学生チームによるインタラクティブ作品制作チャレンジ、「Interverse Virtual Reality Challenge 2022(IVRC2022)」が開催されています。触覚系や9月2日・3日の体験会で、審査を通過した作品が展示・発表(2日は大阪、3日は東京)。本記事ではその様子をレポートします。
バリエーション豊かなプロトタイプ・インタラクティブ作品展示
各作品はとにかくバリエーション豊か。一例として「究極の砂時計体験」という作品では、頭部の振動センサーで「頭から降ってくる砂」を、両足に通したビーズの上下移動で「足元にたまる砂」を表現。「スパイダーマン」のようにビルの間をワイヤーで飛び回れる「Pulled In The Air」では、胸部扇風機と腕への圧迫装置を取り付けて、「風と張力」を表現しています。
Oculus Touchコントローラーを取り付けたバットを振り回す「超次元VR野球」は、マンガでよくある「バットに当たったボールを打ち返すまでの”タメ”」を、同じくバットにつけられたゴムロープを引く力で表現。打ち返す瞬間にロープが解放され、かっ飛ばした快感を味わえました。
こんなところに竹馬が。これは「成長する竹馬」という名前の作品で、竹馬に乗った状態でVRヘッドセットをかぶる、という作品。VR内では「乗ってる竹馬が天高く伸びる」という演出が行われ、同時に手持ち部分に振動が伝わって「竹馬が伸びる」感覚が味わえる、スリル満点の作品です。
「ゴムを塗りつけた手袋」「バランスボール」「ロッキンチェアー」という異様な組み合わせが光るこの作品は「壁歩き体験~ヤモリになろう!~」。ゴムの塗られた手袋でバランスボールを転がすことで、吸盤のような手で移動するヤモリの世界を体験できます。「手があらゆる場所にひっつく」という独特な体験が、VRと合わさって「ヤモリになった!」という感覚を生み出していました。
これは「手んぷら」という作品。揚げるのはエビや野菜ではなく自分の手。振動する細かい発泡スチロールの粒で埋まったバケツは「油の入った鍋」で、ここに自分の右手を突っ込んで揚げます。VRで見ると本当に揚がっていてエキサイティング! 揚げ時間や揚げ方で出来栄えが大きく変動し、スコア化されるというゲーム的な要素もあります。筆者は揚げ時間の筋がよかったものの、手を動かしすぎて衣が落ちてしまい、点数は75点ほどでした。
「ハンドソード」では、右腕にモーターとコントローラーが取り付けられたデバイスを装着し、VR空間で手刀を繰り出せるゲームです。斬ればモーターが作動して「物を斬った」感覚もフィードバックされるというおもしろい仕掛けです。このままだとさすがに重すぎるものの、コンセプトとしてはけっこうアリかもしれません。
木製の棒にQuest2のコントローラーと回転モーターが取り付けられたイカしたデバイス。これを使って行うのは「日本酒の仕込み」です。「適法!日本酒醸造シミュレータ」は、段階に分かれる各工程ごとに、お大樽をゆっくりかき混ぜたり、すばやく突き入れたりすることで適切な温度を維持し、日本酒を作る体験ができます。先端の回転によるジャイロ効果によって、大きな液体を回す感覚が味わえるのがユニークです。
使われているデバイスの多くは「Meta Quest 2」や「VIVE Pro」ですが、中には「VIVE Pro Eye」のアイトラッキングを活用する「lo_op」という作品もありました。この作品ではVR空間で猫を探すのですが、なぜか「ゴミ袋を猫と見間違う」現象が多発します。アイトラッキングを活かし、日常生活でもたまに起こる「見間違い」をいつでも追体験できるユニークな作品です。
中には超高精度VRヘッドセット「Varjo XR-3」を研究室から持ち込んだチームもいました。「アメーバと遊ぼう」ではスライムをアメーバ状の生物に見立て、「Varjo XR-3」のハンドトラッキング機能を使い、VR空間内で触って遊ぶことができます。手は人間が持つ原初にして最高のデバイス。ここに目をつけて実験を試みる観点はおもしろいところです。
このほかにも、マネキンの目や耳を動かすと自分の視界なども変化する「VR福笑い」や、VRを用いず触覚だけで「心臓を握られている」感覚を再現する「心臓を掴まれる -掌-」といった作品など、様々な展示されていました。
