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メタバース最新動向 2023.12.01

Robloxの最先端を走る24歳のクリエイターは、9歳からゲーム制作を始めた

世界最大級のメタバースプラットフォームとして知られる「Roblox」。毎日6,500万人がアクセスするこのプラットフォームでは、ユーザー自身がクリエイターとなって作った様々なオンラインゲームが日々“エクスペリエンス”として公開されている。

ゲーム版YouTubeとも呼ばれることがあるが、近年ではゲームに留まらない様々な用途へと利用の幅が広がっているほか、企業による活用も積極的に行われている。ユーザーが作ったエクスペリエンスに仕込めるマネタイズ手段が豊富に提供され、アバターやアイテムを取引できる仕組みも整っており、独自の経済圏ということができる。

Robloxの主要なプレイヤー層は非常に若い。直近の発表でもユーザーの58%が16歳以下であることが発表されている。Robloxでエクスペリエンスと呼ばれるワールドの一覧を眺めていると、非常にチープな見た目のワールドやアバターが目に入ってくるだろう。試しにプレイしてみたワールドは粗い作りで“クソゲー”のようなものも多い。そんなRobloxについてまわるのは「子供向け」というイメージだ。

一方、Robloxは2021年に「高忠実度化(High Fidelity)」に取り組むことを発表した。シンプルなゲームだけでなく、コンソール機で遊べるような高品質なグラフィックで複雑な仕組みを開発できるようにするという。そして、こういった新しい取り組みに参画するクリエイターを中心に「Roblox Game Fund」を立ち上げ、支援を行っている。

2022年にはこの高忠実度化に対応していくつものタイトルが開発中なことが明らかになった。デモ動画を見ると一目でこれまでのRobloxとは明らかに異なることが分かるコンテンツだ。その一つが、「Frontlines(フロントライン)」という本格派FPSだ。

この「フロントライン」を制作したのはMaximillian Studio。Robloxにおける最前線を走っているのはどういうクリエイターなのか? 弱冠24歳でこのスタジオを率いるクラーレンス・マクシミリアン氏にインタビューを行った。


(クラーレンス・マクシミリアン氏)

開発歴15年、ゲーム制作を始めたのは9歳から

——いつ頃からゲームを作り始めたのですか?

マクシミリアン氏:
9歳でゲームを作り始めました。正式にスタジオを始めたのは18歳の時、大学の寮の部屋からスタートしました。スタジオを立ち上げてからは、人生のほとんどすべてをゲームづくりに費やしています。 『オペレーションズ・スコーピオン』というタイトルを1本作って、それが人気になりました。そして、『フロントライン』です。

15年の間には誰も知らないような、成功しなかったプロジェクトもたくさんありました。多くの試行錯誤を経て、ようやくコツがわかってきた感じがします。

——スタジオを立ち上げたのは2017年ですね。きっかけは何だったのでしょう?

マクシミリアン氏:
Robloxが開発者に収益を還元することを発表したのが2017年のことでした。Robloxでゲームを作ったら収益をあげることができるようになったので、じゃあスタジオを作ろう、と。

——それ以前は……?

マクシミリアン氏:
趣味で色々作っていました。Robloxは、ツールを使えば、自分のアイデアを表現するのがとても簡単なプラットフォームだと思っています。 アーティストにとってのキャンバスのようなものです。当時のファイルはもう残ってないですけどね(笑)。

自分たちがやりたいゲームがない、だから作ることにした

——なるほど、9歳でゲームを作り始めた時からずっとRoblox studioを使っているのですね。

マクシミリアン氏:
そもそもユーザーとしてRobloxに慣れ親しんでいました。とはいえ、全てがRoblox Studioで完結するわけではありません。最初のタイトルを作ったときは、僕と、音楽とサウンドを担当した1人、そしてコードを担当したもう1人の3人だけでした。 1人でサウンドとコード以外のグラフィックデザインもUIも3Dモデルもマップも、全部やらなければいけなかったんです。BlenderやPhotoshopなど他のソフトもいじくりまわしたし、ペイントすらも使いました。

——UnityでもUnreal EngineでもなくRoblox Studioでゲームを作り続けている理由はありますか?

