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業界動向 2019.10.15 sponsored

目の前に広がる「ポケモンGO」や「Ingress」の世界 話題を集めた体験の舞台裏

ゲームの世界を、現実に呼び出す――誰もが一度は思い描くであろう試みが、「Ingress」と「ポケモンGO」を題材に行われた。どちらも現実を舞台にした位置情報ゲームだが、その世界観は現在スマートフォンのディスプレイの中に限定されている。それをARやMRでビジュアライズし、プレイヤーが思い描いていた世界を体験してもらおうというプロジェクトだ。

この試みは「AR Roppongi x Ingress」「Pokémon GO AR展望台」として実を結び、期間限定のイベント展示として、体験を待つ列が絶えないほどの好評を博していた。

今回はこの2つの“仕掛け人”であるNiantic, inc.の川島優志氏、株式会社ティーアンドエスのTHINK AND SENSE部 部長である松山周平氏、そしてソフトバンク株式会社の坂口卓也氏の3者に取材。ハイレベルなクリエイティブの舞台裏やその経緯について訊いた。


(左からNiantic, inc. エグゼクティブプロデューサー アジア統括本部長の川島優志氏、株式会社ティーアンドエス THINK AND SENSE部 部長の松山周平氏、ソフトバンク株式会社 サービス企画本部 サービス企画統括部 サービス企画部 先端技術サービス推進課  課長の坂口卓也氏)

きっかけは「Ingress」×「HoloLens」

――Nianticさん、THINK AND SENSEさん、そしてソフトバンクさんが「AR Roppongi x Ingress」に取り組むことになったきっかけを教えてくれますか。

松山周平氏(以下、松山):

大元の話をすると、はじめNianticさんとソフトバンクさんの間に「Ingress」や「Pokémon GO」におけるパートナーシップ関係があったんですよね。

坂口卓也氏(以下、坂口):

はい、ソフトバンクは以前より「Ingress」「Pokémon GO」と公式パートナーという形で提携しておりゲーム内に店舗が登場したりリアルイベントをサポートするなど、プレイヤーのみなさんにゲームを楽しんでいただきつつ、ブランドエンゲージメントを高めていくという活動をしています。当時はそのパートナーシップをより深めていく上で技術面でのアプローチを模索中で、まずは「Ingress」のAPIを活用して何ができるか、ということを川島さんに相談していました。

一方で、ちょうどマイクロソフトさんのHoloLensの国内販売直前のタイミングだったんですね。そこで、「Ingress」のAPIとHoloLensを活用した新しい表現はできないかと思い立ち、以前から様々な面で取り組みにご協力いただいているTHINK AND SENSEさんにHoloLensを数台持ち込んで相談したんです。

そういった経緯を経て、川島さんとTHINK AND SENSEさんとさまざまな試行錯誤の結果、SoftBank MR Intel Simulator(以下、Intel Simualtor)が完成しました。これを2018年4月に福岡で開催されたIngressのイベントで、アニメ版IngressのキャラクターによるAR舞台挨拶とあわせてお披露目したのが直接的なきっかけです。

(「SoftBank MR Intel Simulator」(企画:ソフトバンク 、制作:THINK AND SENSE)。「Ingress」のポータル情報をリアルタイムで取得し、HoloLensを通してMRで表示する。複数人で同じ地図を見て戦略を立てられるほか、拡大・縮小表示、ポータル間を結ぶシミュレーションなどの機能を備える)

坂口:

公式パートナーとしてこれまでに何度も「Ingress」や「Pokémon GO」のイベントに参加してきましたが、広告的な視点を超えてプレイヤーの皆さんとの接点をさらに深める方法の一つとして“テクノロジーを活用した感動体験を提供すること”が重要だと考えていました。最初はIngressのAPIとPepperを組み合わせてリアルタムな戦況や戦績の表示を行いましたが、これが非常に好評でした。次に、それを「ARで見れたら面白いんじゃないか?」と考えたのがスタートですね。

――「Intel Simualtor」の企画は、いつごろから?

松山:

2017年末あたりですね。最初は「HoloLensをつけると、視界の端にミニマップが常に見えている」くらいのものでした。HoloLensにはGPSが搭載されていないので、スマートフォンのGPSを使ってミニマップを出しつつ、実際にIngressのポータルの近くに行くとエフェクトが出る、といった演出も考えていました。

坂口:

当初は展示場や部屋の中ではなく、ソフトバンクの店舗のロゴをマーカーにして、フィールドで使うイメージでした。しかし店舗ごとに配置や照明などの周辺環境が違っていて、なかなかうまくいかなかったんです。なので、限定的な空間になってしまったとしても、ARによる特別な体験を安定して提供できるものを作ろう、と。

来場者だけでなく、プレイヤーも楽しんだ「AR Roppongi x Ingress」

――「AR Roppongi x Ingress」はこれまでの「Ingress」関連のイベントや展示を経ての制作となりましたね。

松山:

