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テック 2021.02.26

突如現れたドコモの「軽量ディスプレイグラス」開発担当者に狙いを聞く

NTTドコモが、2月4日から7日にオンライン開催した「docomo Open House 2021」に合わせ、新しく「軽量ディスプレイグラス」を発表した。現状では「試作機」であり、製品化の明確な予定は公表されていない。しかし、どうにも気になる存在ではないか。

docomo Open Houseは、2020年がそうであったように、本来は会場に足を運ぶ「リアルイベント」だった。だが今回はオンラインイベントになったので、映像くらいしか手がかりがない。

というわけで、NTTドコモに行き、試作実機を体験しながら、その狙いを開発者に聞いた。

ご対応いただいたのは、株式会社NTTドコモ プロダクト部 プロダクト企画担当の津田浩孝氏、同 石丸夏輝氏、同 デザインマネジメント担当の吉田恵理子氏の3名だ。


 (左から:取材にご対応いただいた、株式会社NTTドコモ プロダクト部 プロダクト企画担当の津田浩孝氏、同 石丸夏輝氏、同 デザインマネジメント担当の吉田恵理子氏)

軽く、カジュアルな使い心地。「一般の人がかけられる」ことを重視

早速実機を見てみよう。触ってすぐに感じたのは「軽い」ということだ。重量は約49g。メガネほど……というわけではない(一般的なメガネの重量は20〜30g程度)が、それに近くはある。これで、ディスプレイとスピーカーを内蔵しているのだからなかなか興味深い。


(実働する実機。左側にはケーブルが付いている。)

デザインを担当した吉田氏は次のように話す。

吉田氏(以下敬称略):

一般の方にかけていただくことを考えると、軽くないといけないと考えました。また、他の製品は、横から見たときに(メガネと比較すると)厚くなりすぎて、そこに違和感が生まれます。なので、軽く・薄くするために、基盤の際々まで詰めるトライアルを行いました。デザインが未来感のあるものになりすぎると、それはそれで拒否感が出るので、飛びすぎてもいない範囲に。その中で、コンパクトかつカジュアルなものを目指しました。

正面のカバー部はマグネットによる取り外し式になっており、簡単に交換が可能。試作の段階では、透明度別に3つのデザインのものが用意された。「完全に非透過のものを作るのも難しくない」と吉田氏は言う。
 
(透過度に合わせて3つのカバーが用意されていて、取り外して交換できる。)
 
(最も透過度が低く、大きなシェードタイプのカバー)
 

(中央にマグネットがついていて、カバーは簡単に取り外せる)

一方、軽くすること・薄くすることに拘った関係で、メガネをかけたまま使うことはできない。現状では視力矯正との同居は難しい。レンズを別途作り、内側にセットする試作品もあるのだが、マグネットなどで簡単にレンズを付けたり外したりするようにはなっていない。
 
(内側から。メガネを一緒にかけて「ダブルグラス」的に使う構造にはなっていない。)
 
(視力矯正用レンズの試作品。一部のパーツを取り外し、間に挟むような構造を採用している。付け替えにはそれなりの手間がかかりそうだ。)
 
軽さも相まって、かけごこちは悪くない。筆者の場合、そのままだと少し前にずり落ちそうになったが、メガネでいう「つる」の部分に針金が入っていて、ある程度曲げられる構造になっているので、調整すれば安定しそうだ。
 


(筆者もかけてみた。ゴーグル的ではあるが、そこまで強い存在感はない。)

軽く、違和感の小さい本体になっている理由は、この機器がいわゆる「ARグラス」や「スマートグラス」ではなく、シンプルな「ディスプレイ」だからだ。スマホやPCとUSB Type-Cで接続すると、DisplayPortのAlternate Modeで映像が伝送され、表示される。デモ用にスマホ(Galaxy)が用意されていたが、そちらはもちろん、取材のために持参したMacBook Proも何事もなくつながり、画面を表示できた。シンプルな「外部ディスプレイ」として機能するデバイスという性質上、特別なアプリなども不要だ。
 
(デモ用のGalaxyと接続。簡単に映像などを視聴できる。)
 
ケーブルは本体に直接つながっていて、取り外しはできない。このケーブルも細く、軽く、しなやかなものが採用された。企画担当の1人である津田氏は、「そこが苦労したところ。気づいていただいてありがたいです」と笑う。HMDにおけるケーブルの問題はなかなか厄介なので、最初から配慮して部材を選定したのだという。
 
(本体にケーブルがそのまま付いている。だがこのケーブルはかなりしなやかで細い。iPhoneの純正充電ケーブルと同じくらいだろうか。)
 
解像度は1920×1080ドットで、視野の広さは約40度。リリースでは「4m先に100インチの画面」というイメージで伝えられているが、筆者が見た印象だと、「1m先に25インチ」くらいの感じだ。
 
表示用のデバイスはメガネ部に上側についており、それを内部のハーフミラーで反射し、正面に見せる形を採っている。良く言えばシンプル、悪く言えばさほど工夫はない構成になっている。これは「特殊な光学系はまだ歩留まりの点で問題がある」(津田氏)という判断も影響しているそうだ。
 

(光学デバイス部を接写。上の方にマイクロディスプレイがあり、それをハーフミラーで反射するシンプルな構造だ)

