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業界動向 2022.02.23

2022年、XRとメタバースはどこへ行くのか? 世界最大規模の展示会CESから考える

2022年1月に米国ラスベガス、そしてオンラインで開催された、世界最大規模のエレクトロニクス展示会CES2022。注目のトピックや現地で展示されていたXR/メタバース関連の最新情報、トレンドについて、フリージャーナリストの西田宗千佳氏、株式会社ShiftallのCEOを務める岩佐琢磨氏を迎え、Mogura VR 編集長の久保田瞬が話を伺いました。

(※本記事は、2022年1月19日に開催されたイベント「CES2022 報告会〜注目のXR/メタバース分野を語る〜 Future Tech Meetup #8」の書き起こしレポートです。前編はこちらから)

「荒削りだけど面白い」スタートアップたち

岩佐:

ここからは本当にVR好きの人に向けて話すと、CES2020にもいた……いや、どこにでもいるbHaptixの「Tactsuit」もありました。大きくは変わっていませんが、今回は新製品の「Tactglove」がありましたね。グローブ単体でポジショントラッキングができるのかと思ったのですが、VIVEトラッカー経由という話でした。あくまでBluetooth経由のハプティックフィードバックを指に与えることに特化していています。

岩佐:

SenseGloveもだいぶ前にプロジェクトを出していて、今年はAWEにも出ていましたが、彼らはオランダ企業ですね。

岩佐:

変わっている系では全方向トレッドミルのOmniPad ですね。いわゆるフィットネスローラーで、通常一方向にしか回らないトレッドミルが、VR空間の映像に合わせて右に行ったり左に行ったりします。

岩佐:

「滑る靴」を履いてVR内で走り回る系のソリューションは韓国のKAT VR等が販売していましたが、彼らは「それよりもOmniPad は小型で導入しやすい」と言っていました。いや、こっちの方がでかいと思いますが(笑) 絶対に落ちたりして危ないだろうに、どう対策するのかよくわからないところが、スタートアップのアイデアらしいなと。CESのEureka Parkは「荒削りだけれども、面白いね」というプロダクトが見られる場所でしたね。

直接的にはVRではないんですが、それから頭で心電図(ECG)を取るアプローチは面白いなと。ヘルメットのおでこの部分、ヘルメットの中に電極をつけて、額からECGや脳波(EEG)を取ると。要はワーカーコントロールのソリューションだったんですが、VRで使ったら面白そうじゃないですか?

岩佐:

VRヘッドセットにバンドがついていて、ECGやEEGを取って、なにかドキドキしたらあったかくなるとか音が鳴るとか、ハプティックフィードバックがあるとか。そういった応用はありえるかな、と思っています。

余談ですが、リアル開催された最後のCESでは「セックステック」と呼ばれている、セクシュアルなことに使うデバイスも出展OKになっていました。男性の射精のタイミングを電子的にコントロールするというデバイスです。股下に特殊な周波数を出すジェルパッドを貼って、アプリケーションから筋肉の硬直をコントロールするっていう。

岩佐:

微弱な電流等を使って筋肉の動きを制御して、例えば圧力を感じるとか、自分の手足がなにかに触れているとか、何かにぶつかっている感じを出すという領域は結構面白いなあと。触覚デバイスの一種ですよね。結構ぶっ飛んだアイデアではありますが(笑)

岩佐:

あとは……この画像の右はVRではないですが、題になっていましたね。レーシングゲームにゴツいファンをいっぱいつけて、ゲームの速度に合わせてでっかい風がくる。昔から日本でいろんなところに展示していたやつが製品になってきたわけですね。フライトシュミレーターの延長のようなものが多かったです。

中にはバケモノみたいなプロフェッショナル用のVRヘッドセットとコックピットのシステムを使って、ハイエンドなBtoBのトレーニングシミュレーターの展示もポツポツありました。

岩佐:

