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セミナー 2019.09.19

宇宙×教育×VR。グリー「ありえなLAB」の挑戦【CEDEC2019】

2019年9月4日から6日にかけて開催された、ゲームを中心とするコンピュータエンターテインメントの開発者カンファレンス・CEDEC2019

今回『宇宙x教育xVR=ちゃんと学べる体感サイエンスツアー「ありえなLAB」の挑戦』と題されたセッションでは、グリー株式会社 開発本部 XR事業開発部の渡邉賢氏、原田考多氏、GREE VR Studio Labの白井暁彦氏が登壇しました。

この「ありえなLAB」は、月の環境が学べる子ども向けVR体感サイエンスツアーで、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)とグリーが共同制作を行ったロケーションVRのイベントです。

1年半の取り組みにより得られたVR教育コンテンツロケーションオペレーション、そしてビジネスサイドの知見と課題が披露された本セッションの様子をレポートします。

VR×教育コンテンツ

本セッションは、グリーの開発本部 XR事業開発部 エンジニアリングチームの渡邉氏がメインで発表を行いました。

グリーとJAXAは、2017年からVR/AR分野において人工衛星等宇宙関連データを活用した新たな事業創出へ向け、宇宙を題材にした体験コンテンツの共同制作に関する連携協力を行っていて、「月面スポーツ VRハッカソン」などを開催していました。

その中で、宇宙というのは簡単には体感できないものではあるが、VRであれば簡単にさまざまな体感ができるため、子供たちに「ありえない」宇宙の体験をしてもらって宇宙に興味を持ってもらおうという、教育VRコンテンツのプロジェクトとして「ありえなLAB」が生まれました。

「ありえなLAB」は「遊びながらちゃんと学べる。先進技術を駆使した体感サイエンスツアー」というコンセプトで、ロケーションVRを教育に寄せたイベントになっています。

会場は、導入をクイズ形式のビデオ上映で行うブース、VRを用いて体験するブース、導入のクイズの答えを確認する学びのブースという、3ブースを5分間ずつで順番に回る形になっています。学びのブースでは解説のビデオを見るだけでなく、JAXAの資料展示などもされています。

また、各ブースを玉突き型で移動する形式にすることで、スタッフ1人でオペレーションできるようになっているそうです。

「ありえなLAB」では、下記のようなテーマの学びができるブースが作られました。

VR月の重力

「月の重力は地球の1/6である」ということを体験してもらうため、VR空間内の地球と月で玉入れをして、玉の動きの違いを体感するコンテンツです。

VRコンテンツでものを掴んで投げるという動作をさせる際に、コントローラーのトリガーを押すと掴んで放すと投げる、ということがよくありますが、VRの操作になれていない人にとっては難しいところがあります。そこで、子供が主ターゲットである本コンテンツでは、トリガーの操作なしで、ものに手を近づけたら掴み、投げる動作をしたら投げる、というようにしたそうです。(投げる動作を検知するのは難しかったそうです)

VR月の大きさ

「月の大きさは3,500kmです」と言ってもその大きさを実感することができないため、身近なものの大きさを見せていきながら、最後に月が現れる、という内容になっています。

ここでの技術的推しポイントは「グリー内製のオリジナル単眼HMD」です。単眼にすることで3歳から6歳の子供でもVRコンテンツを体験できるようになっています。

もともとグリーはイオンのアミューズメント施設「モーリーファンタジー」向けに子供向けVRコンテンツを作っており、そこでも単眼HMDが使われていますが、そこでは専門スタッフの常駐がない店舗向けに、重さと引き換えに2年ほどの耐久性を重視した作りになっていました。一方で今回の取り組みではイベントでの運用になるため、耐久性よりも軽さを取り、改めて450gのオリジナルHMDを作ったとのことでした。

よみうりランドで本イベントが開催された時はロケーションビジネスを手がけるCAセガジョイポリスがオペレーション担当であったため、強度のチェックの上安全性の強化は行われたそうです)

