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開発 2024.03.19 sponsored

UnityがAIツール「Muse」と「Sentis」で目指すものは何か?

2023年6月、Unity TechnologiesはふたつのAIツールを発表した。Unity Museと「Unity Sentisだ。同年11月には「Unity 6」の発表に加え、「Unity Muse」の早期アクセス開始、「Unity Sentis」のVRアプリケーションへの導入事例などが明らかにされた。さらに2024年3月には「Unity Muse」のテクスチャ生成機能の改良や、Unityエディタへの統合が発表されるなど、同社のAIに対する取り組みは続いている。

果たしてこの「Unity Muse」と「Unity Sentis」はゲームやVRコンテンツ開発にどのような可能性をもたらすだろうか。今回、Mogura VR Newsでは、Unity TechnologiesでイノベーションおよびAI部門のシニアVPを務めるSylvio Drouin氏にインタビュー。Unity MuseやUnity Sentisの詳細や、今後の展望を訊いた。


(Unity TechnologiesのSylvio Drouin氏)

AIツール「Unity Muse」「Unity Sentis」とは?

まずは2種類のツール「Unity Muse」「Unity Sentis」について簡単に紹介しておこう。

「Unity Muse」はAIを活用したコンテンツ作成ツールだ。Unityエディタ内でプロンプトを入力すると、2D/3D用テクスチャを生成する「Muse Texture」、スプライトアートを作成する「Muse Sprite」、アニメーションを設定できる「Muse Animate」、キャラクターのインタラクションやビヘイビアツリーを作れる「Muse Behaviour」、そしてサウンドエフェクトの生成機能等が含まれており、アセット制作を効率化する。現在はアーリーアクセス期間中、本実装に向けてアップデートを続けているところだ。


(「Unity Muse」で生成されたテクスチャ。2024年3月にはモデルがアップデートされ、上の4つの例ではそれぞれ左が旧モデル、右が新モデルとなっている。特に左上の「石畳と草 / cobblestone, grass」や右上の「砂利 / gravel」では品質の向上がはっきりと分かる)


(「Unity Muse」の機能「Muse Chat」を使っている様子。ユーザーが入力したプロンプトに応じて、Unityの基礎的な使い方や各種コードの提案、トラブルシューティング、そして用途に応じたAPIを教えてくれる。いわば「Unityの辞書」だ。Unityブログより引用)

もう一方のAIツール「Unity Sentis」は、Unityランタイム上にAIモデルを取り込んで利用可能にする。クロスプラットフォームで動作するため、モバイルやPC、Webブラウザ、各種コンソール等Unityが対応しているプラットフォームすべてに対応。「PyTorch」や「Keras」で作成、あるいは「Hugging Face」等から入手したAIモデルを、デバイス上で実行できる。クラウド上でホストされているモデルとは異なり、待ち時間や追加のコストを考えずに提供できる。こちらはオープンベータ期間中だ。


(「Unity Sentis」を通してプレイヤーの手書き文字がどの数字かをAIに認識させ、ゲームに反映するサンプルプロジェクト。他にも、深度推定を活用したARコンテンツ開発用のサンプルプロジェクトや、ハンドトラッキングのオンデバイス実装等が公開されている。UnityのYouTube動画より引用)

人気のVRアプリでも活用、瞑想からアクションまで

さてDrouin氏いわく、UnityのAI技術は既にVRアプリケーションでの導入が始まっている。VR瞑想アプリとして人気を博している「Tripp」、激しいアクションが楽しめるVRゲーム「BONELAB」は、それぞれ2024年中に「Unity Sentis」へのアップデートを行う予定となっている。


(VR瞑想アプリ「TRIPP」での採用事例。プレイヤーの呼吸パターンをAIが理解し、パーソナライズされた深呼吸・リラックス体験を提供する。UnityのYouTube動画より引用)


(VRゲーム「BONELAB」での利用事例。「Unity Sentis」を使い、独自のニューラルネットワークを用いて、同時に100個のオブジェクトを動かすプロトタイプが披露された。また、2024年にリリースされる「BONELAB」のアップデートでは、Sentisを使うことによりモデルサイズをわずか0.3MBに。推論は3msに短縮、VRヘッドセット「Meta Quest」上で90fpsを維持している。同じくUnityのYouTube動画より引用)

いずれの講演でも、「Unity Sentis」の「軽さ」「スピード」がフィーチャーされている。「遅延やレスポンスの遅さは大敵」とされるVRにおいて、Sentisのデバイス上で動作するという性質は大きくプラスになるはずだ。本機能は2024年、「Unity 6」とともに一般提供を開始する予定となっている。

Museは月額30ドル、Sentisはオープンベータで無料利用可能

さて、ここまでの紹介で「Unity Muse」と「Unity Sentis」は既に実際に使われていること、その有用性が実証されつつあることが明らかになってきた。では、価格やアクセス性はどうだろうか?

