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メタバース 2022.07.07

ビームスはメタバース時代の「百貨店」になる? ビームスクリエイティブ代表・池内光氏に聞く

(※本記事は書籍『メタバース未来戦略 現実と仮想世界が融け合うビジネスの羅針盤』の内容を一部、許諾のもと編集・転載したものです)

メタバースでの商品販売、いわば「メタコマース」にいち早く取り組むセレクトショップ大手、ビームス。彼らは日本発の大規模イベント「バーチャルマーケット」への参加はすでに3回を数え、店舗スタッフがアバターで行う「リアルタイム接客」や店舗出展などで知見を溜め続けている。メタバース時代をどう勝ち残ろうとしているのか、株式会社ビームスの取締役、および株式会社ビームスクリエイティブ代表取締役の池内光氏に訊いた。


池内 光 / Hikaru Ikeuchi
1971年生まれ。ビームス取締役、ビームスクリエイティブ代表取締役社長。大学卒業後、電通に入社。23年間の在籍期間、キャリアの前半は営業職、後半はクリエイティブ部署においてプロジェクトをつかさどるプロデューサーとして、大小さまざまな企画を手掛けた。2018年4月、ビームスへ入社し、社長室室長に。2020年5月、ビームスクリエイティブ代表取締役社長に就任。
 

メタバースでの「生接客」から得られた手応え

――ビームスは2020年12月から2021年1月にかけて開催された「バーチャルマーケット5」から、これまで3回連続でバーチャルマーケットに出店しています。参加のきっかけを教えていただけますか。

池内 光氏(以下、池内):
バーチャルマーケットは、2019年に主催のHIKKYから話をもらったのがきっかけです。ビームス社長の設楽洋や私も含め、プレゼンを受けた当社の経営陣全員が興味を持ち、「面白い、とりあえずやってみよう」となりました。HIKKYのCEOである舟越靖さんの熱いプレゼンに、乗りで応えたような部分もありますが(笑)。単に出店するだけではなく、将来への投資的な意味合いも持たせたかったので、2020年11月にHIKKYと業務提携もしています。

ビームスはメタバースという言葉がまだほとんど知られていなかった2008年、カプコンとゲームズアリーナ(ドワンゴの子会社)の共同出資会社が運営していた「ダレットワールド」にも出展していました。オンライン3D空間の中にバーチャル店舗を持って、ユーザーはアバターでショッピングやコーディネートを楽しめるというものです。ダレットワールド自体は1年半ほどで終了してしまいましたが、ビームス自体はもともと新しいものに挑戦する社風があるんです。

――バーチャルマーケット内の店舗コンセプトはどのようなものですか。

池内:
私たちは「ビームスバーチャルマーケット店」と呼んでいるのですが、基本的には「バーチャル世界であってもビームス店舗の一つである」と考えています。

バーチャルにおいても、リアルのビームス店舗の象徴やイメージはしっかり踏襲したかったので、ビームス1号店である原宿店をイメージしたデザインに仕上げました。実際のビームス原宿店も、入ってすぐ2階へ上がるためのらせん階段があるのですが、バーチャル店舗でもそれをイメージさせるようなものを作っています。

一方で、バーチャル店舗では現実の設計にはとらわれない、独自の空間作りやコーナー展開もしています。例えばバーチャルマーケット5では、ちょうどビームスが手掛けていた宇宙飛行士の野口聡一さんが国際宇宙ステーション(ISS)滞在中に着用する衣服のコラボから着想を得て、バーチャル店舗の隣にロケットを置きました。店舗2階の桟橋のところに発射ボタンがあって、それを押すとロケットが飛んでいくという、ちょっとした遊び要素を追加しました。同じくバーチャルマーケット5では、イベントのオフィシャルTシャツや、バーチャルマーケット公式アバター「Vケットちゃん」のビームス特別バージョンの3Dアバターを販売したりもしています。

(バーチャルマーケット5でのビームスのバーチャル店舗の様子。まさかのロケットが鎮座する。画像提供: ビームス)

