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業界動向 2023.01.12

ARとコミュニティのこれまで、そしてこれから——Niantic川島優志・Noiz豊田啓介が語る

2022年は終わったが、パンデミックはまだ終わってはいない。「ニューノーマル」に順応し(あるいは順応させられ)、物理的に断片化した世界がつながりを取り戻しつつある。その中で変わったものは何か、どのように変わりつつあるのか、そして私たちはどこへ向かうのか——。

今回はNiantic, Incのアジア・パシフィックオペレーションVPを務める川島優志氏と、「コモングラウンド」「インタースペース」の提唱者であり、建築設計事務所NOIZで設計活動を展開する建築家の豊田啓介氏が、パンデミックの影響、リモートと場所、コミュニティ、そして「希望」について、縦横無尽に語る。


川島 優志 / Masashi Kawashima
Niantic, Inc. 副社長。ロサンゼルスでの起業、デザインプロダクション勤務を経て、2007年にGoogleへ入社。アジア太平洋のウェブデザインチームを統括、日本人としては世界で初めて「Doodle」をデザインした。2011年、米Google本社に移籍し、コンシューマープロダクトウェブデザインのグローバルチームを統括。2013年、Googleの社内スタートアップとして発足したNiantic Labsに UX/Visual Designerとして参画、「Ingress」のビジュアル及びユーザーエクスペリエンスデザインを担当。2015年10月にNiantic, Inc. の設立と同時にアジア統括本部長に就任し、2019年に副社長となる。「ポケモンGO」では、開発プロジェクトの立ち上げを担当。


豊田 啓介 / Keisuke Toyoda
1972年、千葉県出身。1996~2000年、安藤忠雄建築研究所、2002~2006年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱と設立、2016年に酒井康介が加わる。2020年、ワルシャワ(ヨーロッパ)事務所設立。2017年、「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断型プラットフォームgluonを金田充弘と設立。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティング等の活動を、建築やインテリア、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画アドバイザー(2017年~2018年)。建築情報学会副会長(2020年~)。大阪コモングラウンド・リビングラボ(2020年~)。2021年より東京大学生産技術研究所特任教授。

PART 1: 差分 あるいはパンデミックで変わったこと

——おふたりが最後に対談したのは5年前でしたよね。パンデミックをはじめ、様々な意味で世の中は大きく変わりました。

川島 優志(以下、川島) :
パンデミックによる影響は非常に大きいものでした。僕たちNianticのプロダクトは、『Ingress』も『Pokémon GO』も『Pikmin Bloom』も、「外に出て、世界を新しい目で見てもらうきっかけを作る」ことを目指していますから。

——「家の中にいてください」と言われる世界がやってきてしまった。

川島:
自分たちのレゾンデートルと言いますか……存在意義の危機でしたね。これまでやってきた多くのことが、できなくなって。いろいろな段階を踏んだ上で、“遠くにいる人とつながる”にフォーカスしました。友達が近くにいなくても、一緒にレイドバトル(※)ができる「リモートレイド」を導入したり、自分の「相棒」にしたポケモンがギフトを持ってきてくれるシステムを追加したり。

(※レイドバトル……他のトレーナーと一緒に、強力な「ボスポケモン」と戦う協力プレイのこと。ボスポケモンを倒した場合、そのポケモンをつかまえるチャンスが得られる。従来、レイドバトルに参加するには、物理的にジムの近くに集まる必要があったが、リモートレイドはその必要がなく、遠くからでも参加できる)


(毎年開催されているイベント「Pokémon GO Fest」。パンデミックが発生した2020年は、バーチャルイベントとして、誰でも・どこからでも参加できるしくみになっていた)

川島:
しかし、これまで掲げてきた目標と真逆のことをやっているわけですから、葛藤はありましたね。僕たちはずっと「物理的な場所に根づいたつながり」を重視していて、普段は出会わないような人たちと『Pokémon GO』を通して出会い、やがて地域に根づいたつながりが生まれてくるような風景を見ていたわけです。子どもがおじいちゃんに、ポケモンについて教えたり、逆におじいちゃんがポケモンをすごく研究して子どもに教えたり、というふうに。

