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開発 2023.09.26

Unity、批判を受け「Runtime Fee」制度を大幅修正。来年リリースの最新版以外では料金発生せず

Unity TechnologiesがCEO名義の謝罪を公表し、ゲームエンジン「Unity」の新料金体系「Unity Runtime Fee」を大幅に修正しました。追加料金が生じるのは、次期LTSバージョンのUnityを導入した法人ユーザーで、「過去12か月の収益が100万ドル以上」かつ「初回エンゲージメント回数が100万回以上」に達した場合に限られます。請求金額が月間収益の2.5%を超えることはなく、データ提供は自己申告制になりました。費用試算ページも公表されています。

開発者らの反発受け大幅見直し

現地時間9月23日、Unity Technologiesが「コミュニティへのご報告」と題した文書を公表しました。同社CEOのMarc Whitten氏の名義で掲載されました。Marc氏は冒頭で「この度は皆様に混乱を招き、ご不安な思いをおかけしてしまい本当に申し訳ございません」と謝罪し、「新しいRuntime Feeポリシーを発表する前に、もっと多くの皆様と話し合い、皆様からのフィードバックを十分に取り入れるべきでした」と述べました。

そのうえで、すでに発表したポリシーに変更を加えたと報告しました。料金プランの説明ページも更新され、新方針の内容や、適用対象に関する詳しい説明が追加されています。


(修正された料金プランの概要。出所:Unity Technologies

また、同日にMarc氏は、Unityの技術解説チャンネルを運営するJason Weimann氏のYoutubeライブ「Unity’s Marc Whitten – Answers Unity Price Policy」に出演。今回の騒動について謝罪するとともに、約60分にわたって新方針を説明し、視聴者からの質疑応答に応じました。


(出所:Jason Weimann

適用対象は法人向けプラン・次期LTSバージョンの利用者のみ


(ポリシー変更の概要。出所:UnityをもとにMogura VR編集部作成)

次期バージョンを用いたタイトルのみ(24年以降に予定)

修正された追加料金ポリシーでは、2024年以降に配布するLTSバージョン(長期サポート版)を用いて開発・配信されたタイトルのみが対象になります。旧バージョンのUnityを使い続ける限り、パブリッシャーおよび開発者に追加料金が請求されることはありません。

さらに利用規約の更新履歴をまとめたGitHubリポジトリも再公開され、ユーザーから問題視されていた利用規約の一方的な変更についても取りやめ、遡行適用は行わないと明言した格好です。

適用対象は「Pro」「Enterprise」に限定

また、個人向け料金である「Personal」「Plus」プランは、料金発生の対象プランから外れました。適用対象は「Pro」「Enterprise」プランのユーザーのみです。

追加料金は「年間収益100万ドル」かつ「エンゲージメント100万回」の場合のみ

そして、追加料金が生じるのは「過去12か月の収益が100万ドル以上」かつ「サービス継続期間中の初回エンゲージメント回数が100万回以上」に達した場合に限られます。収益条件は当初の20万ドル(約2,980万円、為替レートは2023/09/25時点)から100万ドル(約1億4,800万円)に引き上げられました。

新興デベロッパーの負担を軽減する措置も

加えて、「Pro」プランへの変更が必要となる年間収益および調達金額の上限を、10万ドルから20万ドルに引き上げます。スプラッシュスクリーン(ゲーム起動時のロゴ表示)も任意で非表示にできます。サブスクリプションプランへの追加サービスも、引き続き「今年中に追加予定」としています。


(ポリシー変更の概要。出所:UnityをもとにMogura VR編集部作成)

これらの負担軽減により、ユーザーが利用料金の急増を避けながら、次期バージョンへ移行しやすくする狙いがあると見られます。

料金計算は自己申告制とし、測定対象も明確化

請求条件の判定に用いるデータは自己申告制に

料金計算に用いるデータは、ユーザーの自己申告制になりました。Unity Rutimeを用いたデータ測定自体は行われるものの、営業秘密やプライバシーの保護に配慮したと見られます。ユーザーから申告を受けられない場合も、Unity独自のデータや外部データによる推計が行われます。

