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活用事例 2018.03.22

「一人称視点のPVは止めよう」売れ筋VRゲームのPVを手がけてきた男が語る秘訣

ゲームなどコンテンツを作った際に、その内容を広く伝えるために作られるのがトレイラー映像(トレイラー、PV)です。VRコンテンツも当然多くのPVが作られています。酔いの防止やVRならではの表現といったコンテンツ作りのノウハウは多く共有されていますが、PVの作り方について語られることはあまりありませんでした。

3月19日からサンフランシスコで開催されているGDC2018では、「LET’S CREATE BETTER VR TRAILERS! 」(もっと良いトレイラーを作ろう)と題する講演が行われました。登壇したのは、インディゲームや映画のPV制作を手がけてきたカート・ガートナー氏です。VRゲームも早期からPV制作に携わり、『Job Simulator』や『Space Pirate Trainer』など人気タイトルのPVを手がけてきました。

ガートナー氏はグリーンバックを使い、現実の人物がVRで何をしているのか見せるMixed Reality(MR)の手法をPVに取り入れた人物でもあります。

トレイラーは作品のことを“あらゆる角度から紹介するもの”

講演の冒頭からガートナー氏は、VRゲームにおいて一人称視点でPVを作ることは「やめたほうがいい」と語ります。VRゲームではしばしば、プレイヤーの視点をそのまま録画した一人称視点の動画を組み合わせたPVが制作されています。

PVとは本来、まだ作品をプレイしたことがない人に、その作品のことをあらゆる角度から紹介するものです。限られた時間に、カメラを動かして、視覚的に作品のことを伝えなければなりません。非常にマーケティング要素の強いものです。

ガートナー氏は。一人称視点のPVはVRゲームの内容をしっかり紹介できてないと強く主張しました。頭はカメラではありません。一人称で撮影した動画は、実際に体験したときの感覚を伝えられません。プレイするために動かしているため、スタビライズも効いておらず、時に見ている人が酔ってしまうこともあります。

VRゲームのいいトレーラーとは何か

ガートナー氏は、自身が手掛けたPVを紹介しながら、工夫を語りました。その主張で一貫していたのは、「プレイヤーを表示して、様々なカットを用意すること」です。そして、そのために必要なのは3人称視点での撮影です。

分かりやすい例として、グリーンバックを使って現実の人物がVRで何をしているのか見せるMixed Realityの手法がありますが、こちらは撮影コストも高く、通常の開発者が実践するのは大変、とガートナー氏。より導入しやすい方法としてアバターを使った撮影を推奨しました。

『Fantastic Contraption』の場合

パズルゲーム『Fantastic Contraption』では、一人称視点の場合、プレイヤーが何をしているのかが非常にわかりにくくなっています。例えば、目の前にあるもののスケール感や、ギリギリでパズルが成功するときの手に汗握る瞬間などが、カメラワークによって一人称視点よりも良く見せることができる、とのこと。プレイヤーの感情が伝わりやすくなります。

『Fantastic Contraption』のPVはこちら

『Space Pirate Trainer』の場合

シューティングゲーム『Space Pirate Trainer』では、MRを使うよりもアバターの方が良かったと言うガートナー氏。確かに様々な武器を構えて襲ってくるドロイドを破壊していくという世界観と半袖短パン姿はチグハグです。

三人称視点にすることで、まるで映画を見ているように戦いの様子が非常に分かりやすくなります。

撮影風景も紹介されました。HTC Viveのコントローラーを構えた“カメラマン”が、外部出力したモニターを見ながらプレイヤーを撮影するというもの。スタジオなどに行くこともなく手軽に撮影や撮り直しもできると言います。

このようにプレイヤーの肩越しのアングルの場合は、「自撮り」もできるとガートナー氏。撮影風景の写真はプレイヤーが自分で肩にコントローラーを回して撮影していました。

『Space Pirate Trainer』のPVはこちら



『Rick and Morty: Virtual Rick-ality』の場合

人気アニメRick & Mortyを題材にした『Rick and Morty: Virtual Rick-ality』のPVでは、苦労話を披露しました。

VR向けコンテンツでは時に複数のプラットフォーム(VRデバイス)に向けて配信を行うときがあります。「VRの中のキャラクターが装着しているヘッドセットやコントローラーのデザインを揃えてほしい」というリクエストがあることも。

プレイヤーもカメラマンも全く同じ動きをすることは困難です。同時に用意するのであれば、撮影したいデバイス向けに2種類の出力を同時に行うことで解決できます。

一方、『Rick and Morty: Virtual Rick-ality』では、PC向けに発売した1年後にPlayStation VR(PSVR)版を作ることになったため、プレイヤーのアバターが被っているヘッドセットのデザインをPSVRに変換したとのこと。

『Rick and Morty: Virtual Rick-ality』のPVはこちら

HTC Vive版

PSVR版

『Super Hyper Cube』の場合

ブロックを穴に通していくパズルゲーム『Super Hyper Cube』では、PSVR版はPV制作の時間が短く、プレイヤー視点から正面から穴を通すシーンが中心になってしまった、とのこと。

後に制作したHTC Vive版では改良し、ヘッドセットのみのアバターを用意して、俯瞰視点からの撮影を試みました。狭い光の通路の中でプレイしていくため、カメラワークで動ける幅も限られており、ライティングの調整にも苦労したと話しました。

『Super Hyper Cube』のPVはこちら

PSVR版

HTC Vive版

PVの撮影も考慮した開発を

ガートナー氏は「ゲーム開発はマーケティング」だと述べて講演を締めくくりました。自分の作品をどう見せていくのかを考えながら、PVの制作も考慮に入れた設計にすると良いと語り、講演を締めくくりました。

終始、一人称視点を推奨せず工夫のしがいがあると伝える講演でした。事前に体験することが難しいVRコンテンツの場合、PVは購入を決める重要な要素になります。もちろんPVだけが全てではなく、『Raw Data』のように、一人称視点の映像も非常に多く使いながらPVを作っているソフトで売上をあげている作品もあります。

PVは自身の作品を魅力的に見せるためのものであり、色々と工夫ができることを示唆した講演でした。


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