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業界動向 2018.10.24

VRコンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS 2018」受賞作レビュー 多様な参加者が作る、表現の可能性としてのVR

2018年10月15日、株式会社Psychic VR Lab、株式会社パルコ、株式会社ロフトワークの共同プロジェクトであるVRコンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS 2018」の受賞作が発表されました。大まかな概要はMogura VRでも報じています

このアワードの特徴は、通常のVRクリエイターだけではなく多様なバックグラウンドを持った参加者が揃っていたことでした。ファイナリストの顔ぶれは写真家やアパレル関係、シンガーソングライターが参加。はてはVTuberまでもが入り乱れ、VRコンテンツを競いあったのです。ある意味でクリエイティブの異種格闘技戦だったともいえるでしょう。

VRという新しいメディアだからこそ、多様な作家が集まった「NEWVIEW AWARDS 2018」。今回はバラエティーに富んだ受賞作をレビューします。

観客として触れる「STYLY」の体験とは?


(NEWVIEW AWERDS 2018では、ファイナリストの作品が2018年8月29日から9月2日までの4日間、渋谷のギャラリーX BY PARCOにて展示された)

まずレビューに入る前に、今回のVRコンテストで使用されたツールSTYLYについて触れておきましょう。

STYLYno大きな特徴はVRコンテンツを作るハードルが低いことです。Web上でVRコンテンツを制作することができる簡易さに加え、多くのプラットフォームから素材をインポートできることを強みにしています。InstagramのようにライトなSNSアプリから、3DCGツールのBlenderといった専門的なプラットフォームから素材を持ち込み、制作できるのです

今回、多様なバックグラウンドを持った参加者が集まった理由には、プログラミングといった専門技術が要求されず、カジュアルに制作できたことも大きいでしょう

ではユーザーとして、コンテンツに触れる側はどうでしょうか? 基本的な操作はモーションコントローラーでのポイント移動のみ。ユーザー自身がVR空間に存在しているというよりも、空間を確認する意味合いが強いです。

ただ、いくつかの作品は「ユーザー自身が空間に存在する」と感じられるよう、インタラクションを重視していました。コントローラーで物体に触ると音楽が変わる「PERSONAL SPACE」、当初シューティングゲームを目指していたという「DAYDREAM」は、虎などのオブジェクトを見つめていると反応するインタラクションを仕上げていたほか、「SOLVITUR AMBULANDO」では「STYLY」でどこまで3Dアクションゲームの空間デザインを作れるかを挑戦しています。

ひととおり触れた結論としては、「STYLY」はやはり空間そのものを観ることに特化しています。これは公式サイトで記載されている「コンセプチュアルなショップ空間やインスタレーション、ギャラリーなどクリエイターのイマジネーションを際限なく表現した多彩な空間」という目的通りであり、「NEWVIEW AWARDS 2018」も、そうした作品が評価された傾向があるのではないでしょうか。

GOLDー「EMOCO’S FIRST PRIVATE EXHIBITION」VtuberによるVRのためのVR絵画個展

空間表現を観る体験がメインということで目立ったのは「架空の美術館の展示」をコンセプトとした作品です。その中でも多くの文脈が混ざり合った作品がえもこさんの「EMOCO’S FIRST PRIVATE EXHIBITION」です。

ファイナリストに残った唯一のVTuberという異色のクリエイター・えもこさんがグランプリ受賞するに至った本作。普段は動画の中にしかいない本人に直接会えるという面白さもさることながら、自分の制作映像付きのVRペインティングの展示会場で、学芸員の位置にえもこさんが立っているという奇妙さも際立ちます。

銀座などでよく開催されているアートの個展では作者自身が会場にいることも多いのですが、その体験がそのままVR化したようなもの。特筆すべきは、個展が現実を模したものではなくすべてが虚構ということです。

半分架空の人物が、架空の空間で、架空のグラフィックを作っている光景を眺めるという、VRならではの虚実が重層的になった光景を見せています。制作者がVTuberという時点から作品が始まっているともいえ、「いったいどこからが本当で、どこまでが虚構か」を感じさせる不思議な体験に仕上がっています。作品はこちらから体験可能。(以下、リンク先の受賞作は、いずれもVR機器がなくともブラウザで体験可能です。)

SILVERー「EMMA VR: PAINTING LIFE」環境ストーリーテリングが発揮された、アーティストの内面に潜り込む体験

一方、SILVERを受賞した「EMMA VR: PAINTING LIFE」ではそのまま美術の個展をモデルにしています。しかし、単純に会場を再現しただけではありません。一見、個展の会場をそのまま再現だけに見えながら、VRならではの仕掛けとして「観客が作品を追いながら、徐々に作者の内面にも入り込んでいく」体験を作り上げています

