2月20日、米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが「バーチャル空間におけるプライバシー保護」に関する論文を発表しました。本論文は「VRゲーム『Beat Saber』のモーションデータから、94%以上の精度でユーザーを識別できた」との研究結果を明らかにしています。
VRゲームのプレイデータから、高精度で個人の特定が可能
今回発表された論文は「Unique Identification of 50,000-plus Virtual Reality Users from Head and Hand Motion Data(頭と手のモーションデータから、5万人以上のVR利用者を一意に識別する)」という研究結果を取りまとめたものです。
本研究では、VRリズムゲーム「Beat Saber」において、5万人以上・250万件以上の、完全に匿名化されたデータを分析しました。研究チームは「わずか100秒間のモーションデータを使って94%以上の精度でユーザーを特定可能、2秒間のモーションデータでも、およそ半数を特定できた」ことを明らかにしています。
特定に使用したデータは、各ユーザーの頭と両手(コントローラー)の3点をトラッキングしたものです。論文によると「このデータから身長、手の大きさ、性別など、ユーザーに関する様々な個人的特徴を推測できる」とのこと。またプレイ回数が5回以下のユーザーは特定が困難である一方、100回以上のプレイ回数を持つユーザーは99.5%以上の精度で特定可能です。
本研究チームを率いる大学院生のVivek Nair氏は「基本的なモーションデータを残しながらバーチャル空間を動き回ることは、訪れた全ウェブサイトで指紋を共有しながらインターネットを閲覧するようなものだ」とコメントしています。
具体的なプライバシー保護の方法は?
今回の研究でアドバイザーを務めたLouis Rosenberg博士は、モーションデータの保護に関する2種類のアプローチ方法を、メリット・デメリットを補足しつつ、下記の通り紹介しています。
・外部サーバーがユーザーのモーションデータを取得する前に、モーションデータを加工して保護するアプローチ。ただし、これによりトラッキング精度は低下すると考えられるため、「Beat Saber」に代表されるようなゲームアプリでの没入感は希薄になるデメリットがある。
・プラットフォーマーが長期にわたってモーションデータを保存・分析することを防ぐ規制を行うアプローチ。一方、これはVR業界の反発を受ける懸念がある。
また同氏は「カリフォルニア大学バークレー校の研究者らは、バーチャル空間での没入感を損なわないユーザーのモーションデータの保護技術を研究しています」とも語っています。
バーチャル空間におけるプライバシー保護の対策は、“メタバース”が広く普及する上で欠かせない論点です。今後の技術開発や規制方針など、各デバイスメーカーや規制当局の動向に厳しい視線が向けられています。
(参考)VentureBeat