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業界動向 2023.02.01

XRデバイスの基幹技術が出揃い、ハードウェア開発の参入が今後も増えそう「CES 2023 報告会 ~XR/メタバースの動向を読む~」イベントレポート(前編)

2023年1月5日から8日まで、米国・ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」。XR/メタバース分野でも、様々な最新デバイスや技術の発表が行われるなど、毎年注目のイベントとなっています。

日本からも、メディア関係者などを含め多くの人が現地に訪れました。その報告会として、2023年1月19日に「CES 2023 報告会 ~XR/メタバースの動向を読む~」が開催されました。

今回は、フリージャーナリストの西田宗千佳氏と株式会社Shiftall(以下「Shiftall」)代表取締役CEOの岩佐琢磨氏がゲストとして登壇。イベントを主催する株式会社Mogura(以下「Mogura」)代表取締役社長CEOの久保田瞬が司会を務めました。第1部では西田氏と岩佐氏が現地の模様をレポート。第2部では三者のパネルディスカッションが行われました。

本稿では、その模様をフリーライター/編集者の高島おしゃむ氏に伝えていただきました。前編・中編・後編の全3回に分けてお届けします。

HMDの要素技術が出揃い、同水準の製品が登場してきた

まずは西田氏から、今年のCES報告が行われました。話題をHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に絞ると、同イベントでは「多くの商品が出展された」という話になりがちです。しかし今年のポイントは、「2015年頃にできたアーキテクチャから次世代に移ったものがちゃんと出てくる時代になった」ことだと、西田氏はいいます。

最初に西田氏は、HTCが今回発表した「VIVE XR Elite」と2016年に発売された初代「VIVE」の比較写真を紹介しました。レンズを中心とした光学系(モジュール)の作りによって、以前と比べて薄型になり、サイズ感やバンドの間隔なども大きく変わっています。まだ身に付ける側に負担があるという声もありますが、こうした製品の登場で、「HMDの市場環境が変わる」と西田氏は指摘します。


(撮影:西田宗千佳、以下同じ)

他にも、TCLが展示していたARグラス「NEXTWEAR S」は、すでに予約受付が開始されています。使用している光学系は「Nreal Air」とほとんど同じで、ディスプレイもソニーのマイクロOLEDを搭載。「見栄えもかけ心地も同水準です」(西田氏)。

同じような製品が複数のメーカーから発売されるのは、偶然ではありえません。製品を作るテクノロジーがそろった状態だからこそ、生まれる状況なのです。西田氏は「いろいろなものがちゃんと売られる時代になってきた。今年以降は様々なメーカーから同様の製品がもっと登場するでしょう」と述べました。

西田氏によれば、シャープもHMDを出展していましたが、同社のユニークなところは、HMDそのものではありません。シャープのHMDには、ポリマーを中に充填したレンズが使われており、画角を変えることなく、超高速で・オートフォーカスでピントが合わせられます。「この技術で、酔いにくいシースルー型VRデバイスが作れるようになる」のです。

もうひとつの特徴は、高さ1.4ミリの極小カメラモジュールです。シャープは、HDMの視線探知用のカメラとして使えると考えているとのこと。HMDに入れても視野が欠けることがなく、スペースもそれほど占有しません。

つまり、シャープが「CES 2023」に出展した理由は、VRデバイスを開発できることだけではなく、そのパーツを全て持っているとアピールするためだと西田氏は推測しました。「スタートアップがHMDを持ってくるのとは方向性が異なる」のだと。

ARグラスのハードウェア開発にも企業が増えてきた

TCLは、技術開発中の光学シースルーARグラス「RayNeo X2」も展示していました。スマートフォンに接続して映像を出力し、実景に重ねて情報を出す仕組みです。(スライド内の画像で)やや虹色に光っているのは瞳孔用の偏向部分。グラスのツル部分に、LEDベースのプロジェクターが入れられています。

「こうした構造のARグラスが他にもいろいろとありました。TCLのようなHMD専門会社ではないところでも、光学系のデバイスを作れるようになったのです。ソフトウェアはまだまだですが、ハードウェアを作ること自体はそれほど難しくなくなってきたといえます」(西田氏)

Vuzixは、シースルー型のARグラスを出展していました。同社はウェーブガイド(導光板)のパーツやディスプレイのエンジンなども量産しており、OEM用にパッケージで提供できるのだそう。「ソフトウェアはともかく、ハードウェアを出せるようになったところがポイントです」(西田氏)。

ボリュメトリックビデオ、モーションキャプチャ技術も普及が進む

キャプチャーやモーショントラッキングなど、3Dオブジェクトをデジタルの世界に入れる技術が出てきたところも、「CES 2023」の出展傾向のひとつです。ソニーは「ボリュメトリックキャプチャ技術」を出展していました。カメラを7脚立たせて照明を当てるだけで、撮影エリアの中央に立つ人の持ちものを3次元デジタルデータに変換して、高画質に再現可能な3D映像を制作できます。

「様々な場所に持ち歩くことを想定して、データ処理はデバイス側ではなく、クラウド側で行われます。たとえば、ライブやイベントの会場に持って行くことで、この技術で取り込んだキャラクターをメタバース内に出力したり、メタバース側から会場にインタラクションすることができます。また、メタバース側にいる人にインタラクションをすることも考えられます」(西田氏)

ソニーは、日本でも発売されたモバイルモーションキャプチャー「mocopi」も展示していました。米国ではまだ発売未定でも、日本からこのようなデバイスが提案できるとアピールしているのです。

いわゆる「バーチャルプロダクション」は、カメラを扱う会社ならどこも手がけるソリューションとして普及しました。映像制作の現場でも、ゲームエンジンを使用して背景を作り、ロボットやモーショントラッキングの機能が付いたカメラで撮影するスタイルが定着しています。

それらで培ったテクノロジーを様々なところで活かす方法が、VR/ARの分野に広がっているのでしょう。

透明ディスプレイや自動車センシング技術など隣接分野も要注目

もうひとつ、西田氏が「見ておくべき」と話したのは、LGが出展した透明ディスプレイです。透明な有機ELD(OLED)は以前からあった技術ですが、同社はそれを家庭に持ち込もうとし始めています。

透明のスクリーンを使用したテレビを訴求していました。光の透過率は30~40パーセントほどしか抜けておらず、ディスプレイの片側から手を当てても、相当明るくしなければその手を見ることができません。まだ演出でカバーする必要があります。

一方、日本からはジャパンディスプレイ(JDI)が、液晶技術「Rælclear」を使った透過ディスプレイを発売しています。透過率は84パーセント(新型の20.8インチモデルは90%)もあるので、電気を消した状態ではほぼアクリル板のようにしか見えません。しかも、ちゃんと透過性を保ったまま映像も見られるようになっています。画面サイズも大きくなって、「演出などにも使えるようになってきた」(西田氏)。

ソニーの自動車「AFEELA」も注目です。車体にセンサーがたくさん付けられていて、車体の制御だけではなく、様々なことに利用できます。

たとえば周辺から迫るものをカメラで認識すると同時に、ノブを使わずドアを自動で開けられます。また車内にはToFセンサーが入っており、人の頭の位置を認識できます。3D音響を聞くときに自分が中央になるように調整したり、キャラクターとコミュニケーションをするときの顔の向きを認識するときにも利用できるのです。これらは、「センサーを利用して何か面白いことができるようになったということ」(西田氏)でもあります。

サムスンのブースでは、人の顔を内側から認識する技術が展示されていました。データは安全のために使用されると同社は説明していますが、ソニーの例のように、エンタメ利用できるものも出てくるでしょう。そうしたところが「今年のCESの面白いポイントだった」と西田氏は語り、締めくくりました。

(執筆:高島おしゃむ、編集・構成:笠井康平)


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