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開発 2022.08.09

「HoloLab Conference 2022」イベントレポート。MRやBIM/CAD、3Dデータ活用の最新事例がずらり

2022年4月28日、株式会社ホロラボ主催のカンファレンス「HoloLab Conference 2022」がオンライン開催されました。ホロラボが各社と進めてきたMR(Mixed Reality / 複合現実)技術に関する取り組みや、BIM/CADなどの3Dデータ活用事例の情報共有・発表が行われました。本記事では、このカンファレンスの内容をダイジェストでお送りします。

ホロラボの今とこれから。概念実証から実導入へ

基調講演では、ホロラボCEO中村薫氏、同社COO伊藤武仙氏が登壇。ホロラボの取り組みについての振り返りと今後の展開、導入事例の紹介が行われました。

ホロラボの設立当初はPoC(Proof of Concept、概念実証)が主でしたが、今ではDeploy(デプロイ、実導入)まで進む体制が構築できているとのこと。様々なプロジェクトから見えてきた共通項をパッケージ化し、新規ユーザーが素早く、かつ安価に導入をスタートできる仕組みづくりを進めています。

デバイスや技術の進化に伴い、部屋規模でのARからフロアや建物全体に広がり、最近では国交省のPLATEAUなどデータからのアプローチによって都市レベルのAR体験が実現。今後は「国や地球と更にスケールが広がる」と考えているとのこと。

続いて、ユーザーの導入事例として株式会社大林組の中林拓馬氏より、施工管理業務アプリ「holonica」が紹介されました。「holonica」は、ホロラボの主力事業である造業・建設業向け可視化ソリューション「mixpace」をベースに検査記録用Webアプリを組み合わせた品質管理システム。iPadでBIMと現場を重ねながら品質検査が可能です。

中村氏によれば、「建築業では2024年から始まる時間外労働の上限制限や建設技能者の大量離職が間近に控えており、DXが喫緊の課題になっている」とのこと。建設現場における業務の30%を品質管理が占めており、その効率化を目指して「holonica」の開発に至ったとのこと。

「holonica」を用いて実際の現場で検証を行ったところ、従来手法と比較して約30%の作業時間短縮を実現したとのこと。今後は協力会社にも展開し、一気通貫の業務フローを確立することで、さらなる効率化も見込んでいます。

全国57店舗でHoloLens2を展開、挑戦的な試行も多数

続く「トヨタのxR活用事例ご紹介 ~ ホロラボとの開発秘話を中心に」では、ホロラボの上山晃弘氏、トヨタ自動車株式会社の栢野浩一氏が登壇。トヨタのXR活用事例について紹介しました。

トヨタはマイクロソフトと連携し、「Azure Object Anchors」を用いてマーカーレスで配線を確認できる「MR配線図」、新車の特徴をMRで可視化する「MR新型車機能解説」などを開発し、全国57店舗の「GRガレージ」で展開しています。

講演では、多数の研究開発事例を紹介。「Azure Remote Rendering」を活用し、HoloLens2単体では表示できないデータ量の多い車体3Dモデルなどを表示できる「MR Remote product Review」、「デジタル工具のPowerApps連携」、走行中の車内でもMR体験を可能とする「XRドライブ」など挑戦的な取り組みが印象的です。


栢野氏は最後に「DX推進のヒントは現場にあります。若い世代に任せて、気軽にまずはやってみましょう。XR技術は働き方改革に確実に役に立ちます」と語りました。

90年代からVRに取り組む鹿島グループを振り返る

続く「鹿島のXR ー90年代のVR研究開発から現在のxR展開までー」では、ホロラボの田中広樹氏、関根健太氏、鹿島建設株式会社の近藤理恵子氏が登壇。鹿島グループの90年代から現在までのXRにおける取り組みを紹介しました。

鹿島グループでは、平成初期の1994年6月に「VRプロジェクト」が発足。HMDや立体視の開発研究を行っていましたが、1997年に解散しています。


2013年のOculusDK1発表のタイミングで再始動。2017年以降はホロラボと共にAR/MRを活用した「設計検討」や「施工支援・検査」に取り組んでいます。BIMのMR表示システム「HoloBEAR」を社内リリース、BIMを活用した避難シミュレーションの開発事例などを紹介しました。



近藤氏は最後に「メタバース内で設計、施工など、コミュニケーションを取りながら取り組んでいるが、現場からも好評の声が上がっています」「BIMは全現場に導入し終えたので、次のステップとしてXRを広めていきたい」と語りました。

社内ライブラリによって開発の効率化を目指す

続く「ホロラボ R&D; チームの技術」では、ホロラボの古田裕介氏、上吉川大貴氏が登壇。同社のR&D;(Research & Development / 研究開発)チームによる社内ライブラリ開発やOSSの取り組みについて紹介しました。

ホロラボでは、MRTKを中心とした様々なライブラリを活用していますが、「HoloLab Toolkit」をはじめとするホロラボ製ライブラリを開発しています。古田氏によれば「同じ時間をかけるならより良いものを作れるように」「同じものを作るならより短期間で作れるように」という考えのもと推進されているとのこと。

特に力を入れている「HoloLab Toolkit」では、開発用ツールが8種類、アプリ用モジュールが20種類含まれており、プロジェクト毎に必要なモジュールを導入することが出来ます。例えば、「QRコードを認識して、3Dモデルを配置し、指で空中にお絵描きをする」アプリをコードを書かずに実装することができるとのこと。


