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医療・福祉 2017.11.17

4万5千平メートルの米医療センターがVRで病院建設 医者や看護師から効率的で有益な病室と高評価

[提供: Layton Construction]

本記事は「Redshift 日本版」とのライセンス契約を結んだ転載記事であり、資格を受けた測量士で、インフラと設計テクノロジーについて 2002 年から著述を行っているアンガス W・ストッキング氏の執筆した原稿を翻訳したものを、オートデスク株式会社の許諾を得てMogura VRに転載しています。

医療施設の建設分野では、物理モデルが使用されるのが一般的だ。手術室や救急処置室など病院の構成要素は複雑であり、生命に関わる生命維持システムや院内インフラがコンパクトな空間内で効率的に機能するのを確認するには、試験運用が必須となる。だが、物理的なモックアップを作成するには時間とコストがかかり、建設中に発見された再作業の必要な過失はコスト増と遅延をもたらす。

Layton Construction は、米国アラバマ州フローレンスにある 4万5千平米、全280床の医療センターのデザインにVRを採り入れ、設計、施工プロセスの重要なマイルストーンでバーチャルなモックアップを作成した。

従来の手法では、この医療センターのデザインプロトタイプを構築するには、借り上げた倉庫内に20もの物理空間を作ることになる。その推定コストは約25万ドルで、修正プロセスはうんざりするほど長く、多くの人手を要するものとなるはずだ。

だが Layton は、提案するルームレイアウトの実地検証を行う際の、実施改善策に取り組んでいた。各部屋のリアルな3Dモデルを作成し、オーナーとエンドユーザーがVRゴーグルを使ってモデルを体験することで、建設前に部屋の雰囲気をリアルに感じ、最終的には変更の注文やその他の遅延を減らせればと考えたのだ。

VRなら、チームは初日から実物そっくりのモックアップに取り組むことができる [提供: Layton Construction]

そして、それが功を奏した。医療センターのモックアップ建設コストは90%も減少し、ビジュアライゼーションの体験から得られたフィードバックがプレファブとデザイン変更を促進することで、承認と建設が大幅にスピードアップ。チームはプレファブ関連の提出物要綱を、計画よりも2カ月早く作成できた。

Layton でビジュアライゼーションのコーポレート マネージャーを務めるジョン・ファーガソン氏は「もし物理的に行うとしたら、倉庫を借りてモックアップ建設の専任クルーを雇い、段ボールなどを材料にしてモックアップを構築する必要がありました」と述べている。ファーガソン氏によると、物理的なモックアップは段ボールからフルスケールの室内 (大型で高価な医療機械は除く) までさまざまだが、VRを使えば、チームは初日から実物そっくりのモックアップに取り組むことができる。「バーチャルで行うことで、皮肉にもモックアップは、より“リアル”で有益なものになります」。

モックアップのモックアップを作成

「建設業界がVRへ移行しつつあることは弊社でも把握しており、そのための機材やソフトウェアを長期間使ってきました」と、ファーガソン氏。「使用例となる案件を探しており、この新しい病院は理想的でした。オーナーはテクノロジーに精通していて、新たなアイデアを進んで採り入れようとしていました」。

ファーガソン氏の仕事は、Layton の事業展開のクリエイティブ面を監督すること。「視覚に訴えるもの、つまりレンダリングやモデル、VRなど、言葉よりもビジュアルが適した全ての場面がそれに相当します」。ファーガソン氏は、素早く見栄えの良いVR空間を作成するVRモックアップのアイデアの提案に際して、テクノロジーを視覚的にデモすることにした。「“モックアップのモックアップ”を作成して、それをオーナーとのミーティングに持ち込みました。それが気に入られて、話を先に進めることができました」。

デザイン プロセス用に 20 のバーチャル空間が作成された [提供: Layton Construction]

