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セミナー 2022.12.26

若手XRクリエイター・エンジニアはいま、何を考えているのか?【XR Kaigi 2022基調講演】

国内最大級のXR・メタバースカンファレンス「XR Kaigi 2022」がスタートしました。今年は12月14日~16日にオンラインセッション、12月22日~23日に東京都立貿易センター浜松町館にてオフライン展示が行われます。

2022年のキャッチコピーは「Create Everything(何でもつくろう)」。オンラインセッションはARプラットフォーム、モバイルモーションキャプチャー、VR教育、フォトグラメトリといった様々なテーマで、VR/AR/MRの業界事情や開発者、クリエイターの思考の一端が伺える数々のトークが繰り広げられました。そのセッションの1つである、基調講演の模様をお届けします。

U-20のクリエイター3組をせきぐちあいみさんがナビゲート

今回の基調講演は、VRアーティストのせきぐちあいみさんがモデレーターとなり、10代のクリエイター、20代のハードウェアエンジニアといった新進気鋭のXR・メタバースクリエイター3組が登壇しました。

2016年からVRアーティストとして活動するせきぐちあいみさんは、国内外でライブイベントのステージ、アート制作に携わるほか、NFTアート作品も人気を集めています。

「今回登場して下さるような、U-20の方のお話を伺う機会はなかなかありません。どうしてもポジショントークになってしまいそうな大人の方のお話ともまた違う、まっすぐ未来を見据えたような、新しい、刺激的なお話が聞けるんじゃないかと、私自身もワクワクしています」(せきぐちあいみさん)

それでは、若くしてXR・メタバース領域に関わる彼らが体験したこと、実施したこと、そしてその視線の先に映るものを見ていきましょう。

姉弟でVRコンテンツ制作にとりくむ8LEGS

最初に登壇したのは10代姉弟クリエイターである8LEGS。筑波大学に在籍する森谷安寿さん(姉)とアメリカ・ボストンに留学中の森谷頼安さん(弟)のチームです。

頼安さん(2008年生まれ)は幼少期からPCを使って様々な作品を作り続けていて、それに影響を受けた安寿さん(2003年生まれ)も、姉弟で遊ぶための共通のホビーとしてものづくりに関わるようになったとのこと。

安寿さんは運動が好き、頼安さんは研究の方が好き。その上でお互いに工作が好きであったことから、小学生の頃からデジタルゲームやストップモーションアニメーション、またフィジカルな要素を持つ作品を作り始めました。

8LEGSがXR・メタバースの領域に興味を持ったのは、頼安さんが寝ているときに『マインクラフト(Minecraft)』の夢を見たこと。現実世界から空想の世界へ旅立った体験がキーとなったそうです。対する安寿さんも、BlenderでモデリングしたドラゴンをVRヘッドセットで見たときにその大きさに感動して、VR作品作りに取り組んでいきます。

(出所:TOKYO GAME SHOW/東京ゲームショウ @tokyogameshow)

代表作の1つは、第24回メディア芸術祭U18賞を受賞したFight Fit VR。VR内でドラゴンにまたがって、スクワットの動きで操って脚力を鍛えたり、海に落ちないようにプランクをして体幹を鍛えられるフィットネスゲームです。

頼安さんがプレイ中は安寿さんが背後から服をばたつかせ、翼の風切り音を表現しているあたり(写真右下参照)、本当に仲のよい姉弟なのだと伺えます。運動が好きという安寿さん、研究が好きという頼安さん、2人の趣味趣向を活かした作品といえるでしょう。

また、「VR Sandbox」は、VR空間内でモデリングが可能なアプリ。マーチングキューブ法(編集1)を用いることで、難易度の高い3Dアプリを使わなくても、両手で砂場遊びをするように建物が作れます。こちらは第25回メディア芸術祭U18賞を受賞したそうです。

編注1:ボクセルデータをポリゴンデータに変換するアルゴリズム。ボクセル(体積素)は3次元空間データを表す基本単位で、2次元画像データがピクセル(画素)と呼ばれることにちなんでいる。

興味があるのは「老化」と「アメリカ」?!