「AR Roppongi x Ingress」は2018年10月のInnovation Tokyoで展示したのですが、川島さんから相談を受けたのがその年の6月ごろですね。

川島:

都市模型にプロジェクションマッピングすることで、六本木の街で実際に起こっているIngressの戦いをリアルに映し出すコンセプトでした。HoloLensでただ見るだけではなく、プロジェクションマッピングを組み合わせることで、よりリアリティを感じてもらう狙いです。

(AR Roppongi x Ingress。東京・六本木の都市模型にプロジェクションマッピングを行い、さらにHoloLensを使うことで、Ingressのプレイヤーによる戦いの様子がリアルタイムで表示される)

川島:

THINK AND SENSEさんに最初の企画書を持ってきてもらう段階で、まずは映像を見せてもらったんですよね。それが、かなりの部分がビジュアルとして出来上がっていて。「こういう風になったらいいな」と思っていたものを最初に見せられてしまった(笑)

坂口:

あれはガツンと来ましたね(笑)インパクトが強かった。

松山:

紙の企画書より先に映像を持ってきました。ポータルやマップが立体的に出現する表現がアニメにあったので、それをARで表現した形です。お二人との会話の中ですでに共通のイメージはできていると思ったので、企画書はスキップし、最初から映像としてのシミュレータを持っていきました。


(当時作成された映像よりキャプチャ。この時点で展示のイメージがほぼ完成している)

川島:

これはいける! と思って、Niantic本社のエンジニアも巻き込みつつ「AR Roppongi x Ingress」を作っていきました。Ingressのプレイヤーにも「六本木でイベントが行われるからフィールドアート(※)を作ろう」「激しい戦いを繰り広げよう」とリクエストしたところ、皆さんユニークなフィールドアートを作ってくれたり、片方のチームが六本木の2km四方を丸ごと占拠したり……。

(※フィールドアート……Ingressは簡潔に説明すると“AR陣取りゲーム”であり、それぞれの陣地は「コントロールフィールド」と呼ばれる。このコントロールフィールドを組み合わせて作られた、まるで巨大な地上絵のようなアートを「フィールドアート」と呼ぶ)

松山:

フィールドアートは隠し機能として入れて、あるボタンを押すとプロジェクションマッピングで出るようにしました。

川島:

イベント自体も大成功で、期間中は累計で7,000人以上のお客さんが体験されていらっしゃいました。

坂口:

この展示を通して我々自身が「ARによる都市空間の表現の面白さ」を明確に理解することができました。また、現実に存在する都市の空間とARをリンクさせる、という取り組みは次の「Pokémon GO AR展望台」にも発展した形でつながっていきます。

そして「Pokémon GO AR展望台」へ

――都市の空間とARやMRをリンクさせる試みは、「Pokémon GO AR展望台(以下、AR展望台)」でより現実に、リアルスケールに近づいたように思います。

川島:

「AR展望台」では、展示スペースである六本木ヒルズ展望台の東京シティビューから景色を眺めて、何ができるかを考えました。「AR Roppongi x Ingress」では理想としているARの姿を垣間見れたので、「都市模型じゃなくて、現実の都市や風景にそのまま重なったらすごいんじゃないか?」と思ったのが始まりです。

――最初はMRで「Ingressのマップを見せる」というところからスタートし、次は「都市模型に重ねる」、そして「現実の都市に重ねる」、という段階を踏んできたわけですね。「ポケモンを見せる」という点も大きかったと思いますが、いかがでしょうか?

松山:

AR展望台のプロトタイピングを作っているときに気づいたことがあって、「ピカチュウって意外と小さいんだ」とか「アローラナッシーがめちゃくちゃ大きいぞ」とか、そういった「現実にもしポケモンがいたら、というサイズ感」が面白かったんです。そこで六本木の上空にファイヤーが飛んでいる「遠い」方と、室内にピカチュウやヒトカゲ、ギャラドスやアローラナッシーがいる「近い」方の2つを展開しよう、と企画が進んでいきました。

――自分も展示を見に行ったのですが、あの存在感には驚きました。普段ディスプレイ越しに見ている世界ってこんなだったのか! という新鮮さがあって。

坂口:

体験している人を外から見るのは面白かったですね。何メートルもあるギャラドスやアローラナッシーを見上げた時のリアクションがすごくて(笑) 

―― 今回、室内や屋外にポケモンを表示したり、ジムを出したりする上では苦労はありませんでしたか。

松山:

「そもそもキロメートル単位のARはできるのか」というところからのスタートでしたね。300mおきにオブジェクトを設置するプログラムを作り、空気遠近(※)は出せるか、スケールはどうするか……などを検証しました。700mくらいまでは奥行き感が出ることが分かったので、その範囲で室内と室外を使い分けるようにしています。