あと僕のTwitterで「ついにナーヴギアきたか」と、めちゃくちゃバズって盛り上がったスカイダイビング体験用のサービスがこちらです。パッと被って脱げて、デザインも雰囲気が出るように作られています。実際は中を見たらMeta Questが入っているだけなんですが、なかなかよくできているシステムで(笑)

久保田:

この会社、元々VR体験施設「The VOID」の共同創業者がCEOなんですよね。中身の写真見ると、The VOIDの改造リフトみたいなのと発想が似ています。

岩佐:

なるほど! こういう色物もありですよね。またナーヴギア系ネタですが、脳波からパーキンソン病のような難病の可能性を検出する、治療用のデバイスもありました。まだまだ医療用で最先端で費用も高いのですが、技術的に可能であれば、将来的にはより低価格なものに、民生品に転用することは十分ありえるでしょうね。

地に足がついていたのはロッテのCALIVERSEという展示です。アバター×バーチャル空間内のファッション、バーチャル空間内でのライブ演出を組み合わせ、いかにメタバース上でロッテグループの商品の認知を高めていくかという展示をしていた。ここはいわゆるVRメタバースの文脈の展示でした。

僕らの競合も地味にちっちゃいブースの中ですけど、イスタンブールから出てきていたり、ブースは持っていないけれど「Tundra Tracker」の人もいたりしました。

岩佐:

それからCESの会場から離れて、ホテルのモールにarparaを使ったVRの360度映像の体感マシーンがどこのホテルにも1ヶ所ずつぐらい入っていて。増えてきているんだなと思って見てました。

あとは手術マシーンみたいにロボットアームが動いてマッサージしてくれるやつとかも、VRに転用したら面白いなと。また「フルトラの先」でも言いましょうか、VRヘッドセットをつけて、床に感圧ヨガマットが仕込まれていて動きをキャプチャできるとか。これは面白い動きが取れるなと思いました。

岩佐:

それ以外には、いわゆる「Peloton」っぽいトレーニング機器ですね。ちなみにこのカヌーデバイスは25万円して月額3,900円。こういったものも×VRすると結構面白いでしょうね。

岩佐:

最後に流すと、LGは空きスペースだったので墓標が立っているだけで……Venetianの2階もスカスカでした。

岩佐:

私は出展社側だったので、じっくり展示を見る時間はありませんでしたが、以上がスタートアップエリアを中心に、LVCCセントラルのVRエリアを見た感じのざっくりしたサマリーでした。

久保田:

ハードウェアを作っている岩佐さんならではの「これは使えるのでは?」という、熱い報告ですね。

久保田:

そろそろ本題のパネルディスカッションに入っていきたいと思います。CES2022のXR・メタバースが実際どの程度盛り上がっていたのか?というテーマですが、先程のお話では、西田さんの「すごく盛り上がっているわけではない」「まったく盛り上がってない、とは言えない」だろうという読みがあり、岩佐さんが現地の情報から答え合わせをして……という形で、ほぼ2人の見解も一致していましたね。何か補足はありますか?

西田:

1点補足すると、メディアで「CES2022がメタバースで盛り上がった」という記事がなぜできるのかという話をしておきます。CESプレス1日前の夕方に「今年以降のデジタルトレンドはこうなる」とCTAのアナリストがしゃべるセッションがあるんですね。その中で「今年のテーマはこれです」って言うんですよ。そして、国内メディアで盛り上がっているとされていた「自動車、ヘルス、メタバース」はまさにこのレクチャーに出てくる順番なんですよ。

西田:

レクチャー自体は数字の裏付けもあり、示唆に富んだものではあるのですが、それに乗っかって取材しようということになると「メタバースが盛り上がった」と書いた上でピックアップしていく流れになってしまうんですね。実際には開催してみないと傾向がわからないのに、なぜかプレスデーの前の日に「これからの傾向はなにか?」と報道しようとしていて。「傾向がちゃんと見えていないのに、傾向を作ろうとする部分がある」ということは頭に入れておいて欲しいですね。

岩佐:

西田さんがコメントされてたのは「CES 2022 Tech Trends to Watch」という、アナリストが話しているセッションですね。CESデジタルで会員登録されている方は、その費用の中で観られます。

西田:

先ほどはああ言いましたが、数字の裏付けも出ていて使いやすい情報なので、観ておくといいと思います。

久保田:

ありがとうございます。次は現地まで行った岩佐さんに、日本にいた僕たちから、気になっていたものを聞く時間にしましょう。

西田:

写真だけだと異様な感じなんですけど、真っ当にメタバースを展示していたロッテのブースを来場者がどんな風に捉えていたのか、その空気感が知りたいです。

岩佐:

長蛇の列で、最終日まで列が途絶えることがなく並んでたので、みなさん興味がすごくあって、楽しまれていたと取っていいんじゃないかと思います。

久保田:

実際のブースの中は、なんのためにみなさん並んでいたんですか?

岩佐:

ブースの端で、ロッテがメタバースでやっていること、例えばアバター生成システムやアバターファッション着せ替えなど、どういう風にファッションを買ってアバターに着せて中を歩くのか説明していて。

岩佐:

実際に中ではロッテが提供しているCALIVERSEを楽しめるヘッドセットが用意されていて、順番が来たらヘッドセットを被って中を観て回る、といったデモでした。

久保田:

VRで見せていたんですね。

岩佐:

今メタバース側にいる人たちからすると、そんな目新しいものではないとは思います。何か新しいテクノロジーが使われていたというよりは、これからのファッション・コスメを含む、コングロマリットとしてのメタバースとの共存のあり方を示した展示ですね。

西田:

P&Gも含めて、ファッション・コスメの人々が、ひとつのマーケティングの場として、メタバースを割と意外なほど真剣に捉えている印象を持ったんです。

岩佐:

それは間違いないと思っています。逆に我々もパナソニックグループとしては、デジタルデータをメタバースの中に持っていくということにトライアルし始めています。ファッションは間違いなく来ますね。コロナ禍でリアルの服を買うのを減らし、バーチャルのアパレルを買うって人たくさん見ている現実としては、彼らが勇み足になるのもよくわかると。ただ美しい定番、みたいな着地点が見えていない。逆に僕らみたいな新規事業をやる人間には、どういう風にやるのかみんな悩んでいる、ワクワクするいいタイミングな気がしますね。

久保田:

僕も1つ。韓国のブースがすごく多かったという話でしたが、XRのメタバースを追いかけていると、ZEPETOなど韓国プレイヤーが多いのは聞こえてきます。韓国勢のメタバースというのは、ロッテやサムスンなど大手が比較的使い出しているのはそうですが、上から下まで見たときにどんなでした?

岩佐:

正直、「メタバースをこう使う」みたいな展示は、本当に大手しかなくて。元々CESって、物を作るハードウェア側が出展する場なので、中小規模の企業はメタバースを体験するためのデバイスを提供する展示がほとんどでした。メタバースの上でどういうビジネスをやっていくのかといったソフトウェアないしサービスの世界の人は、韓国に限らず、そもそもあまり出展していない。そういう展示は、AWEの方が多かったかなという印象ですね。

脱線しますが、世界最大級の複合フェスティバルSXSWとAWEとCESは、メタバースの文脈で3つとも見とかなきゃいけないなという感じがしていて。特に昨年のSXSWは、メタバースの上でアーティスティックなことをやる人たち、例えばメタバースのコンテンツプロバイダや、パフォーマーみたいな人たちがたくさん集まっていてました。

この3つのカンファレンスを見ていると、プラットフォームの人、ハードウェアの人、アートや音楽やパフォーマンスを持ってくる人、ロッテやグッチなどのプロモーションやマーケティングを持ってくる人がそれぞれ見えてきます。この先メタバースの上のメディアや人材紹介とか、プラットフォームの上にいろんなものが乗っかってくる方向になりそうなので、見なきゃいけないカンファレンスが多いですね。

久保田:

確かに。渡航して取材しなきゃいけないイベントが多すぎて、2020年は2ヶ月に1回くらいはどっか行ってましたね。

西田:

悩みどころですよね。

活路は用途特化? 世界と戦う日本企業の生き残り戦略

久保田:

西田さん、岩佐さんに聴いてみたいことは他にありますか?