Drouin氏は、これらAIツールをなるべく多くの開発者が手軽に使えるようにしたいと考えているようだ。「小規模なチームやスタジオが、プロトタイプからゲームコンセプトに至るまで、優れたアプリケーションを従来よりもはるかに迅速に構築できるようにすることが、『Unity Muse』と『Unity Sentis』で私たちが掲げる信念であり、野心です」と語る。

「Unity Muse」は現在アーリーアクセス段階であり、月額30ドル(約4,500円)のサブスクリプションモデルを取っている。開発ツールとしては比較的アクセスしやすい価格であることに加え、15日間の無料トライアルも用意されている。

また「Unity Sentis」は現在オープンベータ版で、Unityユーザーであれば誰でも無料で利用可能であることに加え、Unityがサポートするすべてのプラットフォームと連携できることもあり、開発者にとっては非常にアクセシブルだ。

課題はやはり「透明性」、指針策定とデータセット改善

最後に、Drouin氏にUnityが考える生成AI技術の課題、そしてAIについての展望を訊いた。

まずDrouin氏は、現状のAIが抱える課題について、「透明性と公平性があり、説明可能で、世界各国の政府が定める規制に従ったAIツールを開発すること」だと語る。画像素材やテキストがどのようなモデルによって生成され、どのようなデータセットに依存しているかについての透明性確保は非常に重要視されているようだ。

Drouin氏は続くかたちで、「特に『Unity Muse』は生成AIをベースとしており、それぞれの機能がAIトレーニングによって実現されています。スプライトやテクスチャを制作するツールには、Unityが所有している、あるいはライセンスを供与しているデータや画像でトレーニングされた独自のカスタムモデルを構築しています。他人が著作権を持つマテリアルを、うっかり生成してしまう心配はありません」とコメント。透明性と公平性を維持することで、クリエイターが安心してAIを使えるようにしたいと考えていることがうかがえる。

なお、Unityは2023年6月、「責任ある倫理的なAIのための指針」を更新している。原文では「UnityのAI技術に組み込まれるデータや情報を不正な開示や操作から保護すること」「指針やプライバシーポリシーを守り、取り扱いに注意と敬意を払う」旨が綴られており、著作権の遵守や問題解決を強く意識している。


(UnityはAIに関し、「安全性とプライバシー、ネガティブな影響を与えずに、有用であることを保証する」を主な優先事項としており、「認識可能な人物やアートスタイル、既存のロゴやIPキャラクター等がを含まれていない」など、複数の条件をもとにデータセットを選定しているという。Unityブログより引用)

UnityにとってのAIは「開発者を含むクリエイターを支援するツール」

では、Unityは生成AIに注力するテクノロジーやクリエイティブ企業、そしてプラットフォームやサービスが増え続ける中で、どのような展望を持っているのだろうか。

Drouin氏は、Unityの目標は「あらゆる場所にいるクリエイターにツールを使用してもらい、クリエイターの作業を支援すること」だという。Drouin氏は「ツールを使用する側の人間は、プロジェクトに自信の創造性とビジョンを注ぎ込むというきわめて重要な役割を果たしています。ゲーム業界はきわめて革新的かつ画期的な体験をもたらす場となっていますが、これを促進しているのは才能あふれる人々であり、この状況がAIによって変わることはありません。しかし、AIによってワークフローが加速し、クリエイターが自分のゲームを特別な作品にするための、より本質的な作業に集中できるようになるでしょう」と続けた。

少なくともUnityにとって、AIは「クリエイターに取って代わるもの」ではなく、「作業を効率化するためのもの」であり、よりクリエイターが創造性を発揮するためのツールとして活用してほしい、という意向があるようだ。データセットの透明性を維持するための審査を念入りに行うといった姿勢は、こうしたUnityの考えの表れでもあるだろう。

最後にDrouin氏は、「私たちは最終的に、クリエイターがイテレーションや機能の試行をより迅速に行うことができ、ユーザーがゲームやコンテンツを楽しいと感じられるようにしたいと思っています」と語り、インタビューを締めくくった。

UnityのAIツールの詳細については、それぞれ「Unity Muse」はこちら、「Unity Sentis」はこちらから。

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