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業界動向 2018.08.03

データで見るVR/AR市場 収益見通しは改善傾向

AR/VR/MRに関する開発者会議XRDC(旧名:VRDC)は、年次の「AR/VRイノベーションレポート」を発行しました。VR/AR/MRの開発の関係者650人に調査を行い、その結果をまとめたものです。10以上に渡る質問への回答からは、開発資金の出処の傾向、開発の対象となるデバイスの変化、VR/AR/MR市場の収益性への期待といった、興味深い現状が伺えます。

また、好きなコンテンツ、今後期待する事柄の自由記述では、専門家らの貴重な意見に触れることができます。

注力するコンテンツの種類

回答者が注力するコンテンツの種類については、2017年同様ゲーム・エンターテイメントが70%を占め1位となりました。いまだ圧倒的多数ではありますが、2017年のシェア78%に比較すると減少傾向も見て取れます。

一方で2位の研修・教育、3位のブランド向けコンテンツ(バーチャル家具展示場など)は、それぞれ27%→37%、19%→25%と、2017年からパーセンテージを伸ばしています。


(注力するコンテンツの種類、1位はゲームで変わらず)

ターゲットとするデバイス

コンテンツ制作時に、どのVR/AR/MRデバイスをターゲットとしているか、またその理由を調査しました。結果、1位がHTC Vive(45%)、2位がOculus Rift(41%)と、2017年からその順位は変動がありませんでした。


(ターゲットとするデバイス、3位にAndroidデバイスが登場)

しかし今回の興味深い変化として、Gear VRを抜き、ARCore搭載のAndroidデバイスが3位に躍り出ました。またARプラットフォームの隆盛を考慮して2018年から選択肢を追加したところ、ARCore(30%)だけでなく、ARKit搭載のiOSデバイス(24%)、HoloLensを代表とするマイクロソフトのAR/MRデバイス(17%)という、VR以外のデバイスが存在感を示しました。一方で、2018年夏に出荷とされているMagic Leapのデバイスが3%から8%へと飛躍的に上昇していることも特筆に値します。

次期プロジェクトのターゲットデバイス

さらに次のプロジェクトをどのデバイスに向けてリリースするかを尋ねたところ、Oculus Rift(41%)、HTC Vive(39%)、Androidデバイス(24%)という結果になりました。2017年の調査では、現在、将来のターゲットデバイスともにHTC Viveが1位を占めていました。今回の変化からは、近い将来のデバイス市場の動向が垣間見えます。


(次のプロジェクトのターゲットデバイス、HTC Viveは1位から陥落)

ターゲットのデバイスは1種類か

プロジェクトがターゲットとするデバイスが1種類か否かの調査については、2017年に続きおよそ3分の1の回答者が「1種類」と回答しました。2年前の調査ではこの割合は21%でしたが、2017年顕著に増加したあとは変化を見せていません。

一方、その対象とする唯一のデバイスは、1位がHTC Vive(16%)、2位がOculus Rift(15%)というところまでは2017年と同じです。しかし多くの選択肢があるにもかかわらず、なんと3位が「その他のデバイス(13%)」という結果となった点は、注目に値します。


(今後ターゲットとするデバイス1種類、3位は”その他”)

開発資金の提供元

開発資金の出処に関する調査では、企業提供の資金が45%、デベロッパー自身の資金が27%、顧客の資金提供が21%という、2017年とほぼ同じ結果になりました。しかし比較すると、2017年よりも企業、デベロッパー自身と回答した割合は増加しています。
この結果からは、より多くの企業がVR/AR/MRの開発を継続的な事業と判断し、自社での資金投入を増加させていることが伺えます。

また今回の調査結果では、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの投資は限定的だという事実も示されています(共に約9%)。
前年の結果と比較すると、産業の成熟に伴い、より外部資金から内部資金へと依存先が変化している傾向が見て取れます。


(資金の提供元、内部資金への依存度が高まっている)

継続的な利益を生む事業か

では実際のところ、VR/AR/MR事業は継続的に利益を生み出すのでしょうか?調査結果からは、大半の事業者がそうだと考えている様子がわかります。回答者の95%は、VR/AR/MRは長期的に継続する事業だとしました。
ただし一方で、現時点で既に自社や顧客に利益がもたらされていると回答したのは、15%にとどまりました。今後どの程度で収益化するかについての見解は、下記表の通りです。


(どの程度の期間で収益化するか、中・短期的へと回答がシフト)

