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業界動向 2020.09.17

日本市場に本気を出した!? Facebookの「日本向けのVR市場戦略」を分析する

「Oculus Quest 2」の発売に合わせ、Facebookは日本でのVR戦略を本格化する。その背景にあるものはなにか、そして、結果としてそれがどのような状況を生み出すのかを考えてみたい。

家電量販店へ展開する「Facebookの本気度」

「Oculus Questは日本でも初代から売ってたし、そんなに変わらないように思う」――。確かに、VRやデジタルガジェットのことをよく知る消費者の視点でいえば、Oculus Quest 2に伴う体制の変化はあまり意味がないもの、といっていいだろう。

だが、それ以外の人にとっては大きなインパクトを持つものになる。なぜなら、AmazonやFacebookからの通販だけでなく、家電量販店でOculus Quest 2が買えるようになるからだ。具体的には、ビックカメラやヤマダ電機、ヨドバシカメラにGEO(ゲオ)などが取り扱い店舗として挙げられている。

同時にこれらの店舗では、在庫を持つだけでなく「専用什器を用意しての展示販売」も行われる。従来よりアメリカでは、Best Buyなどの量販店でOculus製品が展示され、スマホやPC、デジタルカメラなどと同じように販売されてきた。このことは、VRの認知を高める上で大きな役割を果たしている。


(アメリカのBest BuyではOculus製VRヘッドセットが展示販売され、一部店舗ではデモスペースの設置も行われている)

しかも日本の場合は、アメリカよりも家電量販店の力が強い。デジタルガジェットに詳しい人以外でも、実際にデモに触れて衝動的に購入できる……というのは重要なことだ。日本でのVR機器販売では、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)による「PlayStation VR(PSVR)」やHTCの「VIVE」シリーズ、そしてメーカー各社による「Windows MR」あたりが挙げられる。PSVRに至っては、最終的に全国1000店舗以上での取り扱いを行っており、全国の量販店に広く展開していた。

そんなPSVRも、発売されたのは2016年10月のこと。その頃はVRに対する一般の認知も低く、数少ない店頭での体験の意味も違っていた。初期の在庫不足問題もあり、販売よりも体験の方が先に立つ状況だった、といってもいいだろう。


(発表時から大きな話題となった「PlayStation VR」。このデバイスもまた、発売から4年が経とうとしている)

だが現在は違う。ハードの進化以上に、「今時のVRとはどんなものか」という認知がそれなりに進んでいる。そんなタイミングだからこそ、以前に比べスムーズに店頭販売の準備が進んだ、という部分はあるだろう。

どれだけの量が量販店経由で売れるか、という話はともかくとして、「Oculus Quest 2という製品の露出を増やし、日本市場でのVRファン以外への認知を拡大・定着させる」という意味では、大きな一歩になりうる。

日本でも海外でも、店舗は販売の場であると同時に「最大のマーケティングの場」でもある。効率よくニッチビジネスを回すならネット通販限定がベストだが、一定以上のマスを狙うなら店舗展開は必須であり、乗り越えねばならないハードルだ。今回、Facebookが「店頭」というハードルを超えてきたことは、意外なほど重い決断だ。

「ゲーム市場としての日本攻略」は難題だが……?

とはいえ、Oculus Quest 2の一般への定着には、「ゲームを中心としたアプリが、いかに日本市場にも馴染むか」が重要になる。ここにはまだまだ課題がある。

もちろん、過去から日本製のVRゲームは多数あるし、今回の発売に合わせて、「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」や「リトルウィッチアカデミアVR ほうき星に願いを」などの提供が行われるものの、ハードウェアの売り上げを牽引するような、知名度のきわめて高い作品というわけではない。家庭用ゲーム機でもそうだが、日本市場ではいまだ「知名度の高い日本のゲームメーカー」の作品の存在が重視され、海外の大型タイトルやインディー系タイトルでの誘引は弱い。

かといって、今のVR市場の規模では、まだまだ大手メーカーが知名度の高いVR専用タイトルをどんどん作る……という状況でもない。もちろん、世界規模でミリオンヒットは出るようになったので市場は生まれているのだが、まだ規模的に足りない。ゲームメーカーとのパイプが太いSIEですら苦労している状況だ。わかりやすく「ゲーム機としてすぐに大ヒットするか」というと、それは難しいだろう。

ありうるとすれば、VR感度の高い層から周知を進め、フィットネスや動画などを梃子に広げるパターンだろう。要はこれまでと同じやり方である。

そこで、Quest 2の完成度が圧倒的に高く、コストパフォーマンスが良いことは明確にプラス要因だ。性能については製品レビューのほうで詳しく説明しているが、Oculus Goよりは高いものの、Quest 1より安くなった。これだけのプラットフォームに育ったからこそ、ある意味「攻め時」といえる。

欧州の法規制の影響も垣間見える、日本への注力

一方、今回の日本重視は、ヨーロッパ市場でFacebookに逆風が吹いていることと無関係ではないかもしれない。9月3日には、ドイツでOculus Questの販売が一時差し止められている。これは、FacebookとOculusのアカウント統合に絡み、ユーザーデータ統合についての規制条件を満たしていない、とドイツ当局が判断したためと見られている。

Facebookにとって、ゲーム市場との親和性という意味では、日本よりも欧州の方が与しやすいはずだ。しかし、ハードウェアの完成度の高さという千載一遇のチャンスを活かすためにも、ただでさえ大変な状況にある欧州より、今回は市場開拓余地が大きい日本にターゲットを絞ったのではないか。そんな風に思えてならない。

※2020/09/23/10:45……記事内容を一部修正しました。


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