舞台はイェールの美術学校を卒業したエマの個展会場。印象派画家・マネの「草上の朝食」を模した彫刻が案内役となり、エマの作品と経歴を解説していきます。

順路を追っていくと、やがて個展会場の絵の中に入りこみ、エマのアトリエへと移動。彼女がどんな風に作品を作っているかの背景を彫刻が語り、さらにエマの部屋にまで移動しながら彼女の内面や創作姿勢についてを知っていきます。いわば、現実のアーティストが行う個展を観ていく体験を、そのまま物語的に仕上げている作品です。

近年のビデオゲームでは「空間の配置で物語を語る」環境ストーリーテリングという技術が目立っており、本作はそれがVRで生かされている面白さがあります。空間のデザインもユーザーを迷わせずに誘導しながら、エマの物語を体験させることに長けていた点も。高い評価を受けた理由ではないでしょうか。

同時に、作中のオブジェクトが3Dスキャンされていることや、コラージュの絵画作品で構成されている構成ゆえに、VRという立場からこれまでの写真表現や絵画、立体表現とはどういうものか?という自己言及的な側面もあります。作品はこちらから触れることができます

また、似たスタイルの作品ではPARCO AWERDを受賞した「身体の形状記憶装置 -SHAPE MEMORY OF YOU-」もVRで自己言及的な作品を展開。受賞作はそれぞれVRというメディアは何ができるのか、どう表現できるのかについて、各アーティストが葛藤・模索しているともとれるでしょう。こちらも非常に興味深い内容になっており、こちらから体験できます

SILVERー「IMMERSIVE PHOTO EXHIBITION “美少女は目で殺す”」アヴァンギャルドな「覗き見る」写真展

ここまでの受賞作は、VR空間が現実の美術展示や芸術表現に対して別の可能性を提示する方向性でした。写真家、アパレルデザインといったクリエイターがチームとなって制作した「IMMERSIVE PHOTO EXHIBITION “美少女は目で殺す”」ではファッションと写真に特化しています。

ビビットな色彩の室内に展示されている少女の写真。すぐそばには穴が開いており、中には写真の少女がいます。ユーザーはここでは、写真を鑑賞するとともに被写体の少女を覗くという、若干背徳的なテーマをVRにて表現しています

VRはまだ開拓途中のジャンルであり、そこでアバンギャルドな表現を追求しているクリエイターが集中した結果、という印象を受けました。その試みをこちらから観ることができます

同じく写真家が制作した作品では「PRINTS」が音楽家の松武秀樹氏から賞を獲得。こちらは2D表現である写真が持つ情報を、VR空間の中でドットへと変換。3D空間のなかでの写真表現を試みています。ドットが浮遊する抽象的な空間はこちらから確認できます

SILVER-「MAILLOTS DE BAIN」ーVR空間で実践される初期のアニメーション

VRによって美術展、写真が再解釈されてきましたが、最後はアニメーションもその対象となります。「MAILLOTS DE BAIN」では、初期に発明されたアニメーションであるゾートロープをVR空間にて実現しています


(ゾートロープ。Wikipediaより引用)

ゾートロープとは、元々は連続するイラストや写真を円筒の中に配置していき、筒を回すことで動画として見えるという仕掛けを施したおもちゃです。「MAILLOTS DE BAIN」ではゾートロープの仕掛けを使い、3Ⅾ萌えキャラを円形に配置し、「高速で回転しているものがある回転数から遅くなって見える」というストロボ効果から動画として見せています。

その光景はどちらかというと、面白いというよりも諧謔的な印象を残します。VRというものへのパロディの効果か、それともアニメーションそのものへのパロディなのか、どちら側へのパロディなのか曖昧な感覚がのこります。その奇妙さはこちらで確認できます

VRという表現から、逆に既存の芸術表現について見直す傾向

今回のGOLD、SILVERの受賞作と審査員の傾向をまとめますと、まだVRでどんな表現が可能なのか固まり切っていないゆえか、VRから他の芸術表現を自己言及する部分が目立ったと思います。

絵画や写真へ言及する作風が評価をされたのも、「STYLY」でのVR体験が体験メディアというより視覚メディアを優先した立ち位置なのも関係があるかもしれません。「空間の中を観る」ということが重視されているため、既存の絵画、写真、アニメーションといった視覚メディアの評価軸と繋がっていたとも感じました、

VRは「ユーザーが架空の空間の中を存在しているように感じられる」体験メディアとしての性質を推す傾向は強いです。なので、視覚メディアに特化したコンテストは貴重であり、興味深いものでした。


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