2017年12月27日、Mogura VR主催イベント「『VR業界の2017年を総括!』~VR/AR/MR業界振り返りナイト&コンテンツ体験会~」が株式会社アカツキにて開催されました。同イベントでは、主にビジネスと施設型エンターテインメントを主題とした2つのセッションが行われました。本記事では、ビジネス向けのセッション『ビジネス領域としてのVRの2017年を振り返る』をレポートします。
セッション登壇者はHTC Nippon Director, Sales Operation, VIVE JAPANの西川美優氏と日本マイクロソフト テクニカルエバンジェリストの高橋忍氏の2名。モデレーターはMogura VR編集長の久保田瞬が務めました。
VR元年の2016年よりも売れた、2年目のHTC Vive
VR元年と呼ばれた2016年に一般販売した高性能VRヘッドマウントディスプレイ「HTC Vive」。VRが大きな話題を集めた2016年よりも、発売から2年目となる2017年はさらなる出荷実績を拡大し、1年目よりも2年目の方が出荷されたとのこと。しかし、HTC Viveは軽量化などのマイナーアップデートはあったものの、大きなモデルチェンジはされませんでした。ではなぜ「2年目の方が売れた」のかという疑問に対して、西川氏は今まさにVRの市場は広がっている状況であり、伸び代のある市場環境であることを理由の1つに挙げました。
また西川氏は「2016年はPlayStation VRの発売時にHTC Viveの販売も伸びました。2017年もWindows MRデバイスの発売時にHTC Viveの販売が伸びました。新しいプレーヤーが参入してもカニバらない(※編集部注:市場を奪い合わない)、相乗効果があった」と興味深い事実を明かしました。新規参入や新しいトピックスによって、VR市場全体の認知度や活気が上がることを指摘しました。
MSの戦略は「HoloLensはエンタープライズ、Windows MRはコンシューマー向け」
日本マイクロソフトの高橋氏は、HoloLensが発売から1年も経っていないことを、まず指摘しました。そして「当初の予想以上に良いスタートを切れた」と高橋氏。開発者を中心に、日本国内でHoloLensが受け入れられている現在の状況が話されました。
日本マイクロソフトの高橋氏。右手に持つのはHoloLens。
マイクロソフトは、HoloLensの他にWindows MRに対応したサードパーティー製のMRヘッドセットも、 HoloLensと同じ2017年に国内発売しました。Windows MRのヘッドセットは、ヘッドセットに付いたカメラでインサイドアウト方式によるトラッキングが可能な点、要求するPCスペックが比較的に低い点、高機能なヘッドセットながら比較的安価な点などが特徴です。
高橋氏によると、HoloLensはエンタープライズ向け、Windows MRはコンシューマー向けのデバイスと、同社の戦略が明確化されているようです。しかし、Windows MRをエンタープライズの市場に広げるために、日本企業を含めた外部の認定パートナーのネットワークを構築することの重要性も指摘されました。実際に日本メーカーでは富士通がWindows MRヘッドセットを販売するなど、すでに日本メーカーの動きも現れている状況です。
予想通りにHTC Viveの企業活用が進んだ2017年
エンタープライズでのVR活用で言えば、現状はHTC Viveが使われている事例が日本国内では多く見受けられます。その理由として「ルームスケール(高精度のトラッキングにより、部屋サイズを自由に動き回れること)が大変に評価されている」と西川氏。また、HTCが他のVRヘッドセットに先駆けいち早くエンタープライズ向けにサポートを含めた動きをしたことも功を奏したようです。
西川氏は「2017年はエンタープライズがくるだろうと思ったら、予想通り来た」と話し、2017年は、1社の企業からこれまでよりも巨額な見積りがきた事例が出ていること、活用事例としてHTC側でも事前に知らされず企業側が自力でVR活用を試みている現象が起きていることを明かしました。
HTC Viveを導入した企業からすると、HTC Viveを使えば、外部環境や製品を実寸サイズで再現でき、VR体験者の動きを正確にトラッキングできることから、シミュレーションに活用される機会が多いようです。
企業独力のVR活用では、研究開発チームがHTC Viveを使った取り組みを行っており、その研究結果をどのように製品サービスと現場に活用していくか模索している段階が多いとのこと。特に中部地方などの製造メーカーを中心に大きな動きがあると指摘されました。高橋氏も、日本企業は表に出さないが社内活用で新しい技術を使うケースは多い、と同じ考えを示しました。