西田:

では岩佐さんのところのプロダクトの話を。

岩佐:

今回いろいろ発表しましたね(笑)。

西田:

2つあります。ひとつは「HMDどうすんの?」と。物は出したけど、ビジネスとしてどうやっていくのかが知りたいです。コントローラーもまだ出していません。もう1つはアメリカ市場で完売したHaritoraXが、アメリカのメディアやいろんな人たちに、低価格なフルトラ環境の可能性や、業務用ではなくコミュニケーションのためにコンシューマーが使うような市場をどう捉えられたのかは聞きたいですね。

岩佐:

まずHaritoraXからいきましょうか。アメリカのメディアに対し、コンシューマーベースのフルトラ環境としてどう捉えられたのか? という質問は「全くと言っていいほどそう捉えられていない」というのが正しいです。実際、アメリカのメディアにおけるHaritoraXは「なんか変なのが来たぞ。でもフューチャーなのかも!」という文脈でThe GuardianやTIMEのWeb記事に紹介されたと言っていいと思います。それは日本において、NHKさんのようなメディアが「フルトラ」という言葉をまだ1度も使ってないのと似ています。コンシューマーの中で、そんなユースケースがあるということにメジャーなメディアが触れることがほぼない……というくらいの1番最初のフェーズですね。

ただし日本と違って英語圏は人口が多いので、コアなユーザーは日本の何倍もいます。その人たちとメジャーなメディアとの間では受け止められ方も大きく異なります。

僕らが「HaritoraX」を1月3日にWebで販売開始した瞬間って、認知ゼロで全く売れなかったんですよ。最初の数日は10台20台しか売れなかった。で、VRChatにハマっているカップルYouTuberが取り上げてくれて、コミュニティに知られたら即座に在庫が全部無くなりました。その後は競合製品のDiscordにも話が飛び火して、非常に盛り上がるという風になっていて。日本の状況も近いのかもしれません。

NHKで取り上げてもHaritoraXが国内で売れることはないけれど、MoguLiveみたいなメディアが取り上げると、一気に日本のVRメタバースユーザーに認知されて売れていく。日米、どっちも同じようなフェーズなんだと思っています。

西田:

なるほど。

岩佐:

一方で日本の人たちもアメリカの人たちも悩みは一緒なので、VRChatユーザーはみんな「これを待っていたんだ!」みたいな感じで。いろんなDiscordに日本のHaritoraXの動画やスクリーンショットが貼られて、もう日本では出荷されているようだ、と話題になっていましたね。VRはある意味とても言語依存なんですが、デバイスという意味ではかなり非言語的なのが面白いです。

岩佐:

続いてMegane Xですが、どういう風にやっていくのかというと、僕の見方ではミッドローは「スマホにおけるアップル」あるいは「パソコンにおけるレノボ」みたいなところがとっていくのは間違いないと思っています。VRヘッドセットの文脈ではMetaですね。他にも最近マイクロソフトは思い切ったことをしたので、ここはダークホースだと思っています。こんな感じで、GAFAMが少なくともミッドからローは全部取ってしまうだろうと。そこに日本が入る隙があるとしたら、任天堂かソニーくらいしかないと思っています。

ただメタバースが何十兆円ものビジネスに広がっていくのであれば、車におけるスポーツカーやノートPCにおけるレッツノートのように、特定の用途に向けた市場エリアは絶対にあると思っています。なので僕らは今回あえて有線、かつ無線では出せない超高解像度・高精細なVRデバイス、つまり5.2K解像度かつ10bit HDRにこだわりました。