(※空気遠近……大気の性質上、人間の眼には遠くのものほどかすんで見えたり、輪郭線が不明瞭になって見えたりすること。ARオブジェクトをそのまま遠くに表示してしまうと、空気遠近を無視して輪郭がハッキリと出てしまうため、不自然なものとなる)

坂口:

展望台の3Dモデルを事前に組み込んで、物理的な遮りがあって実際には視界に入っていない場所にARオブジェクトを配置し、物理オブジェクトで遮られる仕組み(オクルージョン)なども取り入れていただきました。これにより、窓際に行って覗き込むとはじめて眼下にARオブジェクトが登場するという、目で見るのと同じ見え方を実現しました。障害物があるとその後ろにスッと消えていくんですよね。

――「ただ上から重ねる」だけのARではない、という。

松山:

きちんとARオブジェクトが隠れるかどうかで、リアリティが全く変わってきますからね。加えて昼だけでなく夜景ではどう見えるかや、どのルートで歩くと全てのポケモンが見えるか事前検証し、現地でもチェックしました。

余談ですが、実は、床に置いてある草は手作りだったりします(笑)オクルージョンに関わるオブジェクトなので、寸法ミスがあったりすると失敗してしまう。ギリギリまで合わせています。

川島:

「AR展望台」は、ARにとって大事な3つの要素がすべて入っています。それが「1)現実と仮想が重なっていること」、「2)重ねたARオブジェクトとインタラクションできること」、そして「3)3D(三次元)であること」。AR展望台は、ビジュアルでは現実の都市の上に重なっていて、3Dで表示されます。これで1と3。さらに2のインタラクションは、ポケモンを見つめると反応が返ってくるんですよ。

期間やスペースなどの制約もありましたが、ARの大切な要素を入れ込んで、臨場感を高めるよう知恵を絞ってくれたのはありがたかったです。

三社が取り組むARの展望

――国内外を問わず、いわゆる「ARクラウド」、同じARオブジェクトを複数の人が見るための技術や、ARデバイス企業とキャリアの提携が進んでいます。5Gなども含め、日本でもARはさらに広がりそうですが、“今後のARの展望”について聞かせてください。

坂口:

デバイスもAR技術も日々進化しています。また、5Gの本格的な普及によってARによる体験も進化すると思っています。ただ5Gの普及にはそれなりの時間を要しますので、現状のネットワークやARクラウド的なものも含めテクノロジーを活用した新たな体験の創出への取り組みは、積極的に推進していきたいですね。ARと言っても、体験を拡張するものはビジュアル的なものだけではないですし、良い意味でこだわらず広い視野で見ていくつもりです。

松山:

「AR展望台」的なものは、また挑戦してみたいですね。ARクラウドや新しいデバイス、5Gといった環境を使えるようになった時の“限界値”に挑みたいです。技術のためにコンテンツを作るというよりは、「未来の当たり前」に最新の技術でチャレンジする。

川島:

5Gや開発ツールなど、以前よりもさらに環境が整ってきていると感じます。それを最大限活用できるような形で、ユーザーが場所に紐づいた「リアルで、楽しい体験」ができるものを提供していく方針です。

Nianticが取り組んでいるARは「現実世界のジオロケーションと、そこから生まれてくる現実感にデジタル情報を重ね、人々をどうつなげるか」をテーマにしています。「Ingress」のポータルの前に立ってリンクをつないでいるプレイヤーは、目の前にある物体の下からエネルギーが湧き上がってきて、遠くとつながる感覚をリアルに持っていると思うんですよね。こういった感覚はARにとって非常に大切で、その人が何をもってこの「現実感」を得るかという。Nianticはこの「自分の認識を変えてしまうような、内側から外側に働きかける現実感」を大切にしています。

川島:

例えば、「Pokémon GO」のトレーナーがピカチュウを見つけたとしましょう。しかしその一人しかピカチュウを見つけられないのだとしたら、現実感としては弱いものになります。多くの人々が「ピカチュウがそこにいる」と思うことで、現実感は生まれる。個人の中の現実感が重なって寄り集まることで、強い現実感として立ち上がってくるわけです。Nianticはこの「現実感」への取り組みを追及していきますし、色々な企業と取り組む中で、ソフトバンクさんやTHINK AND SENSEさんとも、大きなARの未来につなげていきたいと思っています。

松山:

NianticさんはARのリーディングカンパニーですが、「AR屋さん」ではないと思っています。目指すべきビジョンがあり、その実現手段がARであるという。自分たちも同じく、ビジョンを持ってプロジェクトを進めたいと考えています。新しい技術が出てきても、「今すぐ何かをやる」というより、「その技術で何ができるかを考える」ところからはじめたいですね。

――ありがとうございました。

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©2019 Niantic, Inc. ©2019 Pokémon. ©1995-2019 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。

(インタビュー&文:葛西祝・水原由紀、撮影:長谷川夏暉)


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