最近の関心は、安寿さんは「老化」で、頼さんは「アメリカ」だと言います。

安寿さんは、「老化は誰もが平等に進む時間軸で、メタバース中心の生活を送るにも肉体は重要です。だからこそ「運動」の要素を取り入れた作品を作りたい」と語りました。

頼安さんが「アメリカ」と発言した意図は、「アメリカの学生たちの素質は日本と差がないように感じるけれども、しかし人の習慣を丸ごと変えてしまうようなサービスが次々と現れています。このギャップを本質的に理解したい、アメリカが強いものを生む仕組みを理解できるようになりたい」とのことでした。

最後にせきぐちあいみさんから、「XR・メタバースの領域でどんな未来を想定しているか」と問われると、お二人は次のように語りました。

「私は小さい頃から、新体操をはじめとした色々な運動をしてきました。練習すればするほど自由に動けるようになるのは、本当に楽しかったんですけど、今は身体が重く感じていて、子供の頃のように身軽には動けないんですよね。でも脳は、自由自在に動けていた頃のイメージを鮮明に覚えています。ゲームやメタバースの空間内では、その感覚に近い感じで動けるので、すごく心地よくフィットするんですよね。仮想空間内で走り回って、身軽にあちこちを飛び回るほうが、たぶん現実よりもしっくりきちゃう人はすでに多いと思うんですけど、これから更に増えていくと思っています」(安寿さん)

「(XR・メタバースの未来は)脳の処理速度に合わせて、周囲の世界がどんどんと構築されている感じだと思ってます。歴史や科学の授業を受けるときも、レクチャーを聞くのではなくて、VRヘッドセットを被って実際にその歴史の現場に入ったり、実験が成功する瞬間に立ち会えたりしたら、授業が楽しく受けられるし、身体も動かせるから記憶に残ると思うんです。スタンフォード大学では、すでにVRでキャンパスを開いて授業をやっていますし、他の学校もこれにどんどん続いていくと思います」(頼安さん)

「身体性からの解放」目指してVRデバイスを開発する迫田さん

続いての登壇は、XR関連デバイスを開発しているDiver-X株式会社(以下:Diver-X)代表取締役の迫田大翔さん。『ソードアート・オンライン』でVR技術に興味を抱いた迫田さんは、同作の劇中に登場した世界を「早く実現したい」と考えるようになったそうです。

自律型のロボットでサッカーを行う「ロボカップ」へ取り組み、ハードウェア・ソフトウェア開発の技術を身につけた迫田さん。VR関連では力学デバイス、簡易脳波計、VR用のトラッキングシステムを開発しています。

Diver-Xを設立してから取り組んだのが、寝たままでも使えるVRヘッドセット「HalfDive」です。簡易脳波計を作ったときに、ブレインコンピューターインターフェースの難易度の高さに直面したことから、「HalfDive」は既存の技術を組み合わせてブレインコンピューターインターフェースを実現できないか、と試行錯誤したそうです。

技術開発のキーポイントは、身体性からの解放でした。VRといっても、ヘッドマウントディスプレイをつけて現実空間を動く必要があることに、迫田さんは疑問を抱いていたそうです。高速移動や魔法といった、映画・アニメの世界で描かれるような非現実な仮想体験ができることがVRの素晴らしさだと考えて、人間にとって低エネルギーな状態である「寝ている」姿勢でVRの世界に没入できるように「HalfDive」を開発したといいます。

指先の触覚・トラッキング・操作を兼ね備えたVRデバイス

現在は、残念ながら資金難で開発プロジェクトが休止となったため、より地に足の着いたプロダクトとして「Contact Glove」の開発に着手しています。VR空間内で物に触れたときの感覚が得られるデバイスで、触覚機能だけではなく、指のトラッキングや簡単なボタン入力も行うことが可能。既存のコントローラの上位互換となりえる存在で、すでに2023年度のCESのイノベーションアワードを受賞したそうです。おめでとうございます。

せきぐちあいみさんの「映画・アニメで描かれたようなVR世界が具現化していくと思うか、それともまた違った形の未来を見ているか」という問いに、迫田さんは「当たり前だとは思うけど、色々なケースが考えられる」と答えます。

「現状のVR体験は現実の拡張――AR体験に近いです。現実に即した空間を拡張し、視覚的に何かを付け加えることで、その世界をより明確にしていくわけですから。『ソードアート・オンライン』のように、脳と直接通信するような技術が達成されるかもしれませんが、今のようにヘッドマウントディスプレイを装着したVR体験もずっと残り続けると考えています。」(迫田さん)

「フォートナイト」で三人称視点の世界を広げるヤノスさん

基調講演、最後の登壇者となったのは、高校生にして「フォートナイト(Fortnite)」クリエイティブモードで様々な作品を作り、多くの人を惹き付けているヤノスさん(所属:株式会社NEIGHBOR)。まずはその作品群をご覧ください。

『エヴァンゲリオン』シリーズの舞台ともなった「第3新東京市」のマップです。ビルがせり上がるシーンもアニメーションで再現しています。このマップ制作がきっかけで、エヴァンゲリオンを製作したスタジオカラーの方とも交流が生まれたそうです。

映画『AKIRA』に登場したオリンピック会場建設現場のマップです。製作期間はなんと1日! しかも文字フォントは四角のパーツを組み合わせて描いている!

そして、「コロコロメタバース学園」の「鬼ごっこ&パルクール」マップです。本誌の付録となるものを作ったそうです。学園内には「コロコロコミック」のキャラクターもいるそうですから、鬼ごっこ目的じゃなくても楽しめそう

そんなヤノスさんが初めて触れたメタバース的なサービスは、4~7歳のころに遊んだというPlayStation Home。PS3用に提供されていたアバターコミュニケーションサービスです。

幼稚園児~小学生だったこともあり、テキストチャット・ボイスチャットは未体験だったそうですが、多くの人が行き交う中を歩いてワールドを探索していた経験があったことから、仮想空間や建物へのこだわりが生まれたといいます。

小学生以降は『リトルビッグプラネット』と『マインクラフト』でゲーム制作にとりかかります。

特に『リトルビッグプラネット』は、『フォートナイト』のクリエイティブモードのようにプリセットされたオブジェクトを組み合わせて造形するUIを持っており、このときの体験が『フォートナイト』でのマップ作りに活きたとか。

『マインクラフト』は同年代のプレイヤーも多く、サバイバルモードで友達と一緒に遊びながら、現代的な都市を設計・建築していたそうです。

これらのアプリの体験があったから、『フォートナイト』への移行が「楽だった」というヤノスさん。2018年12月にプレイヤーが自由にマップが作れるクリエイティブモードが実装されてからというもの、趣味でマップを作ってきましたが、近年はソニーやコカコーラといったナショナルクライアントの企業案件も受けています。

「フォートナイト」はメタバース入門に最高のアプリ

『フォートナイト』の利点は、Twitterのフォロワー1000人もしくはYouTubeチャンネルの登録者1000人以上のユーザーに限るという条件はあれど、『マインクラフト』と違って自前でサーバーを用意する必要がないところ。いくつでも無料で世界中のユーザーに自分のマップを届けられるメリットは大きく、だからこそヤノスさんは、「(『フォートナイト』は)メタバース入門として始めるには最高のアプリ」だと言います。


『フォートナイト』の魅力について、幼少期からPlayStation Homeでという三人称視点のメタバース体験を続けてきたヤノスさんだからこその言葉が、次々と発せられます。

「他のプラットフォームは一人称視点だけど、『フォートナイト』は三人称視点。だからこその『映える』作り方を考えています」「『フォートナイト』のキャラクターが170cmと想定すると、2mより高い位置からカメラが見下ろしている状態なので、リアルなスケールで作ると小さく見えてしまうんです」「渋谷を三人称視点で味わえるのってメタバースだけ。新しい視点で現実を見ることができるのもメタバースの醍醐味」「三人称視点のメタバースで見ておいたら、初めて訪れる場所でも、道の奥とか(詳しい地理)を全部把握できた状態で旅行できるんじゃないかなと思っていますね」(ヤノス)

没入感重視の一人称視点メタバースとは違ったメリットがあるとわかります。

XR・メタバースの世界で、若くしてひとかどの人物となった登壇者の方々の視点・思考は、実に興味深いものでした。基調講演はYouTubeで一般公開されていますので、興味が湧いた方はぜひご覧ください。

参考:XR Kaigi


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