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テック 2015.09.30

Oculus Connect 2にて研究チームのリーダーが語った、Oculusが考えるVR技術の展望 

Oculus主催のVR開発者向けイベント「Oculus Connect 2」の基調講演で、CEOのブレンダン・アイリブ氏らからは Gear VRやRift、Oculus Touchなど様々な新発表がありました。その後登壇したOculus社の研究チームのチーフサイエンティスト、マイケル・アブラッシュ氏です。彼はVR技術の展望を語りました。

その講演からは、究極のVRを目指すOculusが将来的に何を目指しているのか、中長期的な観点での彼らの考え方が分かります。
(Oculusは動画配信サービスTwitchにて当日の様子を動画で配信しています→こちら マイケルの講演は動画で一時間を過ぎたあたりからです)

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「我々はVRのパイオニアだ」という言葉を皮切りに、はアブラッシュ氏の講演は本題である「パーソナル・リアリティとは何か?」へと続いてゆきます。アブラッシュ氏は、パーソナル・リアリティを構成するものとして次の3つを挙げ、説明していきました。

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1.人間の知覚システムのコントロール
2.センシング(物理量の計測)技術、それによって得たデータをもとに現実を再構成する技術
3.VR世界との相互作用

ひとつずつ、詳しく見ていきましょう。

1.人間の知覚システムのコントロール

我々は目や耳などの様々な器官を使って世界を知覚しています。
しかし、結局のところ我々が外界から受け取った情報は、最終的には「脳の中の回路に電気を引き起こす」という同じ結末を迎えるのです。
つまり、目の前にリンゴが無くとも、「リンゴを見たときと同じ刺激」を脳に与えてやれば、「リンゴを見る」という体験の質はどちらも同じなのです。

彼は、錯視のデモンストレーションを交えながら、「我々の現実に対する認識がいかにいい加減か」ということを説明しました。会場で観客が見た錯視は、見る角度によって屋根の形が平らかジグザグか変わるというものです。

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錯視は、自分も知らないうちに「現実に即して考えればこうあるはずだ」と脳が勝手に計算しているために起こるのです。我々が見ているのは客観的現実などではなく、脳が勝手に計算した結果に過ぎないのです。

(筆者注:錯視の一例)

ミュラーリヤー錯視・・・水平線の長さは、実はどちらも同じだが、脳はそう考えない。
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カニッツァの三角形・・・実際は描かれていないが、脳が白い三角形を生み出す。
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もしもVR装置で、人間の感覚器官に現実と同じ刺激を与えれば―――脳を上手に騙してやれば―――、我々は現実世界とVR世界を見分けることができなくなるでしょう。

そしてアブラッシュ氏は人間の感覚それぞれでどのように扱ばいいかを具体的に示しました。

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・味覚

味覚は触覚や嗅覚と絡んできて複雑で、他の感覚と比べてVR世界での実用性も高くないことから、現在では保留となっています。

・嗅覚

匂いは化学物質である微小粒子が鼻に作用して感じるので、非常に複雑です。様々な匂いを生成するためには、異なる多種の匂い物質が必要になるうえ、仮に生成できたとしてもどうやって感覚器官へと運ぶのかが問題です。味覚同様、課題の多い領域となっています。

・平衡感覚

五感の他に脳が持っている、空間に関する感覚です。いわゆる「VR酔い」に関わってくる感覚で、快適なVR体験の為にはとても重要です。しかし、現在はまだ適切な制御方法が見つかっていません。脳に電極を直接貼り付けて電流を流す以外の方法が、今後の研究に期待されます。

・聴覚

音声については「音の合成」「音の伝達経路(反射などの運動)」「音の聴こえる方向」の三要素が大切になってきます。

・視覚

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Oculusは将来的に、視野を90度から220度へ広げる、更なる画質の向上を図るなどの目標を掲げています。
図の一番下に見えるのは、HMDの形状をゆくゆくはサングラス型にし軽量化を図るというものです。
しかしながら、ひとつの液晶レンズから光を発してそれを眼で見る、という構図である限り、これ以上の軽量化はありえないだろうと述べています。また現存のシステムでは、視野角を広げるだけの十分なスペースがありません。
HMDの改良には、現在まだ存在しない「光を眼に届ける新しい技術」の登場が必要となるのです。

・触覚

もしも触覚が無ければ、我々はVRの世界の中で真に自分の存在を意識することはできないでしょう。しかし、手の触覚ひとつとっても、すっぽり手をグローブで覆いでもしない限り、コントロールするのは難しいのです。触覚も同様、入出力をコントロールする新たな技術を開発しなければいけません。

2. センシング(物理量の計測)技術、それによって得たデータをもとに現実を再構成する技術

より良いVR世界を作り出すために、現実の世界をデータ化し、それをVR上で再構成できることはとても大切です。Oculus Touchはそのアプローチの一つでしょう。VR世界でも、相手の身体(アバター)が現実に即して表現されればされるほど、相手が「そこにいる」と感じることができす。

手や顔の情報をセンシングする研究などが紹介されました。

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3. VR世界との相互作用

これは難しい課題です。例えば、机を触ると抗力があって「手がすり抜けない」という状況をVR世界でシミュレートすることを想像して頂ければ、その難しさがわかるかと思います。
Oculus Touchによって、VR世界への干渉は一つ進歩を遂げましたが、まだまだ発展途上と言えます。

講演の最後にマイケルは、センシングが難しいと言われる「表情」を読み取るセンサを、大学と連携して開発している様子を紹介しています。
Oculus研究チームには多岐にわたる部門があり、このセンサの開発も、センサのデザイン、エンジニアリング、機械学習、アニメーション、プログラミングなど分野横断的に行われています。

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「我々全員がVRのパイオニアである。将来VRの歴史を振り返ったとき、自分はその歴史の一部を担っていたんだ、と言える。VR分野は今、いわゆる”古き良き日”の段階であり、今後目を見張る発展を見せるだろう。ともに未来のVRを作ろう。」

マイケル・アブラッシュはそんな言葉で講演を締めくくりました。

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(参考)

・Michael Abrash reveals long term goals for Oculus – UPLOADVR (英語)
http://uploadvr.com/michael-abrash-reveals-long-term-goals-oculus/

※アメリカのVR専門メディアRoad to VR、UploadVRはMogura VRとのパートナーシップを結んでいます。


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