続くバーチャルマーケット6(2021年8月開催)では、1階はビームス原宿店の店舗イメージを踏襲しつつ、2階を企画スペースにしました。牛乳石鹸と組んで同時期にリアルで実施していた企画を再現した「バーチャル銭湯」を提供したのですが、社内では最初、「これ、誰が来るの?」という議論もありましたね(笑)。ところが、実際にオープンしたら外国人の参加者も含め、「日本文化としての銭湯」を楽しんでもらえたようで好評でした。他には「PUI PUIモルカー」の3Dアバターも販売。正直、これも私たちの中では半信半疑だったのですが、HIKKYに意見を聞くと「これは売れるでしょう」という人が多く、実際に大人気でかなり売れました。

2021年12月に開催されたバーチャルマーケット2021は、渋谷をモデルにした会場に出店し、ここでもビームス原宿店を再現。企画スペースの2階ではNetflix(ネットフリックス)で配信された映画「浅草キッド」とのコラボを実施しました。店舗の2階に上がると、実際に映画の舞台を体験できる「バーチャル浅草」が広がっているというメタバースならではの仕掛けです。

――リアル店舗のイメージを一部踏襲しつつ、リアルとも違う「バーチャル空間ならでは」を模索しているのですね。

池内:
ファッションの観点で言うと、バーチャル空間やメタバースは一種のワードローブのようなものと捉えることができると思います。服を選ぶことが自己表現の一つであるならば、メタバースではアバターを選ぶところから含めて自己表現なのではないかと。

ビームスがセレクトショップという、世の中のトレンドや新しいものを紹介する機能を持っていることも含めて、「個人がどういう姿形になりたいか」という自己表現欲求に対して、私たちがメタバースで果たせる役割はかなりあるのではないか。そう感じているところです。

ただ、バーチャル世界における自己表現は、まだまだ一部の限られた人たちだけの領域。また、バーチャルの世界では等身大の自分をそのままアバター化したいという欲求がある一方、現実では実現できない自己表現、例えば「大人の男性がかわいい少女の姿になりたい」といった欲求もかなり多いように感じています。そうしたさまざまな欲求や可能性がある中で、ビームスはどんな人に、どうアプローチしていくのかが難しいところです。

――「リアルを忠実に再現した自分」か「全く別の自分か」では、売るものも大きく変わってきますよね。

池内:
そうなんです。HIKKYによると、ユーザーの中には「動物になりたい」「かわいい女の子になりたい」「イケメンになりたい」とかだけではなくて、「植物になりたい」とか「棒切れになりたい」と言う人もいると(笑)。

今はどちらかというと「リアルではなれない自分」を実現・表現する場になっていますが、今後メタバースがSNS的なものに近づいていったときは、よりリアルの自分自身に近い姿を見せていきたいと思う人たちも増えてくるとは思っています。

もう一つ、バーチャルマーケットで経験を積む中で気づいたのは、メタバースでものを売る感覚はECサイトよりも現実のショップに近い、ということです。ECでは一覧性が重視されますが、メタバースは多くの人が往来する場ですし、アバター同士でのコミュニケーションも発生します。そのような場でECのように商品の一覧性を高めても、うまく機能しません。

これはバーチャルマーケット5のときから継続しているのですが、ビームスのバーチャル店舗ではボットやAIアバターではなく、あえてリアルのスタッフがアバターとして店舗に立ち、接客をしています。外国からの参加者などは「本当にそんなことやっているの? 本当にクレイジーだな」なんて言われましたが(笑)。

実はこれがかなり好評で、バーチャル店舗に来てくれた参加者とスタッフが仲良くなり、「本人に会いたい」とリアルの店舗に来てくれたこともあります。私たちが現実世界で培ってきたコミュニケーションや接客のノウハウが、バーチャル世界でも通用する手応えを感じています。
 
(ビームスのバーチャルスタッフ。画像提供: ビームス)


(VRヘッドセットを装着し、アバターを操作する様子。画像提供: ビームス)
 

Metaの「Horizon Worlds」の手数料は高い?安い?