まだコントローラーは発表できてないんですが、買い替えやステップアップ用途に特化するだけでも結構な規模、2桁億よりもっと大きいビジネスは確実にあるだろうとみています。フェラーリやランボルギーニは台数を売っていないですが、大きなビジネスです。アストンマーチンぐらいでも結構なビジネスですから、そこをとっていけばいいと思ってます。

西田:

先行者利益としてハイエンドを取るだけではなく、ハイエンドの中でもきちんとブランディングをして、ユーザーやコミュニティに支持されていくことはできないか、というところでしょうか。

岩佐:

ハイエンドというと語弊があるかもしれませんから「用途特化」という表現がいいのかもしれませんね。ヘビーユーザー用途特化みたいな。例えばレッツノートって、別にハイエンドでもないじゃないですか? MacBook Proの全積みモデルの方がレッツノートより高いわけで。ただ軍事や警察など、特定の用途ではレッツノートは強いです。例えば国内のスマートフォンにおける京セラのタフ携帯みたいな。工事現場は京セラしか選択肢がないというような、その辺の1つをまずしっかり取っていくという流れです。ガッツリとヘビーに使っている人たちが「やっぱり欲しいよね」と思うものを提供していくのが、僕らの1つのラインです。

西田:

なるほど。そういう文脈をきちんとつけていくと、今岩佐さんたちがやっていることはとてもよく分かってきますね。

岩佐:

もう1つは、僕らはヘッドセット以外のことをいろいろやりたいと思っていて。「mutalk」や「PebbleFeel」もヘッドセットがあった上で、周辺に装着していく装備なんですけど。例えばVRヘッドセットを自社で作っていなかったら、なにかの時にVRヘッドセットの大手企業から「ノー、その周辺機器や機能はダメです」と言われたら全部失っちゃう、という事態は避けたいです。大手の制約の中でしか物が作れないと、そこに全てコントロールされてしまう。逆に「僕たちの制約はこの範囲です」と言われても、その中の物は誰でも作れるので、競合が激しくなってしまいます。僕らはVRヘッドセットを自社で作っていることで、VRヘッドセットとつなぐなにか新しい物を、そういった制約を飛び越えて作ることができる。

これはヘビーユーザーや特定用途特化を考えると、非常に重要です。大げさな言い方かもしれませんが、僕らはある種のプラットフォームを取るというイメージで作っています。車で言えばホイールやタイヤだけ作っていても辛いので、まず車ごと、それからホイールもタイヤもエアロパーツも……みたいな感じにしないと、本質的には世界で勝負していけない。なのでどうしてもVRヘッドセットを作りたかった、というのはありますね。

西田:

メタバースで必要な要素を考えた時に、支配的な部分としては視覚や聴覚があるわけですが、実はもっと多様にあるわけですよね。モーションキャプチャやセンシングの部分もあったりして。そこをいろいろこれからやっていくと考えると、真ん中の部分を何も持っていないと、これからいろんなことをやりたいという時に、取れる手は少なくなるよねという発想ですよね。

岩佐:

そうですそうです。例えば将来「Meta Questで脳波が取れるようになりました」といった時に、Metaが脳波の生データを提供してくれない可能性もあるわけですよ。部分的にAPIが切って出されることはあるかもしれませんが、それじゃダメなんです。僕らは生の脳波データがやっぱり欲しくて。そうしたらそのデバイス出せないような表現を僕らなら出せるかもしれない、という考え方です。

西田:

これは結構深い話ですよね。

久保田:

確かに。ありがとうございます。そろそろ次の話題に移りましょう。

西田:

では映像展示について1点。オンラインで見る人に向けた展示も、2021年からやっぱり進化しているんですよね。壇上の人を単に映すだけのプレゼン動画は減ってきて、きちんと作り込んだ動画が増えていると。それだけではなく、見ている人に対してCG合成をしてリッチなエフェクトが見えるとか、そういった基調講演やプレスカンファレンスの映像の作り方も2022年になって増えてきているんですよね。