マクシミリアン氏:
開発したものを、そのままRoblox上に公開できますからね。そして、開発するのに慣れ親しんでいただけでなく、Robloxというプラットフォームにチャンスを見出しました。Maximillian Studioがうまくいっているのは、多くのRobloxユーザーがまだ知らない分野を見つけ、そこでクオリティにこだわって最高の仕事をしたからだと思っています。

Robloxには、まだ見えていないチャンスがたくさんありました。シンプルな話で、自分たちがやりたいと思ったゲームを探してもなかったのです。だから自分たちのためにも作ることにしました。それが本格的なFPSであり、次回作として取り組んでいるレースゲームです。

——「RDC2023」で発表された次回作がまさにそのレースゲームでした。いま開発中なのですね。

マクシミリアン氏:
本開発は10月に始まりました。僕たちは「フロントライン」を、このプロジェクトをやるための足がかりのようなものだと考えています。実は「フロントライン」の前にこのゲームを作りたかったのです。しかし、当時は野心的すぎました。でも今は、ちょうどいいタイミングです。

開発チームはみな、ただのゲーム開発者ではありません。 車好きばかりなんです(笑)。ゲームを作っていなければ、クルマのことをやりたがるメンバーなんです。彼らと期待に応えられる最高のレースゲームを作るつもりです。

(Maximillian Stuidioが開発中の新作レースゲームのワンショット。Robloxの年次開発者会議「RDC2023」の基調講演で発表された)

——新作の開発に入るということは、スタジオは新しいゲームのために拡大しているのですね。

マクシミリアン氏:
「フロントライン」はもともと制作したチームが運営しているので別ラインを作りました。レースゲームのプロジェクトだけで、すでに30人近くが参加しています。最終的には45~50人規模になります。オープンワールドのマップを作るので、都市や高層ビルなどを作るのに時間がかかります。プログラミングチームも6~7人に増えました。最適化に専念する人が1人いて、彼はカスタムLODシステムに取り組んでいます。このゲームをモバイルでもPS5でも、VRでもプレイできるようにするための担当です。

——レースゲームはグラフィックのクオリティが高いだけじゃなくてVRに対応したゲームにするんですね!?

マクシミリアン氏:
はい、VRに対応させます。実を言うと、VRを初めて体験したのは数ヶ月前(2023年5月)でした。それまで(VRについて)聞いてはいたけど、どういうものかはわかっていませんでした。でも装着したら“クレイジー”でした(笑) 最初にやったのは、VRで映画を見るという体験でした。そこで映画を1本観たら……映画館にいるような気分でした。これをインタラクティブなゲームにできたらとんでもないことです。映画はもともと大好きなのですが、その中に入っていける可能性というのは本当に大きいと思います。それ以来VRが大好きになりました。Apple Vision Proも本当に楽しみです。

VRが完全に一般に広がっていくまでには、まだ数年はかかるとは思っています。だからこそいま取り組みたい。レースゲームの次のプロジェクトではVRヘッドセットで体験することを前提としたゲームを作りたいと思っています。

今、VRに目を向けると、AAA級のゲームはそれほど多くありません。 だから、その分野に進出して、何かできないか考えています。

——VRの市場はまだ小さいので、今のうちに進出していきたいということですね。

マクシミリアン氏:
Unreal Engineでゲームを作って、SteamやXbox、PlayStationで公開すれば、すでに驚異的なゲームがたくさんあります。超巨大なスタジオと肩を並べなきゃいけない。でも、いまVRにはそこまでの競争はありません。

——ちなみに、「フロントライン」はVRに最適化していないのでしょうか?

マクシミリアン氏:
フロントラインを作るときは、ゲーム機とPCを前提にしました。後から他のデバイスと互換性を持たせるのは難しいです。 なので、新しいレースゲームでは、最初からVRを念頭に置いて作っています。ローンチからVRに最適化するつもりです。

——ゲーム開発でデバイスごとの最適化は常について回りますね。 担当も1名いるということですが、色々なデバイスに対応しているRobloxでの最適化は大変そうです。

マクシミリアン氏:
僕らが行っている最適化は主に2種類あります。1つ目は適切な技術で3Dモデルを作るということです。3Dモデルの作り方、トポロジー……。僕らの最適化の多くは、ただ正しいやり方と正しい技術で3Dモデルを作る、基本に忠実なやり方です。

(UnityやUnreal Engineなど)最近のゲームエンジンは、適当に作った3Dモデルでもライティングでも何もかもがとてもよく見えます。ハードウェアも高性能化していて、多少トライアングル(※)の数が多くても、少しモデルが乱れていても大きな影響はありません。 でも、Robloxでは雑な3Dモデルを置くと、小さな穴とか、変な反射などすべての粗い部分がハイライトされて分かってしまうのです。

