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業界動向 2018.05.16

VR映像プロデューサー・待場勝利の「VR映画の夜明け前」第5回

映画表現の中でも、“映像酔い”という問題は、なかなか解決しない大きな課題です。

映像酔いとは「映画やテレビなどの動画を見ている人にあらわれる、乗り物酔いに似た状態。不規則に振動する画像や、3D映像などの視覚的な刺激によって起こる。(引用:デジタル大辞泉)」といったことを指します。

この映像酔いは、VRでも映画と同じように大きな課題になっています。VRと酔いについてはMogura VRの記事でもまとめられていますので、参考にして頂ければと思います。

https://www.moguravr.com/vr-yoi/
 
スクリーン映画も、挑戦的な映像表現をするたびに映像酔いという課題と向き合わなければなりません。最近でも、ハリウッドの大作映画で酔い止めを飲んでから鑑賞したという話を聞きます。
 
私は映像酔いに関しては、決してそのままで良いとか、仕方が無いとは言いません。しかし、迫力や刺激の無い作品も物足りないものです。
 
VR映画製作者は人間の特性を理解した上で、映像酔いが無く、かつ魅力的なVR映画を製作する努力をしなければなりません。またVR映画を体験する人たちは作品の特性を知って、そのVR映画を体験するかを選択する必要があると思います。その選択をさせるためにも、VR映画を上映する人たちはきちんと作品の特性を体験者に理解させることができるように、製作側と体験者を繋ぐ役割を担わなければなりません。製作者、体験者、上映者の三者がそれぞれVR映画を理解しない限り、VR映画の発展は難しいと思います。
 
今回紹介したい作品は、VR映像表現で多くのチャレンジをした作品です。

日本VR映画の金字塔「攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER」

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日本のVR映画作品として初めて取り上げる作品を考えた時、かなり悩みましたが、この作品は世界の他のVR映画作品に引けをとらない意識の高い作品だと思います。この作品の存在が多くの人に知られていないのは非常に勿体無いと思い、今回ご紹介させていただきます。

あらすじはこんな感じです。「科学技術が急速な発展を遂げた2029年、日本。脳神経をあらゆる情報ネットワークに直接接続できる”電脳化技術”や義手・義足のように体の一部をアンドロイド化する”義体化技術”が普及する世界で、日本政府に一通の爆破予告が届く。その対応は内務省直属の独立部隊「公安9課」、通称「攻殻機動隊」に一任された。(引用: VR THEATER webサイト)」
あの「攻殻機動隊」の完全オリジナルVR映画作品。聞いただけでワクワクします。
 

待場の見所①

最初に注目したいのは、やはり義体換装シーンです。日本のアニメやハリウッド版「Ghost In The Shell」でも出てきたシーンで、攻殻機動隊の定番シーンとも言えるのではないでしょうか。ハリウッド版ではスカーレット・ヨハンソン演じる草薙素子の義体シーンが話題になっていましたが、VR版も引けを取らないぐらい画期的なシーンになっています。

体験者は装置の中にいる感覚で、義体の完成を見守ります。装置がテンポよく義体を作り上げられ、最後、義体に素子の魂のようなが物が入った時、眼に光が宿ります。その眼に吸い込まれてOPタイトルが表示されます。素子の眼に光が宿る前までは物を見る感覚で義体が完成するのを見ているだけだったのですが、眼に光が宿り生きた眼になった瞬間、物から生き物として認識されて、じっと見つめられると何だか気恥ずかしい気持ちになっている自分がいました。今までの通常のフレーム用に制作された攻殻機動隊では、それがあくまで“モノ”であるという意識から、生き物であるという感覚はありませんでした。しかし、VR映画であるこの作品では、最初のシーンで一気にこのVR作品の世界観に引き込まれます。

待場の見所②

次に注目したのは、とてもシンプルなシーンなのですが、バトーと素子が空から現場に向かう途中で機内から飛び降りるシーンです。

体験者は先に飛び降りるバトーと後から飛び降りる素子の真ん中に立っています。バトーに続くように機内から飛び降りるのですが、ここでは自分自身も本当に飛び降りているような感覚に陥ります。筆者はあくまでこれが映像だと分かっているのに、声を上げてしまいました。

攻殻機動隊の素子がビルから飛び降りるシーンは大変有名です。ハリウッド映画でもあのシーンを色々な作品が真似しています。今回の飛び降りシーンでは、今までの作品と全く違う感覚で作品を体験させられます。自分はバトーや素子ではないのですが、一緒に現場に向かう乗り物に乗り、その乗り物から飛び降りる感覚を体験できるのです。攻殻機動隊お馴染みのシーンが、VR作品ならではのシーンになっていたと思います。
 

待場の見所③

本作はたくさん見所があって、3つに絞るのは難しいのですが、最後に戦闘シーンを取り上げます。今までの攻殻機動隊、いやVR映画の歴史に残る戦闘シーンではないかと思います。

バトーと素子は敵が操るアーマースーツと戦闘するのですが、体験者はその先頭の最前線にいて、2人の戦闘を見守ることになります。なるべくカットを割らずに臨場感を与えるため、視点が相当動かされることになります。それだけにアーマースーツの大きさ、戦闘の激しさが間近で体感できます。

一方で視点が激しく動き、見え方色々と変わってしまうので、自分の視点をどこに持っていけば良いのかが分からなくなったり、迷ったり、気分を悪くされる方もいるので要注意です。今後は視点や酔いの課題を解決しつつ、臨場感のあるシーンを作り出す方法を生み出して欲しいですね。

新たな挑戦と課題

テクノロジーが目まぐるしく進化し、実際にあらゆる現場で使われ始めている今だからこそ「攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER」はVRを使って描かなければならなかったのでしょう。原作の描いている内容は空想の世界ではなく、現実的にすぐそこまで来ているということを、VRを使って知らせようとしているのだと感じました。

本作は原作のテーマとVRの特徴を生かした、素晴らしい作品になっています。また一方で、この作品は多くのチャレンジと課題を残した作品です。それでも、今後歴史に残る日本を代表するVR映画作品の一つだと思っています。
 
新しい物を生み出し世の中に出すためには、多くの人たちの手を借りて、色々な障壁を乗り越えなければなりません。今、VR映画は始まったばかりです。いつの日か、誰でもVR映画を楽しめる状況を作るために日々精進していかなければならないと思っています。
 
また今回ご紹介させていただいた作品は弊社(eje)が運営に関わっております「VR THEATER」やProduction I.Gオフィシャルストア「I.Gストア」にて視聴体験可能です。
VR THEATER: https://www.vrtheater.jp/
I.Gストア: http://ig-store.jp/
 
さらにiOS、Androidの専用アプリでも視聴体験可能です。
作品の詳細は下記の公式HPをご覧ください。
http://www.sign.site/koukaku_vr/
 
※本記事の内容はあくまで私見に基づくものです。ご了承ください。


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