日本三大夜景のひとつである摩耶山の中腹に「摩耶観光ホテル」という戦前に建てられた近代建築ホテルがあります。
施設自体は1990年代に閉鎖されていますが、廃墟となってもなお美しいその建物に魅了される人は少なくありません。現在は「廃墟の女王」としてマニアの聖地となっています。
2021年には、その文化的価値が見直され、国の登録有形文化財に決定。地元団体主催のツアーも行われるなど、再び注目を集めつつあります。しかしこのコロナ禍によって、摩耶山全体の来訪者が減少。新たな集客方法を検討せざるを得ない状況にあるそうです。
その施策のひとつとして開催されるのが、VRChatを使ったオンラインツアー。本記事では、その第1回ツアーの様子をご紹介します。
VRChatのマヤカンワールドがパワーアップ!
VRChat上に再現された旧摩耶観光ホテル(通称:マヤカン)のワールド作成を担当したのは、VRクリエイターのVoxelKeiさん。Moguliveでも過去にインタビューし、フォトグラメトリワールドの魅力についてうかがいました。
このインタビューの時にもマヤカンの再現ワールド「Mayakan Volumetric」をVoxelKeiさんに案内してもらいましたが、今回のツアーで使うワールドはその改良版とのこと。
具体的にはどこが変わっているのかといえば、なんと入れる場所が増えているのだとか! ただでさえ「現実では非公開のマヤカンの内部に入れる」だけでも魅力的なワールドですが、さらに再現する範囲を広げて、建物の内部を3DCG化しているのだそうです。
今回のVRツアーでガイドを担当するのは、ワールド制作を担当したVoxelKeiさんと、産業遺産コーディネーターの前畑洋平さん。
前畑さんはマヤカン保存プロジェクトを手がけるNPO法人の代表であり、メディアにもたびたび出演されています。つまりこのツアーでは、人一倍マヤカンに詳しい方の解説を聞きながら、VR空間に再現されたマヤカンを、一緒に隅々まで巡ることができるわけです。
ここからは実際のツアーへと参りましょう。パワーアップしたマヤカン内部の様子を写真多めでお届けします。
天井や壁、放置された家具まで3DCGで再現された「廃墟の女王」
ワールドに降り立つとまず目に入るのが、こちらの景色。「立入禁止」の看板の先に見える陽光に包まれた建物が、旧摩耶観光ホテルです。現実のマヤカンツアーでも、この場所までは入って写真撮影ができるそうです。
近くに掲示されているのは、摩耶観光ホテルが完成した当時の紹介記事と、戦後に改装されたあとのパンフレット。時代を感じますね……。
マヤカンが「廃墟の女王」と呼ばれる所以などの説明を前畑さんから聞いたら、いざ敷地内へ! 「立入禁止」の看板を乗り越え、ところどころで目に入る「SECOM」の文字を横目にどんどん進んでいきます。
まず入ったのは、こちらの大ホール。戦前は「余興場」と呼ばれており、ダンスや講演会が行われていたのだとか。
解説のなかで特に聞いていておもしろかったのが、時代によって異なる施設の「用途」について。その長い歴史において、マヤカンは福利厚生施設、ホテル、合宿所と営業形態を変えており、その時々で部屋の使われ方も異なっていたのだそうです。
この大ホールも例に漏れず、前畑さんからは「この余興場は戦後、別の用途にも使われていたのですが、なんだかわかりますか?」とクエスチョン。自分はまったく見当もつかなかったのですが……答えは、映画館! 言われてみると入り口の頭上に窓のようなものがあり、そこが映写室だったことがわかります。
そのような施設としての用途や歴史の話に加えて、「建築」の視点での解説があるのも魅力。建物の各所で見られるアール・デコ調のデザインに加えて、部屋の用途や歴史と絡めて「なぜそういう構造になっているのか」の説明もありました。
(船を意識した丸窓は、夕方になると影が床に映ってきれいなのだそう)
(ツアー参加者のあいだで、「すてき!」「モダンガールだ!」「モガだ!」という会話が交わされていた写真)
また、何箇所かに古写真が展示されており、営業当時のマヤカンの風景を垣間見ることができるのもポイント。
リアルでは訪れたことのない、知らない場所の写真なのに、こうして再現されたVR空間のなかで見比べてみると、自分が今まさに立っている場所を切り取った写真だとわかる。その不思議な感覚は、VRツアーならではだと感じました。
(時代によって「休憩スペース」「高級な部屋」「立場が上の学生が泊まる部屋」と用途を変えてきた部屋)
(“大人向けビデオ”の撮影のために持ち込まれ、経年劣化で周囲に馴染みつつあるソファ)
(マヤカンの特徴であるアール・デコ様式と、船のようにも見える外観がわかるカット)
たっぷり時間をかけて屋内を見たあとは、外に出て周囲をぐるりとまわって外観をいろいろな角度から眺めて、最後は屋上へ。さまざまな視点からマヤカンについて紐解いていくツアーとなっているため、廃墟にあまり興味がない人でもきっと楽しめるはずです。
「みんなで巡るVRツアー」の楽しさ
およそ1時間のツアーでしたが、終わってみればあっという間。想像以上に見どころが多く、前畑さんによるガイドも興味深いお話ばかりで、本当に楽しいひとときとなりました。
また、ツアーということもあって、参加者同士であれこれ話しながら巡れるのも魅力。たまに解説の合間に前畑さんが織り交ぜてくる冗談も手伝って、全体的に和気あいあいとした雰囲気のイベントとなりました。
ちなみにこちらのワールドは、ツアー終了後に自由に散策していいそうです。印象に残っている部屋や場所で記念撮影をしたり、夜の状態で改めて散策してみても楽しそうですね。
以前から公開されているMayakan Volumetricと比べると、大幅にボリュームアップしている今回のワールド。VoxelKeiさんの話によると、今回のワールドを作成するにあたって、初めて実際に現地を訪れてきたのだそうです。その上で「新しくできたエリアでは、かなり現地に近い体験ができる」とも話していました。それだけ再現度が高いとくれば、廃墟ファンにとっても注目のイベントと言えるのではないでしょうか。
参加者からは「VRでの体験が楽しかったから、リアルでも行ってみたい!」という声もちらほら挙がっていました。今後も同様の企画を検討していくそうなので、気になった方はぜひ“VR現地”に足を運んでみてください。
https://twitter.com/VoxelKei/status/1487463012311384069
イベント情報
開催日時:2月5日(土)19:00〜20:00
参加人数:先着20名
参加費:無料
参加方法:摩耶観光ホテル公式ホームページの応募フォームに申し込みください。
関連イベント:YouTubeライブを用いた生配信ツアーも同日開催。
プロジェクトチーム
<ツアー主催>
NPO法人J-heritage http://j-heritage.org / 合同会社こと・デザイン
担当:前畑([email protected] / 080-7173-5245)
<フォトグラメトリ制作>
株式会社ハコスコ https://hacosco.com
太陽企画株式会社 http://www.taiyokikaku.com
<VRChatマヤカンワールド制作>
VoxelKei https://twitter.com/VoxelKei
執筆:けいろー