おそらくこれからトータルで、オンラインからオフラインに人が戻っていくとしても、基調講演とかカンファレンスをオンラインで見たい人は結構残ると思うんですよ。そこをどうやって見やすく、かつリッチにするかという話はこの2年間でCESの中でも変わったし、それ以外でも知見が増えてきています。展示も含めたプロモーションのあり方の1つとして、トレンドになっているのかなと。別の言い方をすると、映像制作やVR関係で仕事をしている方のビジネスの種でもあるのかな、という風に思いました。

久保田:

MoguraもXR Kaigiというカンファレンスをやっていて。過去に一度完全オンラインでやって、去年はハイブリッド、今年はハイブリッドの比率をチューニングする予定ですが、こういった試みがCES規模のイベントでも行われているんじゃないかな。

CES2022「XR・メタバース」トレンドを読み解く

久保田:

CESがオフラインで開催されていた頃は「そこに行くと一年間のテックトレンドがわかるイベント」になっていたわけですが、今回のCES2022について、西田さんと岩佐さんはXRやメタバースについてのトレンドを読み解くことができるようなイベントだったと思いますか。あるいは、そのトレンドはどんなものなのかをうかがいたいと思います。

西田:

2022年はディスプレイやパネル技術の変化の年になるのかなと。大きなディスプレイで言えば、液晶にミニLEDをバックライトとして使ったものが増えてきたというのもあるし、有機ELに関してはサムスンのQD-OLEDですね。韓国LGは白の上にカラーフィルターだったのが、青はそのまま出し、緑と赤に関して量子効果を使った蛍光剤で色を出す、というものが出てきています。

2022年に出てくるデバイスに関しても、今までのスマートフォンの技術から転用された有機ELのパネルを使ったデバイスから、マイクロOLEDや光学系含めた新しいデバイスに移るところがあると思いますね。ディスプレイ技術も結構変わりつつあるので、それをどういう風にデバイスで使うかは、VRに限らずテレビやサイネージも含めて今年のポイントだったのかなと。

展示の中でもいろんなディスプレイの使い方があったので、これが今年の特徴的なトレンドだったかな、とオンラインからは思いました。

岩佐:

僕は今年、あまり「トレンド」というほどの強いものが見当たらなかったと思っています。一方で韓国スタートアップはすごい勢いで。特定の技術やジャンルではないですが、こっちは大きな流れだったなと。

僕個人として面白かったのは「メディカル」ですね。日本にいるとメディカル系のスタートアップはそれほど多くないんですが、海外はこれからの高齢化を見据えて「メディカルが来るぞ」という感じでした。テクノロジーでメディカルを刷新できるというものは非常に多かったので、これはひとつのトレンドだと思います。

これはメディカルに近い部分でもあるんですが、2019年くらいからトレンドになっていた「ケアテック」ないし「シルバーテック」もそのひとつです。介護や60〜70歳以上の方をデジタル技術でフォローアップしていこうという。これは大きかった感じがしますね。

岩佐:

以前より多かったのは、ソフトウェアやサービスベースで、老人が若かりし頃の能力やアビリティを取り戻そうというアプローチです。「メディカル」とセットで、シルバーの方に向けたソリューションをやっている人たちが、現地でスタートアップを中心に見た感じホットでしたね。

久保田:

ありがとうございます。最後に2022年XR・メタバースはどうなりそうか、一言いただいてからQ&Aに移りましょう。

西田:

特にVR・メタバース系は、ハードウェアがあってその上に必要なソフトウェアが乗っかってくるというレイヤーが大きいので、今年から来年にかけてサービスのリッチ化という意味合いにおいてはプラスだろうと思います。良くも悪くも今年は「お金が入ってくる」時期で、それは1つのポイントだと思っています。プロモーションやイベントに使うというのは去年や一昨年もたくさんありましたが、今年からはより加速しやすくなるのかなと。

今は単独のイベントやプロモーションだったりすると思うんですが、そこで使われた技術やアセット、試みが継続的にどう運用されていくのかは見ておく必要があると思います。

久保田:

岩佐さんはいかがですか?

