9月8日、中国工業情報化部(工信部)が、関係4省庁との連名で「メタバース産業の革新的発展に向けた3カ年行動計画(2023-2025年)」を公表しました。イノベーション推進など5方針を基本原則とし、5つの優先課題について、14項目の行動計画を掲げています。同日には、中央政府の公式サイトにも政策の解説が掲載されました。
(出所:維基小霸王, CC-BY-SA 4.0)
同文書では「開発目標」として、2025年までに世界的な影響力を持つプラットフォーム企業を3から5社、関連産業クラスターを3から5つ育成することなどが記載されています。
また、具体的な産業政策として、科学技術・産業特区の設置、知財制度・産業標準規格の改良、関連企業の減税なども行動計画に盛り込まれました。関係5省庁は今後の保護措置として、様々な部門間の連携強化、高等教育機関における人材育成の最適化、国際協力の深化を進めるとしています。
地方政府の行動計画を受けた対応か
中国では、2022年頃から、地方自治体がメタバース等に関する「行動計画」を独自で発表しています。上海市や北京市、鄭州市は3カ年の行動計画を発表したほか、地方政府では浙江省が同様の文書を公表しました。先行文書との関係は不明ながら、中国政府が行政機関レベルで「行動計画」を公表するのは初めてです。
5課題/14項目の行動計画
同文書で優先課題ごとに言及された、14項目の行動計画は以下の通りです。
(1)高度なメタバース技術と産業システムの構築
- 1.キーテクノロジーの統合と革新を強化する。
- 2.メタバース製品の供給を充実させる。
- 3.産業エコシステムの相乗的な発展を構築する。
(2)3次元でインタラクティブな産業メタバースの育成
- 4.主要産業プロセスのメタバース化の促進を模索する。
- 5.主要産業における産業メタバースの普及を加速する。
- 6.産業メタバースの革新的なアプリケーションモデルを模索する。
(3)没入的でインタラクティブなデジタルライフアプリケーションの創出
- 7.没入的でインタラクティブな消費生活シナリオを普及させる。
- 8.虚実融合の公共サービスシナリオを創出する。
- 9.スマートで安全な災害救助シナリオを支援する。
(4)体系的で完全な産業支援の構築
- 10.産業標準規格の体系を改善する。
- 11.イノベーション支援能力を強化する。
- 12.一流のインフラを構築する。
(5)安全で信頼できる産業統治システムの構築
- 13.メタバースの協調的な統治システムを整備する。
- 14.安全保障能力の構築を強化する。
周辺分野のテクノロジーにも言及
この文書では、通信技術、セキュリティ、ハードウェア、3Dモデリング、サービス開発といった周辺分野にも言及しています。
- 通信技術:5G-A/6G、10ギガバイト光回線、FTTR(Fiber to The Room)、衛星インターネット
- セキュリティ:コンテンツ審査、リスク・違反処理、企業コンプライアンス、情報管理
- ハードウェア:GPU、センサー、音響部品、ディスプレイ、XRヘッドセット、3Dディスプレイ、ホログラフィック・リアルタイム・コミュニケーション、ブレイン・コンピューター・インターフェース
- 3Dモデリング:モデリングソフト、レンダリングエンジン、物理シミュレーション、デジタルヒューマン、デジタルツイン、3Dマップ、バーチャル番組制作・放送システム
- データ処理:人工知能、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、分散型ID、データ資産の流通
- サービス開発:バーチャルオフィス・教室、バーチャルショッピングモール、災害シミュレーション、産業メタバース、クラウドツーリズム
中国国内では、2023年7月に大手IT企業が業界アライアンス「メタバース同盟」を設立するなど、主要プレイヤーの協調戦略が進みつつあります。今後、行政機関がどのような産業政策を打ち出すのか要注目です。