アメリカの人種差別問題を知る上で貴重な作品
「Traveling While Black」は2019年に制作された作品です。今年「Black Lives Matter」運動が世界的に広がる中、繰り返されるアメリカの人種差別問題を知る上で非常に貴重なものになっています。
アカデミー賞を受賞したRoger Ross Williams氏が監督で、VR映画業界を牽引するFelix & Paul Studiosが制作しています。
舞台は、アメリカの人種差別を語る上で象徴的な場所、ワシントンDCにあるBen’s Chili Bowlというホットドックのお店です。オバマ前大統領も訪れたことがあり、アフリカ系アメリカ人に取って憩いの場所として知られています。以前アカデミー賞を受賞した映画のタイトルにもなった「グリーンブック」*にも掲載されています。
Ben’s Chili Bowlはアフリカ系アメリカ人にとって安全地帯ともいえる場所であり、そこに体験者は客として迎えられ、人種差別を経験してきた人たちの話を聞くことで話は進んでいきます。
*「グリーンブック」:1936年-1966年発行。ヴィクター・H・グリーン著のアフリカ系アメリカ人旅行者のためのガイドブック「黒人ドライバーのためのグリーン・ブック」
オススメのポイント
1. 体験環境を考えた映像設計
Felix & Paul Studiosの作品でいつも感心させられるのが、カメラの位置です。どのような環境で体験して欲しいかを考えながらカメラの位置やシーン展開が考えられています。今回の作品は椅子に座って体験すると、本当にBen’s Chili Bowlの店内にいるかのようです。
またカメラの動かし方が素晴らしく、自分がゆっくりと対象の心に近づいているような感覚を得られます。
2. 空間の使い方
冒頭映画館のシーンから始まるのですが、スクリーンに映し出されている昔の白黒映像を見ていると少しずつ現在のBen’s Chili Bowlのお店の前に空間が変わっていきます。現在から過去への空間移動が非常にスムーズで、作品の世界に自然と没入しました。
店内のシーンでは、店の壁に投射された当時の映像を背景にアフリカ系アメリカ人の歴史を振り返ります。さらに店内の鏡を使って過去の映像を見せたり、店内全体の空間を使って映像を挿入したりと、演出が巧みです。
そして何より彼らにとって象徴的なBen’s Chili Bowlという空間で語られる過去の話は本当に辛く思えます。
3. VRドキュメンタリーの形
「Traveling While Black」はフレームのドキュメンタリーとは全く異なるドキュメンタリーです。
フレームで語られるドキュメンタリーはどうしても”情報”として受け取りがちです。しかし本作は、アフリカ系アメリカ人にとって象徴的な場所で、あたかも自分の横にいるような感覚で当事者たちが過去の体験を語っている。その中で人種差別に対する不安感や恐怖を体験するのは、VRだからこそ可能だった表現といえるでしょう。
作品データ
タイトル |
Traveling While Black |
ジャンル |
ドキュメンタリー |
Production |
Felix & Paul Stuios |
公開 |
2019年 |
本編尺 |
20分 |
製作国 |
アメリカ |
体験可能な場所 |
オンライン:Oculus Store |
Teaser Trailer
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