Home » 700km離れた2千人が同時に「第九」遠隔合唱 NTTの新技術で


テック 2022.12.06

700km離れた2千人が同時に「第九」遠隔合唱 NTTの新技術で

12月4日、毎年恒例のテレビ番組MBS「サントリー1万人の第九」で、700km離れた3会場のリアルタイム遠隔合唱の実証実験が行われました。


(出所:NTT西日本

ここ数年はリモートレッスンや動画投稿、カラオケ参加の受付、ライブ配信(YouTube)など、「日本全国、そして世界からの歌声」(佐渡裕総監督)を安心・安全に集める実施形態が模索されていました。

2022年はそれらに合わせて、NTTグループ3社(NTT、NTT西日本、NTT Com)が超低遅延の映像伝送技術「IWON オールフォトニクスネットワーク」(以下「APN」)などを提供し、東京/大阪の3拠点間でリアルタイム遠隔合唱を行い、「離れていても同じ場所にいるような音楽イベント」(NTT公式発表)の実現を目指しました。

年の瀬恒例のクラシック音楽会「1万人の第九」

1万人の第九」は毎日放送(MBS:TBS系列準キー局)が1983年から毎年12月第1日曜日に大阪ホールで開催する音楽会で、一般公募の合唱団が人気歌手や著名な演奏家とともに、L.v.ベートーヴェン「交響曲第9番」(通称:第九)を中心とした演目を披露します。

視聴者参加型の音楽テレビ番組の先駆けとして知られ、近年では俳優やお笑い芸人がゲスト出演して話題を呼ぶなど、日本におけるクラシック音楽の人気を長らく支える、歴史ある企業メセナ(文化支援)でもあります。

新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、開催規模や海外交流を縮小・中止していましたが、今年9月には3年ぶりに合唱団の募集を再開し、2,000人を上限とするレッスン参加者を募集していました。

実証実験の概要

MBSとNTTの公式発表(出所1出所2)によると、この遠隔合唱は、APN関連技術を用いた「超低遅延のリアルタイム映像コミュニケーションの実現」に向けた実証実験です。

NTTは2022年3月、日本フィルハーモニー交響楽団と永峰大輔氏(指揮者)の協力のもと、10名の指揮者・演奏者が関東圏5会場に分かれて遠隔演奏する実験を行っていて、演奏者からは「映像の遅延を感じなかった」「演奏がし易かった」といった意見を得ていました(参考)。

今回の実験はその成果を広げるもので、大阪城ホール(2,000人)、QUINTBRIDGE(大阪)(100人程度)、OPEN HUB Park(東京)(50人程度)の3拠点で、光ファイバー長にして約700km離れた距離から映像・音声を配信することで、主に次の4項目で技術評価を行います。

  1. 複数拠点から届く複数映像を超低遅延に分割表示処理(分散情報処理)
  2. 大容量・低遅延・ゆらぎの少ない通信技術(通信ネットワーク)
  3. マイクロ秒精度の遅延測定・可視化(データ品質)
  4. 光パスで4K/8Kの大容量映像を非圧縮で超低遅延に直送(大容量データ配信)

NTTグループは、実験結果をもとにさらなる研究開発を進めるとともに、新たな利用シーン・活用事例を開拓し、ビジネス性も含めた新技術の早期実用化を目指すとのことです。

超速通信技術はメタバースの収益性を高めるか

舞台芸術の経済研究では、「ベートーベンの弦楽四重奏に必要な音楽家の数」を例にした「ボウモルのコスト病」という考えが知られています。

1960年代に経済学者W.J.ボウモルが、「人件費率の高い対人サービス産業は労働生産性を高めづらく、供給価格が物価よりも早く上昇しやすいため、装置産業と比べて経営危機に陥りやすい」と予想したのです。

この予想は公共政策にも広まり、芸術・医療・福祉・教育・ITなどの分野で、コスト競争は必ずしもサービス品質の向上につながらず、労働者の賃金上昇を抑制することがあると説明されてきました。

XRコンテンツの配信にも応用されるNTTの先端研究。テレビ・ネットが普及する以前の学説を覆し、メタバースビジネスの収益性を高める手がかりとなるかにも注目です。

参考:毎日放送


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード