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テック 2023.08.15

MRデバイスにおける法人ニーズの多様化:マイクロソフトの関連特許から

2023年4月末から5月にかけて、マイクロソフトが出願した特許2件が公開されました。1件目は「センサーとディスプレイを脱着可能にする」もの、2件目は「仮想入力デバイスを仮想オブジェクトに固定する」ものです。いずれもMRデバイス「HoloLens」の次世代機を意識した発明と見られます。

新たな特許は企業の多様なニーズに応じるデバイス

公開された特許の内容は、同時期に公開されたアイトラッキング機能とヘッドマウントディスプレイに関する特許に連なるもので、同社が2022年に新型デバイスの研究開発を続けていたことを示唆しています。将来の製品化は確実視できませんが、デバイス開発チーム(当時)の問題意識がうかがえる内容です。

ディスプレイとセンサーを脱着可能に

1件目の特許「モジュラー型ヘッドマウントデバイス(modular head-mounted device)」は、ディスプレイやプロセッサー、バッテリー等を着脱可能な仕様にするものです。これにより、単一の機器セットでオフィス、工場・建設現場、手術室などでの幅広い用途に対応する狙いです。


(ディスプレイとセンサーの双方に、主要なサブシステムを搭載可能とする。出所:Patentscope)

マイクロソフトは特許明細のなかで、XRデバイスの欠点の1つが「通常、特定のユーザーおよび/またはユーザー環境向けに設計・構築されていること」にあると指摘。「さまざまなユーザー環境に対応するために複数の設計を行うと、コストが高くなり、設計・製造上のさまざまな課題が生じる可能性がある」と述べていました。

それらの課題を踏まえて、本発明はヘッドバンドを交換可能にすることで、オフィスで長時間着用したり、保護用ヘルメットと一体化したり、医療処置の合間で簡単に殺菌・廃棄できるといった、より柔軟なデバイス構成を意図しています


(工業・医療など用途別に交換可能なヘッドバンドで装着する。出所:Patentscope)

ユーザーを苛立たせない仮想入力デバイス

2件目の特許「複合現実の入力のための知的キーボード取付(intelligent keyboad attachment for mixed reality input)」は、画面表示された仮想入力デバイスを仮想オブジェクトに固定できるようにします。例えば、MRで表示した仮想キーボードを、仮想のデスクに固定する、というものです。この特許では、デバイス装着中にユーザーが身体を動かしても、仮想入力デバイスの位置はユーザーの視野に追従しないよう固定され、他の仮想オブジェクトと干渉しないようにします。


(画面内の入力デバイスを別のオブジェクトに取り付けられる。出所:Patentscope)

この特許明細の特徴は、ユーザーの「快適さ」を向上する実装が念頭にある点です。例えば、仮想入力デバイスはキーボードが例示されているものの、数値入力パッド、カラーパレットなどのバリエーションも想定しています。仮想オブジェクトの取り付け方法も、磁石留め、ドッキング、挿入などを例示しています。

他にも、ユーザーの手がふさがっていて、タッチ入力が困難な状態にあるときは、「音声入力ボタンを押すことで、必要なボタン押下を最小限に抑えることができる」といった実装を許容しています。ユーザーが途中まで入力した検索ワードを記憶して再表示したり、仮想入力デバイスを取り付けた仮想オブジェクトを一緒に動かせるなど、デバイス装着中のフリクション、ストレスを減らす工夫も提案されています。

事業縮小しながら技術開発を継続か

マイクロソフトは2023年2月から、全従業員の5%に当たる1万人規模のレイオフを始めています。同社のMR分野もその影響を受けており、「MRTK(Mixed Reality Tool Kit)」開発チームの解散、ソーシャルVR「AltSpaceVR」がサービス終了、「HoloLens」開発チームの大半がレイオフ対象者になったと報じられました。「HoloLensの生みの親」として知られるAlex Kipman(アレックス・キップマン)氏も、2022年10月に退社しています。

他方でマイクロソフトは、XR分野への継続投資を表明しています。2022年12月には公式ブログで「(HoloLens 2の)後継機はまだ必要なく、顧客は適切なタイミングの提供を望んでいます」とし、次世代デバイスを「『意味のあるアップデート』にするために、適切なデザインポイントを探しているところです」と述べていました。

また、マイクロソフトは米陸軍が2021年に始めた「Integrated Visual Augmentation System (IVAS)」の導入に向けて、「より薄型のヘッドアップディスプレイ」を開発中だとされます。2022年6月の運用テストに参加した兵士の80%が体調不良を訴えたことを受け、米国議会は関連予算を4億ドル(580億円、2023/08/15時点)から4,000万ドル(58億円)に縮小、デバイスの改良を行うよう求めています。

さらに、2023年にはXR・メタバース関連ソフトウェアへの注力を続けています。4月にバーチャルオフィスサービス「Microsoft Mesh」を業務連絡ツール「Teams」と統合したほか、5月には半導体大手のNVIDIAと生成AI分野で提携すると発表。先行して一部の法人ユーザーには、自社のクラウドサービス「Microsoft Azure」からNVIDIAの3Dデザインツール「Omniverse」を利用可能にしていました。

(参考)Patentscope(1)Patentscope(2)


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