9月14日、欧州委員会(European Commission、EC)は、2023年に取り組むべき優先事項を発表。トピックの1つとして「メタバースなどの仮想世界に関するイニシアチブ」を明記しました。欧州委員会は、EU(欧州連合)の政策遂行機関。バーチャル空間の私的独占を防ぐため、委員会は新たな政策を検討しているようです。
デジタル市場法とデジタルサービス法の次は、メタバース規制法か
今回、欧州委員会が発表したのは「STATE OF THE UNION 2022 – letter of intent」という文書。優先トピックとして挙げられた「メタバースなどの仮想世界に関するイニシアチブ」に関しては、欧州委員会のティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)が自身のブログで細かく言及しています。
ブルトン氏はブログ記事内で、デジタル市場法(DMA)とデジタルサービス法(DSA)の法案名を挙げつつ、次はメタバースをターゲットにする計画であるとも取れる記述を掲載しています。
デジタル市場法案(DMA)とデジタルサービス法案(DSA)は、欧州委員会が2020年12月に提案した、ヨーロッパのオンラインプラットフォーム政策の中心となる規制法案。これらの法案は、Amazon、Metaなどの米国IT大手が市場の公正な競争を阻んでいるとして、大手IT事業者への規制強化を目的としています。今年4月には、欧州議会などの審議を経て暫定的な政策合意に達しており、数年のうちの施行が見込まれています。
同氏の発言から「欧州委員会は、ヨーロッパにおけるバーチャル空間の大手IT事業者への規制をDMAやDSAと同じように行うのではないか」と推測されます。
(文書より引用、筆者にて黄色枠のみを追記し加工)
バーチャル空間の相互運用性の促す発言も
またブルトン氏は、「メタバースは相互運用が可能な標準に基づいて開発されるべきであり、単一のプレーヤーが公共空間の『鍵』を独占したり、その条件を設定したりしてはならない」と付け加えています。
しかし、バーチャル空間における相互運用性の議論は、国際的にも始まったばかりであり、規格の交渉は何年にも及ぶと考えられます。欧州委員会がこの議論にどのように参加し、貢献できるのかは不透明です。
法的枠組みは、功罪の二側面を抱えている
同氏はブログ内で、バーチャル空間のインフラ構築コストが上昇していると指摘し、「欧州委員会は、バーチャル空間のインフラ提供者が支払う『メタバース税』を元手に、ヨーロッパのバーチャル空間ネットワークの拡大を支援する計画がある」、「ヨーロッパ域内のデジタル変換の恩恵を受けるすべての市場関係者が、ヨーロッパのすべての人々に利益をもたらす公共財、サービス、インフラに公平かつ比例した貢献をする必要がある」とも述べています。
欧州委員会のバーチャル空間に対する積極的な関与の姿勢は、一定の評価に値します。他方、事業者に過度に厳しい法的枠組みを強要すれば、イノベーションを促進するどころか、むしろ阻害することになりかねません。今後の動向に注目です。
(参考)MIXED