Home » Nianticの「Peridot」を先行体験。成長していく「AR×AI×位置情報」ゲーム


業界動向 2023.05.02

Nianticの「Peridot」を先行体験。成長していく「AR×AI×位置情報」ゲーム

Nianticは5月9日から、新しいゲームである「Peridot」をスタートする。今回はPeridotの開発者やNianticのジョン・ハンケCEOにお話を伺いつつ、先行体験をすることができた。その内容についてお伝えしよう。

ARとAIで「現実に住む」ペットを実現

Nianticというと「Pokémon GO」や「Pikmin Bloom」、「Ingress」などの位置情報ゲームが思い出される。先日発表された「Monster Hunter Now」も、プレイフィールこそ異なるが、同じ技術インフラを使ったものだ。

では、「Peridot」はどうか? 実は、ちょっと方向性が異なるのだ。解説の前に、以下の動画をご覧いただきたい。

(取材中の様子を動画で撮影・編集したもの。周囲の話し声等も入っているため、音声をカットしている点はご了承いただきたい)

画面の中央にいるのがPeridot、自分が飼うペットだ。床や机の上をちゃんと歩いていることにご注目いただきたい。窓のヘリや机の上をタップすれば、そこにちゃんとジャンプして乗る。指で地面などに円を描くと、その部分を掘ってアイテムを探してきたりもする。

「Peridot」ではカメラを多用する。家の中でも外でもいいのだが、周囲の風景にスマホのカメラを向けると、そこに写っている風景の平面や高さ、構造を認識し、その中に「自然とPeridotがいる」ように表示してくれるわけだ。


(机の上や草の陰など、ちゃんと「Peridotがそこにリアルに存在する」ようにCGが描かれるのがポイントだ)

さらに、Peridot自身も周囲に「なにがあるか」を認識している。木を認識して登ったり、水場に入ったりするようだ。

従来の「ペット育成ゲーム」は、あくまで「用意されたバーチャルな世界の中にあるもの」を中心にインタラクションしてきた。例外は「撫でる」といった操作くらいだろうか。

しかし「Peridot」はそれらとは異なり、現実の世界の一部をPeridotが認識し、プレイヤーと暮らす。別の言い方をするなら、「仮想の世界にいるPeridotが、現実世界と関わりながら生きる」ゲームになっている。

「1人1人異なるPeridot」を育てる楽しみ

Peridotは卵から生まれるが、見た目や性格などの「遺伝情報」は1匹ずつ違う。住んでいる地域による差はない。あなたが育てているPeridotは、文字通り「世界に1匹だけ」の存在だ。育つ段階で個性が生まれていき、さらに、別のPeridotと出会って交換・交配することで、新しい遺伝子を持ったPeridotが生まれていく。これも1つの楽しみとなっている。

しかし、実は世界にはまだほとんどPeridotはいない。「Pokémon GO」などでは、ポケモンは時間を経るに従って増えていく存在だった。一方「Peridot」では、プレイヤーが育てているPeridotだけが世界にいる。サービス開始前の現状は、関係者が育成しているものを除くと、ベータテストが行われていたシンガポールくらいにしかいないという。

だから、初期には街中にはあまりPeridotがいないかもしれない。だが、公園などに「Peridotが集まりやすい場所」が設定されており、他のプレイヤーが育てているPeridotが集まっていることもあるようだ。

「Peridot」のUXデザイナーである、Nianticの篠原大河氏は、「ちょっとしたチャレンジで、僕たちにもどうなるかわからない」という。同じくアートシニアマネージャーのディビッド・ホーリン氏も、「みんながそれぞれ違うPeridot、世界で1匹のものを育てている、というのが魅力。自分の好みのPeridotを目指して欲しい」と話す。


(左はNianticのディビッド・ホーリン氏、右は同社の篠原大河氏)

全てのPeridotが違うということは、自分のPeridotへの愛着が湧きやすい、ということでもある。ということは、将来的に「自分だけのPeridotの遺伝子を反映したぬいぐるみやフィギュア」も作れるのでは……? と彼らに質問すると、「そうなんです! 将来的には、そういうこともやってみたいと思っています」と話した。

筆者が体験した「Peridot」にも、自分の飼っているPeridotの姿を表した「カード」のようなものがある。ここから画像やスクリーンショットにして、SNSでシェアして楽しむ……といったこともできるが、今後「Peridot」側で何らかの機能が追加される可能性も十分あるだろう。

AI×ARのショーケースとしての側面も

ここまで挙げてきた特性から、Nianticは「Peridot」を、既存の位置情報ゲームとは少し違った位置付けで捉えているようだ。同社のジョン・ハンケCEOは次のように話す。

「どのように現実世界にデジタルを融合させるのか、『Ingress』ではユーザーの想像力に頼りながら可能性を模索し、何を現実に投影できるのかを学び、実現してきました。ARとAI、デジタルが身の回りにある世界をどう理解し、我々はどう投影させるべきなのかの挑戦を繰り返してきたのです。Peridotでは、そんなAIとAR技術の魅力を、キャラクターを通じて感じて欲しいと思います」

Nianticは、カメラで取得した画像から要素を認識・分類する「セマンティックセグメンテーション」技術の開発を推し進めている。Peridotが床や壁、道路、ひいては木や水場を認識するのも、このセマンティックセグメンテーションによるところが大きい。

セグメンテーションはAIを構成する技術のひとつであり、「Peridot」はAIとARを組み合わせた体験のショーケースだと言うこともできるだろう。もちろん他のAR体験でも使われているが、Peridotというキャラクターを通して体験することの意味は大きい。

篠原氏も、「ARというとまだ『特別なもの』『怖い』という認識があるように思います。『Peridot』はそう思われないように、というところからスタートしました」と話す。


(Nianticのジョン・ハンケCEO)


(ハンケCEOも、自分で育てている最中のPeridotを見せてくれた)

前述のように、「Peridot」は高度なAR技術とAI技術を駆使しているが、使い方はあくまで「自然なもの」を目指している。

ではパフォーマンスや処理についてはどうだろうか? ホーリン氏いわく、「ゲームの中にはパフォーマンス設定があり、スマホの性能に合わせて切り替えられる」。以下のように、Peridotが動作するスマホには制限がある。

・推奨スマートフォンスペック
iOS: iPhone 8+ or above on iOS 14 or higher.
Android: 以下のGPUチップセットを搭載しているもの
Adreno 730
Adreno 660
Adreno 650
Adreno 640
Adreno 630
Mali G78
Mali G77
Mali G76
Mali G72
Xclipse 920
およびSamsung Note 9 以降のもの
Galaxy S9 or above
Pixel 6 or above
※iPadやタブレット、Wi-Fiのみの設定のものは利用不可。

現状はスマホのスペック的な制約もあり、Peridotは「自分の周り」のことしか認識しない。AIでの物体把握やセグメンテーションについても、限界があることは間違いない。しかし今後、徐々に技術は進化していく。それを取り込み、より「生きている」感の強いペットへと、Peridotは進化していく。そうした進化を楽しむのもまた「Peridot」の楽しみ方のひとつ、と言えそうだ。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード