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メタバース最新動向 2023.10.04

国内自動車メーカー8社参画、「爆創クラブ」に見る企業のメタバースとの付き合い方

2023年9月22日、千葉・幕張メッセで開催された東京ゲームショウにて、メタバースプラットフォーム「cluster」は国内自動車メーカー8社が開発に参画したメタバースゲーム「爆創クラブ」の詳細を発表した。

2021年後半にメタバースが話題になり始めてから、メタバースを活用した事例は国内外で多く登場している。日本を代表するプラットフォームであるクラスタ―(アプリ名:cluster)が1社のみならず自動車メーカー8社と立ち上げたメタバースの詳細、そして狙いを探った。なお、本記事はゲームショウでの発表会とその後に実施した個別インタビューの内容を合わせてお送りする。


発表会のステージに登壇し、その後の個別取材でも話を聞いたクラスター株式会社代表取締役の加藤直人氏(左)、トヨタ自動車株式会社ビジョンデザイン部部長の中嶋孝之氏(右)

モビリティ×メタバースの解を求めて

もともとクラスタ―とトヨタ自動車はオートサロンのメタバース展示などで協働していた。そこから、もっとモビリティの楽しみ方を伝えるためにもっと使っていけるのではないかと、このプロジェクトがスタート。トヨタ自動車としては、「そもそも、ものづくりにおいて、フィジカルとデジタルは親和性が高い。シミュレーターやデザインプロセスでの利用など、業務ではフィジカルでできないことをデジタルで先にやってきた」(トヨタ自動車・中嶋氏)、そして「メタバースはものづくり」(クラスター・加藤氏)と相思相愛の様子。

モビリティとメタバースのかけあわせを考えた際に、レースではなく車を作る楽しみ方もあるので「創ること」をコンセプトにした、とのこと。単純なゲームではなく、クリエイターが何かを創って世界を増幅させていくメタバースの世界観に注目し、現実のクルマではできない「爆走」を組み合わせ、clusterのクラフト機能を活かしたワールドとして「爆”創”クラブ」が誕生したようだ。


(爆創クラブの具体的な内容を説明したトヨタ自動車ビジョンデザイン部の飯島氏)

あの車種も?車選びから爆走カスタマイズへ

舞台設定は現在から300年後の地球。デフォルメされたローポリの世界に出てくる車は実在の車種が用意されている。登場するのは名だたる国内の自動車メーカーの各車種。その数なんと23車種。ザ・自家用車なトヨタプリウス、ダイハツミゼットやスズキキャリィのような自家用車としてはなかなか乗らないものも。そしてマツダロードスターなどのスポーツカーも揃っている。

「デジタルな世界には、自動車メーカーはみな興味を持っている。プロジェクトを進める中で自社だけでなく、他社とも共通する課題に向けて協力していきたかった」(トヨタ自動車・中嶋氏)との経緯で、トヨタ自動車単独ではなく、国内メーカー8社でのプロジェクトとして展開することとなったという。もともと自動車メーカーで協力しての展示会などを開催することもあり、声掛けには各社快く応じたようだ。とはいえ、このデフォルメしたデザインには各社こだわりのポイントが反映されているかどうかが重要だった模様。「ただデフォルメするだけでなく調整が必要なのはミニカーと同じ。爆創クラブの世界観を守りつつ、あのメーカーのこの車種のこの形状やラインを大事にするにはどうしたらよいのか、メーカー間でも色々議論させて頂いた」(トヨタ自動車・中嶋氏)とデザイン調整過程は盛り上がった様子だ。

TGS2023のブースでは、VRヘッドセット版とスマホ版が用意されていたが、今回はVR版を選択。トヨタ自動車によれば、「できればVRヘッドセットで実際に運転席で爆走する体験を楽しんでほしい」と没入感を大事にしている。酔いやすい人やVRヘッドセットを持っていない人にはスマホ版を用意したとのこと。「プラットフォームとしてclusterを選定した理由には、VRヘッドセットからスマホまで幅広く対応している点が大きかった」(トヨタ自動車・中嶋氏)。

ピットでいざ車種を選ぶと、視点が切り替わり、運転席に座って爆走体験が始まった。デモでの体験は5分ほど、ワールドを自由に走り回りながら、各所に落ちているパーツを集めていくというもの。パーツはフロントやトップなど、対応箇所が決められており、マリオカートのアイテムボックスのようにパーツに体当たりして拾った瞬間、パーツが車体にくっついてカスタマイズされていく。