――コミュニケーションはメタバースにおいても必須の要素ですし、リアルでのノウハウが生かせるのは強みですね。一方で、メタバースにおけるMD(マーチャンダイジング)について、「ものをどう売っていくか」「売れるものと売れないものの見極め」に関しては何かつかめていますか。

池内:
私たちの今までの感覚で「これは売れる」と思ったものが売れなかったり、逆に「これはよく分からないな」と思ったものが予想以上に売れたりと、メタバースではまだ試行錯誤が続いている状態です。

例えば、あるキャラクターが好きな人でも、メタバースでは「そのキャラクターになりたいからアバター自体は欲しいけど、自分のアバターが着るためのキャラクターTシャツはいらない」といったこともあります。とはいえ、バーチャルマーケットのコアユーザー層に対しては、人気のキャラクターコラボ商品などで「狙って当てる」ことはできたと思っています。

今後、メタバースではまだはやっていない、よりリアルのトレンドに近いストリートカルチャー的なものを届けていくのか、それともメタバースだからこそ表現可能な斬新なデジタルファッションを新たに提案するべきなのか。どちらが正解なのか、あるいは両者をどれくらいの比率でやるべきなのかを、さまざまな角度から検討しているところです。

後者のデジタルファッションに関して言うと、メタバースにはすでにクリエーターが多数存在しているので、そういう方々と一緒に何か作りたいですね。ビームスもメタバースではまだ新参者ですし、ある意味で彼ら彼女らに認められるような取り組みができると、また新たな可能性が見えるのではないかと。

一方で、そこだけを目指していると限られたコミュニティにしか届かず、ビジネスの幅も狭まってしまうでしょう。私たちが知っているファッション業界の常識がそのまま通用しない部分も、「今はそれを欲しがるユーザーがいないだけ」の可能性もあります。これからメタバースがより一般化していく中で、ユーザー属性やその割合も変化していくと思いますし、「今この瞬間に売れる」ことだけに固執しすぎるのはリスクが高いと考えています。

――いわゆるメタバースが一般に定着するのに、あとどれくらいの時間がかかると考えていますか。

池内:
最短でも5年はかかる、というのが個人的な見立てです。私たちはプラットフォーマーになるつもりはなく、コンテンツ供給側。その立場からすると、やはりある程度の規模を持ったプラットフォーマーが出てきてくれないと、ビジネスにはなりにくいと考えています。乱立するプラットフォームに、その都度出店するわけにもいかないので。

――現状の取り組みだけでも、ビームスのブランディングやPRの面では非常に貢献していると思いますが、次に目指すのはやはり販売でしょうか。

池内:
正直なところ、単純に販売数や売り上げだけを指標にしてしまうと、現状では「全く割に合わない」という結論になってしまいます。短期的に販売に特化するのであれば、従来のECサイトで事足りるわけで、現状のメタバースでは販売よりも販促、あとはコミュニティ形成に期待しています。

これはリアルでもそうですが、市場自体が細分化・小粒化している中で、ビームスがさまざまなコミュニティの中心的存在になったり、個々のコミュニティの特性を把握したうえで深くつながったりしていく必要があります。

理想を言えば、HIKKYが「パラリアル」(パラレルワールド:並行世界と、リアル:現実世界を組み合わせた造語)と呼んでいるような世界が望ましい。メタバースの中で商品紹介をし、そこでアバターやデジタルファッションを売り買いできつつ、リアル商品としても話題になって現実世界で売れるという構造です。とはいえ、メタバースの中だけで売れる、いわゆるデジタルコンテンツでもヒット作品を生み出したいと思っているので、そちらも並行してやっていきます。

――バーチャルマーケット以外では、例えば「The Sandbox」などではメタバース内の“土地”を販売しているケースもありますが、出店戦略としてバーチャル空間の“一等地”に興味はありますか。

池内:
もちろん興味はあるのですが、正直高いですよね(笑)。バーチャル世界でデジタルコンテンツを売って稼ぐことに特化するのであれば、当然ユーザーが多くて立地がよく、高い収益性を見込める“立地”が必要になります。

ただ、現状、私たちは売り上げの側面だけではなく、バーチャルとリアルの接点を作る、その可能性を広げるトライアルをしているところ。すでに高い値段がついていて一等地はもう他のブランドに押さえられているとなると、参入は難しいでしょうね。

――22年4月にはMetaが自社のメタバース「Horizon Worlds」での販売手数料を47.5%と発表しました。既存のECサイトなどと比べても高い部類だと思いますし、場合によっては実店舗で販売するコストより高いかもしれません。

