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セミナー 2021.05.05

担当デザイナーが語る Magic Leap 1のユニークなデザイン誕生秘話

2020年12月8日から10日の3日間にわたって開催された、国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi 2020」。期間中に行われた50以上のセッションの中から、あらためて振り返っておきたいセッションをMogura VR編集部がピックアップ。今回はNTTドコモのセッション「MagicLeapで作り上げるXR世界とは!?」のレポートです(※記事内に登場する各種データはXR Kaigi 2020開催当時のもの)。

セッションではNTTドコモのXRの事例紹介のほか、Magic Leap社のプロダクトデザイナー自らがMagic Leap 1のデザインについて語るなど、貴重なセッション内容となりました。

5GとともにMRをコアとしたXR市場の創出を目指す

セッションではまずNTTドコモの秋永和計氏が、NTTドコモがなぜXRに取り組んでいるのかについて語りました。


(NTTドコモは5G推進とともに、MRをコアとするXR市場の創出を目指す)

秋永氏いわく「NTTドコモにとって2020年は5G展開の初年度ということもあり、5Gを盛り上げていきたい。XRには5Gのアプリケーションとして非常に大きな期待を持っている。Magic Leap社と提携したのもその結果のひとつで、MR(Mixed Reality)をコアとしたXR市場を5Gとともに創出していきたい」とのこと。

続いて登場したMagic Leap Japanの石川里美氏は、日本におけるMagic Leapの戦略について説明しました。


(2020年6月から日本国内でも販売が始まったMRデバイス「Magic Leap 1」)

2020年5月から日本での活動を本格的に始めたMagic Leap(Magic Leap Japan)では、日本を非常に重要なマーケットだと考えているとのこと。また、Magic Leapのビジネスは法人向けに特化しているが、日本に関しては少し違う捉えかたをしており、開発者向け、エンターテイメントや教育という分野に関しては今後も注力していく予定だと語りました。

Magic Leap 1のデザインが生まれたきっかけ

セッションでは続いて、Magic Leapで工業デザインの代表を務めるゲイリー・ナツメこと夏目繁氏が登壇しました。夏目氏は名古屋出身の日本人デザイナーで、愛知県立芸術大学を卒業後に渡米。専門学校進学や複数のデザイン会社勤務を経て、2013年にMagic Leapに合流した経歴の持ち主です。


(Magic Leapで工業デザインの代表を務める夏目繁氏自身がMagic Leap 1のデザインについて語った)

夏目氏とMagic Leapとの出会いは、Magic Leapの創設者で元CEOのロニー・アボヴィッツ(Rony Abovitz)氏が、夏目氏が務めていたデザイン会社のクライアントだったことがきっかけだったそう。

そのロニー氏から「今フロリダで面白い会社を起こしている。その技術デモを見に来ないか」と誘われた夏目氏はMagic Leap社を訪問。そこで見せられたデモに魅力を感じ、2013年7月にMagic Leapに入社しました。

Magic Leap 1を安定して人の頭に装着できるデバイスにするべく、夏目氏とエンジニアは人体の頭部に関する徹底的な調査とスタディモデルの作成を行ったと言います。その結果、「Magic Leapは人体(Human Body)と技術の接点であるべきだ」という強い認識が生まれ、その認識の下で多くの試行錯誤を重ねた結果生まれたのが現在のMagic Leap 1のデザインです。

Magic Leap 1誕生までの道のり


(Magic Leap 1の起源とも言えるライトフィールド製造装置。手前の小さな台にあごを乗せると、2つの覗き穴から向こう側が見えるようになっており、その先に3D映像が表示される)


(夏目氏が入社したときにできあがっていた、最初のウェアラブル装置。ここから試行錯誤を重ねて現在の製品版の形なった)


(異なる重さの重りをつけたメガネフレーム。メガネ型として実用可能な範囲を探るために自作したという)


(3Dプリンタで作られた、FoV(Field of View、視野)を確認するためのパーツ。異なる比率の枠をかけることで視野に関する体験ができる)


(オクラホマ州立大学で人間工学を教えていたKathleen Robinette教授の協力により、人体の頭部に関するデータを徹底的に収集。教授はMagic Leapの初代Human Factor Directerも務めた)


(3Dスキャンで頭部のデータを収集・分析)


(図中の青い線が人が自然に物を見た時の視線の角度。人によって顔全体との位置関係に大きな違いがある。その差異を吸収するため、Magic Leapには異なる高さのノーズパッドが用意されている)


(人種による頭の形状の差異もデータとして収集された)

Magic Leap 1のデザインに込められた意味

続けて夏目氏は完成したMagic Leap 1の機能やデザインについて解説。Magic Leap 1がいかに人間の体を大切にしてデザインされているかを詳細に語りました。

夏目氏によるMagic Leap 1のデザイン解説


(Magic Leap 1のグラス部分。四角い箱はコントローラと交信するためのマグネティックキューブで、多くの人が右手でコントローラを使うことから右側に配置された)


(「クラウンテンプル」と呼んでいるユニークなヘッドバンドは、視界を固定・安定させるだけでなく、重心が頭の真ん中に来るようデザイン。さらに3つのパーツで構成されている可動式のメカニズムで幅広い頭の形状に対応する)


(ケーブルを用いて、ライトパックと呼ばれるコンピュータケースと機能を分散させることでグラス部分の軽量化に成功)


(ライトパックは形状も大きさも含め、片手で心地よく持てるように作られている。クリップのような二重構造を持たせることで、そのままポケットにも差し込める)


(コントローラは限りなく手になじむ形を追求。絞り込まれたインプット作法はUI開発チームとの密接なコラボによって生み出された)


(製品に共通した円形のエレメント。造形的な共通性を持たせることによって強いアイデンティティが与えられる)


(起動時に光るギミックは、光が着いたときの驚きと不思議感覚を提供すると同時に、デバイスの操作性や起動状況をユーザーにわかりやすく伝える)


(柔らかい造形は人体の形にもフィット。ヘッドバンド部分の色はわずかに光沢のあるダークグレーを採用)

夏目氏は最後に「このような今まで存在しなかった製品の開発に最初から最後まで参加することができたことは、工業デザイナーにとって非常に魅力的な仕事」と振り返りました。なお夏目氏は現在、Magic Leapの次期製品の開発に取り組んでいるそうです。

XRイベントからAIとの組み合わせまで。Magic Leap 1の活用事例

続いて秋永氏が再び登場、NTTドコモがMagic Leap 1を活用して取り組むXRの事例を紹介しました。

羽田出島 DEJIMA by 1→10


(羽田出島 DEJIMA by 1→10)

1→10(ワントゥーテン)が開発・運営するXRイベント。「日本の玄関」である羽田を現代の出島になぞらえ、文化、アート、モノづくりなど、日本が世界に誇るコンテンツを、Magic Leap 1とプロジェクションマッピングを活用して臨場感あふれるエンタメ空間に仕立てています。

トーキョーゴジラミュージアム


(トーキョーゴジラミュージアム)

東宝とNTTドコモの共同制作によるXRコンテンツ。映画『シン・ゴジラ』制作スタッフによって1/150スケールで再現された「ゴジラに破壊された東京のジオラマ」を舞台に、Magic Leap 1を通した映像体験ができるアトラクションです。

秋永氏によれば、Magic Leap 1が得意としている空間上の位置合わせ技術が非常に効いており、違和感なく見ることができる内容になっているそうです。

code name:WIZARD Episode1 魔導書の謎と六匹の妖精


(code name:WIZARD Episode1 魔導書の謎と六匹の妖精)

東京タワー、および小田急百貨店新宿店で開催されているKAKUSIN制作のXRコンテンツ。会場を実際に歩いて本格的な謎解きに挑戦するアナログ謎解きパートと、Magic Leap 1を使ったMR謎解きパートを楽しめるXRエンターテインメントです。

XRシティ SHINJUKU


(XRシティ SHINJUKU)

小田急電鉄とNTTドコモが他のパートナー企業とともに開催しているXRコンテンツ。
街中をXRでジャックしてしまおうという、長期にわたる取り組みです。

ロイと魔法の森 ~Prologue~


(ロイと魔法の森 ~Prologue~)

ドコモショップ丸の内店やd garden 五反田店、docomo smartphone lounge 名古屋で体験できるXRコンテンツ。Magic Leap 1で日常空間がファンタジー冒険世界に変化します。同コンテンツでは複数人で楽しめるだけでなく、Magic Leap 1を装着していない人でも鑑賞できる「スペクテイタービュー」も用意されています。

また、『ロイと魔法の森』に関しては、コンテンツ制作の現場から得られたMagic Leap 1でのXRコンテンツ作りの知見も共有されました。


(curiosityによるMagic Leap 1でのXRコンテンツ作りの知見も共有)


(『ロイと魔法の森』に実装された「スペクテイタービュー」は解説も公開されている

AI技術とMagic Leap 1の組み合わせ

NTTドコモではAI技術にも力を入れており、セッションでは音声対話エージェントとMagic Leap 1を組み合わせたXRコンテンツの事例が紹介されました。


(ボイスUIで動作する手乗りのAIエージェント。ハンドジェスチャーにも対応する)

NTTドコモでは音声認識・自然言語処理・音声合成など、音声対話をパッケージ化したシステムのほか、発話AI、音声合成システムなどをUnityのSDKで提供しています。秋永氏は、対話型の操作(ボイスUI)は特にXRの世界では重要だと考えているそう。その理由として、XR空間での入力UIがまだ不完全であることや、XRならではの臨場感を損ねないことなどを挙げました。

XR開発者とともに進めるNTTドコモのXR戦略

続いて紹介されたのは、NTTドコモがXR開発者とともに取り組む事例の紹介。NTTドコモでは「ドコモXRサイト」を通じてXRに関するイベント情報や開発事例を紹介していますが、今後ここに開発者向けのページを追加するとのことです。また、これまでに実施されたハッカソン「Magic Leap Challenge」や、学生向けプログラム「Spatial Computing Lab(S.C.L)」についても紹介されました。

加えて、NTTドコモによる「XR開発者向けプログラム」も発表されました。2020年12月8日からスタートした同プログラムでは、開発者向けイベントの案内・ビジネスマッチング&サイト掲載・Magic Leap 1の無償貸し出しなど、XR開発者向けの特典が用意されています。


(NTTドコモではXR開発者の発掘や協力体制の構築にも力を入れている)

秋永氏は最後に「NTTドコモではブランドスローガンとして『いつか、あたりまえになることを。』を掲げており、XRもいつか当たり前のものになると考えている。同時に、XRはまだこれから作っていくものであり、NTTドコモのXRスローガンである『のぞきたいミライは、ここにある。』とあわせて、みなさんとXRの取り組みを進めていきたい」と語り、セッションは終了となりました。

XR Kaigi 2020のセッション動画をYouTubeで公開中

今回レポートした特別セッションをはじめ、XR Kaigiの公式YouTubeチャンネルではセッション動画を多数公開しています。イベントに参加した人も未参加の人も、ぜひ一度チェックしてみてください。

(参考)XR Kaigi 公式YouTubeチャンネル


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