Home » テレビとVR・ARが融合した未来を体験。NHK「技研公開2019」レポート


業界動向 2019.06.05

テレビとVR・ARが融合した未来を体験。NHK「技研公開2019」レポート

NHK放送技術研究所は2019年5月30日~6月2日に、新たな放送・サービスを実現するために同研究所が行っている研究内容を広く一般に公開する、「技研公開2019」を開催しました。ここではVR・AR関連の展示を中心に、イベントの模様をレポートします。

8Kカメラ3台で撮影された高精細映像がVRの未来の姿を描き出す

東京都世田谷区にあるNHK放送技術研究所(技研)は、放送の進歩発達に必要な技術の調査・研究を行っている研究所です。最新の放送技術というと、2018年末から本格的な放送が開始された4K8Kテレビ放送のイメージが強いですが、技研で研究されている内容はそれだけに留まりません。

技研ではインターネットの活用やAIによる効率的な番組制作と並んで、より臨場感・実物感の高いコンテンツを実現する「リアリティー・イメージング」を、研究開発の柱の1つとして掲げています。その中でも3DテレビやAR・VRを活用した放送は、2030年~40年頃に普及が予想される未来のメディアとして、研究開発が進められています。

今回の「技研公開2019」でも、AR・VRや3Dテレビは入場して最初に訪れるエントランスから大がかりな展示が行われており、来場者に強くアピールされていました。

まず目を引くのが、高さ4メートル、開口部の長さが11メートルに及ぶ円筒型の巨大スクリーンに投影された、高精細な没入型映像です。こちらは、8Kカメラ3台を放射状に並べて撮影された視野角180度の映像を、4Kレーザープロジェクター8台を使用して投影しています。人間の身長の2倍以上もある巨大サイズに投影されても、映像の荒れや継ぎ目を一切感じさせることのないクリアな画質になっているのは圧巻でした。

また未来の家庭用VRデバイスとして、すでにおなじみのHMDタイプと並んで、ドーム型VRデバイスのモックアップも展示されていました。2030年のリビングルームにこのような製品が登場するかどうかはまだ分かりませんが、新たなVRデバイスの提案としては興味深いものだと感じました。


テレビとARの融合によりリビングに人気タレントが等身大で登場!?

今回の技研公開で特に力が入っていると感じたのが、AR関連の展示です。その内容は、ARグラスをかけた状態でテレビを見ると、出演者が等身大の実写映像でリビングに現れるというもの。会場にリビングを再現したブースでは、NHKの人気番組「みんなで筋肉体操」の武田真治さんがARでリビングに登場し、目の前で筋肉体操を披露するというデモンストレーションが行われていました。

さらに番組の出演者だけでなく、遠隔地にいる家族や友人も等身大で登場して、空間を共有しながら一緒にテレビを視聴できます。こうしたARの3D映像は、インターネットなどを介してリアルタイムに伝送されて、番組と同期が取られるとのことです。

ARグラスを用いた視聴スタイルはデモンストレーションのみでしたが、タブレットの画面を使用したAR視聴は、来場者が実際に体験することができました。こちらの体験内容は、人気タレントの橋本マナミさんが出演している番組にタブレットを向けると、等身大の橋本マナミさんがリビングに現れるというものです。

タブレットを向けたまま自分が前後左右に移動しても、本人があたかもその場にいるかのように正確に合成されていました。またテレビ番組の内容と同期して橋本マナミさんの衣装が次々に変化するのも、非常にインパクトがありました。

こちらの展示や体験は、ARの活用スタイルとしてはそれほど珍しいものではないものの、人気のタレントさんやNHKの人気番組を用いて、一般の人も興味を引く分かりやすい内容になっています。このあたりはNHKの研究所ならではの特色だと言えるでしょう。

裸眼立体視を可能にする「インテグラル3D映像」に関連した展示も

今回の技研公開では、「インテグラル3D映像」と呼ばれる裸眼立体視のシステムに関連した展示が、いくつも用意されていました。インテグラル3D映像システムは、多数のレンズが薄い板状に並んだレンズアレーをディスプレイの前に取り付けることで、裸眼での立体視を可能にする技術です。

会場では、ディスプレイの上にあるカメラによって視聴者の瞳の位置を検出し、視点の位置に合わせて立体視が可能になる視域を動的に移動させることで、より高品質な立体映像を表示するシステムを体験できました。

さらに、2台のカメラでスポーツ選手のモーションを取得してCGキャラクターにリアルタイムで反映させ、インテグラル3D映像でアングルなどを自由に変更して見ることができるというシステムも展示されていました。

このほか、立体映像の奥行き情報をオペレーターがスライダーを使って制御することで映像の中のどの被写体の立体感を強調するかを変更する技術など、3Dテレビの表現技術については技研でもさまざまな研究が行われているようです。

触覚インターフェースから会話ロボットまで、多彩な研究が未来のテレビを変える

AR・VRや3Dテレビ以外にも、技研では多岐に渡る研究が行われていることを、この技研公開で知ることができました。フルスペック8K映像と22.2ch音響を使った生中継の伝送実験や、8Kカメラのさらなる性能向上といったものはもちろん、「こんなことまで!?」と思うような意外なものもありました。

超大容量・高転送速度のデータ記録を可能にするホログラムメモリーは、テクノロジーに興味のある人なら誰しも気になるところでしょう。技研では大容量を必要とする8K映像の長期保存技術として、このホログラムメモリーの研究を行っています。

また、スポーツ番組に触覚を体感できるインターフェースを加えることで、視覚や聴覚に障がいを持つ人でも試合の状況や臨場感を味わえる、ユニバーサルサービスの研究も披露されていました。

こちらは球技の中継映像をリアルタイムに解析してボールの3次元軌跡データや競技の音声データから力の向きや大きさを推定し、振動を人工的に合成するというもの。ユニバーサルサービスだけでなく、VRなどに臨場感を付与する技術としても応用できそうです。

さらには、一緒にテレビを視聴することで番組に関する会話を楽しめるロボットといった、ちょっとユニークな研究も。ロボットが番組の映像や音声からキーワードとなる言葉をリアルタイムに抽出して話しかけてくることで、一緒に見ている家族や友人と会話するきっかけが生まれるのだそうです。

こうして技研の研究内容を見てみると、放送やテレビに関連する技術というだけでも、じつに多彩な研究が行われていることに改めて驚きます。今後、テレビがVR・ARやインターネットと融合していくことで、これらの研究は放送だけでなく、私たちの生活をも変えていくものになるのではないでしょうか。


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード