Home » 「人がいるメタバース」を軸に展開 REALITY XR cloud代表取締役社長・春山氏インタビュー


業界動向 2023.05.26

「人がいるメタバース」を軸に展開 REALITY XR cloud代表取締役社長・春山氏インタビュー

今年3月、グリー株式会社は法人向けメタバース事業を展開する「REALITY XR cloud株式会社」と、VTuber事業を展開する「REALITY Studios株式会社」の設立を発表した。現在はプラットフォーム事業を展開するREALITY株式会社、Web3事業を展開するBLRD PTE. LTD.と合わせた四社体制に移行している。

今回、Mogura VR NewsはREALITY XR cloudの代表取締役社長・春山一也氏にインタビューを実施。「REALITY株式会社」と「REALITY XR cloud株式会社」を分けたねらいや、今後の展望、そして様々な取り組み事例について訊いた。


(スマートフォン向けメタバースアプリ「REALITY」。全世界63カ国/地域で配信されており、2022年10月には1,000万ダウンロードを突破した)

「REALITY」のBtoBチームを中心に分社化

——今回、改めて「REALITY XR cloud株式会社」として分社化した背景を教えていただけますでしょうか。

春山一也氏(以下、春山):
端的に言えば、「REALITY」のBtoBチームが分社化して「REALITY XR cloud」になった、という流れです。「REALITYがBtoCを担当し、REALITY XR cloudがBtoBを担当する」という位置づけですね。

——分社化を経て、以前と変化を感じる部分はありますか?

春山:
まだ間もないこともあり、目まぐるしいほどの変化はありません。分社化はしましたが、私たちのやること自体はこれまでの延長線上にあります。既に私たちのチームはBtoBのフロントに立ってきたので、既存のクライアントや企業様とのつながりの中でも「大きく変わった」ということは無いように思います。一方で“チーム”から“会社”というくくりになったので、より一層努力せねばならない、という部分はありますね。

——そうすると、「REALITY」を通したソリューション提供は引き続きシンボリックなものになりそうです。

春山:
ゲームやメタバース等、主にBtoC向けの開発やビジネスを続けてきたメンバーに引き続き頑張ってもらっていますから、グリーやREALITYで培ってきた経験という強みにも変化はありません。

「REALITY Worlds」を中心に幅広いニーズに答える

——改めて、REALITY XR cloudさんの「REALITY Worlds」について教えてください。

春山:
「REALITY Worlds」は昨年の6月にリリースしました。「REALITY」アプリ内で3Dのバーチャル空間を制作・提供するもので、既に東京ドームや大阪駅等の制作事例があります。それぞれの企業様が持つ空間や場所、価値を「REALITY」を通じて知っていただく、人がいるメタバースを活用していただく、というソリューションは、REALITY XR cloud最大の強みとして挙げられます。


(三井不動産株式会社・株式会社という今日ドームとコラボした「REALITY Worlds」の「東京ドームワールド」。来場者はライブ配信やライブ応援等ができる仕組みだ)

春山:
それ以外では、「REALITY Spaces」というサービスもあります。こちらは「REALITY」アプリのコンポーネントであるアバターのシステムを再活用したり、元々あるノウハウや開発のコンポーネントなどを活用して組み合わせながら、企業向けのメタバースを制作しています。


(2020年に提供が開始された「REALITY Spaces」)

春山:
既に公表しているものでは、イオン様が展開するメタバースのアプリに、弊社が開発として携わっています。「REALITY」はプラットフォームの中に何かを作るというものですが、企業様がメタバースのアプリをゼロから作るには高コストになるケースが多いので、「REALITY Spaces」が選ばれることも多いです。

また、会社の総会をメタバース空間で実施するといったケース、VTuberのアバターを制作してほしいというケース、NFTのコンテンツ、他社のメタバースのパブリッシングのコンサルティング……といった形で、様々な事例に携わっています。

——REALITYさんと言えばやはりアプリの「REALITY」を思い浮かべますが、想像以上に幅広い範囲に関わっていますね。

春山:
私たちとしては「広いニーズに応えていきたい」と思っています。現状は国内の企業中心になっていますが、「この領域だけ」や「海外だけ」「国内だけ」といった考えは全くありません。あくまでもフラットに、ひとつひとつ実直に取り組んでいくつもりです。

——幅の広さと言えば、3月に発表された大阪府との提携は意外でした。こちらでは、メタバース的なもの以外も提携範囲に含まれていますよね。

春山:
これには2つの軸の回答があります。ひとつは、REALITYやグリーは「元々BtoCに強く、提供しているプロダクトもBtoC向けのものが有名である」という点です。基本的にはポジティブなことなのですが、一方でBtoCがあまりに知られすぎていて、BtoBのプロダクトやソリューション提供の知名度はいまひとつ……という状況でもありました。それゆえに、特に行政との取り組みは「意外」に感じられたのではないかと。分社化にはこうした背景もあります。

春山氏:
ふたつめは、「大阪府との提携内容が、メタバース領域だけではない」という点ですね。かなり幅広く提携しましたが、グリーグループ全体として見た時、DXやエンターテインメントを活用したBtoBソリューションは以前から様々なクライアントに提供しているんです。それゆえに、メタバース領域だけでソリューションを提供するのではなく、あらゆる方向で弊社の力を活用することができるのではないか、と考えた結果ですね。

