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業界動向 2023.01.06

シャープがCESで公開した新HMDをいち早くチェック、軽量・薄型で視度調整やカラーカメラも内蔵(現地レポート追記)

シャープがCESに合わせて、VR用HMDの試作品を公開した。発売時期などは未定。ディスプレイやレンズを含むほとんどの部品を自社で開発しており、今後のビジネス展開拡大を目指す。詳細がわかったのでお伝えする。

(編注:2023/01/06 03:00に第一報を公開後、2023/01/06 19:00にCES現地での展示機体験レポートを追記しました。)

(撮影:西田宗千佳)

ケーブル接続で約175g、視度調整やカラーカメラも内蔵

シャープ株式会社(以下「シャープ」)が開発したのは、スマートフォンとの接続を前提としたデバイス。USB Type-Cでスマホと接続して使うため、バッテリーは搭載されていない。重量は約175gと軽量だ。

(シャープの試作HMD。メガネ型で、175gという軽さが最大の特徴。撮影:西田宗千佳)

ディスプレイは片眼2K×2。デバイスは液晶を使っており、フレームレートは120Hzとなっている。

視野(FoV: Field of View)は約90度。レンズにはいわゆるパンケーキレンズ(*1)を使っており、小型化に配慮している。前述の通り、バッテリーは搭載しておらず、小型・軽量であることを重視した作りだ。メガネとの併用は想定されていないが、レンズ部には視度調整機能が組み込まれており、視力矯正用のメガネを併用しなくとも快適な視聴を目指す。

(編注1:パンケーキのように薄型・軽量のレンズの愛称。)

(パンケーキレンズ採用でかなり薄い。写真は目を覆うシェードを外したところ。シェードの脱着はマグネット。撮影:西田宗千佳)

(視度調整機能搭載で、メガネなしでも使える。撮影:西田宗千佳)

フロントにはモノクロのステレオカメラが2つ、RGB方式のカラーカメラが1つ搭載されており、6DoFとハンドトラッキングに対応している。

(フロントに3つのカメラを搭載。左右はモノクロで、中央がカラーだ。撮影:西田宗千佳)

また、カラーのカメラには「ポリマーレンズ」が採用されている。ここでいうポリマーレンズとは、いわゆる「焦点可変レンズ」のこと。ポリマーに荷電することでレンズの厚みを瞬時に変えられるのが特徴だ。

カラーカメラで光学シースルー方式のARを実現した場合、オートフォーカスは重要な要素となる。フォーカスが変わると同時に「画角」も変わると、それが酔いにつながるからだ。また、フォーカス変更に時間がかかっても、やはり酔いの原因となる。ポリマーレンズは、フォーカス変更が瞬時に行えること、またその際に画角が変わらないことなどから、酔いを誘発しにくい、ARに向いた技術と言える。

なお、今回のHMDは試作デバイスであるため、デザインは暫定のもの。CESでのデモンストレーションを意識した形のものが選ばれたという。正面左右にある「コの字」型の意匠にはLEDが入っており、カメラで外部を撮影する最中などに、「撮影中であること」を周囲に知らせるために使えるのではないか……という意図で搭載されているという。

(提供:シャープ)

(CESで展示される試作機のイメージ。正面左右の「コの字」は、LEDによるインジケーターも兼ねている。提供:シャープ)

自社技術をアピールしパートナー開拓へ

ご存知の通り、シャープは自社でスマートフォンを開発する技術とノウハウを持っている。回路・機構設計はもちろんだが、レンズからカメラユニットまで、大部分の開発を自社と関連会社で完結できる。

(提供:シャープ)

(シャープはHMDの多くの部分を自社生産・自社開発しており、それを強みとして事業開拓を行う。提供:シャープ)

シャープとしては新規事業の一環として、スマートフォンの次に広がる可能性のあるXR系デバイスについて、「シャープがHMDの開発パートナーになれる」ことをアピールしたいと考えている。シャープとしてCESへ参加する(正確には、CESに合わせて外部会場で独自に展示を行う)にあたり、1つの目玉として用意された形だ。

前述のスペックはあくまで「CES向けの試作」のものである。そのため、実際に製品化した時にどうなるかなどは決まっていない。

現状では間口も広いことからスマートフォンとの連携を前提としているが、採用するSoCのベンダーなども「決まっているわけではない」(シャープ開発担当)という。

ただ、2022年11月にQualcommがハワイで開催したイベント「Snapdragon Summit」では、新しいARデバイス向けソリューションである「Snapdragon AR2 Gen 1」を発表しており、その中では、シャープが提携先の1つとしてリストアップされている。

