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業界動向 2021.08.02

企業向け一体型VRデバイスの新スタンダード 管理システム充実&装着感良好の「Pico Neo 3 Pro」

中国のVRヘッドセットメーカー、Pico Technologyの日本法人Pico Technology Japan株式会社が、一体型VRヘッドセットPico Neo 3 Proの国内法人向け販売をスタートしました。価格は84,700円(税込)で、企業でのVR研修やエンタメ施設への導入といった用途での利用が見込まれています。

今回、Mogura VR Newsでは、Pico Techbnology Japanに取材。「Pico Neo 3 Pro」を体験し、その特徴やクオリティ、そして「得意分野」をチェックしました。

付け心地や重量バランスが良好、疲れにくいVRヘッドセット

「Pico Neo 3 Pro」は、スマートフォンやPCに接続する必要のない、いわゆる「一体型VRヘッドセット」です。本体デザインはフェイスブックの「Oculus Quest 2」の親戚といった趣きで、コントローラーのボタン配置や本体の音量調整ボタン等もほぼ同様の配置となっています。解像度の3,664×1,920(両目)にリフレッシュレート最大90Hz、視野角98度、そしてチップセットはクアルコムの「XR2」と、ハードウェアのスペック的にもOculus Quest 2とほぼ同じです。

Oculus Quest 2と大きく異なる点は2つ。Pico Neo 3 Proはヘッドセットの装着感が非常にゆったりとしており、長時間つけていても圧迫感を感じません。筆者は取材時、大きめの眼鏡をつけたままPico Neo 3 Proを装着しましたが、眼鏡のフレームが本体に触れることもなく快適に利用できました。


(Pico Neo 3 Proを内側から撮影。ポリウレタン製の接顔パーツは非常に柔らかく、つけ心地は良好)

もうひとつは重量バランス。「Pico Neo 3 Pro」は後頭部側にバッテリーがあるため、ヘッドセットと固定具の比重がちょうど良く、重さで顔が前方に引っ張られるような感覚はありませんでした。ベルト部分はOculus Quest 2の公式アクセサリー「Eliteストラップ」に近い形状で、後ろのハンドルを回すだけで調整できます。


(Pico Neo 3 Proを装着した際、後頭部に来る固定具。内蔵されているバッテリーは電力供給に加え、いわゆる「カウンターウェイト」の役割を果たす)

映像の品質は十分、光学式トラッキングコントローラーの性能は?

「Pico Neo 3 Pro」を実際に装着して高解像度の写真や2Dの動画、そして360度動画を視聴・体験してみたところ、どのコンテンツも十分な見え方。画質の粗さやスクリーンドア現象(解像度の低さ等の要因により、ディスプレイに網目模様が見えてしまう問題)などを感じることはありませんでした。


(Pico Neo 3 Proのコントローラー。前機種の「Pico Neo 2」のコントローラーは磁気式だったが、Pico Neo 3 Proでは光学式にチェンジしている)

続いて、ゲーミングPC&SteamVRをWifiルーター経由で無線ストリーミングし、VRゲームにチャレンジ。コントローラーをライトセーバーに見立て、腕を振り回してプレイするリズムゲーム「Beat Saber」をプレイしてみたところ、動作自体は問題なし。素早い動作をする際は違和感が多少ありましたが、無事にノーマルレベルの楽曲をノーミスクリア。ゲーミングPCからの無線ストリーミングでも遅延などの違和感はありませんでした。Pico Neo 3 ProがVR研修や体験学習などを想定していることを鑑みると、コントローラーを激しく動かすような用途のものは決して多くないでしょう。これらを考慮すれば、十分に満足できる精度です。

なお、別途本機を体験した編集長のすんくぼ(久保田瞬)曰く、「初代Pico Neo(2017年発売、位置トラッキングのみ搭載でハンドコントローラーなし)は位置トラッキングの精度が大きな課題だったが、その次のPico Neo 2(2020年発売)ではかなり改善した。他方でNeo 2はOculus Questと比べた際、今度はハンドコントローラーの精度が気になった。そしてついに、Pico Neo 3 ProでOculus Questと遜色ないクオリティにまで追いついた印象がある」と評しており、これまで一体型VRヘッドセットを世に送りだしてきたPicoのハードウェアメーカーとしての集大成であるとも言えそうです。


(2020年1月、ラスベガスで開催されたCES 2020にて体験した前モデル「Pico Neo 2」のコントローラー。磁気式でトラッキングそのものはおおむね良好だったが、ときおり違和感を感じることもあった。今回のPico Neo 3 Proではぐっと改善されている)

VR体験の敷居を下げる「同時再生システム」とは?

