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業界動向 2019.05.20

VR都市開発ゲームが世界中の企業から注目を集めているわけ

本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、リナ・ダイアン・カバラー氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。


(VR ゲーム「Sustain-a-city」はクライストチャーチの Margaret Mahy Playground など、ニュージーランド国内のランドマーク建設プロジェクトをモデルとしている。提供:WSP Opus)

都市開発ゲームとVRは、相性の良い組み合わせだ。どうすればサステナブル(持続可能性)な都市計画を立てられるのか、都市の構築への関心を抱かさせられるか、その解決手段としてVR都市開発ゲームが注目を集めている。

Sustain-a-city(サステナシティ)」は、ニュージーランドを拠点とする土木工学・インフラ関連のコンサルタント会社、WSP Opusが生み出したVRゲームだ。デジタルクリエイティブエージェンシーMethodと提携して開発されており、プレイヤーが商業とインフラ、エネルギー、住宅のバランスを取りながら、繁栄した住みやすいスマートシティを構築できる。

WSP Opusでクライアントソリューション部門のゼネラルマネージャーを務めるデイヴィッド・キッド氏は「従来は、都市のさまざまなインフラ要素が個別に構築されてきました」と述べている。「でもレジリエンス(防災力)を持ち、将来に備えた都市を生み出すには、そうしたインフラの全要素を一体化したシステムとして考える必要があります。このVRゲームを作成した目的のひとつは、人々をビジュアル的に魅了する手法によって、そうしたコンセプトに命を吹き込むことでした」。

「Sustain-a-city」は、「シムシティ」とレゴを足して2で割ったようなゲームになっている。

プレイヤーは住宅やビルを個別に設置する代わりに土地区画を配置して、それらをリンクする。日本やヨーロッパで人気を博したドイツの有名なボードゲーム「カタンの開拓者たち」から影響を受け、各要素を六角形のタイルにモデル化。プレイヤーはタイルをボード上に並べて5段階のレベルでゲームを進めていくのだが、自分の都市に必要なものや、その需要を満たすためにプレイヤーにできることが示され、各バーチャルシティの進展をモニターできる。

「都市には選択肢として水資源や電力、エネルギー資源、住宅、商業用ビル、交通機関などが用意されています」と、キッド氏。実際の都市同様、こうした要素をVRゲーム内で完璧なバランスに保てなければ、バーチャルシティの状態は急速に悪化してしまう。「このゲームは、ある種のエコシステムとして機能します。都市に住宅や商業用ビルを多数建設することを選択すれば人口は増加しますが、十分な水や電力が確保されていなければ人口に影響が出始めます。都市が繁栄して成長するのか、それとも悪戦苦闘することになるのかは、プレイヤーの選択次第です」。

(「Sustain-a-city」ゲームのタイル。提供:WSP Opus)

このVRゲームは、教育やエンゲージメントを念頭に置いて開発されている。WSPOpus にとって、それはインフラや都市といったプロジェクトにおける、デザインやプランニングなどの重要な任務を、いかに興味をかき立てるもの、楽しいものにできるのかという問題だった。

「そのためにVRが最適なプラットフォームであることが立証されました」とキッド氏。「エンジニアリングのことをよく知らない人や、業界でのキャリアを検討している人、さらには都市計画という概念や卓越した都市の構築に興味を持つ人の関心を引くための、優れた方法になっています。ゲーミフィケーションにより、面白いだけでなく教育的なものになりました」。

世界の都市や地域、プロジェクトのローカライズに期待

Methodのマネージングディレクターであるサム・ラムルー氏は「TVゲームやオンラインゲームにしても、楽しめるものにはなったと思います」と話す。

「でもVRなら実際にゲームの世界に入り込むことができます。体験に没入できる、非常に優れたツールだと言えますね。実生活では絶対に経験できない環境にできるのに、あえて平凡なものを提示する理由はないですよね?VRは強い印象を与えて、驚きと喜びをもたらすことができます」。

(プレイ中の「Sustain-a-city」のタイル。提供:WSP Opus)

Methodが最も重視したのは、「Sustain-a-city」をエキサイティングでやりがいのあるものにすることだった。「バランスを取る必要がありました」と、ラムルー氏。「楽しめるものでありながら、適切な難易度にして、皆がもっとやりたいと感じられるものにしたかったのです」。

その実現のためには、すべての要素が結び付き、操作するタイルを戦略的に配置できるようにもする必要があった。「初期のテストではタイルの模型を物理的に作成し、ゲーム内のさまざまなタイルタイプに割り当ててプレイを検証して、基本から上級までどうレベルを進められるかを何度も検証しました」と、ラムルー氏。「相当な数の検証を実施して、VR開発に進む前にあらゆる連携を確認しました」。

このゲームでは、Autodesk Mayaで作成された、3Dイメージとしてシミュレートした実際のWSP Opusプロジェクトがタイルに埋め込まれて使われている。プロジェクトには、自転車用道路自転車通行帯、類人猿の飼育エリア遊び場街路の再開発などがあり、ゲームの最後で、これらの要素すべてを体験できる。「全レベルをクリアして街を構築したら、その中を実際に歩き回ることができます」と、ラムルー氏。「自分が作った街の中に入り込まれるのは、うれしいサプライズです」。

(「Sustain-a-city」内で再現されているクライストチャーチのOrana Wildlife Park Great Ape Centre。提供:WSP Opus)

WSP Opusは、ニュージーランド各地のテクノロジー系展示会で「Sustain-a-city」を実演。プレイヤーはゲームの反復性を楽しみ、レベルを着々と進めて、各要素を組み合わせる最も効率的な方法を考えていた、とキッド氏は述べる。次のステップとして、より複雑なレベルを含む、さらに洗練されたバージョンを検討中。プレイヤーが他のプレイヤーと共にプレイしたり、エキスパート相手にバトルを繰り広げたりできるアプリやオンライン化の可能性も模索されている。

WSP Opusは、VRゲームのリーチも広げつつある。「多数の国際企業が『Sustain-a-city』に注目するようになりました。カスタマイズやローカライズが可能な形で開発されているからです」と、キッド氏。「ニュージーランド版では、ニュージーランドをベースとしたプロジェクトを選択し、現地の雰囲気を醸し出しています。別のロケーション用のゲームを開発する場合は、その地域のプロジェクトや史跡を選択することもできます」。

「Sustain-a-city」は、より広範囲へ影響を与える可能性を示している。これは、持続可能な都市という理論の実現に役立つ、没入型のテクノロジーなのだ。


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