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メタバース最新動向 2021.07.07

最近話題の「メタバース」ってなに? 言葉の意味から業界動向まで解説

昨今よく話題に上る「メタバース」。ブレイクポイント株式会社と株式会社Moguraが共催したウェビナー「Future Tech Meetup #6 最近話題の『メタバース』ってなに? 業界動向を解説」ではメタバースという言葉の解説から関連業界の最新動向まで、セミナーとディスカッションの両形式で情報共有や議論が行われました。本記事はそのイベントレポートとなります。

テーマは「メタバース」

シリコンバレーやゲーム業界などを中心に今や世界的な話題となっているメタバースですが、今のところ言葉だけが先行しており、その実態がよくわからないという人も多いでしょう。今回のウェビナーではメタバースについて、言葉の定義から現在の状況、そして実際にメタバースを志向する企業の知見などが紹介・解説されました。

第1部「シリコンバレーから見た!『メタバース』をめぐる動向」

ウェビナーは2部構成で展開。第1部では「シリコンバレーから見た!『メタバース』をめぐる動向」と題し、GFR Fundの筒井鉄平氏がメタバースの定義や関連企業の紹介・解説を行いました。


(GRF Fundが出資している企業の一部。VRChatやWAVEなど、VR業界ではよく知られた企業やサービスにも出資している)

メタバース(Metaverse)とは?

筒井氏はまず「メタバース」(Metaverse)の用語解説からスタート。用語の初出とされるニール・スティーブンソンのSF小説、『スノウ・クラッシュ』(邦訳はハヤカワ文庫から刊行)での使われ方から解説を行いました。

続いては、きわめて初歩のメタバースの例として『Habitat』、および『Second Life』を紹介。Habitatは商業的なスケールを目指して作られた初のMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、大規模多人数同時参加型オンラインRPG)であり、Second Lifeは初期のUGCプラットフォーム(User-Generated Content、ユーザーによって生成されるコンテンツ)に近く、ピーク時には100万人近いユーザーがいたことや、ゲーム内通貨「リンデンドル」を現実のアメリカドルに換金できたことも画期的だったと解説しました。


(『Habitat』(左)と『Second Life』(右)。Second Lifeは現在もサービス提供中)

筒井氏は「メタバースは概念自体がまだ新しく、明確な定義や具体的なプロダクトもない。また、真にメタバースと呼べるものが現時点では存在していないため、全員が共通見解を持っているわけでもない」と解説。その一方で、現時点におけるメタバースを定義しようとする言説が出始めていることに触れ、そのいくつかを紹介しました。

投資家・Matthew Ballが定義するメタバース

筒井氏が最初に紹介したのは、投資家のMatthew Ball氏が2020年に同氏のブログで語ったメタバースの定義。同氏によれば、メタバースには以下の7つの要件があるとしています。

■Matthew Ballが定義するメタバースの7要件
1: Persistent(永続的である)
2: Synchronous and live(同時性&ライブ性)
3: No cap to concurrent participants(同時参加人数無制限)
4: Fully functioning economy(参加者によるモノの制作・保有・投資・売買などが可能)
5: Both digital & physical worlds(デジタルと物理、両方の世界にまたがる体験)
6: Unprecedented interoperability(今までにない相互運用性)
7: Wide range of contributors(数多くの企業/個人がコンテンツや体験を生み出す)


(Matthew Ball氏は2020年、同氏のブログでメタバースについて語っている)

フェイスブック・Marc Geffenlが提唱する「必要最小限のメタバース」

続いては、現在はフェイスブックでリサーチマネージャーを務める(執筆当時は別企業所属)Marc Geffen氏が提唱する「必要最小限のメタバース」(Minimum Viable Metaverse)を紹介。同氏は、完全なメタバースはまだないものの、部分的にその要素を備えたプロダクトはすでに実現しているという考えを示しています。


(Marc Geffen氏が提唱する「必要最小限のメタバース」の考え方)

『Roblox』のCEOが考えるメタバース

さらに続けて、今度は『Roblox』のCEOであるDavid Baszucki氏が提唱するメタバースの考え方を紹介。


(David Baszucki氏は海外メディアで自身のメタバース観を語っている)

David Baszucki氏が考えるメタバースは、「何百万もの3Dバーチャル体験の中で、人々がシームレスに集い、交流するデジタルな場所」であり、Robloxにはメタバースに連なる8つの要素があるとしています。

■Robloxを構成する、メタバースに連なる8要素
Identity(アイデンティティ)
Friends(友人)
Immersive(没入型体験)
Low Friction(軋轢が少ない)
Variety(多様性)
Anywhere(どこからでも参加できる)
Economy(確立されたエコシステム)
Civility(安全性・安定性)