東京ドームやサンリオとコラボ、多数のユーザーが来場

——直近での具体的なコラボレーションや取り組みについて教えていただけますでしょうか。

春山:
東京ドーム様とコラボした「東京ドームワールド」は、今年の2月末にイベントが終了しました。3ヵ月実施しましたが、来場者が420万人を突破しています。また、リアルとデジタルをどこまで掛け合わせることができるのか、という実験でもありました。


(「東京ドームワールド」はおよそ3ヶ月で420万人が来場。「REALITY」上の東京ドームでライブ配信ができる権利をあらそうイベントも行われた)

春山:
REALITYユーザーにとっても、「東京ドームで歌うことができる」という、現実世界では難しいことができる、というのも分かりやすいポイントですね。こうした事例は、すでに広い認知があるので、REALITYのUGC的な部分を活用していただいたケースです。

また、サンリオ様とコラボした「SANRIO Virtual Festival in REALITY」も、2週間で来場者数が120万人を突破しています。「VRChat」で開催された「SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland(サンリオVfes)」はVRやPC等、いろいろなプラットフォームで参加・視聴できるのですが、スマホ向けの会場として「REALITY」を選んでいただきました。

——2週間で120万人はかなりの勢いですね。

春山:
アプリ内で撮影されたスクリーンショットも12万枚以上になりました。こちらは私たちが取得できるアプリ内のボタンで集計したもので、デバイス本体の機能を利用したものは取得できていません。

——こうして見ると、シンプルに「基盤となるユーザーが多い」ことが効いている印象です。

春山:
私たちは「人がいるメタバース」をキャッチフレーズにしています。「REALITY」はエンゲージメントが高く、ハマっている人はどっぷりハマっているBtoC向けのアプリですから、「REALITY」を通したイベントやプロモーションは、ユーザーの皆さんの熱量が活きたものになっていると思います。

——私も何度か配信に参加したことがあるのですが、「REALITY」のユーザーは仲が良いですよね。距離感がいい意味で近いというか、きちんと友好的なコミュニティができている。

春山:
これは明確に、僕ら自身も「いいな」と思っているポイントです。「REALITY」のユーザーさんたちは本当に温かくて、新しい人たちを受け入れてくれていますし、ユーザーさんの間でも、そうした話や体験談がよく話されていますね。私はどちらかというと、BtoBの事業としてグリーグループのメタバースをありがたく活用している身ですが、「メタバース」という言葉が流行る前から投資を行い、しっかりと続けてきたおかげで、こうした世界が広がっている……と思います。

ライトに、メタバースにトライアルしやすい状況を作っていく

——REALITY XR cloudの取り組みは、メタバース領域ではかなり成功していると言えると思うのですが、課題感などはありますか。

春山:
メタバースの課題は、開発にお金がかかり、さらに予算面のやりくりが難しいところです。会社に承認してもらうためのハードルを抱えているお客様にとっても、メタバース分野に挑戦しやすい環境を作りたいと思っています。例えば、ライトな予算で展示会のようなイベントをフォーマットとして用意して、ひとつの空間内に何社でも入ることができる……といったものを作ろうとしているところです。

——いわゆる「合同展示会」的なものですね。

春山:
クリエイターと企業が混ざるような空間を作ろうと考えています。メタバースに挑戦する「フェーズ1」として、使っていただけるようなソリューションで、ライトでもいいからトライアルしやすい状況を弊社としても作っていきたいですね。


(REALITY XR cloudが開催する「METAVERSE EXPO in REALITY」のイメージ図。URLや画像、動画があれば手軽にメタバース内イベントに出展できる点が魅力だ)

——挑戦したい領域や部分についても、改めて教えてください。

春山:
この「METAVERSE EXPO in REALITY」では、「REALITY」の「アバターショップ」を活用したファッションアイテム販売や収益化のオプションも用意しています。「REALITY」のユーザーはエンゲージメントが高く、アバターのカスタマイズが好きな方も多いのですが、あまりBtoB的な部分を絡めていませんでした。アバターショップの中に、企業と連携したアイテムを販売できるようにして、ビジネス還元できるようなスキームを作っていこうと思っています。

——最後に、数年単位でのビジョン等あればお願いします。

春山:
数年先の話ですと、メタバースがどのように捉えられているかは「分からない」というのが正直なところです。直近のAIブームもそうですが、新しいサービスや企業が生まれ、移り変わってゆく……ということは当たり前のように起きていますから。しかし少なくともメタバースやそれに関連する市場自体は盛り上がっていくでしょうし、私たちとしても、グリーグループの強みは活かしていければ、と思っています。

現在は事業としてうまくいっていますが、巨大なサービスが生まれては消えていく昨今において、「母体となる『REALITY』が1000万ダウンロードされていて、ユーザーも盛り上がっています。なので絶対大丈夫です」と断言はできないでしょう。しかし、社会は全体的にメタバース化していくでしょうから、そこにひとつでも貢献していくことで、私たちも生き残っていければと考えています。

——ありがとうございました。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード