9月17日から20日まで開催された東京ゲームショウ(TGS)。Oculus、ソニーを中心に VRを展示したブースが、速攻で体験のための整理券がなくなるなど非常に盛り上がりました。始めて本格的なVRを体験する人も多く、「スゴい」と感じた人も多かったのではないでしょうか。
メインエリアからはずれたOculus社のシークレットブースでは、Oculus Rift専用コントローラー「Oculus Touch」のプロトタイプを体験できました。
この「Oculus Touch」は、両手に装着し、手や指の動きをVR内で再現するものです。
筆者は、色々な人が体験する様子を見ていましたが、懐疑的だった表情で部屋に入っていった体験者の多くが、数分後には興奮した面持ちで出てくるなり、「スゴイ」「ヤバイ」「楽しかった」という言葉を連呼して出てくるのです。
Oculus touch 凄い 凄いけど言葉で伝えにくい VR勢なら現実と同じように持てる掴める投げられるパンチ撃てるので触れる 空間に置いてある物が現実にしか思えなくなってくる。VR未体験者には現実よりずっと楽しいよ!っと光線銃からガチで光線が出るとか現実より楽しいー!
— kure (@kure_kure_zo) 2015, 9月 18
Mogura VRの女性ライターkureの感想。興奮している様子が伝わってきます。
実際に体験してみると、その体験は確かにこれまでに体験したことがないレベルの「異次元の楽しさ」を予感させるものでした。
Oculus Touchが、そんなにまで体験した人に強い印象を与える理由。それは、VRを初めて体験したときの「これを使ったら何か面白いものができるのではないか」という期待を再び感じさせてくれるから、にほかなりません。
そもそも……VRが人々を夢中にさせるワケ
TGSで多く展示されていたVRが体験者を夢中にさせるのはなぜでしょうか。「これまで経験したことのない次元の楽しさ」の片鱗を体験するからだろう、と筆者は考えています。そう、まるでアナログな遊びしか知らない子供の頃に、初めてデジタルゲームを遊んだときのように。
今回の東京ゲームショウでは、製品版のVRデバイスの発売に向けて、VRを活かした様々なコンテンツが展示されていました。
これまではモニターの枠の中を眺めるだけだったアニメやゲームの世界に、数分間でも実際に身を置いているような体験をすることは、そのファンにとっては極めて感動的な体験でしょう。3Dアクションゲームで主人公の後ろからついていくと、まるで一緒に冒険しているように感じることに感動する人もいるでしょう。また、ロボットや戦闘機のコクピットに座り、実際に自分がそれを操縦しているような感覚になることで感動する人もいるでしょう。
人気ゲーム『ダンガンロンパ』シリーズで恒例の学級裁判とお仕置きのシーンを体験できる『サイバーダンガンロンパVR』(PlayStation VR)
雪山で行方不明になった仲間を探す3人称視点のサバイバルホラー『Edge Of Nowhere』(Rift)
ロボットに搭乗し3対3でゴールを奪い合う主観視点のハイスピードアクション『RIGS』
快適さを実現した上で作られたそれぞれのコンテンツは、少なからず体験した人にインパクトを与えています。
体験者はこうした「これまで経験したことのない次元の楽しさ」を感じるとともに、いまだ技術的にも発展途上のVRによって「今後、さらに面白いことが実現するかもしれない」といった期待を感じているのではないでしょうか。
そういった期待がまさに、製品版レベルのVRを体験したあとで体験者が夢中になる理由だと思っています。
VRを初めて体験したときのあの楽しさ、再び
手がVRの中に入った瞬間
Rift専用コントローラー「Oculus Touch」は、そんな楽しさ、VRを初めて体験したときの期待を再び感じさせてくれるものでした。
Oculus Touchコントローラーは2016年夏以降の発売を予定しており、現時点で体験できるのは非常に簡単なプロトタイプです。体験できるコンテンツ「Toy Box(おもちゃ箱)」も非常にシンプルなものでした。
Oculus Riftを装着すると、目の前にはVR空間にはブロックやロボットなどおもちゃが置いてあります。そして、それに歩いて近づき、手を伸ばして掴んで投げたり、パンチして崩したり、ロボットの手足を両手で引っ張って引きちぎったり、色々な遊びができます。他にも一緒に遊んでいる人とブロックを投げあったり、目の前にあるピストルを掴んで引き金を引いて撃ちまくったり、ブーメランを投げたり、弾を飛ばすパチンコの弾を引いて飛ばしたり、プラモの戦車をリモコンで操縦して大砲で周りを攻撃しまくったり、することができます。
さて、ここまで書いたVR内での行動は、全て現実の動きと同じ動きをすることで可能です。ゲームコントローラーを持ってボタンを押して操作するわけではありません。実際に手を伸ばして、指を握って掴むという直感的な動きです。
Oculus Touchを手に持っているものの、その存在を忘れるほどに軽く、そして現実とあまりに同じ動きが可能なのです。
筆者は、Oculus Touchは操作をするためのコントローラーというよりは、VRの中に自分の手を入れてしまうデバイスと考えていいのではないかと思っています。もちろん全ての動作が可能なわけではありません。例えば手をパーに開く動作は難しいのですが、普段生活していて手をパーにしっかりと広げる瞬間がどれほどあるでしょうか。
普段、生活していて手がどのような形になっているかというと、半開きか何かを握っているのです。こうした人間の手の動きを完全に再現するという目的で、Oculus Touchの非常に不思議な形状が生まれたと言えます。
誰かと遊ぶという体験
もう一つ、「Toy Box」の重要な要素は、「もう一人のプレイヤーと一緒に遊ぶ」という点です。おもちゃ箱があっても一人だったら、一通り遊んで飽きてしまいます。しかし、この「Toy Box」ではVR空間で目の前にもう一人のプレイヤー(頭と手のみのアバター)がいます。デモでは、Oculus社の社員が操作方法を説明してくれたのですが、途中から一緒に遊んでいるような感覚になり、筆者は手に持った銃で相手を撃ちまくっていました。そして一緒に遊んでいる時と同じように笑いが自然とこみ上げてきます。
「誰かと一緒に遊ぶ」、それもコントローラーを握るのではなく実際に手を動かして遊ぶ、というまるでおもちゃ箱で遊んでいるような童心に返ってしまう体験が可能だったのです。
Oculus Touchを体験する様子
想像を無限に広げる可能性
こうした、手がVRの中にある感覚やVRの中で誰かと遊ぶ感覚は、これまで体験したVRとは違うものです。
体験すると、「これを使って、こんな面白いことができる」というアイデアが次々と浮かんできます。それこそ、アイデアがたくさん詰まったおもちゃ箱を引っ掻き回しているかのように。
TGSの期間中、このOculus Touchを体験した人の多くは、様々なコンテンツづくりに携わっているクリエイターや開発者です。彼らが体験した後の「スゴイ!」という言葉の裏には、「これからどれだけ面白い体験が作れるだろうか」、と彼らの想像力がものすごい勢いで掻き立てられていることを感じました。
.@HIDEO_KOJIMA_EN trying out Oculus Touch at #TGS2015! Thank you for stopping by! pic.twitter.com/ctK53QJTrY
— Oculus (@oculus) 2015, 9月 18
Oculus Touchを体験するメタルギアシリーズの小島監督
Oculus Riftが登場し、360度を見渡すことができるVRを使って様々なコンテンツが生まれました。そして、Oculus Touchが登場し、VRの中に手が入ったことで、これからさらに面白い異次元のコンテンツが生み出されることが期待できます。
Oculus VR社のデベロッパー・リレーション担当のクリス・プルエット氏は、「私たちはOculus Touchを作りました。しかし、これを使ったどのようなコンテンツが作られるのかは想像もつきません」と述べています。
Oculus Touchは、VRコンテンツの進化はTGSで展示されていたようなコンテンツの楽しさでは止まらないということを予見させてくれます。今後、どのような面白い体験が登場するのか、ワクワクしたいところです。