筒井氏はまた、David Baszucki氏はRobloxが単体でメタバースを構築できているという考え、いわゆる「クローズドメタバース(Closed Metaverse)」を主張していることや、Robloxが提供するのはプラットフォームであり、実際にコンテンツを作るのはユーザーであるということも解説しました。

Epic GamesのCEOが考えるメタバース

一方、『フォートナイト』を擁するEpic GamesのCEO、Tim Sweeney氏が目指すメタバースはいわゆる「オープンメタバース(Open Metaverse)」。1つの企業や組織がコントロールするのではなく、参加者全員がその貢献度に応じた扱いを受けられるというメタバースです。また、プラットフォームも1つではなく、複数のメタバースを相互に行き来できることも特徴で、これは先に紹介されたMatthew Ball氏の定義に近いものです。しかし、オープンメタバースには技術的に解決すべき課題も多いと筒井氏は指摘しています。


(Tim Sweeney氏が目指すメタバースはRobloxとは逆の「オープン・メタバース」)

メタバースを構成する要素とは

続けて筒井氏が取り上げたのは、起業家にしてBeamableというスタートアップのCEOでもあるJon Radoff氏の言説。同氏はメタバースを構成する要素として以下の7つ(バリューチェーン)を挙げています。

■メタバースを構成する7つの要素
Experience(体験)
Discovery(発見)
Creator Economy(クリエイターエコノミー)
Spatial Computing(空間コンピューティング)
Decentralization(非中央集権)
Human Interface(ヒューマンインターフェース)
Infrastructure(インフラ)


(メタバースを構成する7つの要素はレイヤー状に重なり合っている)


(Jon Radoff氏の定義に基づき分類された企業やサービスの一覧

GFR Fundが注目するメタバース関連スタートアップ

ここで筒井氏は、自身が所属するGFR Fundが注目する、メタバースに関連するスタートアップをいくつかを紹介しました。


Improbable(左)とDreamWorld(右)。どちらもメタバースにおける「インフラ層」を担うサービス)


Manticore Games(左)とRec Room(右)。FortniteとRobloxに続くメタバースの“第2集団”として筒井氏も注目しているという)


Decentraland(左)とThe Sandbox(右)。どちらもブロックチェーン技術で作られたバーチャルワールド)


Crucible(左)とTafi(右)。どちらもアバターシステムを開発・提供する)

また、GFR Fund自身が投資しているスタートアップとしてWaveRTFKTも紹介されました。


(GFR Fundも出資しているWave(左)とRTFKT(右))

投資家も注目するメタバース

筒井氏は最後に、メタバースはコンセプトも実際のプロダクトもまだ発展途上にあり、誰もが考える共通の見解はないとあらためて説明。一方で、将来的には「オープンメタバース」と「クローズドメタバース」が対立項になるのではないかということや、メタバースは投資家も注目している分野で、今後2年(24か月)ぐらいが勝負と言われていると語り、第1部は終了となりました。


(メタバースは「次に来るもの」として投資家も注目する分野)

第2部「メタバースの実現に向かって取り組む理由」

第2部は「メタバースの実現に向かって取り組む理由」と題し、VRゲーム『ソード・オブ・ガルガンチュア』を手がけるThirdverseの代表取締役CSO・新清士氏と、VRライブプラットフォーム「VARK」を手がけるVARKの代表取締役である加藤卓也氏が登壇。両社が手がけるサービスがどのようにメタバースと関わっていくかについて意見を交わしました。

メタバースをどのようなものと考えているか?

最初のトークテーマは「メタバースをどのようなものと考えているか?」。

この質問に対し新氏は、「MMORPGをVRで作る」というThirdverse社の目標を語り、そのうえで「最終的なゴールとしてメタバースを作っていくことも考えている」と、同社の目指すゲームの先にメタバースもあるという考えを述べました。新氏はまた、それが『ソード・オブ・ガルガンチュア』の拡張として実現するのか、あるいは別のタイトルで実現するのかはわからないとしつつ、5年以内を視野に入れているとも語っています。

一方の加藤氏は、「みんながメタバースと呼んでいるようなものは、『現実空間より仮想空間のほうが確実に良い体験ができるもの』だと捉えている。(VARKが提供する)バーチャル音楽ライブもそのひとつだと思う」と回答。そしてそれは音楽ライブに限らず、旅行体験やECでも同じような可能性があるという考えを述べました。


(VARKの加藤卓也氏(左)とThirdverseの新清士氏(中央)。モデレーターはMoguraの久保田瞬(右)が務めた)

両社が取り組んでいるサービスでどのようにメタバースを目指すのか?