請求金額は2通りからより低額なほうを選べる

また、条件を満たした場合でも、請求金額は「最大2.5%の収益配分」か「初回エンゲージメント回数に基づく料率」のどちらか低いほうが選ばれます。一律の条件では収益に対して追加料金が過大となるとの懸念に対応した格好です。

初回エンゲージメント回数の定義を明確化

さらに、「インストール」という用語が不明確だとの意見を踏まえ、測定対象とする指標は「初回エンゲージメント回数」に変更されました。

Unity Technologiesは、この指標を「特定のエンドユーザーが、1つの配布プラットフォームにおいて初めて、正常かつ合法的に、Unity Runtimeを使用して稼働しているゲームの取得、ダウンロード、またはゲームへの参加を行った瞬間」と定義しています。不正利用や詐欺のほか、同一ユーザーによる複数回のインストールや複数デバイスでの利用によって、請求金額が過大となることを防ぐ狙いです。


(ポリシー変更の概要。出所:UnityをもとにMogura VR編集部作成)

なお、当初方針の通り、「Enterprise」プランのなかでも「映画・ギャンブル・教育」向けアプリや、チャリティ向けアプリは請求対象から外されます。ただし、ユーザーがサブスクリプションサービスやストリーミングサービスを通じてゲームを配信している場合や、WebGLアプリケーションとして配信している場合は、料金計算の測定対象となります。

対象地域の明記

割安料金の対象地域も明記されました。

  • グループA:オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス、韓国、イギリス、アメリカ
  • グループB:それ以外

数値報告のサポートも実施予定

さらにUnity Technologiesは、実際は多くのユーザーが外部データによる推計値を取得していることを踏まえ、測定指標として「販売ユニット数」と「初回ダウンロードユーザー数」を例示しています。

  • 販売ユニット数:買い切り型ゲームの場合に適切。返金ユニット数を差し引くことを推奨。
  • 初回ダウンロードユーザー数:各プラットフォームからユーザー数の提示を受けるか、初回ダウンロード数を用いる。

加えて「Runtime Fee Estimetor(Beta)」を公表しました。この計算ツールを使えば、契約条件や想定収益、エンゲージメント回数(地域別)などに応じた追加料金を試算できます。


(試算結果の例。出所:Unity Technologies

さらに、「今後、お客様ができるだけ容易に報告を行っていただけるよう、お客様やパートナーと協働しつつ、ツールやプロセスの開発を進めてまいります」としています。

Unityは信頼回復と経営安定化を果たせるか

「Unity Runtime Fee」は9月13日に突如として発表され、著名なインディーゲームの開発会社から抗議や非難の声明が相次ぎ、Unity社内で殺害予告が行われるなど、大きな騒動を引き起こしました。大幅修正された新方針は、ユーザーの不安や不信感に応える内容となっています。

ゲームエンジンを基本無料で提供する企業は多く、さまざまな収益モデルが試みられています。一例として、Epic Gamesが開発する「Unreal Engine」は、年間のツール利用料とは別に、有料で市販される製品の総収入が100万ドルを超えた場合に、それ以降の総収入の5%をロイヤリティ料金としてユーザーに定期請求します(※総収入が1万ドルを下回った期間は請求なし)。また、フリーのオープンソースソフトウェアである「Godot Engine」は、寄付による収益化を目指し、ユーザーに料金を請求していません。

これらのツールと比べて「Unity Runtime Fee」の新方針は、人気タイトルがエンドユーザーの増加に応じた料金を支払いますが、追加負担が過大とならないことを意図した制度設計だと言えます。一方で、Unity Technologiesは公式FAQで「Unity ProとUnity Enterpriseの価格を引き上げる」ことを予告しており、同社の価格戦略は引き続き見守る必要がありそうです。

(参考)Unity Technologies


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