとんど情報がないのですが、Unreal Engine4を用いています。

Unity 2019ベースのVRChatと比較すると、PCのディスプレイ上での解像度に差があります。ただし、Quest 2で見る限りはその解像感が表しきれておらず、高解像VRSNSはまだ時代が追いついていないとも感じます。

クライアントだけで8.7GB、十数本のVRコンテンツのデータを含めると62.9GBとファイルサイズもボリューミー。しかしUnreal Engineで作られたコンテンツも、Unityで作られたコンテンツも、(体感上は)シームレスにアクセスできると感じられるメリットは大きい。UnityではなくUnreal Engineでコンテンツ開発を行うクリエイターが増えてきている現在、使用しているゲームエンジンを限定しなくてもいい間口の広さは高く評価できます。

VRChatと異なり、入場権利の確認をサーバー上で行えるのも大きなポイント。有料チケット制のイベントに向いている仕様です。アバターの自由度が低いという、VRSNSに慣れ親しんだユーザーからすると顔をしかめてしまう仕様でもあるのですが、同時に権利問題が関わってくるアバターを入場させずに済むというメリットにも繋がってきます。

またVRChatはMAUこそ400万人(Nic Mitham氏調べ)で、他のVR SNSプラットフォームと比べると一つのインスタンスあたり同時入場者数が多め。しかし、世界的に見ると小規模なグループで友人と一緒の時間を過ごすために使うユーザーが多いという特徴があります。

Rec RoomやAltspaceVR、Horizon Worldsも同じ傾向があり、ユーザー数が多いからといって大規模イベントへの観客動員につながるかというと難しいところがあります。

大規模バーチャルフェスティバルは実現するのか?

ところでVRにおける大規模イベント、大規模フェスは今後どのようなかたちで実現していくのでしょうか?
ここで、大規模とは何人くらいが同時にいられる空間となるのかを考えてみましょう。筆者の知る限りVRChatでは100人であっても、ワールドデザインは低容量重視、アバターもシンプルな造形で可動部も少ない超軽量アバターに着替えてもらうといった施策が必要になります。実際、2021年に開催された「SANRIO Virtual Fes」では、参加者がオリジナルアバター「Mochipoly(モチポリ)」を利用するというマナーがありました。

つまり大人数のユーザーを同時に収容するには、コンテンツの解像度を下げなくてはならないのです。

高性能なハードウェアを持つ少人数に対してハイエンドなコンテンツを届けるか。大人数向けに自由度の低いコンテンツを用意するか。ここはバーチャルイベントを視野にいれたビジネスに取り組みたい人にとって、大きな課題となります。

Decentralandのメタバースファッションウィークは、筆者が確認した時間帯は1つのサーバー(REALMS)に、1000人を超えるユーザーがログインしていました。

この事例からは現時点において、1000人級の”大規模”なメタバースイベントを開催するのであれば平面ディスプレイ前提のプラットフォームでなければならない、という事実が見えてきます。

同時に5年後10年後の未来の話となりますが、通信インフラの高速化・大容量化とハードウェアの進化によって、VR環境でも1000人規模のメタバースイベントが開催できるといった予測をしてもいいのでしょう。

他にも大規模フェスでの参加者一人ひとりの満足度を高めるには「(VR会場の)映像美」といった要素も深く関わってきます。そうした点も踏まえると、VRを用いた大規模バーチャルフェスティバルの実現には、まだ時間がかかります。

だからこそビジネス視点で大規模バーチャルフェスティバルを捉えている人は、VRChatやclusterのみならず複数のVRSNSプラットフォームを見てまわり、プラットフォームごとの得手不得手を確認していくことをお勧めします。その上でコンテンツやアバター表現のクオリティを重視するのか、VRの没入感を重視するのか、同時接続可能人数を重視するのか、フェスティバルの方向性を定めていくといいでしょう。

執筆:武者良太


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