続いては両社が現行サービスからどのようにメタバースを目指すのがテーマに。

これに対し加藤氏は、現在VARKで行われている各回約1時間の音楽ライブを拡大する形で総合的なエンターテイメントプラットホームに移行させていきたいと言います。まずはコミュニケーション要素を中心に、ライブ前後の数時間、トータル3時間ぐらいの体験を充実させたいとのことです。

対する新氏は『ソード・オブ・ガルガンチュア』と同様、VRゲームから発展する形でのメタバースを考えていると言います。現在『ソード・オブ・ガルガンチュア』ではイベント武器や武器MODなど提供しているが、それらを広げていくとどうなるか、ゲーム内経済としての可能性はあるか、といったことはよく考えているそうです。


(VRマルチプレイ剣戟アクション『ソード・オブ・ガルガンチュア』)

UGCはメタバースにどう影響する?

また、議論ではUGCも話題に。すると加藤氏は「VARKでもLIGHT STAGEという、ユーザーが独自にライブを開催できる機能をリリースした。しかし想定に反してほとんど一人カラオケ用に使われている」と笑いながら語り、当初想定していたのとは違う形でユーザーが盛り上がる“UGCあるある”を披露しました。

新氏は『ソード・オブ・ガルガンチュア』で2020年11月に実装した武器MODが好評であることに触れ、「VRの場合はSNSとリンクすることでうまく機能しているところがあって、SNS映え、あるいはYouTubeなどの動画映えをどう実現させるかが常に悩みどころだ」と、ユーザーがUGCを拡散・共有してくれることが重要だという見解を述べました。


(VRライブプラットフォームの「VARK」。2021年5月に6億円の資金調達を発表、メタバース要素を取り込んだ総合エンタメプラットフォームへの拡張を目指す)

必要な技術などハードルは何があるか?

続いて「今後メタバースが登場するにあたり課題になりそうなことはあるか」という話題。

この問いに対し加藤氏は「技術的な問題はないが、技術の進化とその技術に対するユーザー理解の間に距離を感じるようになった」と回答。続けて、メタバースを語る際によく挙げられるユーザー同時接続数についても触れ、「1セッションあたり数万人、などと言われるけれども、実際のVR空間では一人のユーザーが知覚できるのは多くて8人程度」と語り、コンテンツ体験によっては同時接続数がそれほど問題にならないケースもあるのでは、との考えを述べました。

一方の新氏は、VRヘッドセットをはじめとするハードウェアの性能上限がボトルネックになっていると言い、今後ハードの性能が向上を続けても、その性能を何に割り振るかは課題として残り続けるだろうという考えを示しました。

メタバースのマネタイズはどのようなものが考えうるか?

最後のトークテーマはメタバースでいかにマネタイズするかという議題。

新氏は「『ソード・オブ・ガルガンチュア』ではNFTの導入を検討したこともあるが、いったん見送っている。ただし研究は続けている」と言い、それが『ソード・オブ・ガルガンチュア』になるかはわからないが、いずれどこかで導入したいと語りました。

対する加藤氏は「VARKでは音楽ライブというコンテンツの性質上、チケット販売・ギフティング・物販がなかば当然のものとしてあり、メタバースならではの新しいマネタイズ手法はまだ見えていない」と言います。と同時に、ソーシャルゲームにおける課金システムのような強力な集金システムが今後出てくるのかに注目していると語りました。

また加藤氏はセッションの最後にも、「『メタバースが来る』と言う人は大勢いますが、結局のところ、僕らが自分で“来させる”しかないわけで、皆さん一緒に開発頑張りましょう」と語り、ウェビナーは終了となりました。

Future Tech Meetupは今後も開催予定

Future Tech Meetupは「日本のXR開発と社会実装を加速させる」を目的に、起業・新規事業創造を支援するインキュベーター企業であるブレイクポイント株式会社と、XR専門メディア「Mogura VR News」「MoguLive」の運営やXRコンサル事業を手がける株式会社Moguraが共催する有料ウェビナーです。

Future Tech Meetupは2021年7月14日に第7回を開催します。
第7回のテーマは、メタバースに続いて「アバター」。

AR/VR業界関係者はもちろんのこと、AR/VRを自社ビジネスに取り入れたい人、AR/VR業界への就職・転職を考えている人はぜひ一度ご参加ください。イベントの最新情報はMogura VR NewsMoguraの公式Twitterなどで告知していきます。

https://www.moguravr.com/future-tech-meetup-3/


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