岩佐:

正直、このネタだけで1時間くらいのトピックですよね(笑)。サクッと言うと「盛り上がります」と言う話なんですが。これまでメタバースの原住民がどういう活動をしていて、面白いことをやっているというという情報がマスに広く知られるのが2022年の最初のほう……と思っています。

実際に年始早々、CESからのメタバース特集となったマツコ会議や、報道ステーションでNeosVRが取り上げられたりしましたからね。要は「メタバースってもう流行り始めてて、面白いぞ」とくるのが最初で。従来のtoCのメタバースは、コミケの延長的なノリで楽しまれていたことが、一般に染み出す年なんだろうと思っています。例えば20年前の2000年にアニメキャラクターのフィギュアを持っていると「気持ち悪い」みたいなイメージを持たれがちでしたが、今は普通に男女問わず大学生あたりの人たちが気に入ったアニメのフィギュアを買う時代になりました。そんなふうに一部のマニアが楽しんでいたものに対し、よりライトな人が入ってくるタイミングが2022年に来そうだな、と。

僕は「2010年のTwitter」と命名しようかなと思っているんですけど。2021年までのメタバースは、2008年くらいのTwitterでした。多くの人は「何が楽しいの?」という感じで、その世界を誰も知らなかった状態から「どうやら楽しいらしいぞ」「仕事に使えるらしいぞ」と大手企業がTwitterアカウントを取ったのが2010年でしたよね。シャープさんとか。そんな感じになると思います。

いわゆる普及期に入るトリガーはマスメディアであって、これまではイノベーターだけだったのですが、一気にアーリーアダプターが入ってくる。2022年か2023年か、劇的なプレイヤーチェンジがあるかもしれないですね。

視線や脳波を読み取って、VR空間を楽しむ技術ってあるの?

久保田:

「体が動かなくても、視線や脳波などを読み取り、本人の医師でVR空間を楽しめる技術は現在あるのでしょうか?」という質問がきていますが、いかがでしょうか?

岩佐:

まず脳波でバーチャル空間を楽しめるものはまだ研究レベルで、まともに使えるものはないです。視線を使ってあらゆるものを操作することはもうすでにできるんですが、誰でも使えるものとして、売られているのはまだキーボードを打つぐらいしかないですね。

ただバーチャル空間をヘッドセットをかぶるかどうかはさておき、キーボードで操作できるバーチャル空間はすでにたくさんありますので、そういったものを楽しんでもらうことは十分に可能だと思いますね。

テキストチャットを使って楽しんでもらえたり、「視線×キーボード操作」というやり方であれば、ALSのように体が動かしづらい方でも徐々に楽しんでいただける空間ができ上がっていると思っています。現実よりはやりやすいですね。

西田:

これも研究段階ですが、四肢を事故で失った等の「元々筋肉の動きは分かっている」というレベルであれば、筋電位センサーから学習で読み取って動きを再現する技術が研究されています。今はまだコンシューマーがすぐ使えるわけではないですが、失われた手の代わりはできるので、ある程度VR空間に反映することは十分可能かなと思っています。

久保田:

変わり種では、先日クラウドファンディングを中止すると発表しましたが、寝たままVRを体験できるHMDとしてDiver-Xが作っているHalfDiveがありますね。

メタバース進出を目指す、日本企業の課題とは?

久保田:

もう1問行きます。「日本企業がメタバース空間に出展する中で、どんな課題が考えられますか?」という質問です。「ロッテやサムスンのようなことをやるとしたらどうか?」ということですね。

岩佐:

障害はないというか、日本企業だからという線引きは全く存在しないと思っています。強いていえば、グローバルのプレイヤーに比べて日本のプレイヤーは少ないので、「投資回収できるのか?」という話はありますけど。ですが、例えばユニクロのようなグローバルカンパニーであれば、メタバース上でビジネスをやっても問題ないと思うんですよね。日本企業に限らず、メタバースに入って明確にビジネスができるのか、ということがまだそんなに見えていないのが一番の課題だと思います。