多くの作品は、VRヘッドセット以外は手作りのアイテムや仕組みを用意していたのが印象的です。VRコンテンツの制作には、専門的な(そして高価な)デバイスなどを使うことがしばしばあります。そうした専門デバイスではなく、各自で手作りされたデバイスで実装している姿は、ものづくりの根本にある熱気を感じさせました。
コンテンツやデバイスの多くは荒削りながら、コンセプトや目指しているものが非常に明瞭、かつ面白い作品がたくさんあったという印象です。コンテンツ側はさらに開発を進めていけばSteamなどでも配信できそうで、手作りデバイスもブラッシュアップすれば市販品になるのではと思うほど、良いものが数多くありました。
ここで生まれたアイディアをもとに未来のVRのヒットコンテンツや圧倒的なプロダクトが生まれる可能性もあるでしょう。若き才能の発掘は、こうした形で行われるのだ……と肌で感じた体験会でした。
LEAP Stage進出作品「Vivid Ground Generator
- VR空間を足から堪能するハプティクス -
」「手んぷら」「自宅でも遭難がしたい!」「やがて雪だるまになる」 #IVRC2022 pic.twitter.com/VHiB33qfZy— IVRC公式@LEAP Stage11月5~6日 (@IVRC) September 12, 2022
9月12日(月)に開かれた「VR学会」では、出展作品の表彰式が実施されました。今回筆者が体験した作品もいくつか受賞しています。受賞作品は「LEAP STAGE」へ進出し、11月5日(水)から11月6日(木)に開催される「サイエンスアゴラ」にて展示・審査される予定です。
例年、「LEAP STAGE」までにブラッシュアップが施される作品が多いとのことで、さらなる進化を遂げた作品が見られるかもしれません。気になる方はぜひ「LEAP STAGE」に足を運んでみてください。
各会場展示作品
大阪会場
作品名 |
制作チーム |
こころぴょんぴょんろーぷ |
甲南大学 |
やがて雪だるまになる |
甲南大学 |
👉 Mixed-hands 👈 |
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術専攻 |
四転五起季 |
龍谷大学理工学部電子情報学科 |
紙は鳴く |
静岡大学大学院 総合科学技術研究科 情報学専攻 |
二人三腕脚 |
熊本県立大学 |
MEcholocation |
岐阜大学工学部 |
東京会場
作品名 |
制作チーム |
手んぷら |
東北大学 電気通信研究所 |
自己とタコ |
UT-virtual(芝浦工業大学システム理工学部,東洋大学総合情報学部,立教大学経済学部) |
アメーバと遊ぼう |
慶應義塾大学理工学部情報工学科 |
自宅でも遭難がしたい! |
会津大学 A-PxL |
Pulled In The Air |
工学院大学VRプロジェクト |
超次元VR野球 |
工学院大学VRプロジェクト |
Vivid Ground Generator - VR空間を足で堪能するハプティクス - |
中央大学理工学部 |
ハンドソード |
多摩大学経営情報学部経営情報学科 |
適法!日本酒醸造シミュレータ |
慶應義塾大学理工学部 |
VR福笑い |
電気通信大学 |
Mechanical Brain Hacking:ロボットアバタを用いた自らの脳改造・身体システム改造体験 |
東京大学大学院学際情報学府/東京大学大学院情報理工学系研究科 |
究極の砂時計体験 |
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 |
lo_op |
電気通信大学 |
壁歩き体験~ヤモリになろう!~ |
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 |
成長する竹馬 |
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 |
心臓を掴まれる -掌- |
電気通信大学大学院情報学専攻 |
(参考)公式サイト