実は2017年は、短期的に収益化する、と答えた回答者が16%、中期的が39%、長期的が38%という結果でした。「既に収益化」の選択肢は前回設けていませんでしたが、回答を比較すると、より「長期的」から「中・短期的」へのシフトが見られます。つまり、回答者がより市場の健全な成長に確信を持ち、今後短い期間での収益化を予測していると考えられます。

「今後全く収益が上がらない」という回答が、2017年の8%からわずか1%へと減少した点も、大きな変化です。

VRとAR、市場が大きくなるのは

VRとAR、どちらが今後より大きな市場になるかという問いについては、「AR」との回答が75%と圧倒的多数でした。長期的な視点で見て、ARのアクセスのしやすさ、利用ケースの多様さ、現実の世界との融合、という点が有利に働くというのが主な理由です。

ある回答者は、「ARはリアルタイムに我々の世界と融合できる」「一方VRは興味深いものの、形式的で、なじみにくい。大勢が楽しめるようになるには、まだ多くの改良が必要」と回答しています。

市場の成長の妨げ

では今日に至るまで、VR/AR/MR市場の成長の妨げになっているものは何でしょうか?回答からは、今回もまた多くの示唆を得ることができました。

デバイス価格の高さを指摘する声は、相変わらず一部の回答者から寄せられています。しかしその割合は減り、代わりに指摘されたのが次のような点です。すなわち、期待が盛り上がりすぎた点、そして、凝った内容や短命なコンテンツが多すぎる、という点です。

自由記述では、次のような回答がありました。
「VRの最大の過ちは、魅力的なコンテンツの作り方がわかってくる前に盛り上がりすぎたことです。しかも当時入手できるデバイスは高すぎました」「一方で安価なカードボード型のヘッドセットでは大したコンテンツをプレイできませんでした。このためにVR技術はひどいものだという意見が出てしまったのです」

「VRの盛り上がりが最高潮に達していた頃に、Oculus Goのような(比較的安価で使いやすいながらも、質の高い体験を実現する)デバイスが必要でした」「VR/ARデバイスの開発への注力はバランスを欠き、多くのハードウェアが登場したにもかかわらずコンテンツへの注力は貧弱でした」

現在も残る課題

同様に、現在も残る技術的・設計的な課題についての回答からも、多くの気付きが得られます。回答は多岐にわたりましたが、中でも体を動かす際のVR酔い、ヘッドセットが重いこと、コストが高いこと、そして退屈でも凝りすぎてもいないコンテンツの不足、などは共通して挙げられた課題です。

自由記述の回答を一部掲載します。

・VRの中での移動が最大の課題です。手と頭のトラッキング技術は改善しています。しかしVRの中で、没入感をそがれず、かつVR酔いもせず歩き回るのは依然として難しい。

・VR映画製作者としては、最大の問題点はカメラのハード技術、スティッチングソフトウェア技術、ヘッドセットの解像度、これらの技術的な限界だ。

魅力的なコンテンツ

ところで専門家らは、どのようなコンテンツに魅力を感じているのでしょうか?2017年出たゲームやアプリの中から、最新技術を使い傑出した作品と考えるものを挙げてもらいました。大ヒットVRリズムゲーム「Beat Saber」などの意見が寄せられる一方で、無重力VRアドベンチャー「Lone Echo」、「BBCのW杯中継」他、様々なコンテンツが挙げられました。ARを使ったゲームとして「ポケモンGO」やVR体験施設「The Void」を推す声もあります。

今後12ヶ月への期待

最後の質問では将来への期待を込めて、今後12ヶ月間にかけて最もワクワクしている事項を尋ねました。回答の中で目立ったのは、ARデバイス「Magic Leap One」の動向です。また一般論として、ハードウェアの一体型化、小型化、そしてより魅力的なコンテンツの登場にも期待が寄せられました。

回答の一部を下記に挙げます。

・6DoF(位置トラッキングを含む前後左右上下)のトラッキングが可能な一体型ヘッドセットの登場です。これはすべてを変える可能性を持っている。

・技術の進歩によって、どのようにデバイスを小型化し、ワイヤレス化するか。なおかつユーザーを魅了するほどのバッテリー寿命、解像度を備えているデバイスの登場。

・Magic Leapの最近の公表はあまりパッとしていないが、成功すれば市場の流れを大きく変えると思う

XRDC 2018は2018年10月28日~29日、サンフランシスコで開催されます。現在公式ウェブサイトにて参加登録を受け付けており、9月5日までは早期申し込みによる参加費の割引も受けられます。


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