現状みんなが手探りで、何をもってメタバース空間の上で、ビジネス活動をやっていくのかクリアになっていない。逆に僕らみたいな人間はそこが楽しい、面白いフェーズではあります。

西田:

変な話になりますが、やる気だけなんです。「やってます」ということすら、マーケティング活動上利益になるかどうかというのがポイントなんですよね。現状ロッテの例もそうですけど、CESに出たようなところは「やっています」ということをアピールすることも、マーケティング上はプラスになっているわけですよ。で、日本企業として、そういう形の見方をしてやれるかどうかという話であって、要は決断するかしないかという世界だろうと思います。

岩佐:

MeganeXを発表したら、パナソニックの株価も上がっちゃいましたしね(笑)まさかそんなことは、とは思いましたが。

ヘッドセットは軽量小型化の流れ。そして、そのボトルネックとは?

久保田:

もう1問「ヘッドセットは軽量小型化していく流れなんでしょうか? またその場合、何がボトルネックになるのでしょうか?」という質問ですが、どうでしょうか?

岩佐:

軽量化はどんどん進んでいくと思います。今1番軽いと言われているarpara、あるいはファーウェイがその路線ですね。一方で軽量化しようとすると、どんどんパーツを減らしていかなければならないので、シンプルにならざるをえない。そこを覚悟したうえで、6DoFを捨てたことで200gを切るものも出始めています。arparaやファーウェイのVRデバイスを使っていただくとわかるんですが、もうめちゃくちゃ軽いです。200gを切って150gまで行ったら、もう「ゴツいメガネ」と変わらないというところまでは来ています。

課題で言うと、超高解像度のものを入れて行こうとすると排熱周りのことや、パネルそのものや制御回路のこともあります。そしてキレイな映像にしようとすると、レンズ周りのパーツも増えてしまうので、その辺の機構面での課題はありますね。また軽くするとバッテリーが積めないので、一体型じゃなくなってしまう……というのは、永久にトレードオフの関係だと思います。

一方で、僕はずっとヘッドセットにバッテリーが入り続けると思っていなくて。どこかのタイミングでヘッドセットはオールインワンなんだけど、バッテリーだけは背中に背負ったり、ポケットに入っていたり、外付けみたいなのはくるかもしれないですね。

オールインワンのデバイスにおいての重量の課題はバッテリーで、スタンドアローンという意味ではほぼ重量の課題はないのでは、と思っていたりもします。

西田:

完全にそうだと思います。要は切り分けなんですよね。400gで一体型のVRヘッドセットを作るのはもうできるし、100g〜300gの間で、一体型ではないものを作ることはできるので、バッテリーや6DoF/3DoFの選択という側面が大きいです。今だとどっちつかずになりかねないので、おそらく今後の商品はどちらかに分かれていくだろうと考えています。

久保田:

ありがとうございます。駆け足でしたが、最後に一言いただければ。

西田:

オンラインでできることは、限られているとは思うんですが、逆にある意味聞き役として十分役割を果たせたのかなと(笑)。今もオンラインで見られるCESの動画や写真は結構あるので、もし気になったら、今日の話から追いかけてYouTubeにある動画を観るのもいいと思います。ありがとうございました。

岩佐:

楽しかったです(笑) 来年もまたやりたいですね。今日は600名近い方に聞いていただきましたが、メタバースに興味持たれている方には今年のSXSWはオススメです。今年の展示がどうなのか今聞いているんですけど、圧倒的にVR/XRの展示は現地も多いそうなので。コロナの状況にもよるのですが、僕も出展も考えて最終調整していて。このイベントのSXSWバージョンもやりたいですね。

久保田:

そしてAWEバージョンも。

岩佐:

はい(笑) CESでハードウェアサイド、そして2ヶ月後のサウスバイでコンテンツやサービスサイドの話を両方聞いていただけると、3月末には2022年のメタバース感が見えて面白いんじゃないと思います。本日はありがとうございました。

(終)


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