手術などの現場に導入しやすいのが HoloLensの強み
さらに西川氏は、HTCの開発スピードの早さ、フットワークの軽さも語られました。Viveトラッカーは、コントローラーを足に装着して活用するユーザーなどの事例に注目をした台湾の開発チームが、約3ヶ月程のスピードで開発したとのこと。西川氏は、HTC本社が日本ユーザーの使用方法に注目していることも話しました。
HTC Viveはルームスケールによる正確なトラッキング技術がエンタープライズで高く評価されているとのことですが、HoloLensの場合は作業現場への導入の容易さが評価されているようです。インサイドアウト方式によるセンサーレスでトラッキングができる点、ケーブルレスでヘッドマウントディスプレイだけで動作可能な点など、現場での使いやすさがあげられました。
一例として、高橋氏は外科手術でのHoloLensの活用をあげました。手術現場への活用では、CTスキャンした患者の3Dデータを使い、医者の先生へのサポートを行ったとのこと。高橋氏も手術室に入って現場を見たとのこと。高橋氏は、手術などの作業をする場面でも、インプット操作ができることがHoloLensの強みと指摘。また、医療の世界でHoloLensに積極的な方々もいるとしましたが、HoloLensは医療機械として開発した訳ではないので、10年単位での長期保証は難しいなど、医療関係の方々に理解をもらうことも必要だとしました。さらに、理解という意味では、医学生からHoloLensが広がっていくこともあり得るだろうとしました。
VR開発の知見はMR開発に転用できる
そして、日本のエンタープライズに新しい技術が広がる上で重要なのは“導入事例”とのこと。HoloLensでも、早い時期に航空業界でJALがHoloLensを導入したニュースの影響があったようです。
また、HoloLensでは、VR開発の知見が活かされたことも普及の一端になったようです。HoloLensのアプリケーションは、その90%がゲームエンジンのUnityで開発されたと明かされ、UnityでのMR開発はVRの場合とほとんど変わらず、VRで形成された開発の知見やコミュニティー、エコシステムが上手く機能していることが指摘されました。新しいプラットフォームが出てきても、それまでの知見を活かせる環境になったこと、VR開発者コミュニティと一緒になってAR/MRの開発を盛り上げられることを、高橋氏は「印象的だった」と話しました。
海外展開については、HTCの一体型VRヘッドマウントディスプレイVive Focusの話題に。西川氏はVive Focusは中国市場向けのデバイスと話し、その理由を「(中国が)FacebookとSONYの参入しにくい市場である」と説明。また、一体型なのでPCの費用が不要で初期投資が小さい点も「中国市場に適している」と同社の中国市場の戦略について述べました。
中国での発表直後にVive Focusを体験中のMogura VR編集長の久保田。
ITコンサルがVRを扱えば、エンタープライズのVR活用はさらに広がる
セッション内で、西川氏と高橋氏は2017年の展開を自己採点するとしたらという質問に対して、両名共に100点を超える高い自己評価を与えました。では、2018年はどのような動きがあると予測されているのでしょうか。
西川氏は「2018年の中盤から後半にかけて重厚長大な産業でのVR活用が出てくるだろう」と指摘。そのためには、ITコンサルタント、ITベンダーやSIerなどがVRサービスを展開することが必要だろうとし、「(2017年までは)実際にVRサービスを手を動かして展開するITコンサル企業がいなかった」が、この分野が動き出すことで、エンタープライズへの導入が広がっていくと考えを示しました。
高橋氏は、MRデバイス自体が進化していくための環境が整っていくことを指摘。HoloLensやHTC Viveなどのヘッドマウントディスプレイは、CPUの処理能力、バッテリーの密度、カメラやセンサーの性能、パネルの生産性など、周辺の様々な各パーツ性能の影響を受けて進化していきます。MRヘッドマウントディスプレイのパーツは、スマートフォンと重なるものが多く、スマートフォンの性能が毎年向上していく今の環境は、MRに対しても少なからず影響していく可能性を指摘しました。そうしたメーカー、コンテンツ開発者とサービス提供者を含めたエコシステムが発展することで、市場が形成されていくだろうと話しました。
コンシューマー市場と違い、エンタープライズ向けの展開は動向が必ずしも発表される訳ではなく、かつ導入自体もやや時間が掛かってしまいますが、2017年は着実にエンタープライズ向けのVR/MRの進展があったことが語られたセッションとなりました。2018年にさらなるVR/MRの導入がエンタープライズで進むのか、注視していきたいところです。