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業界動向 2023.09.06

台湾のXR/メタバース事情を垣間見る。200以上の応募を集めたアワードの受賞作品レポート

8月11日、台湾でXR・メタバースのアワード「XR Golden Award」が開催された。台湾国内から集まった200以上のXR・メタバースのコンテンツやビジネスソリューションのうち、選りすぐりのものが表彰されるイベントだ。本記事では、このイベントの内容をレポート形式でお届けする。

行政自ら後押しする、台湾のXR

XR Golden Award 2023」は台湾の業界団体であるTAVAR(Taiwan Association for Virtual and Augumented Reality)が開催しているイベントだ。TAVARはXRに関わる行政や企業、学術機関などを繋げていく組織であり、とりわけ台湾のXRスタートアップの活動支援など産業育成に注力している。「XR Golden Award」もその一環というわけだ。なお、このイベントは台湾の首都である台北市の政府からの支援も受けている。


(台北市内で開催された「XR Golden Award 2023」の表彰式会場。米国の半導体企業AMDの支援を受けていることもあり、それとなくゲーミングデバイス風だ)

表彰部門は産業向けからエンターテイメントまで、実に多岐にわたる。今回表彰された作品は以下の通りだ。なお、大賞である「XR Team of the year」には、AIでアバターを動かすプラットフォーム「AI Amaze」と、救急や軍事向けのトレーニングソリューション「Smart XR Police Training System」が輝いた。

XR Golden Award 2023 受賞者一覧

・大賞(XR Team of the year):Global Power Technologies Corporation「Smart XR Police Training System」The Barking Dog Entertainment Inc.「AI AMAZE」
・シミュレーションシステム部門:Global Power Technologies Corporation「Smart XR Police Training System」
・ヘルスケアソリューション部門:Pumpkin Studio, Ltd. 「Goodhand VR」
・教育ソリューション部門:SURREAL Co., Ltd.「SURREALM」
・インタラクティブ・マーケティング部門:SPEED 3D Inc.「3D Picbot-Smart 3D billboard interactive AR machine」
・複合インテグレーション・ソリューション部門:OSENSE TECHNOLOGY CO., LTD.「AI tech-related Solutions」
・テクノロジカル・アート部門:TianYen Inc.「MirrorWorld: The Realm of 3D Naked-eye Interactive Projection System」
・エンターテイメント部門:OSENSE TECHNOLOGY CO., LTD.「AI tech-related Solutions」
・イノベーションテクノロジー部門:AEMASS「Aemass 3D Volumetric Cap”」、Trend Micro Inc.「audience Livestream」、 XRLab(National Taipei University of Technology, Taipei Tech)「MovableBag+: Immersive boxing training system」
・AMD特別賞:Toii Inc.「UrbanLegendHunters2:doppelgänger」
・学生賞:SmartCare Innovators (Southern Taiwan University of Science and Technology)「Nurs+ New Generation Nursing Cart”」、XR Lab (National Taipei University of Technology, Taipei Tech)「Actualities : Seamless Live Performance with the Physical and Virtual Audience in Multiverse」


(XR Team of the yearに輝いていた「AI Amaze」。生成AIを使い、アバターとコミュニケーションがとれるプラットフォームを展開している。今回のデモでは英語と中国語の2バージョンが披露されたが、日本語にも対応しているようだ。なお、もう一つの受賞作である「Smart XR Police Training System」は、残念ながら授賞式当日のデモ展示はなかった)

台湾発のチャレンジングな取り組みたち

なお、授賞式の会場には受賞作品を含め、最終選考まで残った作品がいくつか展示されていた。今回は受賞作品以外から、2つ目を惹いたものをご紹介したい。

プレイヤーのすぐそばでゲームプレイが見れる「Audience」

スタートアップの応募が多い中、「ウイルスバスター」で知られるトレンドマイクロの台湾子会社が開発中のソリューション「Audience」を展示していた。これは「没入型ライブストリーミング」を可能にするものであり、「配信者がプレイしている3Dゲームの中に入り、後ろからその様子を見れる」といった内容。主にTwitchやYouTube等との連携を行う予定だという。

これはテキストでの説明だけでは分かりづらいので、デモ動画を見ていただきたい。


(Audienceのデモ動画。右上が「プレイヤー視点(配信者視点)」、左側が「PCのWebブラウザで見た場合」、右下が「モバイル端末で見た場合」だ)

今回筆者が体験したのは、TPSゲーム「Risk of Rain 2」を遊んでいる配信者のゲーム実況を、VRヘッドセットでゲームの世界に入りながら体験するというもの。VRヘッドセットをかぶると、自分の視点はプレイヤー(=配信者)の後方を自動追尾するカメラになっており、プレイヤーと同じゲームの世界にいながらプレイの様子を見ることができる。

なお、AudienceはTwitchなどの配信プラットフォームとも連携することで、配信者にエモートを送る、といったこともできるようだ。また、PC等の画面でプレイするゲームだけでなく、VRゲームの配信を「VRヘッドセットを装着して、実際にそばにいるかのようにして視聴する」という配信方法・視聴方法もできるそうだ。


(Audienceを使ってBeat SaberのプレイヤーをVRで見つつ、Twitchからエモートを飛ばしている様子)

Audienceを使っていくためには、ゲーム開発者が自身のゲームにAudienceのプラグインを組み込む必要がある。しかしVRゲーム「Beat Saber」や筆者が体験した「Risk of Rain 2」などのPCゲームでMODを組み込めるゲームであれば、プレイヤーがMODを入れさえすればすぐに没入型ライブストリーミングが可能となる。「Beat Saber」向けのMODは既に公開されているようだ。

今回トレンドマイクロは、没入型の配信において課題となるのはやはり遅延であるとし、低遅延で配信が可能な技術を開発したとのこと。確かに体験中に大きな遅延を感じることはなかった。Audienceのカメラは自動追尾が前提となっている。したがってカメラの動きが激しくなればVR酔いを誘発する可能性がある。この点はまだまだ改善の余地はある感は否めないものの、VRゲームの実況のみならず、ゲーム実況全般を変えていく可能性を秘めている。

VR内と完全連動する「VRサンドバッグロボ」がナイス

今回筆者が会場で一番楽しんだのは、イノベーションテクノロジー部門を受賞した学生作品「MovableBag+: Immersive boxing training system」。VRゲームの中でも一定の地位を築いている「VRボクシング」ジャンル向けの筺体だ。ロボットによって自動制御で自走するようになっており、VR内の敵の動きと完全に連動している。これが物理的なフィードバックを生んでいる。

実際に当たった感触があること、固定されたワンパターンの体験ではなく可動式であること。この2点が実現しているだけで、ずっと体験していたくなるほどの良いシステムに仕上がっている。ただし、Meta Questのコントローラーの片方をロボット側のトラッキングに使ってしまうため、右のグローブにしかコントローラーを装着できないのは少々惜しい。


(「MovableBag+」の前身となった「MovableBag」はこんな感じ。Meta Quest 2のコントローラーをサンドバッグロボットに取り付けてトラッキングを行う)

展示していた生徒によれば、「MovableBag+」は、スポーツジム等での導入を目指しているという。実際に稼働させたときのメンテナンス性についても考慮するなど、かなり前のめりな印象だ。XRの領域では、何らかの筐体と組み合わせて体験の質をさらに向上させるシステムがしばしば登場する。むろん研究段階で終わってしまうことも多いと思うが、ぜひ社会実装にも繋げてもらいたいところだ。その頃には両手でしっかりとパンチできるようになっていると嬉しい。

12月には日本で体験する機会も

今回ご紹介した「XR Golden Award 2023」は、グローバル展開を視野に入れた企画となっている。入賞作品中、「XR Team of the year」を始めとする6チームは、株式会社Moguraが12月に東京で開催する「XR Kaigi 2023」にも出展予定だ。


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