イラクで取り組まれている紛争後の問題について描いたドキュメンタリー
今回紹介するのは「Home After War」です。イラク人家族が戦後にイラクの都市ファルージャの家に戻った後が描かれます。
戦争は沈静化しましたが、ファルージャにはブービートラップや爆弾が仕掛けられていて、何千人もの一般人が傷つき、亡くなっています。
しかし多くの人々がまだ安全でないのにもかかわらず、ファルージャの家に戻ることを選択して帰ってきています。ドイツの制作会社NowHere MediaのGayatri Parameswaran監督が、ジュネーブ国際人道的採掘センター(GICHD)とOculus VR for Goodの協力をもとにイラクで取り組まれている紛争後の問題について知ってもらうために作られました。
ベネチア国際映画祭、SXSW映画祭など世界各地の映画祭で上映されています。
Gayatri Parameswaran監督の作品はこの連載でも「KUSUNDA」を取り上げています。
Oculus社(現Meta社)がVRコンテンツによって社会に変革をもたらそうと始めた取り組みVR for Goodの作品についてもこの連載でいくつか取り上げています。関心がありましたら、以下もご確認ください。
オススメのポイント
1.フォトグラメトリーと360度映像を織り交ぜる
ファルージャにあるAhmaeidさんの以前とは全く異なる様子になった家と、Ahmaeidさんの語り、そしていくつかの360度映像によって「Home After War」は構成されています。
Ahmaeidさんの家はフォトグラメトリーを用いて撮影されており、Oculus Questなどでは家の中を歩き回ることができます。その家の中でホログラムのように現れるAhmaeidさんが語り、現在の状況や彼の家族に何が起こったのかを説明してくれます。
家の中にはいくつかのポイントがあり、そのポイントではいくつかの360度の映像を見ることができます。語りに合わせて出てくるこれらの360度の映像は、Ahmaeidさんの語る内容を適確に肉付けしています。
2.当事者がその空間で語るということ
Ahmaiedさんが愛着を持っていた彼の家が、ブービートラップや爆弾が仕掛けられることで恐怖の場所となってしまったということを彼自身の家で語ります。この手法はこの連載でも紹介したFelix & Paul Stuiosの「Traveling While Black」でも使われている方法です。
当事者がまさにその場所で語り、その場所に体験者もいるというのはVRでしかできないドキュメンタリーの手法でしょう。Ahmaiedさんが目の前で語りながら泣き出した時に、どうすればいいのかわからない感覚に見舞われました。
3.空間を伝達する意味
フォトグラメトリーを用いて撮影されたAhmaiedさんの家の室内は、スケール感をよく感じることができます。
今回の動画の意図とは違う部分ですが、VRは空間の記録をするのに優れたメディアであるということを実感できます。また、体験者が歩き回ることで、戦争による被害を見る・知るではなく、体感することができます。
この体感という部分は、フレームのある映像では伝えきることができないものでもあります。自分がいるVR空間のその場所が、戦争の被害があった場所になるのです。特にAhmaiedさんの家の屋上から見える光景は他人事ではない感覚を得ました。
今まさに現在進行で進んでいる戦争もまた、テレビのモニタを通すと遠い場所の話に感じてしまう部分もありましたが、「Home After War」を見ることでその恐怖をあらためて感じました。
作品データ
タイトル |
Home After War |
ジャンル |
ドキュメンタリー |
監督 |
Gayatri Parameswaran |
制作年 |
2018年 |
制作国 |
ドイツ、アメリカ、イラク |
本編尺 |
約20分 |
視聴が可能な場所 |
Oculus Store: |
Trailer
この連載では取り上げてほしいVR映画作品を募集しております。
自薦他薦は問いません。オススメ作品がありましたら下記問い合わせ先まで送ってください。よろしくお願いします。
VR映画ガイドお問い合わせ:[email protected]