Home » 「VIVE Cosmos」レビュー。インサイドアウトの真価はいかに?


VIVE 2019.10.06

「VIVE Cosmos」レビュー。インサイドアウトの真価はいかに?

いよいよ10月11日に発売日が迫る、HTCの最新VRヘッドセットVIVE Cosmos。HTC VIVEシリーズの最新機種であるVIVE Cosmosは外部センサー不要、VIVE Proを超える解像度など、そのスペックに各所から注目が集まっています。

今回はMogura VR News / MoguLiveでは、このVIVE Cosmosを発売前に実機で体験。セットアップからチュートリアル、ゲームプレイや細かい各パーツの違い、そして開発の裏話までレポートします。

VIVE Cosmosについておさらい

最初にHTC NIPPONのスタッフから、VIVE Cosmosについてのイントロダクションをいただきました。いわく、VIVE Cosmosを表現するキーワードは、「装着」「体感」「拡張」の3つ。

「装着」はとにかくシンプルさを追求。インサイドアウト方式(※)の採用により外部センサーが不要となり、セットアップに要する時間はおよそ半分になったとのこと。装着も簡単に行なえるようにし、設計と素材にもこだわることによって、「99%の人の頭にフィットする」仕組みを実現したそうです。

(※インサイドアウト方式……外部センサー等の設置を行わず、ヘッドセットに搭載されたカメラ等を使ってトラッキングを行う方式。Oculus QuestやOculus Rift Sなどもこれに該当する。従来のHTC VIVEやVIVE Proは外部センサー=ベースステーションを設置する「アウトサイドイン」方式だった)

その上で「体感」は、圧倒的なパフォーマンスを出すことに注力。全6基のカメラと、カメラが届かない範囲をAIによって補正し、トラッキングはヘッドセットの周囲310度をカバーしています。オーディオもProと同様に3Dサウンドを搭載、解像度は2880×1700と、VIVE Proよりも高い数値に。リアルRGBディスプレイの採用によって、網目のようなものが見えて没入感を削いでしまう「スクリーンドア効果」を抑えています。

参考:HTC VIVE系PC接続型VRヘッドセットの解像度一覧

 

HTC VIVE

VIVE Pro

VIVE Cosmos

解像度

2160×1200
(片目1080×1200)

2880×1600
(片目1440×1600)

2880×1700
(片目1440×1700)

サイズ

対角3.6インチ×2枚

対角3.5インチ×2枚

対角3.4インチ×2枚

材質など

OLED、ペンタイル

OLED、ペンタイル

LCD、フルRGB

そして「VR機器は買い替えが前提」という現状を鑑み、「Mod」と呼ばれるモジュールによる「拡張」を行えるように方針を設定しています。2020年1月にはベースステーションを使ったトラッキングに対応するMod発売が予定されており、さらにMR(Mixed Reality/複合現実)向けモジュールの展開も見据えているそう。VIVE Cosmos一台で「XRデバイス」として拡張可能とし、総合的な購入コストを抑えることでユーザーフレンドリーなデバイスであろうとしています。


(VIVE CosmosのModのひとつ「外部トラッキングモッド」。このModを装着することで、HTC VIVEやVIVE Pro同様、ベースステーションを使った「アウトサイドイン方式」のトラッキングにも対応できる)

シンプル、かつ圧倒的なパフォーマンスで、拡張性が高い。あらためて特徴を列記するだけでも、そのコンセプトはなかなかに野心的です。

実際にVIVE Cosmosを体験してみた

それでは、VIVE Cosmosのハンズオンレポートへ移りましょう。

1. 装着~セットアップ

まずは装着から。VIVE Cosmosの装着方法は、ざっくり言えば「VIVE Proと同じ」。VRヘッドセットを頭にかぶってから、後頭部のダイヤルや頭頂部のベルトを調節します。

全体的な可動域はProよりも大きくなり、後頭部のちょうどいい位置にセットしやすくなったように感じました。もちろん、ダイヤルで物理的にIPD(瞳孔間距離)の調節も可能です。重量もそこまで重くなく、ヘッドフォンのつけ心地もよし。全体として装着感は良好で、「99%の人にフィットする」というのは伊達ではありません。

続いてセットアップへ。コントローラーを用いてシャペロン境界(=VRのプレイエリアの境界線)を引き、次に床の高さを設定します(Oculus Rift SやOculus Questのセットアップに近いですね)。

いずれの操作も直感的で、迷うことはありませんでした。特徴的なのはセットアップ中の外界映像がカラーで表示される点。解像度も、大まかに物体の位置を把握できるくらいにはあるため、セットアップで困ることはなさそうです。

2. チュートリアル

プレイエリアの準備が完了すると、VIVE Cosmosのホームとなる「VIVEオリジン」へ。ここで各操作に関するチュートリアルを受けます。

ボタン操作、テレポート操作、新コントローラーで追加された「つかむ」操作などはここで全て練習可能です。プレイエリアの外に出ると視界が即座に現実の映像に切り替わる仕様などについても知ることができました。特筆すべきは初の日本語音声によるアナウンス。「初めてVRを体験する人」に対して、親切な設計になっているように感じます。

