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業界動向 2021.03.12

キャラクターってどれくらい似てると権利侵害なの?(#1)【XR/アバターにまつわる法律コラム】

XR (VR/AR/MR) とコンテンツ、ファッションに関する知財・法務を中心に扱っている弁護士の関 真也(せきまさや)です。一般社団法人XRコンソーシアムの社会的課題ワーキンググループの座長を務め、XRのさらなる普及のために、法制度の整理・見直しや自主ガイドラインの策定等に取り組んでいます。

XRの普及により、デジタルコンテンツの表現や流通の自由度が飛躍的に高まっています。また、これまでデジタルコンテンツをあまり扱ってこなかった業種でも、XRの多様な可能性にビジネスチャンスを見出し、その研究開発と実用化に乗り出すようになりました。コロナショックの影響を受け、この流れは加速しています。

XRはデジタルコンテンツの新たな活用方法であり、基本的には、従来のデジタルコンテンツに関する知的財産その他の法律の議論があてはまります。しかし、既存の法律が必ずしも想定しておらず、法規制を受けるのかがはっきりしない場面も出てきています。また、これまでデジタルコンテンツをあまり扱ってこなかった企業にとっては、新しい問題が山積みになっていることでしょう。私は、こうした事情が、日本におけるXRの普及に対する足止めになってはいけないと考えています。

そこで、この「XR/アバターにまつわる法律コラム」の連載を通じて、デジタルコンテンツ一般に関する知財・法務の基本的な考え方から、XRに関連して新たに生じる最先端の法律問題まで、分かりやすく解説していきたいと思います。これをきっかけに、XR普及に向けた社会的課題を解決する議論を一層深めることに貢献できれば、私としても幸いです。

第1回はキャラクターに関する権利についてのお話です。

(※本記事は、関真也弁護士のnoteより許可を得て転載を行ったものです。)

キーワード

著作権 キャラクター イラスト 人物画 複製

本判決:東京地判平成11年7月23日(平成10年(ワ)第29546号)

事案の概要

原告はイラストレーターであり、下記「本件著作物」を含む映画宣伝用のチラシを著作した。

被告は、下記「被告イラストレーション」を使用したタレント等の新人オーディションの広告を雑誌に掲載した。

原告は、被告イラストレーションは本件著作物の複製権を侵害していると主張し、被告イラストレーションの使用差止めを求めた。

画像出典:本判決別紙目録より。

争点

被告イラストレーションは本件著作物の複製か否か。

裁判所の判断

以下のとおり複製に当たらないと判断し、請求棄却

※以下の太字強調・加筆は筆者が付加しました。

「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、実質的に同一のものを再製することをいう。」

「被告イラストレーションは、本件著作物とは、顔の輪郭の上半部が円形であること、目の形状が銀杏の実のような形状で、瞳が大きく描かれていること、鼻が口に近い位置に配置されていること、片手を前、もう一方の手を後ろにし、足はこれと左右逆であること、バッグを肩から後ろへ向かって掛けていることが共通する。しかし、本件著作物と被告イラストレーションとでは、顔のうち、その同一性を左右する主要な部分について(注:筆者作成の後掲「対比・相違点まとめ」の図表参照)のとおり違いがあるから、右のような共通する点があるとしても、顔について同一性を認めることはできず、また、顔以外の部分にも、(注:同上)のとおり違いがある。したがって、本件著作物と被告イラストレーションの同一性を認めることはできない。」

「よって、その余の点について判断するまでもなく、被告イラストレーションが本件著作物の複製であるとは認められない。」

ちょっとしたコメント

著作権侵害が成立するかどうかを区別する際には、まず、他人の著作物の創作的な表現を利用しているかどうかが基準となります。人物、動物などのイラスト、アバターなどを描く際にも、例えば、「人間を描くなら誰が描いてもこうなる」という部分をトレースしたとしても、そこには創作性がないため、著作権を侵害する「複製」にはなりません。

本件のように人物のイラストを描く場合、顔の構成要素(目、鼻、口、耳など)が共通する場合が多いため、イラストの表現上の創作性は、各構成要素の位置関係や細かい描き方などの細部に宿ることが多いといえそうです。

本判決も、(どの部分が本件著作物のうち創作的な表現といえる部分なのかは明示していないものの)丸い顔に大きな目、バッグを持って走っている姿といった全体的な印象から来る共通点を重視するのではなく、細かな表現を対比して、複製であること(=実質的に同一であること)を否定した事例であるといえます。

なお、本件では、原告が翻案権侵害を主張していないため、その成否は判断されていません(イメージ的には、複製権は実質的に同一である場合に成立するのに対し、翻案権は同一とはいえなくても類似であれば成立します。つまり、複製権侵害は成立しなくとも、類似といえればなお翻案権侵害は成立する余地がある点に注意が必要です。いずれの場合も、他人の著作物の創作的な表現を利用することが必要です。)。

VRアバターを含めて、イラストやキャラクターを制作される際の参考になれば幸いです。今後も、この「キャラクター・イラストの知的財産保護」シリーズを続けていこうと思っていますので、ぜひご覧下さいね!

「これはどうなってる?」というようなリクエストもお待ちしております!

■自己紹介■

関 真也(せきまさや) 弁護士・ニューヨーク州弁護士
関真也法律事務所 代表。第一東京弁護士会所属。

※ お問い合わせは関真也法律事務所ウェブサイトのお問合せフォームからお願い致します。

漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツやファッションに加え、XR (VR/AR/MR)、VTuber、AI・データなどコンテンツ・ファッションとテクノロジーが関わる分野を中心に、知的財産問題、契約書作成、紛争対応、事業の適法性審査等を多く取り扱う。XR分野では、一般社団法人XRコンソーシアム社会的課題ワーキンググループの座長を務めるなど、XRと法に関する調査・研究、政策提言等を行っている(研究業績は関真也法律事務所ウェブサイト参照)。

東海大学総合社会科学研究所客員講師(現職)。東京工業大学非常勤講師(担当科目:技術移転と知財)、津田塾大学非常勤講師(担当科目:知的財産概論)のほか、専修大学、法政大学、文教大学、東京理科大学、バンタンデザイン研究所、国際ファッション専門職大学、文化服装学院で講師を歴任。

㈱KADOKAWA経営企画局知財法務部担当部長(2016~2017)。南カリフォルニア大学ロースクール修了 (LL.M., Entertainment Law Certificate, Honor Society of Phi Kappa Phi) / 東大データサイエンススクール(事業実務者コース)修了。日本知財学会事務局、コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ブランド・経営分科会幹事 / ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会長など。日本バーチャルリアリティ学会会員。

Twitter : @MsekiCom
note@masayaseki


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