——「対面」のコミュニケーションやセレンディピティを重視していたのが、一気に「リモート」に。

川島:
一方、リモートレイドが導入されて、実家に住んでいる家族とレイドに参加できた、違う国に住んでいる兄弟と遊ぶ機会ができた……そんな話もたくさん聞けました。今まで自分たちが重視してきたものと、違う楽しみ方も生まれたわけですね。これ自体がある種のセレンディピティかもしれません。

——先ほど川島さんが「葛藤」とおっしゃっていましたが、豊田さんの方はいかがでしょう。物理的なモノに強く紐付いているという意味では、建築、そして豊田さんの提唱されている「コモングラウンド(※)」にも並々ならぬことが起きたのではないでしょうか。

豊田 啓介(以下、豊田):
場所や身体に、物理的に閉じる行為・状態がとにかく問い直された時期でした。もっと積極的に物質から拡張したり、それらの要素を分解して広げなくては、という社会意識の変化が、可能性として語られるのではなく、実装ベースで進みました。意識合わせが一気に進んだという印象です。これまで「人が移動するか、移動しないか」的にオール・オア・ナッシングだったところが、「音声通話機能だけで参加する」「アバターで参加する」「体験の一部を共有・転送する」形で、様々な選択肢が増えていったように思いますね。

(※コモングラウンド……豊田氏が提唱する、現実空間とバーチャルな空間が、双方向的に、リアルタイムで連動する空間記述とその体系のこと。デジタルツイン等を包含し、ソフトウェアやロボットといった「ノンヒューマンエージェント/Non-Human Agent」が人間と共通の認識を持つ基盤の形成を目標とする。詳細はコモングラウンド・リビングラボ等を参照)

川島:
組み合わせが爆発的に広がりましたよね。「フィジカルに、現地に行く」という選択肢はもちろん強いと思いますが、「行く」と「行かない」の中間に違うチャンネルが入ってきた。

——何らかの障壁を取り除くという意味では、ある種のバリアフリーとも言えますね。

豊田:
一般的に認知されているであろう「バリアフリー」は、車椅子用スロープや盲導タイル(点字ブロック)などの物理的なものを指しますが、これはあくまでも「物理的な、身体的なバリアフリー」に閉じている。それに対して、僕たちが「拡張的バリアフリー」と呼んでいるものがあります。例えばオリィ研究所さんは、外出困難な方がロボットを通してカフェで接客を行い、人々や社会と関わる経路を拓く取り組みを行っています。


(オリィ研究所による「分身ロボットカフェ DAWN」。外出が困難な従業員が、分身ロボット「Orihime」「Orihime-D」を遠隔操作してサービスを提供している。画像は分身ロボットカフェ DAWN 公式Webサイトより引用。)

豊田:
コモングラウンドのような空間記述、そしてナビゲーションシステムが誰でも・どこでも手に入るようになれば、アルゼンチンの山奥からでも、オーストラリアからでも、ロシアからでも、誰もが様々なイベントや場所へ没入的に参加できるかもしれない。アバターを通して会話できるかもしれない。そんなふうに、これまでインクルードできなかった人たちにも参加してもらえるようになる。身体的、言語的、経済的、社会的……様々な角度からの「バリアフリー」が可能になるような環境も作れるのではないか。そんな未来が実行的に進行していった、進行せざるを得なかった期間だと思っています。

PART 2: コミュニティ

豊田:
Nianticさんは、いわゆるオクルージョン(※)が効いたARをどんどんやり始めていますよね。例えばベンチの周りをピカチュウが走るような。そのためには、該当する場所の「事前に取得しておいた現地のデータ」と「リアルタイムで今取得しているデータ」の双方が必要になります。すると、データの空間的な解像度、時間的な解像度が際限なく上がっていくと思うんですが、どこまで行くイメージですか?

