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Meta Quest Pro 2022.11.02

これはVRデバイスではない——22万円超の新型“XR”ヘッドセット「Meta Quest Pro」の真価を探る

2022年10月12日、Metaからビジネス向けデバイスMeta Quest Proが発表されました。「Meta Quest Pro」は、かつてはコードネーム「Project Cambria」と呼ばれていたMetaの新デバイス。全世界で最も流通しているであろうVRヘッドセット、「Meta Quest 2」を送り出したMetaの最新デバイスであり、多くの注目を集めています。

今回、MoguraVR編集部は、発売直後の「Meta Quest Pro」を購入し、レビューを行いました。本記事では、Meta Quest Proの全容とその真価を探ります。

外観チェック:よりスリムに、しかしがっしりと

まずは「Meta Quest Pro」本体、ヘッドセット部分を見ていきましょう。

側面から見た場合、Meta Quest 2と比較して正面部が「薄く」なっていることが一目瞭然。パンケーキレンズの採用によって、かなりスマートな姿になりました。また、他のVRヘッドセットで採用されるケースの多い「頭頂部を通って固定するストラップ」はありません。

Meta Quest Pro専用の充電ドックに配置した際も、コントローラーが固定用ヘッドバンドの内側に収まっており、「省スペース」な感はあります。

トラッキングやパススルー用のカメラは正面に3基、左右に1基ずつ、計5基確認できます。USBポートは、左側にType-Cが1つだけ存在します。

ヘッドセット部が薄くなったことで、華奢な印象も受けますが、手にとってみると意外とがっしりしているように感じられます。そして、それなりの「重さ」も腕に伝わってきます。

重さを計測してみると、本体重量は720.5gでした。参考として「バッテリー付きのエリートストラップ」を装着したMeta Quest 2は771gであり、これに準ずる重さです。そして、VRヘッドセットの中では、700g台は比較的「重い」部類に入ります。

装着チェック:軽く”感じる”が、重さはのしかかる

続いて、Meta Quest Proを実際に装着してみました。装着方法は一般的なVRヘッドセットと同様ですが、固定するポイントは「額の上部」「後頭部」の二点。頭部全体を覆うように装着するタイプのVRヘッドセットとは異なり、固定方法にややクセがあります。

上術の通り、本体重量720.5gはVRヘッドセットとしては重め。しかし、いざ装着してみると「思ったよりも軽い」と感じます。理由の一つは、「PICO 4」や「VIVE Focus 3」のように、本体の前後で重心バランスが取れているためです。これは正面部が薄くなったことによる恩恵でもあります。

そしてもう一つは、顔面に直接接触しない構造にあると思われます。Meta Quest 2のように顔の頬骨などに負荷がかかりにくいため、「重い」と感じる要素が減っているのでしょう。

頭頂部の支えがなく、前後の二点だけで支える構造は、一見すると不安定に思えます。しかし後頭部クッションがかなり大きく、広い範囲で後頭部にフィットするため、二点だけでの固定が成立しているのではないかと推測されます。

また、額側のクッションは近くのダイヤルでフィット感を調節できる構造になってます。類似する構造は、VRヘッドセットでは「Varjo Aero」でも見られます。額と後頭部でそれぞれ適切にフィットさせることで、うまく重量分散が行われていると考えられます。

とはいえ軽く“感じる”とはいっても、700gを超えるものが冠のように乗っている状態では、着実に負荷がかかります。Meta Quest Proのバッテリー持続時間は最大2時間と公称されていますが、この重量も鑑みると2時間は「適切な時間」だと思われます。

さらにMeta Quest Proは顔面の左右と下部は塞がれておらず、オープンな状態となっています。これは「HoloLens 2」や「Nreal Air」のような、周囲の風景と情報が混ざり合うことを求めるAR(あるいはMR)デバイスならではの設計です。このことから、「Meta Quest Pro」は「VR」ではなく「VRかつAR」的な状態を志向していることがうかがえます。

とはいえ、このままでは周囲の光景が入りっぱなしになるため、「Meta Quest Pro」にはVR体験用の遮光ブロッカーも同梱されています。

遮光ブロッカーはマグネット式で簡単に取り付けできます。これがあれば左右からの外光は遮断できるため、VR体験の没入度はかなりマシになります。しかし下部は完全オープンなので、より本格的なVR体験用には別売の「フル遮光ブロッカー」が必須となるでしょう。

現実に“バーチャル”が現れる――「Meta Quest Pro」から見える世界

さて、Meta Quest Proから見える世界とはどのようなものなのか。表示モードは、Meta Quest 2と同様のバーチャル環境だけを表示するモードと、パススルー表示される周囲の現実世界にバーチャルなUIなどを重ね合わせるモードの2種類が存在します。


(画像:Meta

特筆すべきは後者。Meta Quest Pro越しに見える映像と、左右および下部から見える現実世界が、シームレスにつながっているように見えるのです。言語化するならば、「メガネ(型のゴーグル)の向こう側に“バーチャルなもの”が見える」とでも呼ぶべき体験です。顔面に接触しない構造も相まって、「中を覗く」というより「ディスプレイの先に見える」という見え方になります。ディスプレイの向こう側にある“バーチャルなもの”は、適切な座標に表示されます。標準のWebブラウザを使ってみても、現実空間上にブラウザページが表示されて、好きな位置へ移動しても同じ位置に存在し続ける様子が見えます。

