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テック 2016.08.27

【CEDEC2016】防衛本能に訴えかける恐怖、防音室にいるのにライブ会場 VR ZONEこだわりのサウンド演出とは

8月24日から3日間にわたって開催されているたCEDEC2016ではVRに関するさまざまな講演が行われました。

今回は株式会社バンダイナムコスタジオ技術本部サウンド部の矢野義人氏、橋本大樹氏、倉持啓伍氏の三名により行われた「仮想世界はここにある!『VR ZONE Project iCan 』におけるVR立体サウンド演出」についてレポートしていきます。

CEDEC VR ZONE

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今回の講演は「VR ZONE Project iCanの紹介」、「iCanならではのサウンドデザイン 3タイトルの事例」、「VRサウンドデザイン 掘り下げてDIVE!」の三部構成で行われました。

ヘッドホン選びのコツ

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VR ZONE Project iCan」は2016年4月15日より東京・お台場にあるダイバーシティにオープンしているVRエンターテイメント研究施設です。VRゴーグルと専用筐体を連動させた没入感の高いアクティビティが特徴です。

橋本氏はスキー体験『SKI RODEO』を、倉持氏はホラー体験『脱出病棟Ω』を、矢野氏はスーパースター体験ができる『MAX VOLTAGE』のサウンドデザインをそれぞれ担当しています。

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ヘッドホンの選定に関しては、”非常時のアナウンスが聞こえる”こと優先し、オープンエアー型(開放型)というのを第一に、続いてフロアノイズを消すために「低音がしっかり出るもの」、着けてる感覚が少ない「装着感が薄いもの」、首を回しても大丈夫な「外れにくいもの」という三点を重視してAudio-technica製のATH-PDG1(マイクつき)とAKG製のK240 MK2を選んだとのこと。

iCanならではのサウンドデザイン 3タイトルの事例

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ここからはタイトルごとにサウンドデザインの事例紹介になります。

マイクで呼吸音をひろって、白い息の演出へ

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『SKI RODEO』は、普段なかなか滑ることのできない激しいスキー体験ができるVRアクティビティです。体を左右に傾けると、本物のスキーと同じようにVRでも曲がることができます。

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没入感を上げるための仕組みとして「筐体ベース部の稼働」、「送風ファン」、「ステップ振動」という3つの機能が入っています。ステップ振動は、サウンドで制御しており、内部に搭載された振動機構に対して音声をヘッドホンとは別に出力。滑走時の路面の感触などを再現したより高い臨場感を生み出すものになっている、と橋本氏。

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もう一つハードウェア絡みの機能として、スタート前に体験者が息を吐くとVR空間上に白い息が出るという演出があります。装着しているヘッドセットのマイクの音声入力を検知して発生する仕組みになっているとのこと。店舗内で発生する音声ではなく体験者の声のみに反応するようにしきい値を調整しています。

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走行中の音声に関しては体験者の動きに合わせて「滑走音」、「エッジ音」、「スライド音」、「その他ジャンプ時は加速しない等」の4種類の音声をリアルタイムで切り替える仕組みになっており、それぞれの音声をパラメータ化しNUSOUNDの機能を使ってサウンドデザイナーが自由に変化具合を調整できるように工夫されています。

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環境音は走行音やガイドボイスを邪魔しない範囲内で風や吹雪など音声が体験者にほどよく聞こえるように調整を行っています。

恐怖を増幅させるためのサウンド演出

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『脱出病棟Ω』はお化け屋敷と脱出ゲームを足したような内容で、2~4人の協力プレイを行い廃病院からの脱出を目指すホラー体験です。プレイヤーはそれぞれ車いすという設定の椅子に着席し、体験中はヘッドセットを介しボイスチャットができることも特徴です。

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サウンド演出の方針は「とにかく怖がらせてほしい」というプロデューサーの意向もあり、防衛本能に訴えかけるサウンド制作と演出を意識したと倉持氏。

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ヘッドホンがオープンエアー型であり周囲の雑音が聞こえやすいため、まずはこの雑音をマスキング(打ち消す)することを重視したとのこと。

アクティビティが始まってまず最初に耳にするのは環境音です。この環境音自体を怖いものにすることで何も起きていなくても恐怖を感じる演出に仕上げています。

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音を出すタイミングも重要になります。ホラー映画などで多く見られる「嫌な気配を感じる」→「後ろを振り返る」→「何も居ない」→「前を振り返るとゾンビがいる」といった演出を参考にしたとのこと。そのまま驚かせるのではなく、一度安堵させてから恐怖演出を入れることで、「感情の振幅が大きくなり、より強く恐怖を感じる」と説明していました。

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『脱出病棟Ω』ではボイスチャットを使うことで、他のプレイヤーの悲鳴によって恐怖の連鎖が起こるという状況が生み出されます。ここでは”悲鳴”というものの性質に焦点を当てています。悲鳴は、もともと仲間に危険を知らせるという役割があったのではないかと考えたとのこと。しかし、悲鳴だけでは何が起きているのか伝わらないため、仲間にはさらなる不安が伝わる、という音ならではの効果が発生していた、と語っていました。

完全防音の密室を広いライブ会場に仕立てあげる

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『MAX VOLTAGE』は大勢の観客が自分の周りを取り囲んでいるステージに立って、歌ったりパーフォーマンスをしたりライブのスターになった体験ができるというもの。

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本物のライブステージ上の臨場感を作るためには全身に響く音響システムが必要不可欠でした。制作にあたっては「ウーハー付きヘッドホン」と「5.1ch サラウンドシステム」の2つの選択肢がありました。

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実際にテストしてみたところ、ウーハー付きヘッドホンの方は音の輪郭がはっきりしており、マイクのハウリングも問題ありませんでしたが体全体に響かないという点がマイナス要素。一方、5.1ch サラウンドシステムは体全体に音が響いて迫力はありますが、一方でかかる費用や防音室で爆音を流した場合のハウリングの心配といった問題があり一長一短でした。

最終的には当初のコンセプトである「全身に響く音響システム」という所を重視し5.1ch サラウンドシステムを採用する流れにになった、と矢野氏。

続いて話はヘッドトラッキングオーディオに移ります。ヘッドトラッキングはプレイヤーの頭の位置を検出するシステムのこと。この機能を使って広いライブ空間を表現していきます。

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ヘッドトラッキングオーディオを実現するための方法として「スピーカーの存在を消したい」という点がありました。理由は防音室でVRゴーグルをかぶりスピーカーに近づくと音の塊がせまってくることが分かってしまい、広い空間にいる没入感を下げてしまうからです。開発チームは、スピーカーの位置をプログラム上で登録し、プレイヤーが近づくと音量が下がるといった処理を行いました。

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同様にして「ハウリングを発生させない」という点も`。こちらはマイクがプレイヤーの口から何センチ離れたら、マイクがスピーカーに何センチ近づいたらマイクの音量を絞るといった処理を行っているとのこと。

今回の講演の最後に3名の共通した意見として出ていたのは、デバック時にVRゴーグルを装着していると調整したい部分があっても没入してる間に忘れてしまうため、VR空間でメモ書きができたり現実世界の人に伝えることができるような開発ツールが欲しいという話で本セッションは締めくくられました。

連日満員のVR ZONE。その高品質なVR体験を支えている技術が明らかになりました。サウンドだけでも非常にこだわりぬかれた開発が行われたことがわかります。


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