僕らの最適化は1990年代や2000年代初頭の、コンピューターがそれほど強力でなかったころの開発と同じかもしれません。 だからこそ最適化しなければならないし、すべてのモデルが可能な限りうまく仕上がっていることを確認しなければなりません。

(※トライアングル: ポリゴンを構成する極小の三角形のこと)

マクシミリアン氏:
そして、最適化の2つ目は、可変LODとストリーミング・システムを作ることです。よりプレイヤーに近い距離にあるものを高品質で描画して、遠くに見えているものは低品質に切り替えるアルゴリズムを書く仕事です。常に距離に合わせてモデルを切り替えて、よりパフォーマンスを上げるようにしています。

——VRヘッドセットなど次々新しいデバイスが登場しますよね。その度に最適化をしなければならない。

マクシミリアン氏:
VRは独特ですね。最適化するのは難しいですが、わたしたちのチームは最適化にも耐えうるメンバーが集っています。遅かれ早かれ、テクノロジーは発展していきますし、そこに期待しています。例えば、iPhone 15 Proでは『デス・ストランディング』がプレイできるようになりました。iPhoneでプレイステーションのゲームが遊べるようになったわけです。Questでも、もっと高解像度で本格的な激しいゲームがプレイできるようになると思います。

Robloxユーザーも年をとる、だから彼らのために投資する

——マクシミリアンさんがRobloxでゲームを作り始めて、15年。その間のRobloxというプラットフォームの変化やユーザー層の変化は、本当に大きかったのではないでしょうか。

マクシミリアン氏:
本当にそう思います。一番大きな例が僕自身です。『Call of Duty』や『Need for Speed』のような、もっと没入感のあるゲームをやってみたかったけど、 Robloxにはありませんでした。

Robloxで作られている高忠実度のゲームの多くは、(これまでのゲームと比べると相対的に)今は人気がないけれど、16歳以上のユーザー層がどんどん大きくなっているのは実際に感じます。(※)彼らは子供向けのゲームは、もう好きではなくなってしまって、別のプラットフォームに行ってしまうかもしれない年齢層です。 もし彼らのためにRobloxで忠実度の高い体験を作ったらどうなるのでしょう。彼らが私たちのエクスペリエンスに入ってくるようになります。

Robloxのユーザーもだんだんと年を取っていきます。私たちが今やっていることは、今の統計だけでなく、未来への投資です。NVIDIAのジェンスンファンが数年前にAIへの投資を決めたとき、世界中の多くの人は彼がクレイジーだと思いましたが、彼はいまや最も裕福な人物の1人になっています。

(※人気がないと本人は発言しているが、2023年10月末時点で「フロントライン」の総アクセス数は7,000万回を超えている。)


(「フロントライン」の統計データ。「訪問数」は70.7M=約7,000万回以上だ)

マクシミリアン氏:
新しいレースゲームではグラフィックだけでなく、操作性にもこだわっています。レースゲームに慣れ親しんだ人たちが好きな、すべてのコントロールができるような操作性を目指しています。

——そうなるとMaximillian Studioの作るゲームは、より年齢層の高いユーザー向けになるんですね。

マクシミリアン氏:
一方で、子供たちにもアニメのようなキャラクターが登場するスタイルも少し加えたいと思っています。ゲームにかわいらしさを加えれば、子供たちにも気に入ってもらえると思います。だから、次のゲームは子供たちにも楽しんでもらえるようなものになると思う。

——あのグラフィックとアニメのキャラクターを融合させることができると?

マクシミリアン氏:
どうなるかはまだわかりませんが、チャレンジです(笑)。

——グローバルでもRobloxは拡大しているとRoblox公式は言ってますが、どうでしょう?

マクシミリアン氏:
「フロントライン」の統計では、日本からかなりのアクセスがあります。プレイしている国のトップ3はブラジル、日本、韓国です。北米ではありません。日本のユーザーの反応は本当に良いです。これから日本でRobloxのユーザーがさらに増えるのであれば僕らのゲームの多くが日本で大人気になることを願っています。

——日本のユーザーがそんな多いというのは驚きました。

マクシミリアン氏:
日本を始め、アジア圏のユーザーは増えています。そして、アジア市場は欧米市場とはまったく違うということです、アジアではツムツムのようなゲームが人気になりますよね。漫画のようなアニメーションや、かわいらしさ、そういった要素を新しいゲームにも取り入れたいと思っているのには、アジア圏のユーザーも意識しています。

——日本ではゲームが多く消費されていますが、Robloxはこれからもっと知られていく状況です。実際にここ(東京ゲームショウ)に来ている人たちもRobloxのことをまだ良く知らない状況です。

