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トレーニング・研修 2019.03.25

洪水を足で、地震を全身で……AR/VRד振動”“触感”で進化する防災訓練

3月1日に東京都千代田区の日比谷仲通り・東京ミッドタウン日比谷にて「日比谷体験型防災訓練」が開催されました。従来の防災体験といえば起震車による揺れ体験がメインでしたが、近年では防災訓練ではVR・ARを活用したものも増えています。

今回は、ARと流動床インターフェースを活用して視覚と足で水害を感じる「リアル液状化通路歩行訓練」と、VRと座った状態での揺れを再現する地震ざぶとんで耐震・制震・免震構造の違いを感じる「地震体験VR(SYNC VR)」についてレポートします。

流動床インターフェースを用いた「リアル液状化通路歩行訓練」

流動床インターフェースというのは、以前レポートした、容器に入った砂がスイッチを入れると水のようになるインタラクションです。今回の体験は、このインタラクションと愛知工科大学の板宮朋基准教授が開発した疑似体験型ARによって浸水被害を再現するDisaster Scope2」を組み合わせ、視覚だけでなく足も使って水害時の状況を体験するというものです。

服が砂で汚れないようにズボンを装着し、いざ砂が詰まった通路を模した装置の上へ。

最初は当然砂場の上を歩いている感じで、少し足が沈むけれど普通に歩くことができます。

(0:00-0:20:スイッチを入れる前は普通に砂の上を歩く感じ)

ここで、スイッチをいれると砂の下に大量の空気が送り込まれ、砂が液体のように振る舞う「流動床(または流動層)」という現象が発生します。すると、先ほどまで砂の上に立っていた筆者の体がさくっと砂の中に吸い込まれれてしまいました。そこで歩こうとしても水の中をあるいているような感覚であり、前に進むのも力がいります。

(0:26-1:26:スイッチを入れ砂が液体のようになった「流動床インターフェース」の上を歩く)

ここまでは、以前のレポートと体験したものと同じです。なのですが、前回はアトラクションとして楽しいと感じたものが、今回事前に「これが膝まで浸水した時の洪水ですよ」と聞いた上での体験であったため、同じ体験でも怖さを感じてしまいました。

そして、ここでARアプリを装着します。すると、周りにいる人が泥で汚れた水の中に浸かっているように見えます。当然自分の足元も見えません。その状態で装置の中を歩こうとすると……視覚と触覚、両方で感じるものが「泥水の中」になるため、あたかも水害にあった街を歩いているんだ、と錯覚してしまいます。

さらに装置の中を歩いていると、急にズボっと体が沈みました。装置の中には段差があり、「日頃見えている街の中の段差が、水の中で見えなくなる」という体験の再現をしているということです。ARの泥水で視覚が奪われ足元に注意がいかない状態での段差は本当に恐怖で、思わず叫んでしまいました。

(1:36-2:42:「流動床インターフェース」+ARで水害体験)

こうやって本体験をすることで、津波や洪水などで街が水没すると、歩くのが困難なだけでなく地面の凹凸も見ることができず、思わぬ危険が待ち受けているということを実感しました。いやあ、早期避難の重要さが身に沁みました。

「流動床インターフェース」の開発者の的場やすしさんに話を伺うと、全国各地で体験型防災訓練を企画・運営している「株式会社フラップゼロα」が、愛知工科大学の板宮准教授のARアプリに着目してライセンス契約をしており、「流動床インターフェース」との組み合わせを考案、日本初となる「リアル液状化通路歩行体験」が誕生したとのことです。

的場さんとしても「ちょうどHMDのARと組み合わせたいと思っていた」そうです。
続けて、「地震や洪水の警報が出ても『たぶん大丈夫だろう』と避難しない人がいるそうです、それは実際に体験したことがないからだと思います」と話し、今回の流動床インターフェースと洪水ARの組み合わせが生み出す本装置を体験しておくと「実際にそういう場面にあったときにすぐに避難されるようになるのではないでしょうか」と本装置の効用に期待を寄せていました。

また、実際に水害を体験するとしても、本物の水を用意するのも、また漏れなどのトラブルがあった時の対応も大変ではあるが、この「流動床インターフェース」を用いることで扱いやすく、デパートなど屋内での展開もしやすいと、本装置の利点も述べました。


(「流動床インターフェース」の開発者 的場やすしさん)

実際、今回の展示で全国から引き合いが来ているそうで、今後日本のいろいろなところで展示がされる予定とのことでした。お近くで展示された時は是非体験してみてください。

全身で地震を体感する

続いて紹介するのは「地震体験VR(SYNC VR)」です。椅子の振動により建造物の揺れを再現する可搬型地震動シミュレーター「地震ザブトン」(白山工業株式会社)と、VRヘッドマウントディスプレイの映像を組み合わせる事で、地震の種類や建物の構造形式(耐震、制震、免震)によって異なる揺れを体験する事ができます。

今回は、耐震構造と免震構造の違いを体験するコースを選択しました。

(0:35-1:58:耐震構造のビルでの地震を体験)

まずは耐震構造のビル23階での震度6強の地震を体験します。最初は少し揺れたかな……という感じだったのですが、次第に大きく揺れていき、VRの中のオフィスにある机上のPCは倒れ、椅子は散乱していきます。何より揺れが強くなることで自分が座っている椅子がぐわんぐわんと動きまわります。体験中は手で椅子を掴んでいてくださいと指示されるのですが、動きが激しすぎて、掴む手が離れてしまうくらいでした。

(VR上のオフィス。机の上のモニターなどが倒れていきます)

(椅子から掴んだ手を離してしまうくらいの揺れ)

続いて、免震構造のビルでの体験です。耐震構造の時と比べて、筆者は揺れにより少し酔ってしまったしまったのですが、それでも目に見る、そして体に感じる揺れは少なくなっていたように感じました。

先述した通り、こういった地震の体験をするとなると起震車を呼んできて……といったものが、比較すると小さな装備で、しかもシチュエーションを体験できるのはVRならではだと実感しました。


(体験後、揺れの激しさにぐったりする筆者)

「地震体験VR(SYNC VR)」は、株式会社日建設計と株式会社ジオクリエイツの共同開発によるものです。日建設計の福島孝志さんとTokyo XR Startups 第4期参加チームでもあるジオクリエイツの本田司さんにお話を伺うと、このシステムは体験者に耐震・制震・免震かといった構造形式の違いによる揺れの違いを体験してもらう事で、高層建造物の施主にどういった構造形式を取るか設計段階から検討する材料になるということでした。

さらに今回は体験できなかったのですが、本システムでは体験者の視線や発汗量、脳波などを計測することも可能です。福島さんによると、体験者の心理状態を定量データに蓄積していくことで、実際の体験だけでなく数値としても施主に対して構造による地震対策がアピールできるようになっていくとのことです。

なお、会場ではこれらの他にも、
VRを用い消火器の噴射を体験できる「VR消火器訓練」、ARで浸水だけでなく火災時の煙の回り具合も感じることができる「Disaster Scope2」、そしてVRで火事現場からの避難訓練を行う「VR現場体感訓練システム for 防災」といったVR・ARを活かした体験や、体験型脱出ゲームを用いたアトラクション、心臓マッサージの訓練などをすることができました。

これらの防災訓練は各所で開催されています。VR・ARが確実に世に回っていることと同時に、子供の頃に起震車をアトラクション感覚で乗った筆者も日頃の災害への備えは疎かにはできない本当に身をもって感じた一日でした。


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