「ディスプレイの上にバーチャルな情報やオブジェクトが映る」のではなく、「ディスプレイ越しの風景の上に、バーチャルな情報やオブジェクトが現れる」。さらにHoloLens 2とは異なり、これをVRヘッドセット並みの視野角で体験できるところに「Meta Quest Pro」の真価があると言えるでしょう。

一方、カラーパススルーカメラで表示される“風景”の質はいまひとつ。簡潔に解像度をお伝えするのであれば、「文字はほぼ読み取れない」レベルです。また蛍光灯下では映像が常にチラつくなど、環境の影響も受けやすいようです。パススルー映像の解像度と安定性は、直近で出たデバイスで言えば「PICO 4」の方が何枚か上手です。

ただし“遠近感”は「Meta Quest Pro」の方が適切に表現できています。「PICO 4」のパススルーは単眼カメラで行っているため、左右の視差が表現されないのが最大のネック。常に「あらゆるものが、見えている映像と比べて少しズレる」「立体感が感じられない、感じにくい」状態になります。一方の「Meta Quest Pro」は2眼以上でパススルー映像を表示しているためか、肉眼で見ているときとほぼ同じ感覚で物体を認識することができます。ヘッドセットをつけたまま物をつかんだり、歩いたりするといった用途では、「Meta Quest Pro」の方が適切と言えそうです。

Meta Quest Touch Pro コントローラー:実は「これだけ買う」も選択肢

新コントローラー「Meta Quest Touch Pro コントローラー」もチェック。Meta Quest Proに同梱されていますが、単品(ペア、左右片方ずつ等)での販売も行われており、将来的にはMeta Quest 2との連携も予定されている新コントローラーです。


(左がMeta Quest 2のコントローラー、右がMeta Quest Touch Proコントローラー)

全体的な形状や手のなじみ方はMeta Quest 2のコントローラーと似ています。ただし、あのなじみ深いリング状のパーツは消滅。また電池ではなく充電式になったためか、少しだけ重さを感じます。

計測してみると、Meta Quest Touch Pro コントローラーは164.6g。電池を抜いた状態のMeta Quest 2のコントローラーが125.5gであり、単三電池が1本およそ23g前後であることを考えると、15〜20gほど重くなっていると言えるでしょう。

コントローラーをよく見るとカメラが3基セットされていることが確認できます。これはコントローラー内蔵のトラッキング用カメラであり、これまでのコントローラーと違ってコントローラー単独で自己位置推定を実現していることが「Meta Quest Touch Proコントローラー」最大の特徴です。


(Meta Quest 2のコントローラーではこのあたりでトラッキングがロストする。ヘッドセット本体のカメラでコントローラーの位置を追跡しているのだが、頭の後ろに持っていくと、カメラが追跡できる範囲を出てしまう)


(Meta Quest Touch Pro コントローラーは、頭の後ろに持っていってもトラッキングがロストしない)

今回はMeta Quest Touch Proコントローラーの性能を「VRChat」にて試してみました。その違いは両手を頭の後ろに持っていけば一目瞭然です。Meta Quest 2ではトラッキングできない範囲でも、正確にトラッキングを行うことができます。トラッキング精度もかなり良好で、いろいろと試してみたものの、少なくとも「VRChat」の体験中は両手のトラッキングが失われることはありませんでした。

個別に購入した場合、Meta Quest Touch Proコントローラーは1セット37,180円。これは決して「安い」とは言えない価格であるものの、それに見合うだけのトラッキング精度が手に入ります。既にMeta Quest 2を一式持っているユーザーでも、「Meta Quest Touch Pro コントローラーだけ買う」はかなり“アリ”な選択肢です。

総評:新しい「なにか」を生み出すための、新しいXRデバイス

あらためて断言しておくと、ビジネス向けでありAR/MR的なものをも志向する「Meta Quest Pro」は、一般消費者向けでありVRを志向する「Meta Quest 2」の後継機ではありません。価格も22万8,000円(米国では1,500ドル)と、Meta Quest 2からは大きくかけ離れています。視界を完全に覆って没入できる「Meta Quest 2」と比べると、デフォルトでは周囲の様子が漏れてしまう「Meta Quest Pro」は、そのままVR用途で使うだけでは「上位互換」ではありません(フル遮光ブロッカーを買えば別ではありますが)。

しかし「VRにも対応しながら」「VRと同等の視野角でAR/MR的なコンテンツにも対応できる」「一体型デバイス」という点は強力な個性です。「Meta Quest Pro」とは、言うなればMeta Quest 2とHololens 2、あるいはMagic Leap 2の間に生まれた子供とでもいうべきXRデバイス。あるいは「Hololens 2やMagic Leap 2の後継機」と呼ぶべきかもしれません。

「現実世界に”バーチャルなもの”が現れる」インパクトを最も強く伝えうるデバイスである反面、パススルー映像の解像度の低さ、工夫があるとはいえ実際には重めの本体、そして2時間までという稼働時間制限など、大きく割り切ったところも見られるのは事実。メリット・デメリットがそれぞれ際立つデバイスです。

Meta自ら、幾度となく「これはビジネス向けである」とアナウンスされている通り、一般的なコンシューマーにはまだ早すぎる「実験機」と言えます。しかし開発者や企業にとっては、大いに実験のしがいがある「試作機」でもあるでしょう。Meta Quest Proそのものではなく、Meta Quest Proを通して生み出される「なにか」にこそ、真の価値が宿るのではないか。この点を理解できる人にとっては、22万円分の意味が見出だせる一台になり得るでしょう。

「Meta Quest Pro」の公式Webサイトはこちらのリンクから。


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