近年の“VRプラットフォーム”の活躍は目覚ましいものです。自作のVR空間を自由にアップロードし、他のユーザーを招待できる「VRChat」や、主にVRイベント会場として用いられている「cluster」などがその代表でしょう。
株式会社Psychic VR Labが開発・運営する「STYLY」も、そのようなVRプラットフォームのひとつです。Web上でVRコンテンツを制作できることを特徴としており、既存の3Dデータ(アセット)の他、Instagramに挙げた写真も使用できるなど、比較的カジュアルな制作を魅力としています。それだけではなく、ゲームエンジン「Unity」等と組み合わせることで、クオリティの高いコンテンツを作ることもできるのです。
STYLYのもうひとつの特徴として、多様なジャンルがクロスすることも挙げられるでしょう。VRでファッションやアートなどのジャンルとコラボレーションするように、単なるVR空間を制作するだけに留まらない範囲で利用されています。
そこで今回は、実際にSTYLYの機能を紹介するとともに、他のジャンルも巻き込んだVRコンテンツ制作とはどんなものか? ということについて披露します。一見してVRとは“遠い”であろうジャンルであろうとも、コラボが十分可能である、ということもご紹介できればと思います。
アニミズムの銅板作家が描く世界を、VR化する
今回、コラボレーションの企画を持ちかけたのは、銅版画家として活躍する野瀬昌樹氏。主にアニミズムや狼信仰を題材とした版画を制作しており、宮崎駿作品で言うなれば「となりのトトロ」や「もののけ姫」のようなモチーフを取り扱っています。
野瀬氏はアーティストとしてもデジタル表現から遠く、VRについての事前知識はほぼゼロベースです。しかしデジタル表現と距離が遠いからこそ、VRにしたときの力の大きさがあると考えたほか、世界観が確立されている点もVRでの表現に向いているのではないかと考え、コラボを持ちかけました。
(野瀬昌樹氏による、中之条ビエンナーレ2015での展示の一つ。)
これまで野瀬氏が行った展示のなかでも、とくに印象深かったのは、群馬県中之条町で開催される芸術祭、中之条ビエンナーレ2015で行われたグループ展「マレビト」です。こちらでは版画作品の展示だけではなく、立体作品やインスタレーションを行うなど、これまでにない作風を展開していました。
いわば版画作品だけではなく、空間表現を行っていたことからもVR化のヒントがありました。今回のコラボレーションでは、中之条ビエンナーレ2015での展示をもとに、野瀬氏の作品世界をVRに落とし込んでいくことを考えていきます。
いかに作品世界をSTYLYでVRに落とし込んでいくか?
さて、野瀬氏の世界観を「STYLY」でどのように展示していくべきでしょうか?
まず、初めに思いつくアイディアは「VRによる作品の展示」です。STYLYではVR上でファッションやアートを提示するコンテンツの制作が活発に行われています。現実での展示ではなく、VRや3DCGを使うことを新しい表現を追求できたり、またはクライアントへの説明や紹介に使うなど、さまざまな用途にも応用されています。それに倣うかたちで、構成を考えてみます。
STYLYは制作時のTipsなどをまとめたメディアも展開しており、まったくの初心者であってもVR空間を作れるだけの情報がまとまっています。内容はアカウントの登録から解説する徹底ぶり。どんなふうにVRコンテンツを作ればよいかのチュートリアルも完備されているため、誰でも、とてもカジュアルに空間制作に触れることができるでしょう。
チュートリアルを参照することで、野瀬氏の代表的な作品をざっくりと並べることもできます。作ったVRコンテンツは簡単にアップロードすることができ、公式ギャラリーであるSTYLY Galleryではさまざまなクリエイターが作ったVRコンテンツが公開されています(これはVRヘッドセットを所持していなくても、Web上で観ることもできます)。
およそ5分程度で、簡単に作った展示もこちらから観ることができます。しかしこれだけでは味気ないですし、上に挙げた中之条ビエンナーレでの展示の持つ雰囲気やニュアンスとは程遠いでしょう。次はもう少し前に推し進めたものを作ってみましょう――STYLYが主催しているイベントに参加できるくらいのものを。
作ったVRコンテンツを、NEW VIEW AWARDS 2019に送ってみよう
そう、STYLYではプラットフォームの提供だけではなく、コンテンツを評価するアワードも定期的に開かれています。
さまざまなクリエイティビティが発揮されたVRコンテンツを評価するアワードとして、STYLYでは「NEW VIEW AWARDS 2019」を開催しています。日本だけではなく、海外からもクリエイターが参加しています。作品のエントリー期間は7月1日から9月30日まで。前回の模様は、弊誌に掲載したこちらのレポートをご参照ください。
次回は、本格的に野瀬氏の作品世界をVR空間に落とし込んだものがどんなふうに製作されていくかをお届けします。STYLYだけではなく、Unityと連携することで、どんなクリエイティブが可能なのか? そのほかに、写真を3DCGに落とし込む技術も利用することで、どんな臨場感のある空間作りが可能であるか? それらを紹介していきます。
その予告編として、まずはこちらのテスト版をご覧ください。続く後編では、これが本格的に作り込まれてゆく模様をお送りいたします!
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