マクシミリアン氏:
Robloxを多くの人が知らない最大の理由は、プレゼンテーションにあると思います。新しいプロジェクトでやりたいことのひとつは、ゲームを完成させた後、マーケティングを始めるときにこういう展示会で実車を展示できたら楽しいですね。それに、有名歌手が車の上で歌ったりしてくれるといいんですけどね。車の上でラップして、背景に僕らのゲームを流すとか(笑)「Call of Duty」がゲームショウに出るときに表に出るのはプラットフォームではなく、すべて「Call of Duty」一色です。Robloxのゲームもそうなっていく必要があると思っています。

——コンテンツのタイトルから入っていくということですね。Robloxの始まりは日本も欧米も同じだと思います。Robloxの最初のメインユーザーは一桁の子供たちです。だから、大人はその現象に気づかない。 YouTubeでは、何百万ものRobloxの実況動画が日本語で視聴されています。日本のストリーマーが日本で実況していますが、大人は気づいていないものがたくさんあるんですよ。

マクシミリアン氏:
フロントラインが爆発的に売れたのは、「Call of Duty」のストリーマーがたくさんいて彼らが実況してくれたからです。気づいたら、何千人、何万人という新規の人たちが、『フロントライン』をプレイするためだけにRobloxに登録してきました。

——新作はぜひ日本の日本のYouTuberやVTuberにも声をかけられるといいですね。

やりたいのは世界を構築すること

——マクシミリアンさんは24歳ですが、チームのメンバーの年齢はどうでしょう。

マクシミリアン氏:
フロントラインでは、チームメンバーの多くは21、22歳でした。次のレースゲームのプロジェクトでは、だいぶ異なります。40歳から50歳まで、幅広い年齢層のベテラン開発者たちがリーダークラスで新しいプロジェクトに参加しています。20代前半のメンバーもいるので混合チームですね。

——2つの年齢層で雰囲気や文化はうまくいくものなのでしょうか?

マクシミリアン氏:
一番大きな違いは、チームとしてより自信がもてていることだと思います。フォーマルで本当の意味で会社組織になりました。とはいえ、40代や50代の人たちもみな先進的な考え方をしているので、ゲームスタジオですが社内はスタートアップのように動いています。

——いまはスタートアップのように投資を受けているわけではないのですね。

マクシミリアン氏:
現在はRobloxのGame Fundの支援を受けていて、2作目も同様です。これからもっと拡大していくと思います。

——さらにゲーム作りを拡大するということでしょうか?

マクシミリアン氏:
Maximillian Studioはただのゲームスタジオではありません。世界を構築する会社です。「世界を構築する」とは、世界そのものや“ユニバース”を構築するということで、スターウォーズを作るみたいなものです。僕らはマルチメディアカンパニーになりたいと思っています。

2年前、マイアミで行われたコンサートに行きました。パーカーも服も靴も全部着て、一番のファンだと思ってたんだけど、周りのみんなを見ると、僕はまるでアウトドアの格好をしているみたいでした。みんなコスプレをしていたのです。そしてアーティストがステージに立つと、ハウスは火の海になった。みんなその世界の一部になったみたいでした。そのときに「僕がやりたいのは、こういう世界を構築することなんだ」と思ったのです。例えば、僕らがエクスペリエンスを構築して、その中で特定のスタイルを確立したら、ゲームの中に出てくる服を着て歩いている人たちを見たいし、ゲームの中に出てくる車に乗ってみたいと思わせたいな、と。

——ゲームを超えたビジョンを持っているのですね。

マクシミリアン氏:
僕らが作ろうとしている世界にアクセスする最も強力なツールがVRです。VRヘッドセットを装着すると、自分が世界の一部になったような感覚になり、キャラクターになったような感覚になります。 VRが本当に世の中に広がる技術になったら、より人々は私たちの作品にもっと没頭できるようになります。だからこそ、VRに注目しているんです。

——次回作、そして次次回作のVRゲームに期待したいと思います。ありがとうございました。

RobloxからVR、そして世界観の創造へ。弱冠24歳の野心的なクリエイターの動きにこれからも注目したい。

今回、インタビューしたMaximillian Studioのクラーレンス・マクシミリアン氏は、2023年12月18日から22日の間、株式会社Moguraが主催するカンファレンスXR Kaigiで登壇予定だ。こちらもぜひチェックいただきたい(オンライン配信、視聴には有料チケットが必要)。

マクシミリアン氏登壇セッション名:Creating Experiences To Reach New Audiences On Roblox(日本語字幕あり)


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