また、本来Unity標準では対応していないPLATEAUのCityGMLデータをインポートできるようになるツールや、「ImmersalのHoloLens対応ライブラリ」、精度高いGPSを実現する「GNSSを活用した位置合わせライブラリ」などを開発しています。


続いて紹介されたのは、AR向けの汎用フォーマットを策定する「Project Spirare」。独自フォーマットのpoml形式で、Webにおけるhtmlの役割を担い、xml形式でARコンテンツを配置するために必要な情報を記述します。

「Project Spirare」では、Twitterのツイートとホットペッパーの飲食店情報を同時に表示するなど、複数のコンテンツを同時に表示することも可能です。現在は静的な表示のみ対応していますが、スクリプトを記述することで動的なコンテンツへの対応も見込んでいます。

リモートレンダリングを活用し最大10億ポリゴンの表示にも対応

続く「3DCAD/BIM・3DCGファイルのAR/MRみえる化ソリューション「mixpace」活用事例」では、SB C&S;株式会社の遠藤文昭氏、ホロラボの久保山宏氏が登壇。ホロラボの主力事業である、3DCAD/BIMのAR/MRみえる化ソリューション「mixpace」の活用事例を紹介しました。

「mixpace」は、3DCAD/BIMモデルを最短数分でHoloLensやiPadでAR/MR表示可能な形式に自動変換するソリューションです。17種類の3Dファイル形式に対応しており、設備や機械、建屋そのものまでAR/MR表示することが出来ます。

通常HoloLens2単体では30万ポリゴン前後のモデル表示が限界ですが、「Azure RemoteRendering」を活用することで、最大10億ポリゴンまで表示が可能となります。

ドコモの「空間AR開発パッケージ」の事例を紹介

続く講演「空間AR開発パッケージの開発と活用事例紹介」ではNTTドコモの木村真治氏、ホロラボの伊藤 武仙氏が登壇。NTTドコモとホロラボの協業プロジェクトについて紹介しました。

ドコモは、空間AR開発パッケージ「LBE-Pkg」を開発しています。「LBE-Pkg」は、ARの開発に必要な3つの要素、自己位置認識(VPS)、空間構造認識、コンテンツ管理・配信を簡易/安価/短期で開発可能とするパッケージです。スキャンツール、オーサリングツール、ARクラウドサーバー、ビューワーアプリを包括して提供します。

レイヤーによるコンテンツの多層表現やAR空間でのユーザーログ機能など、本格的なビジネス利用を見据えたパッケージとなっています。


空間AR開発パッケージ「LBE-Pkg」の活用事例として、2021年2月に開催された「DOCOMO OpenHouse 2021」や、2022年3月に開催された「道頓堀XRパーク」での取り組みが紹介。回遊型ARを短期間で開発出来ることを実証しました。


木村氏は最後に、ホロラボの中村氏のインタビューを紹介する形で「スマホを持って下を向くのではなく、グラスデバイスをかけて上を向いて歩きましょう」と語って講演を締めくくりました。

アジャイル開発で未知の領域への挑戦

続く「HoloLens だけじゃない ホロラボ Web アジャイル開発」では、ホロラボの清水聡氏が登壇。「PoCではデバイス上に取り込んだデータだけでOKだったが、Deployのフェーズに移行し本格的にシステム化する中でサーバーとの通信や外部サービスとの連携が必要になった」と語ります。Web開発を行う上で、ホロラボでは未知の技術領域に挑戦しやすい「アジャイル方式」を採用しています。既知の技術や予測可能な範囲であれば「ウォーターフロー方式」で対応できますが、XR領域では未知の技術領域が多く、柔軟に対応できる「アジャイル方式」を選択しているのです。


講演ではホロラボの3D都市モデルプラットフォームサービス「toMap」のデモを交えながら、アジャイル開発風景が紹介されました。


レーザースキャン&フォトグラメトリの事例紹介

続く「東京メトロにおけるスキャン&フォトグラメトリ事例」では、東京地下鉄株式会社の川上 幸一氏、ホロラボの平山智予氏、長坂匡幸氏、藤原龍氏が登壇。東京メトロ総合訓練センターと、そこで行われたスキャン&フォトグラメトリの事例を紹介しました。

2016年に開所した東京メトロ総合訓練センターは、実際の車両や駅、トンネルなど実物の設備を再現。起きうる事象を体験し研修ができる世界有数の大規模訓練施設です。

本プロジェクトでは、東京メトロ総合訓練センターの一部空間をレーザースキャンとフォトグラメトリで3Dデジタル化しました。

レーザースキャンとフォトグラメトリ、それぞれの長所を活かしながら橋梁、車両、駅ホームなどをスキャンした際の所感や勘所について詳細に語られました。


セッションの終盤では登壇者らによる座談会形式で、東京メトロにおけるスキャン&フォトグラメトリ事例の所感、XRの可能性について語り講演を締めくくりました。

講演動画はYoutubeにて全編公開

「HoloLab Conference 2022」の講演は、本記事で紹介した講演ふくめ全てYouTubeにて公開済。以下より視聴できます。

(参考)HoloLab Conference 2022


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