(※オクルージョン/Occulusion……ARにおいて、バーチャルなオブジェクトが、現実空間にあるオブジェクトによって遮蔽されること。スマートフォンのカメラを使って地面にバーチャルなオブジェクトを出現させる場合、スマートフォンのカメラを手で覆い隠すと、オクルージョン機能が使用されていれば「オブジェクトが手の向こうに隠れた」状態になる)


(『Pokémon GO』の「ARブレンディング」機能のイメージ。オクルージョンが効いており、ポケモンがきちんと木の陰に隠れる。この機能を実現するには、リアルタイムで「どんな物体が、どこにあるか?」を、ソフトウェア側が理解している必要がある)

川島:
アプローチの仕方としては、組み合わせの問題だと思っています。最近の『Pokémon GO』では、LiDAR(※)を使わずとも、スマートフォンのカメラ映像だけで奥行きの推定ができるようになりました。こういったリアルタイムでのアプローチと、事前に大量のデータを取得していくアプローチの両方があると思っています。

(※LiDAR……「Light Detection and Ranging」の略。レーザー光の反射を検出、対象物との距離を計測する技術を指す。一般向けに販売されているスマートフォンの中では、iPhoneやiPadのProシリーズ等に搭載されている)

豊田:
実際、技術的には、それらの両方の組み合わせで一歩一歩進んでいるという感じですよね。

川島:
後者のアプローチで言えば、Googleのような企業なら、資金を大量に投入し、全世界のデータをブルドーザー式に取得できるでしょう。ストリートビュー用のデータを集めている「Googleカー」のように。巨大な資本と人手が必要ですから、僕たちには到底できません。

Nianticは、世界を探索してデータを集めるために、『Ingress』や『Pokémon GO』コミュニティの皆さんからのご協力をいただいています。「ポケストップ」や「ポータル」をスキャンすると、ゲーム中で有利になるアイテムやポイントが手に入るシステムがあります。プレイヤーの皆さんが世界中でスキャンを行い、データを集めてくださっているわけですね。これはかなり合理的な方法だと思っているんです。スキャンすると嬉しいし、スキャンしてもらえると嬉しい。人々がよく行くところ、つまりたくさんスキャンされるところは人々の拠点になっているから、頻繁に更新された方がいいでしょうし。

豊田:
川島さんと、3、4年くらい前に、日本科学未来館のセッションでお会いした日を思い出します。確か電動キックボードの「Lime」の方が、川島さんに、「ビジネス的な観点やお金だけではなく、コミュニティを形成し、コミュニティのモチベーションをベースにして、コミュニティをどう維持していくか」をテーマにずっと質問していましたよね。あの時、僕は「ビジネスのシステムの次に、社会や集団の自律的/自治的(Autonomous)なモチベーションで人々が行動するようになることが、ある種の最終形態なのかもしれないな」と思いながら聞いていたんですよ(笑)。

『Ingress』や『Pokémon GO』では、それが既に実装されている。プレイヤーが何らかのシステムを維持するためのエージェントでもあり、スキャンしたデータをみんながアップロードし続けるエコシステム。これはすごいことですよ。仮に今後、リアルタイムにアップデートされ続ける空間データが公共財になれば、世界は本当に変わるんじゃないでしょうか。

——最近「コミュニティ」はすっかりキーワードになりましたよね。急速に形成しようという向きもありますが、トップダウン式だと、「コミュニティ」をどう捉えるのかという問題も生まれてきそうです。

川島:
でも、コミュニティは「作ろう!」と思って一朝一夕で作れるようなものではありませんよね。『Ingress』や『Pokémon GO』のコミュニティも、様々な意味で手間や時間がかけられています。コミュニティの力を活用する事例はたくさん出てきていますが、課題は「活用する」よりも手前の「そのコミュニティをどう成り立たせるのか?」に尽きますね。

——自分が属しているトライブや集団のインセンティブをどう形成し、維持するかは非常に難しい課題ですよね。コミットする人と受益者が同じだとは限りませんし、そもそも自分がそのコミュニティにいる間にベネフィットが得られるかどうかもわからない。

