超高解像度VR/ARヘッドセット開発企業として知られるVarjo(ヴァルヨ)は、10月21日に新型VRヘッドセット「Varjo Aero」を発表しました。「人の眼/肉眼レベル」と謳われる解像度を誇るVarjoシリーズの新機種ですが、価格は従来機種よりおさえつつ、アイトラッキング機能、可変解像度レンズ、IPD自動調整機能といった、様々な特徴を備えた毛色の異なる機種です。
今回、MoguraVRでは「Varjo Aero」を株式会社エルザジャパンのオフィスにて先行体験しました。本記事では、Varjoシリーズの新型である「Varjo Aero」の全容をレビュー形式でお伝えいたします。
機能性に優れた構造
こちらが「Varjo Aero」本体です(取材時点でデザイン的には最終決定版とのこと)。ヘッドホンは搭載されていませんが、既存のVRヘッドセットと大きな差はない、基本に忠実なフォルムです。
しかし特徴的な構造があります。前方に設けられたダイヤル式の固定ベルトです。本機は後頭部に加えて、この前方部分のダイヤル式固定ベルトを用いて、二箇所から頭部へと固定する構造となっています。
写真は実際に装着してみた様子です。前方のベルトは額の少し上を押さえる形になります。これにより、顔面の方は接顔部と額の上部の二箇所に負荷が分散するためか、総重量717g(本体 487g + ヘッドセット 230g)とは思えないほど軽く感じられました。また、固定部位が増えたことにより、首を左右に振った際に発生する、ヘッドセットの遠心力が大きく抑えられていました。比較的自由にあれこれと頭を動かしましたが、「首が持っていかれる」感覚がほぼなかったのは新鮮です。
また、本機にはIPD(瞳孔間距離)の全自動調節機能が搭載されています。ヘッドセットに内蔵されたVarjo社内製のアイトラッカーにより、装着時に瞳孔間距離を自動で計測・調節してくれるため、一人で運用する場合はもちろん、複数人で使い回す際にいちいち調節する必要がないのは大きなメリット。とりわけデモコンテンツなどの体験会などで真価を発揮するでしょう。もちろん、アイトラッカーによる視線追尾によって、VRコンテンツの操作や、体験中のユーザーの視線の動きや、注目した箇所の記録もできるため、ビジネス上の統計分析にも一役買うはずです。
もはや肉眼。ただし気になるところも
それでは体験へと移ります。まずはVarjo公式のコンテンツから体験することに。北欧らしいおしゃれな家の実写を取り込んだ、とにかく解像度の高さが求められるコンテンツです。
まず最初に感想から述べましょう。圧巻です。片眼あたり2880×2720のディスプレイにおいて、スクリーンドア現象は皆無。そして、映像はただの「高解像度」では済まないレベル。自分の目とコンテンツの間にあるはずのベールが取り払われたようであり、これまで筆者が体験したVRヘッドセットとは鮮明さが根本的に違いました。平たく言ってしまえば「肉眼も同然」であり、実写取り込み系コンテンツとの相性は別格。北欧チックな家の内覧を心ゆくまで堪能できました。
一方、レンズ形状がやや特殊なのか、視野の外側は若干ゆがんで見えることに気づきました。まっすぐ前を見る分には気にならないものの、周囲を見回しているとかなり気になります。デバイスの使い方でカバーできるかもしれませんが、はじめてVRを体験するような人にとっては、コンテンツ次第では違和感をおぼえる可能性もありそうです。
せっかくなのでVRChatを遊ばせてもらったら、次元が違った
公式コンテンツでもその実力は十分すぎるほど体験できましたが、やはり「ふだん使っているコンテンツではどうなるか」というのは気になるところ。特に筆者は最近VRChatに入り浸っており、「高解像度デバイスでVRChat」には強い感心があります。今回は先方のご好意で、「Varjo Aero」を使ってVRChatを体験させていただきました。
なにが起こったか。ただただ笑いが止まらなくなりました。あまりにいつもと体験しているVRChatと違いすぎたからです。
どう世界が見えていたかというと、大画面モニターで映し最高解像度で撮影したスクリーンショットが、そのまま眼前に広がるような感じです。世界の解像度が二段階ぐらい引き上がったようであり、「この世界に自分がいる」という感覚をかつてないほどに感じました! 上記でも触れた視野の外側の歪みこそ気になるものの、そのマイナス部分を差し引いても「世界の鮮明さ」が勝るように感じられました。
(これらのスクリーンショットの肉眼で見た時の光景がそのまま眼前に広がります)
あまりに世界が美しすぎるため、取材そっちのけでワールドめぐりを始めてしまうほど。「Aquarius」「バーチャルOKINAWA」「PROJECT: SUMMER FLARE」など、過去何度も体験してきたワールドも、「Varjo Aero」越しにはいつもと別物に感じられました。そして、この体験から確信したのは、実写寄りのVR以外でも本機は大いに力を発揮するだろうということです(※ちゃんと許可は取りました)。
「法人向けハイエンドVR」の新定番となるか
業界最高クラスの解像度を誇るVarjoシリーズですが、同時に動かすためのマシンスペックも最高クラスのものを要求されます。例えば「XR-3」等は、エルザジャパンも専用の据え置きマシンを自作してデモに用いていたほど。価格面はもちろん、運搬時の手間も含めてコストはかかります。
これに対して「Varjo Aero」は、上記のような別格の体験を提供しながら、要求スペックが比較的リーズナブルなラインである点も注目に値します。公式の推奨スペックはNVIDIA RTX A4000、NVIDIA Quadro RTX 5000、NVIDIA GeForce RTX 3070、NVIDIA GeForce RTX 2080。このうちRTX 3070とRTX 2080はコンシューマ向けモデルです。そして今回体験会で使われたマシンはラップトップ。Core i9-11900H、RTX A5000 Laptop、メモリは64GBと、法人向けのハイエンド機種ではあるものの、「大きな据え置き機を持ち歩く必要がない」という特徴は、とりわけ展示会イベントなどで優位にはたらくはずです。
ハイエンドクラスとはいえラップトップでも動作し、さらにIPDの全自動調整、装着負荷を軽減する構造、アイトラッキングによる視線移動記録など、「Varjo Aero」は法人向けVRヘッドセットにほしい機能が多く搭載されています。
また、国内における想定売価は現時点では30万円前後とのことで、同じVarjoシリーズの「Varjo XR-3」よりも抑えられています。価格に対する機能の充実具合や運用面の利便性を鑑みると、「法人向けハイエンドVRのエントリークラス」、あるいはVarjo自身が打ち出しているように「さらなる体験品質の向上を狙うプロシューマー向け」という立ち位置がふさわしいでしょう。法人用途に耐えうる新定番モデルとして、今後様々なビジネス・クリエイティブシーンでの活躍が見込める一台です。