必要な20点のモックアップを作成するため、ファーガソン氏は Layton の BIM コーディネーターと連携して、Autodesk Revit で作成されていたラフデザインモデルから選定を行った。「建築家から入手したモデルを、直接 Stingray にインポートできました」と語るファーガソン氏によると、チームは Revit から 3ds Max、Stingray へと作業を進めていった。「その後、建築家を招いて変更点を検討し、Revit 内で改めて物理空間のデザイン作業を行いました」。

オートデスクの 3Dゲームエンジン/リアルタイムレンダリングソフトウェアである Stingray は、建築家により提供されたスケルトン状態のモデルに面とテクスチャを適用し、各部屋で使用される機器や備品のモデルの構築、インポートするのに使用された。

「可能な限り、メーカーからモデルを入手するようにしました」と、ファーガソン氏。「例えば STERIS からは3Dライブラリーへのアクセスが提供されたので、非常に助かりました。モデルを入手できなかった場合は、仕様書を手に入れ、自分たちでモデルを作りました。全てのモックアップで、詳細かつ写実的な室内環境の撮影を行いましたが、それは Stingray により実現したものです」。

ユーザー エクスペリエンスと得られた教訓

このVRモックアップを活用するため、Layton は看護師、外科医、ファシリティ マネージャーなどのエンドユーザーと病院の幹部を、自由に動き回り、バーチャル空間を体験できる広くてオープンな部屋へと招いた。VRハードウェアは HTC VIVE で、最終的に約200名がバーチャル環境を体験。中には5回も試したものもいた。「私たちが重要だと考えた室内仕様については、事前に指摘しておきました」と、ファーガソン氏。「さらに体験の一部始終をビデオで撮影し、ユーザーの感想やコメントを聞き逃さがないようにしました」。

Layton は医療関係者と病院幹部を、バーチャル空間の体験できる広くてオープンな部屋へ招いた [提供: Layton Construction]

ユーザーはVR体験へ難なく順応したが、幾つか小さな問題もあった。「ほとんどのユーザーは、少しのトレーニングで、すぐに要領を得ることができました。全く操作できないという人は、ひとりもいませんでしたね」と、ファーガソン氏。「ただし、使いやすさは人によりさまざまでした。年齢などとの関連性はなく、単に脳の反応に違いがあるということのようです」。

結果として、VRモックアップは優れた効果をもたらした。ユーザーは有用なフィードバックを提供し、検証対象となった室内は、より効率的で有益なものとなった。あるケースではユーザーが、分娩室に置かれている酸素ボンベが、壁のコンセントへのアクセスを塞いでいることに気付いた。この問題をバーチャル環境で発見できたため、チームは建設のプロセスの前に、モデルを簡単に更新できた。

「あのままであったら既存の装置に影響を及ぼし、部屋がうまく機能しない状況になっていたでしょう」と、ファーガソン氏。「幸いにも修正を加えることができ、予定より早く数カ月前に酸素ラインをプレファブして、既存の装置を維持しつつ、約 2 カ月分の工期を短縮できました」。

機器配置の微調整にユーザーからのフィードバックが役立った [提供: Layton Construction]

このパイロット プロジェクトが極めて良好に進んだことから、Layton Construction はVRのフル活用に取り組むようになり、それ以来週1回の頻度でこのテクノロジーを使用して、そのたびに改良を加えている。「アラバマでのプロジェクトは優れた結果が得られましたが、テクノロジーは急速に進歩しており、私たちもそれを向上すべく努力を続ける必要があります」と、ファーガソン氏。「あれから、バーチャル空間の精巧さとスケールは飛躍的に成長しています」。

最新のシミュレーションには、サウンドによるキューが組み込まれたものや、大規模な学生寮プロジェクト、商用不動産のエクステリアなどがある。また、例えば外科チームが満員の手術室を「体験する」など、コラボレーティブなデザインのレビューの実施も可能になりつつある。ファーガソン氏は、コンピューター生成されたイメージが現実環境に重ね合わせて表示される AR(拡張現実)に、サービスを拡大することも視野に入れている。「使用例が現れるのを待っているところです」。

Images U.S. copyright 2017 Layton Construction, LLC


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