ちなみに「VIVEオリジン」のホームワールドもかなり広大。HTCロゴマークを模した宇宙船や景色を切り替えられるギミックなど、ここだけでもかなり遊べるような作りです。


(HTC VIVE公式YouTubeチャンネルの動画より引用)

このホームからは、「VIVEレンズ」と呼ばれるポータル状のUIを眼前に呼び出し、各ソフトを起動していきます。このレンズは、各ソフトプレイ中もボタンひとつで表示されるため、「メニューに戻る」「ゲームを切り替える」ではなく、「それぞれの世界を渡り歩く」という印象を強く与えるものでした。こういった仕組みも没入感を高めるのに一役買っています。

3. 実際にゲームを遊んでみる

さて、ここからVRゲームの実機プレイ体験へ移ります。まずはシンプルに美しく、またVRデバイスの「見る」ベンチマークとして名高い「theBlu」から。巨大なクジラが泳ぐ海中に放り出されてあらためて気付かされるのは、映像が非常にきれいに映るという点につきます。


(画像はViveportの「theBlu」ページより引用)

ドット感が感じられないほどに鮮明で、かつ動きは非常になめらか。近景はもちろんですが、遠景もドット感が少ないのが本当に驚きです。画質に関してはVIVE Proを常用している筆者から見ても、Proと同等かそれ以上であると感じました。

その次にプレイしたのは「SWORDS of GARGANTUA(ソード・オブ・ガルガンチュア)」。VRで剣戟アクションである本作は「VRで遊ぶ、VRでゲームをする」のベンチマークにはもってこいのタイトルです。かなり無茶なコントローラーの振り方をしたにも関わらず、コントローラーがトラッキング検知範囲を外れることはありませんでした。「310度をカバーする」ことの効果は十分に感じられます。

つい両手に力が入るほどプレイに没頭してしまいましたが、少し気になったのはコントローラーの重さ。体感では初代VIVEコントローラーよりも重いのではないか、と感じました。このため「振る」「一定の高さで保持する」といった操作が多いタイトルだと、両腕への負荷が大きくなる可能性もあります。

4. フリップアップの使い勝手は?

体験中、ちょくちょく本機の目玉のひとつであるフリップアップの動作確認もしてみました。休憩時にいちいちVRヘッドセットを外さなくて済むのがメリットです。Cosmosは蝶番部分がかために設計されているためか、フリップアップさせるためには少し力を入れる必要があります(その分、持ち上げてからの保持はしっかりとしていました)。

フリップアップができるのは非常に大きいです——外を確認する際に、いちいちヘッドセットを外さなくてもいいわけです! 「運動して少し蒸れたな」というときのリフレッシュもできますし、これは非常によい機能でしょう。

蝶番部分の構造ですが、何度か動かしてみたところ、ケーブルが伸びるような挙動は見られませんでした。一方、戻す際にはさみ込んでしまいそうにも見えます。便利な機能には違いありませんが、動かすのは慎重に行ったほうがよいかもしれません。

⑤分解パーツと付属機器

最後に、実機の分解可能な部分などを見せていただきました。

[wc_row][wc_column size=”one-half” position=”first”]

[/wc_column][wc_column size=”one-half” position=”last”]

[/wc_column][/wc_row]

SteamVRトラッキングModの装着が予告されているフロントパーツ付近は、このように取り外しができます。一部のトラッキング用カメラも一緒に外れるようになっています。脱着は容易に行えました。

アイクッションも同様に脱着可能。掃除や交換がしやすい構造になっているため、ファンデーションなどの付着が気になる女性にもありがたい構造です。

ヘッドフォン部分も簡単に脱着できました。VIVE Proと同様に、ユーザーの好みのヘッドフォンへと換装できる仕様になっています。アイクッション・ヘッドフォンは両方とも工具無しに脱着ができたため、「拡張性」がかなり意識されている設計であることは間違いありません。

付属機器として、リンクボックスと各ケーブル、そして電源コネクタもチェック。リンクボックスと各接続規格もVIVE Proと同種とのことで、このあたりもセットアップは容易にできそうです。ただし、電源コネクタだけ異なるため、VIVE Proのものをそのまま使うことはできないそうです(逆も然り)。


(上がVIVE Cosmos、下がVIVE ProのACアダプター。入力や出力が異なる)

リンクボックスは色が異なるので識別は容易ですが、電源コネクタはほぼ同じ(印字された内容が少し違うだけ)なので、乗り換える際には混同しないように気をつけたいところ。

PCの要求スペックは変わらず

ちなみにVIVE CosmosのPC要求スペックは、基本的にHTC VIVEやVIVE Proと変わりません。CosmosはWindows10のみ対応していることに注意しましょう。2019年10月時点の各機種公式サイトによれば、以下の通りです。

参考:HTC VIVE系VRヘッドセット PC要求スペック表

 

HTC VIVE

VIVE Pro

VIVE Cosmos

CPU

Intel Core i5-4590以上
AMD FX 8350以上

Intel Core i5-4590以上
AMD FX 8350以上

Intel Core i5-4590以上
AMD FX 8350以上

GPU

GeForce GTX 970以上
Radeon R9 290以上

GeForce GTX 970以上
Radeon R9 290以上

GeForce GTX 970以上
Radeon R9 290以上

出力

DisplayPort1.2以降
HDMI1.4

DisplayPort 1.2以降

DisplayPort 1.2以降

USBポート

USB2.0以降×1

USB3.0以降×1

USB3.0以降×1

動作OS

Windows 7 SP1
Windows 8.1以降
Windows 10

Windows 7以降
Windows 8.1以降
Windows 10以降

Windows 10

HTC NIPPON代表取締役社長にインタビュー

ハンズオン後に、HTC NIPPONの代表取締役社長・児島全克氏から、VIVE Cosmosについて話を伺いました。

児島全克(以下、児島氏):

実は今回、Cosmosの展開にあたって、「VRがほしい人はどんな人なのか?」というリサーチを独自に実施しました。当初の予測では、VRデバイスがほしい人は「30~40代のギーク、いわば世間一般からは一歩進んだ人」だったのですが、結果はなんと「20~40代の、ごく普通の女性」だったんです。

——かなり意外な結果ですね。

児島氏:

この結果を見て、私たちも「ちょっと方針を変えよう」となりました。その結果決まったのが、女性に向けてのマーケティングです。日本国内だけキャッチコピーを変えたりしています。こっそりと(笑)。

——今回の調査で明らかになった「20~40代の女性」という層は、VRに対してなにを求めているのでしょうか?

児島氏:

調査によると、VRゲームをやりたいわけではないようです。求めているのは「臨場感」らしいんですね。こういう傾向は本当に日本独特で、世界的にも発信していきたいと考えています。コンテンツを手がけるクリエイターの方々にも伝われば、と。

——VIVE Cosmosの価格設定は699ドル(※)となっていますが、初代HTC VIVEは599ドルです。価格が少し高くなっているのは、やはりCosmosが上位機種だからということだから、という意図あってのことなのでしょうか?

児島氏:

Cosmos自体は「後継機」という位置づけは間違いはないですが、既存のVIVE、VIVE Pro、VIVE Pro Eye、そしてVIVE Focusシリーズとは異なる「真ん中のシリーズ」と考えています。よって価格帯もVIVEとVIVE Focusの中間、といった感じですね。

(※VIVE Cosmosの日本国内向け価格は税抜89,882円、一方HTC VIVEは2019年10月現在税抜64,250円となっている)

——となると、今後Cosmosシリーズの新機種も出るかもしれない、と。

児島氏:

あるかもしれません。ただ、Cosmosの展望としては、ModによってXRデバイスとして拡張していく方針でいく予定ですね。


(フェイストラッキングModを装着したVIVE Cosmos。今後はさまざまなModが発売されることになると思われる)

——そのModも来年1月に展開がスタートしますね。ところで、今回はVIVEレンズなど、「場」というものを意識されているようなプラットフォームが設定されていて、これはかなり特徴的だと思いました。

児島:

そうですね。私がオススメしたいものとして、バーチャルアーティストが作った作品が展示されたミュージアムがありまして。ただ単に作品が置いてあるんじゃなくて、作品の「中」にも入れる“ところ”で……“ところ”というかソフトなんですけども(笑)

——いま自然に「そういう“ところ”がある」っていう表現が出てくるのがおもしろいですね。「場があるんだよ」といいますか。

児島氏:

今後、「できるだけ長くそこにいて、いろんな人と交流できる場所」というのが、VRでもARでも増えると思っています。だからこそ、長時間装着できるというのは設計でかなり重要なファクターでした。業界の中ではそれなりに高級機種ですので。ものづくりはきちっとしていかないと、という意識はありますね。

——こうした点が、先ほどの「臨場感を求めている」というところにも通じているように感じますね。本日はありがとうございました。

高品質なVR体験を約束してくれる一台

今回のハンズオンを通して、VIVE Cosmosは「見えるを超える」というキャッチコピーに恥じないハイエンドモデルであると実感しました。VIVE Proを超える画質に、インサイドアウト方式によるセットアップの手軽さ、さらに導入部分の親切さは、コンシューマーモデルとして非常に適切でしょう。「場」を意識したコンセプトも、没入感の高いVR体験を約束してくれます。

一方、拡張性については未知数の部分がありますが、換装が比較的容易である点はプラスに感じました。こちらについては今後の発表に期待したいところです。

筆者はVIVE Proユーザーですが、既存の国内HTC VIVEユーザーであるならばVIVE Cosmosに乗り換えてよいと思いました。それ以外の方にも、Oculus Rift Sといった手頃なインサイドアウト型ヘッドセットと比較して「コンシューマー向けのハイエンドVR機器」としては明確な仕上がりになっており、棲み分けは問題なくなされているように感じます。高品質なVR体験を求める声に、VIVE Cosmosは十二分に応えてくれるでしょう。

(文・浅田カズラ)

(参考)VIVE Cosmos 公式Webサイト


VR/AR/VTuber専門メディア「Mogura」が今注目するキーワード