池内:
Horizon Worldsに関して言えば、実際にMetaはプラットフォームに相応の投資をしているので、50%近い手数料もやむなしかなと。そもそもHorizon Worldsは個人のクリエーターを対象にしているように見えるので、個人で参入して約50%の収益が残るなら、それでやっていける人もいるとは思います。

ただし、企業がHorizon Worldsを活用する場合、特にビームスの場合は自社でデジタルコンテンツを作れるわけではないので別途制作コストがかかりますし、その他の経費も考えないといけません。また、現状ではデジタルコンテンツの単価が非常に安いので、50%近い手数料を前提に企業として収益を上げるためには何万着も売らなければいけない状態になりかねません。それでも参入するのであれば、売り上げや利益追求ではなく、プロモーション的な意味合いが強くなるでしょうね。

韓国のアバターSNSである「ZEPETO(ゼペット)」が、実は今そのような状況だと聞いています。ゼペットでは個人クリエーターがアバター用の洋服やアクセサリーを作っており、かなり稼いでいる人もいます。

一方で、ZEPETOにはグッチやラルフローレン、ナイキなど、ハイブランドも含めて複数のブランドやレーベルが出店しているのですが、彼らは感度の高いZ世代や、さらにその次のα世代も含めた若いユーザーに向けたプロモーションを主目的としていて、販売収益はあまり考えていないという話です。

――メタバースに関してよく言われるのは、電子マネーと同じように複数のプラットフォームが乱立・並立した状態がしばらく続くという予測です。とすると、「どのメタバースに出店するのか」が重要になると思いますが、それを決定する要素は何でしょう。

池内:
プラットフォーマー側が私たちのコンテンツを欲してくれるかどうかが、先にあります。後は、やはりそのプラットフォーマーのビジョンやターゲット次第です。

先ほど言ったように、ファッション業界にとっては「メタバースは一種のワードローブである」という考え方もできるので、競合や先行者優位といった考え方から離れて皆で一緒に取り組むこともできると思います。ビームスのバーチャル店舗に他のセレクトショップが参加してもいいと思いますし、逆に業界全体で盛り上げていかないとメタバースを文化として定着させるのは難しいのではないかと。

メタバースに場を作るにしても、さまざまな投資が必要です。共通してできる部分は各社バラバラではなく、同業・異業種問わずいろいろな方々とタッグを組んで取り組んでいきたいですね。ビームスはコラボレーションを得意とする会社でもありますし、メタバースでもセレクトショップの強みを生かしていけると思っています。

それこそ、競争を是として経済を発展させてきた資本主義社会なので、難しい面もあるでしょう。しかし、この変革期にあっては一度目線を変えないと勝ち残れないと思いますし、立ち止まっているとデジタルを得意とする業界の人たちに全部持っていかれてしまうのではないか、という危機感もあります。

――ビームスが出店希望企業のハブになる形で、メタバース時代の“百貨店”になるかもしれませんね。すでに「これからメタバースで何かやりたい」という相談や問い合わせが多数あるのではと思いますが、そうした企業にアドバイスはありますか。

池内:
そもそもビームスでは、新規事業に取り組む際に精緻なKPI(重要業績評価指標)を設定し、それの達成、未達成で事業の継続を判断するやり方は取っていません。メタバースはまだリスクも高い領域だと思うので、1回だけのチャレンジで判断するのは難しい。続けていくには、短期のKPIに縛られず、中長期の投資的な視点を持つ必要があると思います。

とはいえ、KPIを重視する企業も当然あるので、その場合は売り上げの他にPR効果などKPIを複数用意しておくのがいいでしょう。あるいは、当社のようにすでにメタバースの経験のある企業と組んで一度トライアルしてみるのも手です。

(聞き手:久保田瞬、石村尚也 / 構成・執筆:桑原健太郎 / 写真:高山透)

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2021年10月、旧フェイスブックが社名を「Meta Platforms」に変更し、メタバース関連分野へ年間100億ドル(約1兆1400億円)もの投資を行うことを公言したことで号砲が鳴った「メタバース狂騒曲」。NFTやWeb3、デジタルツインなど、関連するバズワードが入り乱れる中、その「本質」と「真価」を見通すのは容易ではありません。

結局、メタバースとは何なのか。仮想世界ではどのようなビジネスチャンスが生まれるのか。今からどうやって取り組んでいけばいいのでしょうか――。

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