純粋なディスプレイを選んだ理由は「コンテンツ」、MRへの階段として開発

 この機器は、NTTドコモが独自に企画し、協力会社とともに開発したオリジナルのもの。2016年に同社が作った日本市場向けスマートフォン「MONO MO-01J」や、2018年に開発した「カードケータイ KY-01L」のような市場提案型のデバイス、という扱いになる。
 
企画担当の石丸氏と津田氏は、意図を次のように説明する。

石丸:

現状のAR/MRグラスは、一般の消費者が買うには価格が高すぎます。それに、重くて長時間かけてはいられない。結果としてまだ世間一般には普及していないわけですが、我々としては普及させていきたい。多くの人に「かける習慣」をつけてほしい。なので、かけている姿を見ても恥ずかしくないものをまず作ることにしました。

津田:

AR/MR機能を持った単体製品が是か否か、という話ではないです。そうした製品が使われる、来るべき社会に向けたアプローチ、先行投資として、単体の製品を作ることになりました。

ここでポイントとなるのは「コンテンツ」だ。AR/MRを訴求するのはいいが、そこでなにを楽しむのか、なにを便利に感じてもらうのか、という点が重要になる。提供される価値(=コンテンツ)なくして、デバイスだけが普及することはありえない。

石丸:

現状、スマホ向けのコンテンツはたくさんありますが、MR向けのコンテンツはまだ多くない。ならば、通常のコンテンツを見ていただくところから始めよう、という結論に至りました。

津田:

社内で開発についての議論を始めた際に、「MR的な機能が必要かどうか」ということはずいぶんと話しました。しかし石丸も言うような状況・経緯もあり、まずはもう一つ前の段階を作るべきではないか、と考えたんです。お客さんに提案するコンテンツは何か? と考えた時に、今あるのは「映像サービス」。専用の機器を使うのではなく、スマホがあって、すでにあるビデオ・オン・デマンドがあって、そこにUSB Type-Cで接続する、という形であるならば、提供するための期が熟してきたのではないか、と考えたんです。
 
まだ多くの方が、Magic Leap 1に代表やMR機器を試したみたことすらない、というのが実情です。そういう方々にも機器を見て「ここまできた」と思っていただいきたいんです。ですからこの製品は、かなり「コンシューマ向け」を意識したものです。

コンテンツという意味では、映像を見るだけがこのディスプレイの用途ではない。機能としてはあくまで「ディスプレイ」なので、PCなどをつないで仕事をすることもできる。スマートフォンの場合、例えばサムスンのGalaxyシリーズならば、USB Type-Cで外部ディスプレイに接続した際、PCのような「デスクトップ」を表示して作業ができるようになる「DeX」という機能があるが、まさにこのディスプレイとBluetoothのキーボードを用意すれば、スマホをケーブル1本でつなぐだけで、「どこでもDeX」が実現できる。

(スマホ+キーボードと組み合わせ、コンパクトな仕事環境を実現することも可能。なお、写っているキーボードは一般的な市販のBluetoothキーボード)
 
ただ率直にいえば、解像度や表示特性の関係から、この製品で「小さな文字を見ながら作業をする」のは向かないような印象を受けた。作業に使う場合、どちらかといえば、ビデオ会議の映像や文字を中心としていないプレゼンテーションなどを見ながら使うのに向いている。

市販への道は「反響次第」。価格のヒントは「PC用ディスプレイ」か?

冒頭で述べたように、この製品はあくまで「試作モデル」だ。製品化の予定については決まっていないし、多くの人が体験できる場所での展示なども、決まっていない。この点は、docomo Open Houseがオンラインイベントになったことが影響している。
 
だが、この試作機が「マスに売る」ことを強く意識して開発されているのは間違いないことだ。そうでなければ、光学系の歩留まりやケーブルの使い勝手などにまで細かな気遣いをする必然性は薄い。

津田:

現在各所で実証実験を行っている最中ですが、反響はかなりあります。ながらで映像を見たいというシンプルなニーズが増えている、興味をお持ちの方は増えている印象はあります。あとは、どれだけ反響が大きくなるか、ということなのですが。

石丸:

企画担当としては、ぜひこの先を期待したいと思っています(笑)

そうなると気になるのは「価格」だ。製品化が決まっているものではないので、価格も当然決まっていない。だが、そもそもの企画意図が「高価でなく、多くの人が手に入れやすいもの」ということなのだから、想定している範囲は、もちろん存在する。津田氏は「これ、という価格が決まっているわけではない」と念押しした上で、次のように説明した。

津田:

これは「ディスプレイ」であり、周辺機器です。一般的なPC用のディスプレイがありますよね? その価格は、意識している部分があります。

筆者個人としても、手に入りやすければ、この軽量ディスプレイは面白い価値が出ると感じている。一つのイメージとしてのPC用ディスプレイの価格帯、というのはなかなか面白い線だ。ちなみに現在量販店では、PC用ディスプレイは2万円から5万円くらいの価格で売られている。もちろん、解像度や大きさによって価格は異なる。

さて、ドコモはこのデバイスを製品化するとして、本当はどのくらいの価格帯を想定していたのだろうか? それはいずれ明らかになることだろう。


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