VR月面ドライブ

月の表面はレゴリスと呼ばれる砂で覆われているのですが、車のタイヤを選び、走り方の違いによって月面の環境を体感するコンテンツです。

ここでは、JAXAが持っている月面観測データから生成した地形を使ってドライブができるようになっています。

VR月の満ち欠け

教科書で習う「太陽・月・地球の位置と月の満ち欠け(見え方)の関係」を、VRで描いた宇宙空間から見ることで体感するコンテンツです。

本コンテンツ用に、スタンドアロンHMDと、既存のコントローラーをうまく隠したオリジナルガンコントローラーを作成したそうです。

VR×教育コンテンツの作り方

本イベントを作るにあたり、企画時には複数のテーマがあがったそうです。しかし、例えば「月面の温度差」というテーマについて、見た目だけで温度差を体感させるには難しく、VRとは相性が悪いと判断されました。いっぽうで、「月の満ち欠け」というテーマであれば、視点を自由に変えられるVRと相性が良かったということです。

教育とエンタメの両立、バランスも難しかったといいます。教育要素の説明が多くなると楽しくなく、エンタメ要素が多すぎると何を体験させたかったのかが分からないということで、何度かモックを作り直したということがありました。
その中で出たアイディアが、いっそのこと教育パートとエンタメパートを分けてしまえということで、後半部分をエンタメに振り切った作りにしたそうです。例えば、「VR月の重力」では、教育パートでは地球の環境と月の環境を交互に入れ替えボールを投げた時の違いを体験させて、後半のエンタメパートでは月でひたすらボールを投げ続け、投げたボールが花火になるという内容になっています。

VRパートの前後の動画パートにおいてもクイズ形式にしたり、今日の月の満ち欠けについてiPadの映像で見られたりと、体験者が退屈しないように見るだけでなく何かができるようなブースにしたそうです。

VRで教育コンテンツを見せる際、例えばHTC VIVEを使った場合対象年齢は7歳以上になり、兄弟で来た場合年下の子が体験できないという事もあります。そのため、先述の通り単眼HMDを使って3歳以上であればVR体験ができるようにしたり、砂場にプロジェクションマッピングで月面の映像を映してそこで宝さがしができるようなものを作ったりと、幅広い年齢層が楽しめるようなコンテンツの幅が必要であるということです。

VR×教育コンテンツの課題

今回の取り組みは、ワークショップ、科学館、遊園地、ショッピングモールといった4種類の場所で、それぞれ異なる狙いで開催されました。

ワークショップで実施した際は、9割以上が満足し、約8割が次も参加したいとの結果がでたそうです。しかし「ジェットコースターに乗りたいー!」という人がいる遊園地での開催では、エンタメ要素を増やした作りにしたけれど反応が芳しくなく、教育とエンタメの両立の難しさを痛感したそうです。とはいえ、遊園地やショッピングモールのほうが会場が大きく事業面ではスケールしやすいということもあり、この点については今後の課題としました。

またVRでのコンテンツは、体験した人にとっては満足度が高いものが作れたとのことですが、体験する前に「分かりやすい」「やりたい」と思わせるという点ではリアルに比べると勝てていないと渡邉氏は述べ、これを克服することがイベントの今後の課題であるしました。

セッションの最後では、原田氏と白井氏も登場して、複数の視点での「ありえなLAB」の振り返りが行われました。

事業面を担当している原田氏からは、オペレーション負荷を下げるために開発担当の渡邉氏との調整を繰り返した結果、1ブースあたり5分で回ったりVR空間でものを掴む時にトリガーボタンを使わないようにしたりという仕様が生まれていったとコメントがありました。

また、日本科学未来館で科学コミュニケーターの経験もある白井氏からは、「ゲーム開発者が簡単に作れるものが科学館スタッフでは重要視されるものであったり、科学館のビジネスが入場料ではなくワークショップなど体験の続きができるようなミュージアムショップのグッズに移っている」と語りました。

「ありえなLAB」の取り組みは事業面ではまだ課題があるということですが、コンテンツに興味を持たれた方と話をしていきたいとし、セッションを締めくくりました。


(左から白井暁彦氏、渡邉賢氏、原田考多氏)

(参考)CEDEC2019: 「宇宙x教育xVR=ちゃんと学べる体感サイエンスツアー「ありえなLAB」の挑戦


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