フィリピンを舞台に、小さな島々から泳いで学校に通う学生にスポットを当てたアニメーション
今回紹介する「Lutaw」はフィリピンを舞台に、小さな島々から泳いで学校に通う学生にスポットを当てたアニメーションです。主人公ジェラミーはやんちゃな弟のイスコと一緒に、学校に行くためのより良い方法を失敗を繰り返しながらも探していきます。
このVRアニメーションプロジェクトは、Oculus社(現Meta社)のVR for GoodプログラムとフィリピンのNGOであるYellowBoat of Hopeのパートナーシップによって実現されました。
YellowBoat of Hopeはフィリピンの子どもたちの教育へのアクセス向上を目的とするNGOです。登下校のためのスクールボートだけではなく、教室や学校、寮、保育所などを建設しています。フィリピンでは子どもたちはランドセルや制服を濡らしながら泳いでいくなど学校に行くだけでも大変な苦労をしているという問題があります。このVR映像は、そんな問題の認知拡大を目的に制作されています。
国際的にこの問題への関心を高めるため、セリフはなく物語は進みますがストーリーは明確で、演出もよく考えられているため、特別理解するのが難しい部分はありません。「Lutaw」は、2020年のカンヌ国際映画祭、TribecaのCinema 360等でも評価されました。
オススメのポイント
1. 360度の空間を余すことなく利用
VR映画を制作する上で360度空間を使いこなすのは、なかなか難しいことだと思います。実際、無意味に体験者の周りをぐるぐると回るコンテンツも少なくありません。「Lutaw」は海の中と、浜辺、そして彼女たちが主に過ごす小屋と主なシーンは3つしかありませんが、3つめの小屋のシーンで360度の空間を余すことなく使っています。
小屋は海辺、半分海の上に建っています。小屋の片側は浜辺、もう片側は海に面しています。カメラはその小屋の中央付近、少し海よりにあります。主人公ジェラミーが小屋の中で海を移動する乗り物を作っては、海でそれを試す、もしくはやんちゃな弟のイスコに壊されるということを繰り返します。
小屋で作り海で試す(もしくは壊される)という繰り返される行為の中で自然と体験者はぐるぐると360度を見回すことになります。
2. ノンバーバルアニメーション
ノンバーバル、つまり言語を使わない、非言語のアニメーションがVRには多いという話は前にもこの連載で書かせていただきましたが、「Lutaw」も言葉のないアニメーションです。
国際的にこの問題への関心を高めるという目的があるため、ストーリー・演出共に言葉がなくても理解できるように組み立てていったということはもちろんあると思います。また、その状況に身を置いてもらう・体感してもらうということに重点をおいている部分も大きいでしょう。
どちらにせよ、言葉で語りにくい空気感のようなものを、その時間・空間を表現することができるVRは表現しやすいメディアであると思います。そして、解釈は体感者に委ねるという方法は取りやすいでしょう。客観的に問題を提示するといった面で、VR映像は有用なメディアであると言えると思います。
3. VR for Good
「VR for Good」はOculus社(現Meta社)が、VRコンテンツによって社会に変革をもたらそうと始めた取り組みです。VRの特性を活かし、社会に対するポジティブな変革をもたらすためにVRを通じて世界の人々が直面する問題について、気付き、理解を深めることで社会をより良い方向に変革させることを目的としています。
「Lutaw」の場合、フィリピンの子どもたちがランドセルや制服を濡らしながら泳いでいくなど学校に行くこと自体が大変であるということを認知拡大させるためにVRを用いています。深刻な問題ではありますが、このアニメーションではそれを明るく伝えていて、VRのうまい利用であると思いました。
この連載でも過去のVR fot Goodの作品である「The Key」を取り上げています。興味がある方はご確認ください。
作品データ
タイトル |
Lutaw |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Samantha Quick |
制作年 |
2020年 |
制作国 |
アメリカ、フィリピン |
本編尺 |
約8分 |
視聴が可能な場所 |
Oculus TV |
Trailer
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