道はあるが、このワールドでは自由に爆走して構わない。アイテムを集めて好き勝手走っているとプレイは終了。最後に集めたパーツの数に応じた結果が表示される。カーボン回収排出量なども表示されるのは、自動車メーカーが変わっているからこその細かなこだわりだ。最後には、パスコードが表示されており、スマホで別のサイトにパスコードを入力するとカスタマイズされた車がARで表示される。

“ゲーム+創る”プラットフォームの新機能を駆使

日本国内では、まだメタバースは“人が集まる場”としての性質が強い。clusterは「ゲーム」を軸としたワールドのコンテンツ化を進めている。「メタバースはただのSNSではない。Discordと同じものを作ってもしょうがない」(クラスター・加藤氏)。クリエイターが自由にワールドをアップロードできるメタバースプラットフォームにおいて、ワールドの多様性を担保するのはクリエイターに提供される「創る」ための機能だ。ワールドクラフト機能やアバターカスタマイズ機能などの大型の機能に加えて、「最近はよりクオリティの高いゲームを作れるようなアップデートを行っている。AAAレベルのゲームを作れるようにしていきたい」(クラスター・加藤氏)とのことで、デザイン関連のアップデートやモーションのアップデートなどを繰り返している。

「爆創クラブ」では、自動車に乗って運転する機能はclusterの既存の機能を使用。一方で「アイテム(車)を作っていくクラフト機能」が今回は新たに追加になる。今後、プラットフォーム内に実装される機能がワールドの中で先行導入された。「今回のワールドはプロトタイプ版のようなもの」(クラスター・加藤氏)と語っており、今後は作った車(アイテム)を爆創クラブ以外のワールドにも持っていけるようにする構想もあるようだ。

動画プラットフォームとして考えたときにYouTubeやニコニコ動画などのコンテンツは、クリエイターが作った一つ一つの動画だ。メタバースにおいて、ワールドは動画に相当し、各プラットフォームにはさらに多くのコンテンツを集める必要がある。その鍵は「作るコストを下げつつできることを増やす」(クラスター・加藤氏)とのこと。TGS2023で別途開催されていた事業戦略説明会でも、生成AIは重点テーマとして触れられていた。今後、メタバースの制作コストはさらに下がっていくだろう。

企業のメタバース活用へのヒント

「爆創クラブ」は、自動車メーカーがモビリティとメタバースの組み合わせを考える中で誕生したプロジェクトだ。企業がメタバースと向き合うにあたり、印象的なポイントを紹介していきたい。

まず1点目は“世代”だ。トヨタ自動車では、「メタバースは若い世代のものなので、企画はより詳しく分かっている若手社員たちに担当してもらった」(トヨタ自動車・中嶋氏)という。今回のプロジェクトで、クラスタ―とトヨタ自動車は共同制作ということを強調していた。「色やシェーダーのかけかた、世界観づくりは豊田側でディレクションした」とのこと。もともとデザイン工程で3DCGを扱い、VRなどにも造詣のあるトヨタ自動車の若手職員が中心に取り組んだことで、いわゆるクライアントと受託側のような関係ではなく、技術的な部分を含めかなりフラットに議論が進んだようだ。

2点目はメタバースのプロジェクトをきっかけにバーチャル(デジタル、ソフトウェア)との関係性をコンセプトレベルで捉え直していることだ。発表会では、「車はカスタマイズすることでアイデンティティを表現している。アバターのように車のカスタムを楽しんでもらいたい」という言葉も飛び出した。コンセプトとしてもチャレンジが多い中で、「爆創クラブの話をすればするほど、リアルとバーチャルの区別がなくなっていく感覚になっている」(トヨタ自動車・中嶋氏)とのこと。「世界はひとつなので完全にシームレスに繋げていきたい」と語り、モビリティの未来が現実世界のハードウェアやインフラだけに留まらない認識をしていることが伝わってきた。一方、クラスター・加藤氏からは「バーチャル空間をAIで把握するR&Dをしている。メタバースでとれたデータを現実に還元していきたい」と具体的な例も飛び出した。

メタバースはバーチャルの究極の形だ。爆創クラブのプロジェクトを進める中で、トヨタ自動車における、バーチャルへの考え方はさらに変化していくかもしれない。「爆創クラブ」は今後、ユーザーの反応を見ながら継続して運営していくことを目指している。今後の展開に注目したい。


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