XRやメタバースを活用したソリューションやその活用事例は増加の一途を辿っている。人口も多く、大規模な投資が行われている海外(特にアメリカとヨーロッパ)での華々しい事例は事欠かないが、日本国内の企業も決して負けてはいない。
今回、Mogura VR NewsではXR関連の業務ソリューションを提供する株式会社ポケット・クエリーズ代表取締役の佐々木宣彦氏にインタビュー。同社の取り組みや「リアルメタバース」のコンセプト、そしてそれらを支える技術基盤について訊いた。
コアは「ゲーミフィケーション」と「超人化」。業務用ソリューションだけに囚われず価値を高める
――まず、ポケット・クエリーズの事業内容や沿革について教えていただけますか。
佐々⽊宣彦氏(以下、佐々⽊):
ポケット・クエリーズはもともと3Dのゲームを作っている会社で、過去には「FINAL FANTASY 15」の開発のお手伝いもさせていただきました。ちょうど創業2年目となる2012年頃から、ゲームが持つ「人を惹きつけるちから」を実用ソリューションに活かすという理念のもとで事業を展開してきました。
――言わば「ゲーミフィケーション」を中心に据えて事業展開を行ってきたわけですね。XRやメタバース領域に力を入れるようになったのはいつ頃からでしょう?
佐々木:
XR関連に注力するようになったターニングポイントは、マイクロソフトの「HoloLens」がリリースされた2017年ですね。同年に東京電力ホールディングスとMR(Mixed Reality)を現場で使う共同研究を開始したのですが、これは手応えがあるぞと。それ以降は現場向けソリューションをMRで手掛けるようになりました。
佐々木:
弊社のコアとなる領域は、「4つの超⼈化技術」です。人間の持つ「視聴覚能⼒」「交流能力」「学習能力」そして「判断能力」をそれぞれ拡張・発展させる技術の研究開発を行い、ソリューションとして企業に提供しています。これらはいずれもゲーム開発で培ってきたもので、リアルタイムでの通信技術などは特にゲーム領域に近しいところですね。会社としては「技能継承」や「省人化」をテーマに、これらの技術で「人材不足」という課題の解決に取り組むケースが多いです。
佐々木:
一方で新しい技術開発のために、業務用のソリューションのみに囚われず、エンターテインメント向けの領域も含めて技術研究・開発を行っています。エンターテインメント向けの領域では、とにかく技術研究開発の流れが早く、これらをいち早く取り入れて汎用化し、安価かつスピーディーに提供可能なソリューションへとつなげていく……というスタイルで取り組みを続けています。
バーチャル空間での音楽ライブから業務向けソリューションまで幅広く
――エンターテインメントやゲーム領域で培った技術やノウハウを、業務用ソリューションで活かして課題解決を行っていると。直近ではどのような取り組みを行っていますか?
佐々⽊:
まず、音楽ユニット「どんぐりず」のメタバース音楽ライブの実証実験が挙げられます。いきなり「業務用」というイメージからは離れてしまいましたが(笑) 凸版印刷と共同で、オンラインゲーム的に多人数で入れるバーチャル空間のプラットフォームと、ノーコードで制作ができる仕組みを開発しました。この技術を活用する実証実験として、JVCケンウッドが関わっている「どんぐりず」のバーチャルライブを開催しています。
佐々木:
次に、JCL(Japan Cycle League)との事例となるバーチャルサイクリング「JCL Virtual Race」です。三菱地所JCLプロロードレースツアー2022シーズンプレゼンテーションにて発表されたもので、360度動画をベースにしたバーチャルなコースを走ることができます。全国で開催される自転車レースともリアルタイムで連動して、参加選手のラップを参照し、併走する形でコースを走ることができるのがポイントです。
またレース期間外でも、「Zwift」のように任意のコースを自由にサイクリングすることができます。このサービスでも、オンラインゲームのようなリアルタイム通信と360度映像という、弊社で培った技術が活用されています。他にも「風を切る」演出など、ゲーム開発の経験からくる要素も盛り込まれていますね。
佐々木:
そして3つ目は弊社のVR製品である「iVoRi 360(アイヴォリィ サンロクマル)」の活用事例となります。「iVoRi 360」は360度映像でできた空間に遠隔で複数人で入り、コミュニケーションが取れる、というソリューションです。その場に360度カメラを置いてリアルタイムの映像をお互いに見ることもできます。
佐々木:
実際の活用事例としては、普段は入れない・入りづらい場所を撮影して、研修などで使うというようなものがあります。日比谷総合設備では天井裏の映像を撮影しておいて、配管がどうなっているのかを10人くらいで同時に確認するという、現実では不可能な研修も実現しました。ここは物理的に同時に1人か2人くらいしか入れないところなんですよ。
佐々木:
最近では、360度映像の空間に3DCGを配置できる機能が追加されました。360度映像なので物体の寸法までは再現が難しいのですが、ドキュメントなども配置できますし、レイアウト検討の際にも効果的な使い方ができます。
もちろん自分たちでも「iVoRi 360」を活用しています。ちょうど先日、グループ会社であるエムティーアイでメタバース入社式を開催しました。
このいずれの3つの事例とも「リアルメタバース」を骨子した事業であるところと、ポケット・クエリーズが持つ「iVoRi エンジン」と呼ぶ技術を基盤に得た経験をもとに展開しているという点は共通しています。
――ご紹介ありがとうございます。JCL向けのプラットフォーム開発や「どんぐりず」のイベントは、XRを活用した製造業界向けの遠隔支援ソリューションとややカラーが違う取り組みのように思われますが。
佐々⽊:
実用ソリューションの開発のみでも新しい技術の適用や開発は可能ですが、エンタメ領域やアミューズメント施設ではより「新しいことをやっていこう」という動きが強いことが多く、また技術の進化や変化も速いんです。我々も新しい技術開発につなげるべく、実用ソリューションに限らずエンタメの仕事も継続して積極的に請けさせていただいていますし、今後も大事にしていきたいと考えている次第です。
――先述の、ゲーム領域からきているノウハウや技術が活かされるケースがたくさんあるという話にも繋がりますね。ゲーミフィケーション的なものが軸のひとつにあるというのも納得できます。
佐々木:
まさしくそうです。
技術基盤を確立し、エンタメやゲームから「人を惹きつけるちから」を学び活かす
――先ほど「リアルメタバース」という言葉がありましたが、ポケット・クエリーズではどのような角度からでこの「メタバース」に取り組むのでしょうか?
佐々⽊:
自分たちは「メタバース」という言葉の射程をかなり広く捉えています。リアルタイムな通信やデータの可視化を含めた「デジタルツイン」を実現していこうという方向性ですね。産業向けに限ると「メタバース」は概ね「デジタルツイン」として捉えられている状況もあり、我々は「外的な見た目や見え方を3Dで再現する」方向と、「内的なデータの可視化、現場とバーチャル空間上でのデータの同期」の方向、これら2つの軸で考えています。
その上で、背景などの空間情報は360度映像で十分ではないかとも考えています。フル3DでVRコンテンツを作るのはコストがかかりますが、360度映像をベースに、部分的に3Dモデルを配置するようなソリューションであれば簡単にコンテンツを増やせますし、お客様が自分で360度映像を用意することもできます。現実の上に部分的に3DCGを適用していくという意味では、MR的な考え方ですね。
――ありがとうございます。最後に、ポケット・クエリーズのソリューションにおける「強み」について改めて教えてください。
佐々⽊:
ひとつは、オンラインかつリアルタイムでやりとりができるXRプラットフォームについて、すでに技術基盤まで確立している点です。もう一つは、リコーの360度カメラ「THETA」シリーズを用いた360度映像のリアルタイム共有については、すでに実用面で多くの実績がある、という点ですね。いずれも弊社の展開する「リアルメタバース」の骨子となる技術であり、これらを土台としたソリューションでお客様の課題を解決していくことが明確な強みであると感じています。これからもこの強みをさらに伸ばすべく、エンタメ領域やアミューズメント施設からの知識やノウハウを得つつ、素早く業務用のソリューションと融合させて価値を提供していく、というサイクルを続けていきたいと考えています。
――ありがとうございました。
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