(Qualcommが2022年11月にQualcommがハワイで開催したイベント「Snapdragon Summit」で公開した資料より。AR用新ソリューションのパートナーとして、シャープもリストアップされている。出所:Qualcomm)

今後のPC向けなども否定するものではなく、アプリケーション次第で検討はされていく。その場合には「OpenXRとSteamVRなどの業界標準は意識せざるを得ない」という。

ただ、初期の製品としては「日常的に持ち歩き、必要な時に気軽につけられる」タイプのものが良い、と分析しているようで、前述のような「バッテリー非搭載・ケーブル接続で軽量なメガネ型」を目指すとしている。

(中央のイメージイラストに注目。折りたたんで専用ケースに入れ、必要な時に取り出して使えるような形態を目指すという。提供:シャープ)

CES展示機で画質をチェック

画質や使い勝手について追記したい。

現状のデバイスはあくまで「プロトタイプ」なので、そのまま商品化されるわけではない。画角なども現状の組み合わせの一例、というのが正しい認識のようだ。

(シャープブースに展示された試作HMD)

今は「軽さ優先」でレンズやディスプレイのサイズをチョイスしており、結果として視野は90度くらいになっている。画質的には満足できるレベルだが、もう少しかけ心地を良くするデザインは必要かな、とは感じた。

6DoF(Six Degree of Freedom:上下前後左右の身体運動への対応)やハンドリコグニションは、カメラの映像をスマホ側が処理することで実現している。そのため、多少「もっさり」した感じはあった。

使っていたのは「AQUOS R7」でハイエンドスマホだが、それでも重いのだろう。本体側のSoCで処理しない理由については、「USB Type-Cの供給電力の問題」とシャープ担当者は話す。「VIVE Flow」のようにバッテリーを搭載すれば負荷分散は可能だが、そうすると今度は重くなる。現状の選択として、処理系は「ケーブルの先を主とする」構成になっているわけだ。

ただ、「三段構えで使ってもらうことを想定している」とも担当者は説明する。

「PCにつないだ時には『Steam VR』でPCゲームを、ハイエンドスマホにつないだ時は6DoF+ハンドコントローラーを、そして、ミドルクラス以下でも映像だけは観られる……という形にすることで、幅広く使ってもらえるのでは」(シャープ担当者)

この辺も含め、現状は「手軽に持ち運び、必要な時に使ってもらう」ものとしてのプロトタイプ、というのが正しい見方なのだろう。

カメラモジュールでも「VR向け市場創出」を

同時に彼らがアピールしていたのが、VR機器向けのカメラモジュール群だ。

試作HMDでは「ポリマーレンズ」のRGBカメラが使われているが、これは前述のように、素早くフォーカスを変えられること、そして、その際に画角が変わらないことを目指したものだ。

(ポリマーレンズを使ったRGBカメラの詳細)

どんな風に「素早く」てどんな風に「画角が安定している」のかは、以下の2つの動画をご覧いただきたい。

(シャープ担当者がピントフォーカスの仕組みを解説。撮影:西田宗千佳)

(シャープ担当者がピントフォーカスの画角が安定する理由を解説。撮影:西田宗千佳)

(実際に使われているレンズモジュールを分解したもの)

元々スマホ向けに開発されていた技術だが、それが「シースルーVRに向くのでは」との発想で、技術転用による新規事業がスタートしたという。

もう1つの「VR向け」が、超小型カメラモジュールである。

(アイトラッキング用を目指した超小型カメラモジュール。1つで高さが1.4mm程度しかない)

こちらはズバリ「アイトラッキング用」だ。最小のものでは、モジュールの高さが「1.4mm」しかなく、虫眼鏡で見ないとわからないくらいだ。モノクロで解像度も400×400ドットしかないが、顔認識や視線追尾なら使える。ここまで小さければ、狭いHMD内への実装もしやすい。

(小型レンズモジュールの詳細)

同様のアプローチは他社でも行われているが、他社は「半導体で超小型イメージセンサーを作っている」のに対し、シャープは「プラスチックの成形で作っている」ことが大きく違う。

数千万個クラスのニーズになるなら半導体が有利だが、まだニッチな市場だと、開発体制を整えるのがコスト的に難しくなる。だが成形で作ったなら、少量からの量産ができる。

ポリマーレンズ採用のカメラはシャープ自身の試作HMDに使われたが、これらの技術はシャープ内部での利用だけでなく、外部のメーカーへの提案も行われている。

「VRがシャープにとっての新規事業である」というのは、HMD全体を作れることに加え、カメラモジュールなどの提案も含めた「パーツメーカーとしてのシャープ」としての新規事業でもある、ということのようだ。

(執筆:西田宗千佳、編集:笠井康平)


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