川島:
そういうところに注目したコミュニティやWeb3プロジェクトこそ、上手く行っている印象はあります。逆に、利益を最短最速で提供することを主眼に置いたプロジェクトは、長くは愛されにくいでしょうね。

豊田:
似たような話として、僕は「日本でスマートシティをやりたい」「メタバースをやりたい」という相談をたくさん受けるんです。しかし、ヒアリングしてみると「これまでのビジネスモデルのままで、何も変えずに、すぐにお金が手に入るかどうか?」という話に終始しがちで。みんな投資とリターンのモデルで考えすぎなんです。本当はもっとエコシステムの形成に投資すべきですし、それはもうほとんど社会貢献のようなものです。

——社会的な価値とビジネス的な価値は、容易には切り分けられないような状況であると。

豊田:
技術・ビジネス・コミュニティの3つは、これまでは「相容れないもの」くらいの感覚がありましたが、昨今はシームレスに重なってきている感じがありますね。

川島:
面白い時代ですよね。これからの未来、素敵な化学反応がたくさん起きるんじゃないでしょうか。

PART 3: 希望

——最後にひとつ、「希望」というテーマでお話を伺わせてください。2022年は経済や政治など含め、様々な面で暗い話が特に多かった中で、かつ非常にアバウトなお題で恐縮なのですが。

川島:
ここしばらく、「未来に対して、明るい展望が見えないと思っている人」がすごく多いように感じるんです。絶望とまではいかないにしても……でも、僕はすごく未来に希望を持っています。

若い人を見ていると、みんな明らかに優秀なんです。僕たちの時よりも、そのコミュニティをどうやったらよりよくできるか、あるいは世界全体をひとつのコミュニティとして感じている。環境問題にしても、世界の出来事にしても、彼らはとても具体的に描いているように見えます。もしXRの未来を彼らが作っていくのだと考えれば、そう悪いものにはならないんじゃないかと。もちろん、僕たちも負けないようにしないといけませんが(笑)

豊田:
パンデミックの間に、コミュニティ全体を、拡張的な自己として捉える観点が改めて出てきましたよね。例えば近所のお気に入りの料理店がつぶれそうになったら、テイクアウトで買って応援するとか、クラウドファンディングで応援するとか……「自分のお気に入り」を維持したいというふうに見れば、ある意味では利己的であるけれど、同時にコミュニティを維持したいという気持ちでもある。そういった事象を体験する機会が増えた、考える機会が増えたというのはポジティブな側面もあると思うんです。暗いニュースばかりに感じてしまうかもしれませんが、次につながる要素は見えてきています。そこが「希望」なのかなと。

個人や集団のアイデンティティ、エコシステム、様々なレイヤーの仕分けシステム等を都市や社会的なデジタル基盤に埋め込むために、技術が貢献できる余地はたくさんあるでしょうね。一方で、それは「技術」だけにフォーカスしていては成立しないとも思います。

川島:
今はメタバース、VR、AR、web3……といったワードに関して、その技術が正しいか間違っているかについての議論が盛んですが、みんな技術についてフォーカスしすぎていると思うんです。結局それを使うのはひとりひとりの個人、あるいは個人が集まったコミュニティなんですよね。そういうところをもっと見れないのかなと。技術の話だけに終始してしまっているのはもったいない。

僕がGoogleにいた時に東日本大震災があって、緊急対策として「パーソンファインダー」というWebサイトを立ち上げたことがあります。現地の人々に写真を撮ってもらい、それを安否確認に活かす、という仕組みです。当初は「フェイクニュースやデマみたいなものを、どんどん流す人が出てくるんじゃないか?」という危惧があったんですが、蓋を開けてみたら——災害という特殊な状況だったということもありますが——そんなことをする人はほとんどゼロに近かったんです。もっと人とコミュニティを信じてもいいし、そこにこそフォーカスしていくべきだと思うんですよね。

(了)


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