スペック等もさることながら、今回の「Pico Neo 3 Pro」の体験会で何より驚かされたのは、ビジネスアシスタント機能「Pico同時再生システム」でした。これは複数台のVRヘッドセット本体を一括で管理する際に利用できるシステムです(※ローカルネットワークシステム内に限定)。

例えば10台以上の「Pico Neo 3 Pro」で同じ動画を視聴する際、通常それぞれのヘッドセットで個別に動画を再生する必要がありますが、このシステムを使えば、PCのの管理画面で見せたい場面を選び、一斉に動画を見てもらえるようになります。複数人のユーザーがわざわざ他の人とタイミングを合わせなくも、同じタイミングで同じものを見られるようになるのです。

さらに体験中のユーザーの目線の動きをトラッキングできるようにもなっているため、「今、どのヘッドセットを使っている人が何に目線を向けているのか」を読み取ることも可能。目線の動きに合わせて表示するコンテンツを変えることもできます。例えば、教育現場や研修などで、体験者側が何に興味を持っているのか等を視線から把握することもできるでしょう。

また、VRヘッドセットを装着してすぐにコンテンツがはじまるように設定できる「自動再生システム」も用意されているとのこと。体験者がVRヘッドセットに慣れていない場合でも、アプリの立ち上げや設定を行わず、すぐにコンテンツを体験できるようになります。「装着したその瞬間からコンテンツがスタートし、操作や設定が必要ない」このシステムは、VR体験の敷居を大きく下げてくれるのではないでしょうか。

さらにメニュー画面やアプリのデザインなどを好きにカスタマイズできる機能もあり、企業それぞれの求めるニュアンスや雰囲気に合わせた視聴環境を作ることも可能です。こうしたシステムによる一括管理のしやすさは、今後法人向けデバイスを選択する上で重要なポイントとなりそうです。

日本企業のプラットフォームサービスを提供予定

今回の取材では、日本のPsychic VR Labが展開するプラットフォーム「STYLY」を利用したバーチャルツアーが実施されました。遠方にいるスタッフの案内を受けながら、「STYLY」上にアップロードされたバーチャル空間を見て回ることができます。「STYLY」を活用することで、バーチャル空間内での解説つき美術館ツアーや、リアルタイムでのトークイベント等も十分可能でしょう。

またアルファコードがPico Neo 3 Proに提供するサービス「Blinky」は、ミュージカルやコント、ライブといった舞台系のコンテンツが充実しているプラットフォームであり、学校でのVR観劇体験等での利用が考えられます。「Blinky」の関係者の方に話を聞いたところ、「すでにPico Neoシリーズでは、企業の安全教育や介護施設での体験学習、パワハラ研修などに利用されています」とのこと。今後も同様の方向性での需要が期待できそうです。

日本と中国で異なる展開へ

具体的な企業名はこそ明かされなかったものの、既に「Pico Neo 3 Pro」はさまざまな業種の企業から相談を受けているとのこと。日本国内ではビジネス向け販売を今後も推し進めていく予定です。

一方、本国にあたる中国ではコンシューマー向けも発売されており、売上は発売後14時間で約1000万元(約1億7,000万円)に達するほど。VRヘッドセットを使用したeスポーツイベントも主催しており、中国本社のCEOは「12ヵ月~18か月で100万台の売上を目指す」と語ったとのこと。現時点では日本でのコンシューマー向け展開は予定していないため、まずはビジネス利用での展開がさらに促進されることを期待したいところです。

「Pico Neo 3 Pro」の日本語公式サイトはこちら

執筆:ゆりいか


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